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転生&時間遡行があるのに魔王が倒せません

作者:紅森弘一
「あぁ~、今日もつっかれたなぁ」

 俺は今日も部活を終え、帰宅していた。

 既にあたりは暗くなっており、学校近くの国道は車で混雑している。
 今日は雨が強く、車のライトに照らされ黄色や赤に輝く街はどこか幻想的でもある。

 とはいえ、傘を差していても雨は防げずズボンの裾が濡れてしまう。靴にも水が入り始め、早く帰ったほうがいいと俺は思った。

 と、その時であった。

 後方で何か重い物同士が激しくぶつかる音と、けたたましいクラクションが響いた。
 俺は音のした方へ振り向く。

 すると、目の前に何か巨大な物体が迫ってきているのが見えた。

 そこで、俺の記憶は途絶えた。



「……ん?」

 目が覚めた。俺は一体……。

 あぁ、そうだ。事故に遭ったんだっけ。

 ということはここは病院、はたまたあの世……。

「って、え……?」

 俺の目の前には、緑が広がっていた。
 一面に広がる草原と、緑の山々。自然の緑である。

「どこだ、ここは……?」

 もしかして、天国か。

 と、その時であった。

「ッ……!?」

 頭に、何かが浮かんできた。

 それは、緑の生い茂る森で産まれ、そこで育った「俺」の記憶。

 いや、違う。俺は、日本生まれの高校生……。

 だったはずだが、全く違う、別の記憶が俺の頭の中に入っていた。
 よく見れば、着ている服も事故に遭った時の学生服ではなく汚れた薄い布の服だった。

「……どういうことだ?」

 あまりに現実離れした出来事に困惑するが、それはすぐに収まった。
 なぜなら、別の俺の記憶も確固とした現実であるという実感があるからだ。

 俺はこの土地についてよく知っている。ただ、何故二つの記憶が一つの頭に入っているのかが理解できないのだ。

 もう一人の俺の記憶はこのようなものだった。

 緑に囲まれた土地「グレイスト」。俺はグレイストに広がる森に住む民族の子どもとして産まれた。
 家族構成は祖父母と両親と妹。現在は16歳で、森に住む仲間と共に狩猟などをして生活をしている。
 今は春先の、満月の日だ。俺は一人で散歩に出かけ、ここで居眠りをしていた。

 そして、今に至る。

 俺はここで、ある考えに至った。

 もしかすると、俺はあの事故で死んだのかもしれない。
 そして、俺の意識はこの世界へとやってきた。別の俺の記憶は、この世界で転生を果たした俺の記憶なのではないだろうか。

「なるほど、そう考えれば納得がいく……」

 別の俺の記憶では、この世界は魔法やモンスターの存在する不思議な世界のようだ。転生なんていう非現実的な出来事が起こってもおかしくはない。

 それに、俺はあることに気付いたのだ。

「早く帰らねぇとお袋に怒られる」

 俺は立ち上がり、慣れた足取りで、いつもの道を通り家へ帰るのであった。



 あれから数日後。俺はいつものように草原へ出かけ昼寝をしていた。今日は天気がよく昼寝日和である。

 すると、視界が暗くなった。雲が出てきたようだ。
 雨が降るかもしれない。早く帰らなければ。

 起き上がり、空を眺める。

「……ん?」

 俺は、違和感に気付いた。

 今日の雲はいつも以上にどす黒い。それになんだろう。この寒気のする感覚は。

 と、その瞬間であった。

『世界中の人間よ、我の言葉を聞くがよい!』

「っ!?」

 空から、くぐもった声が聞こえたのだ。

『我はこの世界を破壊する魔王、今から、地上の生物を全て殺し、この世界を魔界へと変えてやろう!』

 なんだ、一体何が起こっているんだ! 魔王? 魔界?

