第三次ダンジョンバトル:戦い(8)
龍王チームがまさかの何もせず脱落である。
順当。そんな単語が頭をよぎった。龍王チームは始終水攻めで封殺され、黒い鎧に無双されるだけのダンジョンバトルであった。
「まぁ、もしサハギン部隊をこっちのボスに送ってたら、全滅だっただろうけどな」
黒い鎧のおかげで特に問題は無かったけど、ポイズンワイバーンとかいう大物相手には完全水没を敢行するしかなかっただろう。それなりに時間がかかったはずだ。
「イチカ、魔王チームの攻略は?」
「もうあと少しや。サハギン部隊が到着したし、勝てるで」
水没した部屋の中、サハギン部隊とサメがボスである大きなスケルトンを翻弄していた。
中でも、カジキマグロに乗ったサハギンライダーは中々の攻撃力を出しているようだ。骨の抉れ具合から、イチカの言った通りあと少しで倒せそうだな。
「しかし、防衛に戻るでもなくこっちの攻略ときたか。黒鎧め」
「攻め気満々ね。こっちにも『大玉』いっときましょ」
「そうだな。黒鎧が下層に居る間に使い切っとこう。ついでに水も流しとけ、で、1層の水はジャンジャン回収して外に捨てろ」
わざわざ捨てなくても飲み込むだけ飲み込んでくれた龍王チームのゲートが閉じてしまったので、手動でたまった水を破棄しなければどんどん溜まる一方になる。
それでこそ本来の水没ダンジョンの姿ではあるのだが。
「666番コアの黒鎧は?」
「中層手前に引き返しました。どうやら合流してから進むつもりのようです」
「……合流されると厄介なのか、それとも一網打尽にできると喜ぶべきか。どっちだと思う? ロクコ」
「どちらかというと、厄介ね。少なくとも666番コアには【サモンスケルトン】があるから」
あんなに【サモンスケルトン】しまくって疲れないのかね、666番コア。
俺も【サモンガーゴイル】で人の事言えないけど。
*
で、『大玉』について2体目の黒鎧にもぶつけてみたのだが、こちらはぎゅりりりっと受け止めて止められてしまった。床に足がめり込んで、思いっきり力押ししました感があった。
しかも『大玉』を砕かれてしまった。さては、再利用できないようにか……
けど、鎧に多くの傷がついていたので、それなりにダメージを与えられたようだ。
「ふむ、まぁこっちはスケルトンいなかったけど、666番コアから情報行ってたんでしょうね。警戒してたし。で、それをあえてそのままぶつけることで『対処できる』と学習させ、上層ではさらに水流と併せてぶつけさせる、と」
「まぁ敵も2体になりますから、対処されそうな気もしますけどね」
「なら、中層の水没エリアで1体は片付けたいところ、ね?」
できればね、できれば。
さて、黒鎧たちが水没エリアに入ってきた。既にオリハルコンワイヤーは見られている。このままでは引っかかってくれることは無いだろう。
「ロクコ、ガーゴイルと、ついでにタコ出すぞ。できれば仕留める」
「はーい、いくわよっ」
#Side魔王チーム
「さて、それでは行きましょうか」
『うん』
水没しているエリアに足を進める。
スケルトンを先頭に、ゆっくり進む。急に水流が発生しても対応できるように。
ここの通路は実質一本道だ。通ることができないオリハルコン糸の張られた直通ルートに、直角に4回ほど交差するようになっている。
……十字路の、直進ルート上――ぱっと見えないが、オリハルコン糸が張ってあって通れない――に、ガーゴイルが数匹、居た。
水中にもかかわらず呪文を使ってくるガーゴイル。呼吸が不要な無生物系ならではの運用、と言いたいところだが、水中においてはガーゴイルが使える程度の攻撃魔法ではほぼ効果が無くなる。
火を出そうにも、水を出そうにも、周りの水がひたすらに邪魔だ。
