帝都観光(4)
今日は帝都から少し離れて、海にやってきていた。
砂浜だ。水着を着るにはまだ寒いが、夏には泳ぎに来たいもんだ。
ちなみに今日はハクさんは一緒ではない。
「さすがに三日連続で休みを取られると仕事が滞りまして……」
「嫌よ、そのくらいクロウェが処理しなさい。私はロクコちゃんを持て成すのに忙しいの」
「そうはまいりません」
「あ、ちょ、まちなさい。くっ、きょ、今日のところは仕事しましょう。ですが、今日1日で3日分の仕事を片付けますから! 明日はまた休みますからね!」
と、クロウェに引きずられていった。
帝国のトップともなると、色々やることが多いらしい……というか、ハクさんそんなに仕事あるのか。悠々自適な隠居の身なんじゃないの?
……あ、寿命による代替わりや老化すら心配する必要がない実力者を遊ばせる手はないですか、そうですか。
有能なのも考え物だな、俺は積極的に人に仕事を割り振って寝よう。そう心に誓った。
「……海だーーーー!」
「うわっちょ、何よケーマ、いきなり叫んで」
俺はとりあえず海に向かって叫んでみた。
ゴミひとつ落ちていない白い砂浜、透き通るような青い海。爽やかで晴れやかな日差し。
これで海の家とか建ってたら昼寝するのに最高なんだが。海の家で潮風を浴びつつの昼寝。まぁ夏じゃないのがアレだけどさ。
貴族のバカンス用にはもっと帝都の近くに観光地化されている所があるらしく、ここには建物も無い。……観光地化されている所は後日ハクさんがロクコを連れて遊びに行く予定だ。
で、今日のところはこのなにも無い海に来ていた。送迎はハクさんのパーティーメンバーにして部下のドルチェさんによる【転移】だ。
ハクさんのパーティーメンバーは、ミーシャ以外全員【転移】が使えるらしい。
そう、昨日ビッグテンタクルスライムにヌルヌルにされたうえで、結局『魔力を纏った拳で殴ればいいじゃない』とスライムを物理でどうにか撃退し貞操を守ったミーシャ以外は使えるらしい。
某RPGの白魔導士みたいな白いローブを身にまとったドルチェさんは、疲れ果てて岩陰にぐでっと横たわっていた。一応人化はしていて太陽とかも問題ないものの、さすがに元がレイスなのでこういう開けた明るい場所は苦手らしい。
「うぇ、太陽とかまじ死ねばいいのに……溶ける……」
「あの、そこ、フナムシとかそれっぽいのいますよ」
「……平気。むしろ虫とか蜘蛛とか好きだし。ふふふ、じめじめ……」
……ドルチェさんはほっとくことにした。
俺も寝れそうな木陰でもないか探す。一応パラソルとビーチチェアを持ってきてるけど。
「って、寝るんじゃなくてダンジョンを作る下見に来たんでしょ?!」
「……そうだな。……あー、あそこの崖とかすごくいい感じじゃないか? ほら、殺人事件の犯人が追い詰められそうな感じ」
「なによそれ。まじめに下見しなさいよ」
よく考えたら、下見といっても結局掘ってダンジョンにするんだからどこでもそんな変わらない気がしてきたぞ。
ここなら海水が使い放題だなぁ、塩でも作るか? ってくらいか。
……塩、うん、そういえばリンって今頃どうしてるかなぁ。
「しっかし、初めて来たけどなんかクサいわね、海って」
「潮の香り、ってやつだな。なんでか俺の知ってる海よりニオイは弱いけど。俺はそんなに嫌いじゃない」
「なんか生臭いわね。……ねぇケーマ。海のモンスターとか使えないかしら?」
海のモンスターか。……アリだな。クラーケンとか、サメとか?
メニューからDPカタログを開いて見る。
……ほほう、頭が2個あるサメ、とかもあるんだな。幽霊サメや空飛ぶサメとか居ないかな?
とりあえず大ダコやダイオウイカ、巨大オウムガイとかが目立つな。サハギンやマーメイドといった人に近いのもあるし、クラゲやらナマコやらの海の生物も豊富だ。
……ダゴン? これはカタログでもよく見ない方がいいきがする。そもそも億越えのDPがかかるみたいだから今回関係ないしな。
そして、気が付いたことがある。
海系の色々なものについて、DPが安い。……代わりに、『熱源』やワイバーンなど、海から縁遠そうな、山系のアレコレについては逆にDPが高くなっていた。
アイアンゴーレムなんかもツィーア山では1体500DPなのに、ここでは2000DPと4倍になって表示されていた。
「……もしかして、場所によってDPが変わるのか?」
「へぇ、どれどれ……うん? とりあえずゴブリンは変わってないわね20DPよ」
なぜまずゴブリンを確認したし。さすがロクコだな。
……あ、亡霊系が安くなってる? 海ってやっぱりそういうのが出やすいのかな。山もそれなりに出ると思うんだけど。
「なるほど、こういう風にDPの差があって、地域とかの特色が出るようになってるのか。……ダンジョンコアや、マスターの影響でもDPが増えたり減ったりしそうだな」
「いやいやケーマ、何いまさら言ってるのよ。……異世界のごはんとか、ケーマが居なくて出せるわけないじゃない」
そうか、日本の物品関係がDPで交換できるのは俺の特性だったのか。もしかしたらゴーレムなんかも人型つながりだったりか? ハクさんも、二足歩行で両手を使う人型なモンスターを使ってたし。
……そうなると、相手のことについても知っておいた方がいいだろうな。対策を立てるきっかけになりそうだ。
「なぁロクコ。今回の相手って、どういうやつだっけ?」
「ん? えーっとね。まず龍王チームのが蛇、カエル、ナメクジの3コアね」
なんという三竦み。爬虫類、両生類、……ナメクジってなんだ? カタツムリなら貝だっけ? なんかねちょねちょヌルヌルしてるやつ、そんな感じのモンスターが安いDPで手に入りそうだな。
「で、魔王チームのが、人化してたけど……えっと、666番コアは……なんだったかしら。ごめん。分からないわ」
「……明日にでもハクさんに聞いてみるか」
とりあえず、こんなこともあろうかと折りたたみのビーチチェアとパラソルをあらかじめ【収納】に用意しておいた。
砂浜にパラソルをぶすっと刺して、その日陰で俺はビーチチェアに横たわる。
波の音がざざーんさらさらと心地よいBGMだ。よく眠れそうだな。
「……ニク、砂でお城作るのが海に来た時の楽しみ方らしいわよ?」
「はい、お供します」
ちなみに俺が目を覚ました夕方には、既に波にさらわれた後だったのか、それともやっぱり作るのをやめたのか、砂の城はなかった。
(おかげさまで1巻の重版決まりましたー。
あと、声優さんのWebラジオ朗読、全3回の最終話きてた。ひゅう)