『消え去れ!』

 と、その声が聞こえた瞬間であった。

 空を覆うどす黒い雲が、落ちてきたのだ。それも物凄いスピードで。

「一体、どういうことなんだよぉっ!?」

 と、俺は叫びその瞬間に雲は俺を包み込みそこで記憶は途絶えた。



「あの、すいませーん」

「っ!?」

 俺は飛び起きた。

 どうなった!? 世界は? 魔王は? 俺は?

「……」

 俺が目を覚ましたのは、どこかの屋内。部屋のあちこちには棚があり、そこには商品が陳列されている。ここは店のようだ。

 目の前には鎧に身を包んだ青年。

 一体俺は……。

「ッ……!?」

「だ、大丈夫ですか!?」

 俺は頭を抱えた。それと同時に、何か別の記憶が頭をよぎる。

 まただ、森に住んでいた俺とは違う、別の俺の記憶だ。

 ここは帝都キンギルスの一角にある雑貨屋「ペガサスの羽」。俺はこの店を経営する店主だ。年齢は45歳、妻と共に店を経営しそこそこの生活をしている。
 今日は春先の満月の日、俺は春の陽気に誘われ居眠りをしていたようだ。

 この様子だと、また「転生」が起こったようだ。俺は先ほど「魔王」とやらの攻撃により死んだのだ。

 さらに言えば、春先の満月の日といえば俺がはじめに転生した日だ。時間も遡っていると考えられる。

「あの……なんだかうなされていたようですが」

 と、目の前の青年が話しかけてきた。彼は客だろうか。

「あぁいや、すまないね。ちょっと嫌な夢を見ていたもんで」

「嫌な夢、ですか?」

「そうだな。『魔王』とかいうのが現れて空を落としてきた……」

「……ッ!? あなたも、ですか!?」

 青年が前のめりに尋ねてきた。

「あなたも?」

「はい。ある日空から『魔王』の声が聞こえ、空を落とす。こんな夢を見る人が沢山いるようです」

「そうなのですか……」

「あの、俺は勇者として魔王を倒すべく旅をするものなのです。何か他に知っていることはありますか?」

「勇者……!?」

 俺はその言葉に驚き、前の青年を眺める。
 頑丈そうな鎧、腰には大きな剣、そして真面目そうな顔つき。確かに勇者らしい見た目だ。

「いや、特にないかな」

「そうですか……」

 勇者は肩を落とす。不思議な出来事なら他にもあるが、魔王に関係することとは今のところ考えにくい。

「期待させてすまないね。じゃあ、この店のものを好きに持っていっていいよ」

「えっ……!? いいんですか?」

「あぁ。魔王を倒すとなれば物資は必要だろう」

「ありがとうございます!」

 おそらくここから数日後には魔王が世界を破滅させるだろう。それまでに何とかしていただきたい。
 妻には叱られるかもしれないが、それはまぁ仕方ない。世界平和のために我慢しよう。



 数日後。

「ふあぁ……眠い……」

 俺は今日も店番をしながらうたた寝をしていた。全く、春は昼寝が捗るもんだ。

『世界中の人間よ、我の言葉を聞くがよい!』

「!?」

 と、急にどこからか大きな声が聞こえた。いや、この声は、

『我はこの世界を破壊する魔王、今から、地上の生物を全て殺し、この世界を魔界へと変えてやろう!』

 やはり魔王だ。しかしこの声が聞こえるということは、

『消え去れ!』

 あの勇者は、駄目だったようだ。俺の記憶はそこで途絶えた。



 あれから転生を何度か繰り返した。
 小さな村の村人、盗賊団の首領、行商人など様々な人間に転生したが世界の破滅からは逃れられていない。
 また、戻る時間は必ずしも春先の満月の日というわけではなく、それよりも前の日へ戻ることもあった。

