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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

聖女の本気

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聖女の観察

(今回キリのいいとこまでにしたのでちょっと短め。代わりに明日も短いのを投稿します)
 聖女がダンジョンを進む足取りは重かった。
 黒い狼に勝てる算段が無い。けれども逃げる気もなかった。
 聖王国には『当たって砕けろ』という言葉があり、聖女もその心づもりでダンジョンに挑んでいる。だが完全には吹っ切れられない聖女は、ずりずりと重い足を引きずりながらゴーレムを一蹴していた。

「……あら? ここ、壁だったかしら?」

 いや、そんなことは無いはずだ、おかしい。【マッピング】スキルによれば間違いなくここは通路だったはず。【トリィティ】の効果で、迷宮の壁も固定化されるはずなのに、まさかもう効果が切れてしまったのか?
 ……それはないか。効果が終了したら反動でダンジョンの近くで力が出なくなってしまう。今はまだあの全く力が入らなくなる状況には陥っていない。と、聖女は思い直す。

 道が無いのは仕方ない、と回り道をする。
 壁が無いはずのところに壁があり、逆に壁があったはずの場所に通路がある。
 ……【マッピング】といい、【ダンジョン罠探知】といい、なぜかこのダンジョンでは使い道にならない。……まったく、不思議なダンジョンだ。

 ……そして、黒い狼の居る部屋に着いた。着いてしまった。
 気が進まないのもあって、結構時間がかかってしまった。

「……さて……どうしましょうか」

 室内に入る前に、対応方針を決めようと足を止める。
 呪文の詠唱を始めるべきか……もうすこし時間を置いて考えるべきか。

『おい』
「……ん?」
『おい、お前』

 どこからか声が聞こえる。……冒険者だろうか。こんなところまで自分以外の冒険者が来ているのか? 姿が見えないが……影からにじみ出てくるような恐ろしい声だった。

「……どこにいるんですか?」
『上だ』

 言われて上を見る。……そこには、黒い狼がいた。
 天井に4つ足で立って(・・・)いた。

「……は……?」

 まるで自分が逆さまなのだと錯覚するほどに堂々と天井を歩いていた。
 いや、それよりも気になる事があった。
 声の主は、誰だったのか。いや。それは、既に想像がついていた。この場にはほかに誰も居ないのだから。そしてなにより、狼が口を動かした。

『よく、来たな、ニンゲン』

 吠えるでもなく、短く千切れるような拙い喋り方。間違いなくそれは狼の口から出た言葉だった。

「じ、人語を解するのですか……?」
『何を、不思議なことが、ある? 他にも、喋れる、ぞ。グルルル……がう、どうだ』
「狼の言葉は分からないですね」
『……そうか』

 確かに、知能の高いモンスターは人語を解し、話をすることもできる。ドラゴンなどが有名だ。これほどまでに強い狼が人語を喋る、それは、あり得ない話ではなかった。
 それに、それはやはりこの黒い狼がダンジョンの外からやってきたという聖女の考えを補強するものだった。ダンジョン内にいるだけのモンスターが、人間の言葉を習得するほど人に関わるとは考えにくい。それに、ここに来る人間は多くない。どこかで覚えて、ここにいると考えるのが妥当だ。

 黒い狼は、唐突に天井から離れ、くるりと半回転してザッと地面に降りる。思わず警戒を強め、身構える聖女。しかし襲い掛かってくる様子はない。

「……なぜ天井に?」
『暇つぶし、だ?』

 深い意味は無かったらしい。なんなのだろう一体……どうやって貼りついていたんだろうか。
 しかし、もしあのまま奇襲をされていれば、悲鳴を上げる間もなく死んでいたところだ。つまり、この狼に聖女を殺す気はない。……少なくとも、今は。

 何が目的かは分からない。おそらく気まぐれに、いつでも殺せる敵を遊び半分で弄んでるだけだろう。猫が前足で毛糸の玉を転がす遊びと大差ない。すべての決定権は黒い狼の側にあるのだ。
 それでも良い。聖女からしても黒い狼を観察する良い機会でもあった。今後この黒い狼を倒しに勇者が来るにしても、情報を残すことで貢献できる。

 人語を解す、という新たな情報を得ることができた。会話も――今のところ、成立している。
 たとえ油断によるものでも、貴重な時間、そして情報だ。

「……それで、なんですか」
『お前、美味いよな』
「……さぁ、あいにく自分を食べたことは無いので」
『つまり、わたしに、飯を、献上してくれたな?』

 聖女は心の中で苦笑した。この狼は、所詮自分の事をエサとしてしか見ていないのだと。そして、こちらが死力を尽くしても、文字通り死ぬほどの思いをして、一矢報いたと思った一撃も――狼にとっては生きのいい餌が食べられる前に跳ねて皿から飛び降りた程度の可愛い抵抗なのだろう。
 しかも、わざわざ食べられに来る美味しいエサでしかない。
 実力の差が大きすぎる。

「ふ、ふん。それで、どうするつもりですか?」
『ああ』

 黒い狼は、くっくっと笑った。
 命を一瞬で奪える牙がちらりと見えるたび、聖女はヒヤリとする。

『お前を、子分にしてやる』

 ……何を言っているのか、聖女はその言葉を理解するまでに30秒ほどかかった。


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タイトル:絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで
著者名(レーベル名):鬼影スパナ(オーバーラップ文庫)
コメント(例):チキンタツタ美味しい! それはさておき一番好きなラノベです
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