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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

閑話の章

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閑話:イチカと酒場のスロット

 1日30DP、もしくは銅貨30枚。それがこの『踊る人形亭』の従業員への給金である。そして食費・住居費はタダ。つまりこの給金は好きに使っていいお小遣いみたいなものだ。
 一泊銅貨50枚、食事はさらに別、という『踊る人形亭』基準と同等以上の待遇を考えると、非常においしい仕事といえよう。

「よーし、今日こそ勝つでぇ! そんで、カレーパンを山ほど食うんや!」

 その日、イチカは気合いを入れて酒場に向かった。手にするは本日の給金銅貨30枚。宵越しの金を持たないイチカにとっては全財産でもある。
 目的は酒場のスロットである。

「おーう、愛しのスロットちゃんあいてるかー?!」
「おやイチカさん。いらっしゃい、いつもの席空いてるよ」
「あんがとさん! さーて、今日こそ勝つ……!」

 酒場のマスター、ウォズマに迎えられ、6台あるスロットのうち、奥から2番目に向かう。奥の3台は1回で銅貨1~3枚を賭けられるタイプで、このスロットは、賭けた枚数によって「中央列のみ」「上下2列追加」「斜め2列追加」と、当たるラインが増えるという代物だった。
 その奥から2番目の席はすっかりイチカの指定席となっており、イチカの終業時間が近づくとこっそりウォズマが席を確保していたりする。
 イチカはちゃりんちゃりんちゃりん、と3枚の銅貨を入れて、スロットのレバーを下ろす。ぎゅるるるるっとドラムが回り……

「一発入魂ッ……! はぁああああ!」

 ガッ! バシッ! バチィン!
 勢いよくボタンを押すと、絵柄は見事にバラバラだった。 ……ハズレである。

「くっ! あと9回……はあぁぁぁあ!」

 再びお金を入れ、レバーを下ろしてボタンを押す。 ……ハズレる。
 だがイチカは諦めない。給金の残りはあと8回分。

「ふっ……だがウチは後ろは見ん! ガンガンいくでぇ!」
「お、イチカじゃねぇか。相変わらずやってんなぁ」
「む? なんやゴゾーか、気ィ散るから話しかけんといてくれる?」
「ガハハ! いいじゃねーか。で、どうよ、今日は当たりそうか?」
「ん? せやなぁ……イケる、そんな気がするわ!」

 と、いいつつまだイチカはハズレを出した。

「ダメじゃねぇか」
「ばっかよく見てみぃ! ほれ、ここ、右のんがちょっと下にズレとるやろ? これが次当たるっちゅー目印なんやで」
「そうなのか? つーか、そういうのがあるのか」
「せや、いくでー……とう!」

 そしてイチカはハズレを出した。
 ダメじゃねぇか――というゴゾーの目線が突き刺さる。だが、イチカはニヤリと笑った。

「……ふっ、焦るなやゴゾー。これは大当たりの流れや」
「大当たり?」
「あのズレからハズレる場合、パターンは5番やな……十中八九、5回以内に大当たりが出る!」
「へぇ、じゃあ早く回せよ」
「ふん、まぁ見てるといいわ」

 ガシャコン、ぽちぽちぽち、ガシャコン、ぽちぽちぽち、ガシャコン、ぽちぽちぽち。
 新たに3回外れる。

「あと2回だな?」
「ま、まだ焦るような状況やないし?」

 ガシャコン、ぽちぽちぽち……またハズレた。

「ぐ、ぐぬぬぬ!」
「よーし、次で当たったらカラアゲ奢ってやるよ」
「言ったな?! よーしみてろ、いくでぇ!」

 ガシャコン……ぽち、ぽち……

「お、おお! 見ろ見ろ、中央に『7』が2つ並んだで!」
「おっ、やるじゃねぇか。で、最後は?」
「一押入魂ッ……! 一押入魂ッ……! とう!」

 ぽち。ひとつズレた位置に出る『7』。 ……外れた。

「ぐあああああ?! くっそぉおおお!!」
「がっはっはっは! 知ってた」
「ぐぬぬぬ、チクショウ……」

 ガシャコン、ぽちぽちぽち……と、気の抜けた調子で回し、ボタンを押すイチカ。
 ……サクランボの絵柄が揃い、チーン! と、スロット台のベルが鳴った。当たりの合図だ。

「おおっ、ゴゾー、当たったで、カラアゲ奢れ!」
「9枚当たりじゃねぇかよかったな。1回遅ぇが可哀想だから1個だけやろう」
「おー、おおきになー」

 9枚当たりは、スロットにして3回分。無いよりマシ程度の比較的よく出る当たりだった。10回中2回くらいは出る。
 ゴゾーは。スロットにはりついたままのイチカの口へ爪楊枝で刺したカラアゲを1個運んだ。あぐむ、もぐもぐ。とその1個の唐揚げを味わって食べつつ、さらにスロットを回すイチカ。
 ……結局その日も、全財産をスロットに飲まれてしまった。

「くっ、今日は日が悪いな! 帰るとするわー……はぁー」
「おう、お疲れー」

 イチカは落ち込んで酒場から去って行った。
 ……直後、奥から2番目のスロット――先ほどまでイチカが座っていた台の、争奪戦が発生した。

「ちょ、どけよ。邪魔だって」
「ばっか、お前は昨日打っただろーが、今日は俺の番だ!」
「おいおい、何のために控えてたと思ってやがる、どけ! 今日こそ俺が勝つ!」

 イチカがスッた後の台は、当たりが5割増しで出やすい。
 そういう噂がいつの間にか酒場の常連客の間で広まっていた。

「あー、元気よねぇ、どいつもこいつも」
「ん? ロップ、てめぇは良いのか?」

 ゴゾーは、相方のロップが居るテーブルにもどって、酒をぐびっと一口飲む。

「馬鹿言っちゃいけないわよゴゾー。私はあの噂、信じてないからね」
「へぇ? そうなのか?」
「だって、あの噂の出処って……ケーマさんの仕込みでしょ? たしか最初は、イチカがスッた後だから当たるはずだ――だったっけ?」
「イチカがスッた分、当たりが溜まってるだろう、だったかな? まぁそんな感じだ」

 そして、いつのまにか「当たりが出やすい」「当たりがよく出る」「実際当たった奴が居る」「俺は当たった」と、どんどん話が転がっていって、今は「5割増しで出やすい」で落ち着いている。

 実際、イチカが打った後の台は人気台になっている分、当たるまで回ることが多い。
 何度も回せば、いつかは当たるのだ。回す回数が多ければその分当たりの数も多くなる。確かに当たりが多く出る台ではあるのだ。
 ……ハズレもその分多いのだが、ギャンブラーという人種は都合の悪いことは見ない傾向が強い。
 というわけで、噂も相まってスロットはなんだかんだ大人気であった。

「……まぁ、ギャンブラーってやつはゲン担ぎってのが大好きだからな」
「冒険者ともなれば尚更、ってことかしら」

 ああ、そういえばどちらも似たようなモンか、とゴゾーは肩をすくめた。

「っしゃあ! 当たった!」
「早く替われよー」
「くっくっく、これだからスロットは止められねぇぜ」

 そうして今日も騒がしく、酒場の夜は更けて行った。



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