 そして現在、俺はダルカリア王国の宰相に転生している。

「世界を救うべく旅する勇者よ、よくぞ参った」

 俺の隣の王座に座る国王は、目の前で跪く勇者に言った。

 その勇者は店主の時の俺と話した青年である。それ以降も見かけたり噂を聞いたりはしたが、ここまで近くで会うのはあの時以来である。


「はい。事態は一刻を争います。是非国王に援助をしていただきたいと思い尋ねました」

「うむ、お主の話はよく知っておる」

 俺はこいつが魔王を倒しそこね続けていることを知っているが、魔王軍の幹部を何人も倒している凄腕なのも事実である。

「お主には我が国の誇る優秀な人間を預けよう。入ってこい」

「「「はい」」」

 王の言葉に応じ、部屋の外から3人の男女が姿を現す。

 王国軍トップの実力を持つと言われる騎士、王立魔法研究所のエリートである魔女、魔王軍幹部を倒した経歴を持つ戦士。
 全員俺が選び出した選りすぐりのメンツだ。これならば魔王を倒せるはずだ。



 そして、運命の日。

『消え去れ!』

「なぜだぁぁぁっ!」

 俺は叫んだ。



『愚かな人間共よ! 我に逆らうというのか!』

 魔王が剣を振るうと、激しい風が起きた。

「ぐわあぁぁっ!」

 前方で魔王の攻撃を受けていた騎士が吹き飛ばされる。

「ナイトッ!」

 俺は壁に叩きつけられた彼へ振り向く。

「おい、余所見するな、危ないっ!」

「えっ……きゃっ!?」

 俺の体を衝撃が襲い、俺は大きく吹き飛んだ。

「そんな……私はここまで来たのに、勝てないなんて……」

 何百、何千、何万回もの転生の果てに、現在俺は魔女に転生していた。以前国王が勇者に預けた3人の仲間のうちの一人の魔女だ。

「諦めるな! まだ希望は残っている……!」

「でも……!」

 俺の隣には、騎士と戦士が倒れている。もう戦えるのは勇者一人だ。

 やっと、やっと魔王の前まで来たのに、まだ駄目なのか。

「食らえぇーっ!」

 勇者が魔王に飛び掛る。

『虫ケラめっ!』

「ぐあぁっ!」

 勇者が弾き飛ばされる。聖剣が宙を舞い、石畳の床に落ちた。

『もう十分だ。この世界の全ての生き物と一緒に葬ってやろう!』

 と、魔王が叫んだ瞬間、魔王の体からどす黒いオーラが吹き出し、天井を突き破った。

『我はこの世界を破壊する魔王、今から、地上の生物を全て殺し、この世界を魔界へと変えてやろう!』

 あぁ……また失敗かぁ……。



 それからまた、遥か先の転生後。

「あの、すいませーん」

 俺は店で居眠りしていた店主に話しかける。

「っ!?」

 店主が飛び起きた。ん? この場面、どっかで見たような。あぁ、こいつ俺だっけ。

 店主(中身は俺?)は、頭を抱えている。

「だ、大丈夫ですか?」

 俺は分かっていつつも声をかけるのであった。



「お主には我が国の誇る優秀な人間を預けよう。入ってこい」

 王の前で跪く俺。その王の隣には宰相。二人とも中身は俺である。
 壁際に並ぶ兵士も、全員俺である。

「「「はい」」」

 3人の男女が部屋に入ってきた。この3人も、俺だ。



「勇者様……」

 魔王城への潜入が目前に迫ったある夜、魔女が俺に話しかけてきた。

「どうした? 怖いのか?」

「いえ、そういうことではなく……」

 彼女はなにやらもじもじとしている。

「勇者様は、魔王を倒したら、どうするのですか?」

「そうだなぁ……考えたことなかったなぁ」

 もう、魔王を倒すことしか考えてられない。

「お前は何かあるのか? やっぱり魔法の研究か?」

「いえ、違います」

「じゃあ、何だ?」

「それはですね……魔王を倒してから言います」

「なんだよ、教えてくれよ」

「秘密です♡」

 魔女は色っぽく微笑む。

 先ほども言ったが、彼女の中身は俺である。



