第三次ダンジョンバトル:戦い(9)
分かってた。666番コアの黒鎧がここを突破することくらい、分かってた。
なにせ、ふわっと水の中で浮いて、オリハルコンワイヤーに向かって行ったところで
「やったか?!」
と思わず声が出ちゃったからね。……次は気を付けよう。
「ケーマ、惜しかったわね。よしよし」
「なぜ頭を撫でる」
「いや、ケーマがなんか拗ねて落ち込んでる感じがしたから」
「ああ、ちょっと絶対に言わないでおこうって思った発言をしちゃって自己嫌悪なだけだよ。気遣いありがとうな、そしてハクさんが見てるから止めてくれ」
めっちゃ冷たい目線が送られてきてて、「さて今夜の晩御飯は活け造りにしましょうか」という感じのテレパシーを感じるから。俺はまな板の上の魚状態だよハハハ。
「あ、ご、ごめんなさいハク姉様。ダンジョンバトル中だし、集中しなきゃですよねっ」
「ふふふ、いいのよロクコちゃん。あとで私も撫でてもらおうかしら?」
「もう! ハク姉様ってば、からかわないでくださいっ」
いやきっと本気だぞ、と思ったけど、言わないでおいた。
それよりもダンジョンバトルだ。
魔王チームがこちらにつぎ込んでる残戦力は、黒鎧が1体とスケルトン多数。おそらくこのスケルトンは【サモンスケルトン】によるものだろう。
そして、魔王チームのダンジョンだが――
「おい、イチカ。さっきの調子ならもうボス倒したんじゃないか?」
「え、えっと、そうなんやけど……扉が開かないんよ、今、改めて探索に向かわせたトコ」
「部屋に敵の反応は残っていません。私も、手伝います」
と、イチカとニクの困惑した声が返ってきた。どうやら探索に行き詰ってしまったようだ。……改めて探索を行うしかないか。
「……他の階に隠し通路がある可能性もあるわね」
「罠を起動させないと見つからない扉とかな。天井も調べるのを忘れるなよ……落とし穴もな」
落とし穴の中に通路が、っていうのもウチのダンジョンでやってるからな。ハクさんの目の前だが、そこが正解ルートの可能性がある以上、探すしかない。
「ふふ、なんか私とロクコちゃんのダンジョンバトルを思い出しますね」
「え? ああ、そういえば……そうですね、ハク姉様」
「一応、ダンジョンの入り口から外も探しに行かせるか……ゴーレムを何体か向かわせる、それを使え」
「はいっ、ご主人様」
幸い、敵のモンスターは1体も残っていない。どうぞご自由にお探しください、と言わんばかりのオープン具合だ。
探しても見つからないだろうという確固たる自信があるのか、はたまた奥にあるであろう未発見フロアに戦力をため込んでいるのか。
ほかの可能性もあるか? 見落としがあると怖いからな……
「ロクコ、どう思う?」
「そうね、とりあえずボス部屋にボスが居ないのに扉が開かないのはおかしいわ。本当にボス部屋かどうかを調べた方が良いんじゃないかしら。もしかしたら、ダミーかも」
ダミー、か。確かにその可能性はあるな。ハクさんも言ってたけど、俺もやったし。ダミーのというか、先がなにも無い謎解きの扉。……先のないボス部屋という可能性もあるな。
「イチカ、というわけだからそのボス部屋は少しだけ調べて、他を探してくれ」
「わかった」
攻め、というか探索の指示を出し終えたところで、防衛の方もしっかりしないとな。
見ると、黒鎧がガーゴイルの妨害する一本橋を渡り切ったところだった。
スケルトンは1体だけ残っている。このスケルトン、1体だけ動きが良い。……マスターが操作してるのかな。
「ニク、探索終えたら防衛頼む。こっちの方が緊急性高いからな。……ロクコ。テンタクルスライムさんを出すぞ。この上層で666番と決着をつける」
「アレ出すの? って、なんで『さん』付けなのよ?」
「そりゃ。テンタクルスライムさんだからな」
「……理由になってないと思うんだけど?」
一応、このダンジョンの裏ボス的ポジのつもりだぞ。
「それじゃあ『大玉』と水攻めを同時にいく。これで決まってくれればいいんだが……」
「水門開放と『大玉』投下ー。いえーい、これでトドメよ! しにさらせー!」
嫌な予感しかしないな。戦力を順路上の部屋に集めとこっと。
灼熱の魔剣に止められても大丈夫なように、海水と鉄球のコンボで攻める。
勢いをつけた『大玉』を、押すように水が追従し、666番コアに襲い掛かるわけだ。
たとえ鉄球を止めても、水も受け止めなければ鉄球ごと押し流される。
そして、鉄球を溶かそうとしても水が冷やして溶かさせない。
さぁ、どう出る?
音で反応したのか、666番コアがスケルトンと対水攻めのフォーメーションを取る。そこに、鉄球が走ってくる。
魔剣を、弓を引くように構える666番コア。正面から迫りくる鉄球に対し、突きを放った。
『――【クリムゾンロード】』
そう聞こえた。
次の瞬間、鉄球と海水が、一直線に蒸発した。魔剣を持ったリビングアーマーの手が赤熱している。……そういう、スキルなのか。そういうスキルがあるのか。
666番コア、相当熱いんじゃないかアレ。
「なっ?! ……うわ、ちょっとこれ本気?!」
「本気か、これが本気か……ちょっとこれ理不尽級じゃないか?」
その後、後から流れてきた海水が666番の黒鎧を冷やす。
赤熱した手は黒い鋼に戻った。
「【クリムゾンロード】ね、火属性の突き攻撃スキルで、1日に1回という制限と自身への火属性ダメージというデメリットはあるけど、それを補って余りある威力。思い切って使ってきたわね」
ハクさん、の解説を聞くに、もう今日は打てないということか。
なら、もう一発『大玉』と海水をセットで食らわせてやれば勝てるが――
「ケーマ、『大玉』の在庫、無いわよ」
「……マジか。1回使った玉の回収は……」
「溶かされた、砕かれた、何か消えた、以上よ」
くそっ、もっと多く用意しておけば……!
あいにくDPで直接鉄球を出すことはできない。ハクさん曰く、ハクさんのカタログにはトラップであるそうなんだが、あれか。普段からトラップを使ってないからか。ああ、いつもお手製のばかり使ってるもんな……くそう、普段ケチってる弊害がこんなところに!
「ハク姉様に代わりに出してもらってDPで買い取り、っていうのは?」
「それはさすがにアウトね。準備ならともかく当日はさすがにダメよ? あくまでこれは後輩の育成が目的だから」
となると、現状あるトラップかDPで鉄球なり代用できる何かが呼べないものか……アイアンゴーレム、いやだめだ。アイアンゴーレムに組体操させて水で流したところで普通に切られてオシマイな未来しか見えない。転がる勢いが足りない!
ああ、ハクさんの前でなければ【クリエイトゴーレム】で鉄球の修復ができたものを!
「いや、逆に考えるんだ。これで相手の切り札も切らせた、条件は五分五分、フィフティフィフティってやつだ。こっちにも戦力や奥の手はまだあるし、むしろ有利!」
「ケーマ、それだと相手の奥の手も一つとは限らないから、やっぱり五分五分じゃないかしら?」
ロクコが正論を言った。
「……うん、まぁいい。次の部屋で決めるぞ」
俺はダンジョンの戦力を1部屋に集めつつ、言った。