第三次ダンジョンバトル:戦い(7)
そして、最高潮に勢いを増した鉄球が、黒い鎧率いるスケルトン集団と遭遇した。
一瞬の出来事だった。
破壊されるスケルトン。飛び散る骨片。そして――
――赤い魔剣に串刺しにされて回転を止めた、鉄球。
黒い鎧は回転する鉄球に灼熱に燃えるような魔剣をぶっ刺し、勢いを止めていた。
更に何回か魔剣をブンブン振り回すと、鉄球に赤い線が走り、そこから鉄球が溶けていった。
「……は?」
思わず、開いた口がふさがらなくなる。いやだって通路幅もある鉄球だぞ? どんだけの質量と勢いがあったと思ってる。それを剣一本で止めるとか、正気の沙汰とは思えない。そして、どれだけの熱量があればあの鉄球を全て溶かしつくすということができるのか。
「うわ、絶対にやったと思ったのに……ハク姉様の大玉が溶かされるとか!」
「見事に凌がれたわね。ま、こういう事もあるわよ。……あら。ねえロクコちゃん、あの魔剣……666番コアのじゃない?」
「本当。あの剣、見覚えあるわ……って、アイツまさか、ダンジョンコア本人が乗り込んできた、とか?!」
「えっ。俺はてっきりただのリビングアーマーだと思ってたんだけど」
リビングアーマーで、中身は空っぽなもんだと思ってたけど。そうか、そういう使い方もアリだよなぁ。うちだってゴーレムを着てるもん。
ダンジョンコアなら呼吸が必要ないし、水没してても問題ないだろう。……あるいは、このリビングアーマーが本来の姿とか?
「まったく、魔王派の奴らは好戦的で困るわね……」
やれやれ、とハクさんがこめかみを押さえていた。
もしかして、魔王派には良くあることなのか。ダンジョンボスとして本人が出張ってくる系の一派だったりするのか。
「……まぁ、うん。イチカ、今のうちに魔王チームのダンジョンにサハギン部隊をつっこんどこう。黒い鎧が居ない今がチャンスだ」
「了解やでー」
「ニク、そっちは追加要るか?」
「もう少し様子見でしょうか。ガーゴイルが居ればありがたいです」
「わかった。サモンして送ろう」
【サモンガーゴイル】をして、最下層のフロア水門部屋に向かわせた。
……今更だが、ガーゴイルは裏道を通って各フロアに移動できる。ダンジョン外の海を通るという、規格外ルートだ。各フロアには宇宙船のエアロックのように水門部屋が設置されているため、このルートを利用すればどのフロアにも移動し放題ということだ。水を回収してからなら水攻めを伴わずにこっそり移動できる。
逆からの侵入については固く扉を閉ざすことで対応。正規ルートがある以上、そっちを通ってくださいってね。
「む、黒鎧が中層、水没エリアに到達したな」
「むぅ、これじゃもう666番に『大玉』は使えないわね」
「一応水没エリアを抜けた先、上層にももう一発用意してある。溶かされないように次は水攻めと合わせて流そうか」
うっかり666番コアを壊してしまうかもしれないレベルの殺傷力があるが、そもそもダンジョンコアなのに前線に来る方が悪いだろう。
「……これ、仮に666番コアが死んでも俺悪くないですよね?」
「まぁ、ダンジョンバトル中の事故ですね。遠慮なく殺っていいですよ」
ハクさんのお墨付きが出た。引き続き本気でいこう。
「中層、水ガンガン流せ。オリハルコンワイヤーの餌食にしてやろう」
「はーい」
「あ、逆流も使うぞ。簡単には踏ん張れまい」
「お、じゃあ別方向の水門も開けないと」
中層だが、逆側の下層側から水を流し込むことができる。
大量の水を流し込むことで逆流させ、荒れ狂う水流で揺さぶり、オリハルコンワイヤーでみじん切りだ。
#Side魔王チーム
「少し、ヒヤリとしたわ」
勢いのある鉄球。水だけだと油断していたので判断が遅れてしまった。
危うく轢き殺されるところだったが、対処に成功した。
ゾクゾクする。これでこそ――そう、これでこそ、だ。
「ああ――なんて、愉しい」
思わず笑みがこぼれた。
命を研ぎ澄ます感覚。これこそ666番コアの求めていた刺激だった。
平穏など、鈍重で、切れ味を鈍らせる毒でしかない。
「なんて愛おしい闘いでしょう。知恵と罠、そして策略! それが695番、あなたの力なのね。695番、あなたも今、まさにこの時を愉しんでくれているかしら?」
この愉しさは、是非、「宿敵」と共有したいわ。と、666番コアは想う。
――だがそれは叶わなかった。少なくとも、今までは。
なぜなら666番コアは優秀で、釣り合う600番代のコアが居なかったからだ。さすがの666番コアでも先輩である500番代以前のコアには遠慮というものが出てしまう。
自分より上の世代で、上の強さを持つ者には純粋に敬意を持ってしまうし、同レベル以下に対しては、600番代の私と同レベルだなんて情けない、と感じてしまう。
それでは「宿敵」にはなれないのだ。
しかし同じ600番代の695番コアなら。あるいは――この気持ちを共有する「宿敵」にさえなってくれるのではないか。
このヒリつく渇きのような、あるいは恋心のような。切なくて堪らない、もっともっとと求めてしまう感覚。果てない欲望で出来た空っぽの壺を満たしてくれるこの愉しさが、たまらなく愛おしい。
これを一緒に楽しめる「宿敵」なんていたら――良い言葉が思いつかないが――きっと蹂躙して壊してしまいたくなるくらい最高だ。
『アイディ、龍王チームのボスを倒した。コアを見つけた』
と、その時。マスターから淡々とした通信が入った。
666番コアのことを「アイディ」と呼ぶ少年の声。制圧の報告だった。
「それはそのまま、壊してしまいましょう。そっちはどうだったの?」
『大したことなかった。ハズレ』
一応、ボスとしてポイズンワイバーンが出てきたらしい。
毒を持った空飛ぶ亜龍。そこそこ手ごわそうだが、それだけだ。
『毒がブレスで爆発するとは思わなかったけど、それだけ』
「そう」
マスターの操るリビングアーマーには全く効かない毒だったが、毒が揮発して部屋に充満した後、ガチンと石畳の床に爪をこすりつけたところから爆発したらしい。
それが、奥の手だったか。
意表は突かれたがそれだけだった。
「ダミーコアを破壊したら、こっちに来る?」
『そうする。今、破壊した』
マスターの報告を裏付けるように、『父』から連絡が入った。
『はーい、龍王チーム脱落! 残念だったね5番。攻め手も引き揚げさせるよ』
『うがああああ! 良い所無しではないかぁあああ!!!』
『『『すいません5番様ぁあ!』』』
羽虫共の悲痛な囀りが聞こえる。
これで邪魔者はいなくなった。
「やっと695番と1対1で、愉しく遊べるわね」
帝王チームのダンジョンを進む666番コア。
歩みを進めるその足取りは、重厚なリビングアーマーの鎧にしては、軽かった。
(やっと夏風邪が治ってきました。まだ喉つっかかって咳でるけど。
あ、そういえば新作の連載を投稿してました。そっちは不定期更新です)