『愚かな人間共よ! 我に逆らうというのか!』

「ぐわぁっ!」

「きゃっ!」

「ぐはぁっ!」

 魔王の攻撃で仲間達が吹き飛ばされる。

「くそっ……! なんで、なんでまだ駄目なんだっ……!」

 今回は、今までの中でも特別に上手く行った。王(俺)から仲間(俺)をもらったし、店主(俺)からも沢山アイテムを仕入れた。
 山奥に住む賢者(俺)から伝説の鎧を貰い、秘境の精霊(俺)から加護を授かった。
 今までの俺の力を結集し、魔王も今までで一番ダメージを受けているように見える。

『もう十分だ。この世界の全ての生き物と一緒に葬ってやろう!』

 なのに、なんで駄目なんだ!

『世界中の人間よ、我の言葉を聞くがよい!』

 俺はやれるだけのことをやってきた。

『我はこの世界を破壊する魔王、今から、地上の生物を全て殺し、この世界を魔界へと変えてやろう!』

 何億回もの転生を繰り返してきたのだ。一体何が足りなかったというのだ。

『消え去れ!』

 そこで、俺の記憶は途絶えた。



「ぐふぅっ!?」

 俺は次の瞬間、腹部に強い痛みを感じ目が覚めた。

「……やったか?」

 俺の耳に飛び込んできたのは、聞きなれた勇者の声。

 前を見ると、勇者が剣を構えこちらを見ている。

「ッ……!?」

 頭に何かが浮かび、俺は頭を抑える。

「効いてるぞ……精霊の加護の力が……!」

 俺は、記憶を辿る。

 俺が産まれたのはこの世界とは別に存在する魔界。そこで俺は強大な力を持つ魔王として君臨し、こちらの世界へ侵攻をしたのだ。
 そして、この魔王城を作り各地に幹部を派遣し侵攻を進めていたのだが、遂に勇者が城へ乗り込んできたのだ。

「……なるほどな」

「な、何を言っている……!」

 俺は、落とした剣を拾う。

「いやぁ、こういうことだったとは、な」

 俺は剣を振り上げた。

「っ!」

 勇者は思わず身構える。

 そして俺は、剣を自らの胸に突き刺した。

「なッ……!?」

 勇者の驚きの声。

 俺の記憶は、そこで途絶えた。



「……ん?」

 俺は目を覚ました。

 また転生か。さて、次はどうやって……。ん?

 違う、俺は魔王を倒して……いや、魔王に転生して自殺したんだった。

 じゃあ、今の俺は?

 俺は思い出す。まず、今日が春先の満月の日よりも随分前だということが分かった。

 そして、次に自分が何者かを思い出した。

 そうだ、俺は神だった。

 この世界を創造し、管理する存在だった。

 俺は下界を様子を見る。

 汗水流して田畑を耕す農夫、路地を駆け抜けていく子ども、客寄せをする娼婦、門前に立つ兵士、牢獄の中の悪党。全て俺が創り出した人間である。

 そして、全て俺なのだ。

 すると、魔王が魔界からこちらの世界へ来るのが見えた。

 なんということだ。神にまでなったのに魔王と対峙しなければならないのか。

 いや、魔王は勇者に追い詰められ自殺をするのだ。俺がそうしたから、そうなるはずだ。

 と、ここまで考え俺は満足した。

 そうだな、俺はここまでやったのだ。もう十分だ。

 これ以上頭を働かせたくはない。気が遠くなるほどの転生を繰り返してきたわけだ。

 しかし神が自分の仕事をほっぽり出すわけにはいかない。

「……そうだ。なら、他の奴に任せてしまえばいい」

 俺は、別の世界への扉を開き様子をうかがう。

 すると、丁度そこに一人の男子高校生が歩いているのが見えた。よし、あいつにしよう。

 俺は、神の力をちょっと使い向こうの世界へ干渉する。

 神の力で操作の狂った乗用車が、男子高校生への突撃する。

 俺の記憶は、そこで途絶えた。

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