消去法で、石を投げるくらいしかないのだろう。スケルトン相手なら多少はダメージになるが、この黒鋼の鎧でできたリビングアーマーにはダメージにすらならない。
「ここは無視して進みましょうか」
『なら、僕が先に行く』
666番コアのマスター操るリビングアーマーが先行する。
カンカン、と石の当たる音が煩い。
最初の十字路は、右に行くと行き止まりだ――もっとも、呼吸が必要ならそこの上に空気溜まりがあるようだが。
1つ目のオリハルコン糸通路を迂回し、先ほどガーゴイルが居た個所にたどり着く。直進すれば数歩なのにわざわざ迂回しなければならないのは、ダンジョンの罠を避けるためとはいえ多少億劫だ。
先ほどのガーゴイルはさらに奥に行ったようで、改めてオリハルコン糸通路の向こう側から石をぶつけてきている。邪魔というか、鬱陶しい。
と、そこに水中を泳ぐモンスターが現れた。
『……タコ、か?』
「何かしらこれ。初めて見るモンスターね。……爺様、ご存じ?」
『確か……なんとかオクトパスとかいう、モンスターだな……よく覚えとらんぞ』
6番コアは、モンスターにあまり詳しいわけではない。特に弱いモンスターのことは、いちいち気にしないのだ。当然その特性も覚えていなかった。
だから、そのモンスターが突然スミを吐いて視界が真っ暗になったときは、少し驚いた。
「しまった……わね、これじゃ見えないわ」
『攻撃を警戒。防御を固める』
カンカン、と石の当たる音は相変わらずだ。数秒で視界が晴れる。タコはもう居なかった。
「何がしたかったのかしら?」
『さあ? まぁいい、進む』
「! まちなさい!」
左から受けるガーゴイルの石つぶてを無視し、マスターのリビングアーマーが歩みを進めたその時。
すぱん。と、足が斬れた。
『……な!?』
水中だが、鎧の重量でそのまま倒れ込む――と、そのまま、今度は体がコマ切れとなり、リビングアーマーは死亡した。
『やられた……! アイディ、何が起きた?!』
「回転床、ね。やられたわ」
マップを確認すると、綺麗に90度、回転していた。
左から攻撃を仕掛けてきていたガーゴイルは、リビングアーマーが細切れになると同時に逃げていった。その間には、ワイヤーなどない。
魔力の限りいくらでも出せるスケルトンを温存などせず、先に歩かせるべきだったか、と今更ながらに後悔した。
『666番。落ち着いてマップで位置を確認しながら進め』
「はい、爺様。……マスターは、あとでお仕置きね」
666番コアが歩き出そうとすると、今度は水の流れに揺らぎが出る。
「ッ、スケルトン!」
がちゃがちゃ、と水流に対処すべく、水流に合わせ垂直にフォーメーションを組む。
直後、激しい流れが突然襲い掛かる。水中ではどのタイミングで来るかほとんど見えない分、厄介だ。
『まってアイディ! そこは!』
「! しまっ……」
ぐりん、と、回転床が回った。忘れていた。
ただでさえ踏ん張りの効き難い水中で、水流をもろに受け、リビングアーマーの重い体が浮き上がる。スケルトンは水流に流されあっさり細切れ。マスターの操っていたリビングアーマーの破片も流されていった。
目の前に、ワイヤーが迫る。
「ッ、はああああ!!」
ギャリリリイ!!! と、魔剣を盾のように構え、オリハルコン糸にぶつける。
オリハルコン糸をもってして、その魔剣は斬られることなく、耐えた。
「あっは! さすが『不壊』! 壊れないッ!」
自身の魔剣の頑強さを確認し、嬉しそうに笑う。
『ほう……付けていたか』
「ええ、今回の50万DPの、かなりを使いましたが、お陰様でッ」
水流に慣れてきたところで、脇道……元々の順路に逃げる。
中々危ない所だったが、生き延びた。
そして――666番コアは、水没エリアを突破した。