朝練とノート。
「いってらっしゃい。のびちゃん、王ドラちゃん、ドラリーニョちゃん。」
「うん、行って来ます。」
「行って来ます。」
「行って来る〜!」
朝になり、僕達は家を後にした。2階を見上げると、ドラえもんと小龍がこちらを向いて手を振ってくれている。後ろからはキッド達の声も聞こえてきた。
今日からはキッド達はアルバイトを始める事になる。
そして、小龍とロンは今日の夕方にはもう帰るんだそうだ。だから小龍達に会えるのはまたしばらく先になる。僕達も小龍達に手を振り返すと、小龍は嬉しそうな顔をしてまた振り返してくれた。ロンはまだぐっすりと2階の屋根の上で寝ていて起きる気配は無かった。
朝練に行く僕とドラリーニョに連れ添って、王ドラもついてきてくれた。途中の曲がり角でジャイアンとスネ夫に会うと、次の交差点で今度は野球部顧問の先生にまで会ってしまった。
「「「「おはようございまーす。」」」」
「アミーゴ!」
挨拶をすると、まだ寝ぼけ眼の先生も自転車を押しながらペコリと頭だけ下げた。うっかりしてるとそのままひっくり返ってしまいそうだった。
そして結局先生も一緒に行くことになったのだ。
先生の隣に立ったスネ夫が先生の髪が切られている事に気付き、理由を尋ねた。すると先生は
「あぁこれ?気分転換。」
とだけ言った。先生の瞳が一瞬だけ影を帯びたようにも見えたのは…気のせいだろうか。気のせいではないとすれば、薫さんの事を思い出したのだろう。
そうこうしているうちに学校に着いた。
王ドラは教室に、ドラリーニョはサッカー部の部室へと歩いて行った。
先生もタバコを咥えたまま職員室へと向かう。
僕達が着替え終わった時間には七時になっており、野球部の練習の始めの恒例儀式とも言える準備体操が始まった。
***
「おはようございます。」
王ドラが誰もいない教室に朝の挨拶を響かせる。
自分の机に鞄を置き、準備をしているとあることに気付いた。
机の中がやけに狭い。
昨日まできちんと入った教科書類が途中で何かにつっかえている。
教科書をとりあえず隣ののび太の席に置き机の中を覗きこんでみる。中に入っていたのは沢山のプリント類。何故自分の机の中に入っているのか疑問に思いつつも手を突っ込んで出してみた。
そしてその中の1枚を開いて見てみる。
「…!」
***
「…あれあれ?王ドラ!」
ここが学校だと言う事も忘れてドラリーニョは校庭の端にいる王を本名で呼んだ。だが彼は、返事をしようとはしない。一冊のノートを見つめて放さないその目が、ドラリーニョに向く事も無い。
疑問に思ったドラリーニョはランニングを止めて王ドラに走り寄った。
それでも気付かない王ドラの肩をゆすってみると、ようやくそれで王ドラはドラリーニョの存在に気がついた。
「どしたの?」
「あ、いえ…何でも無いんです。すいません邪魔しちゃって。」
「それ、見せて!」
「え、あ、ちょっと!」
ドラリーニョが王ドラからとった物は誰かのノートだった。でもそれはビリビリに破れていてノートの自体の厚さも半分になってしまっている。
中をペラペラとめくってから次に表に返して見てみる。
「これ…。」
いつもならはしゃぎ回るドラリーニョもこのときばかりは息を呑んだ。
王ドラはその手からノートを取って真剣な顔つきでドラリーニョに言った。
「誰にも言わないで下さいね…。」
逃げるように王ドラは下駄箱の方へと走って行った。ドラリーニョは少ししてから部員に呼ばれ、ランニングをまたはじめた。
そして先生は、校庭を一瞥できる階段からその様子をジッと見つめていた。
***
キーーーンコーーーンカーーンコーーン・・・
チャイムが鳴ったのと同時に僕達は校舎へと向かった。ジャイアンとスネ夫も随分疲れているようだけど、まだ今日は始まったばかり。
下駄箱で靴を履き替え、1年の教室がある3階へと上がろうとすると下駄箱を出てすぐの廊下に静香ちゃんとノンちゃんが立っていた。
向こうも僕達の存在に気付いたので僕が挨拶をしようとしたとたん、静香ちゃんに片手を握られてしまった。
驚いている僕を引っ張りながら静香ちゃん達は3階へと上がって行く。
「ちょっ…静香ちゃん?どうしたの!?」
「大変なののび太さん!ドラリーニョさんと、王ドラさんが…。」
―――!?
ドラリーニョと、王ドラが?
3階に上がり、僕等の教室の前にくると僕の教室の前はそんなに大事が起こっているようには見えない。静香ちゃんとノンちゃんに引っ張られて教室に入っても、特に何か事件が起こっているようには見えなかった。
ドラリーニョと王ドラの机以外は。
机には落書きが施され、机の中から出てくるのは破れた教科書やノート。ドラリーニョは僕の存在に気付くと、いつも通りの笑顔で僕のところへ駆け寄った。王ドラも、さっきまでと何ら変わり映えのない笑顔を僕に向ける。
「お疲れ!アミーゴ!」
「お疲れなさい、のび太さん。」
何事もないように振舞っていても、すでに僕の視界に飛び込んできたものは正真正銘、何かが起こった事を現している。
僕が鞄を床に下ろしてそっと王ドラの机に手を伸ばす。王ドラが何かを言おうとするが、こんな物、黙ってみていられるわけが無い。
開いてみると広がる数々の心無い文字達が白かったページで踊っていた。
僕はもう1度閉じて、表紙を見てみた。
英語で使う見なれたノート。Englishの文字の下に綴られた見慣れた名前、
野比、のび太。
「それ、僕の…」
「違いますよ、多分誰かが落書きしたんでしょうね。新しいのを買えば済む事ですし、気にしないで下さい。」
僕の中で、色んなモノが混ぜ合わさる。
怒り、悲しみ、悔しさが僕の中でドロドロに混ざり合い、僕の意思に関係無くそれを吐き出してしまいそうになってしまう。
口元を押さえていると、ふと僕の目にあるものが入ってきた。
小さな名刺くらいのそのカードに書かれていた文字を見て、僕は驚愕した。
王ドラが心配そうに見てくるが、僕は王ドラに見られる前にカードをポケットに突っ込んだ。と中でカードが折れた気もするが、このさい気にしないことにした。
それよりも今は、気になるのは王ドラ達の方。
まさかここで
「復元光線」
とか言ってノートとかを直すわけにもいかないし、それで全ての問題が済む訳でも無い。
それに、なんで僕のノートが、王ドラの机に突っ込んであるんだろう。
しかも王ドラの机にもドラリーニョの机にも落書きが書いてあるし。
訳が分からない。
「どうした?もうHR始めるぞー。…っと、どうした王、ドラリーニョ?」
久保先生が手に出席簿を持ちながら教室に入ってきた。王ドラとドラリーニョの机を見て、少しだけ顔が曇る。
王ドラ達は何も言わずに机の中と回りを片付けて席に着く。ざわめいていた教室のクラスメイト達も落ち付き、自分自分の席に付いて行く。
静香ちゃんやジャイアン達は最後まで心配そうに見ていたが、久保先生に急かされて席についた。
僕は王ドラに話しかけた。
「先生に言った方が…。」
「あまり面倒事は先生には言いたくありません。責任を取らないといけなくなるのは貴方の両親達です。
人と接するロボットは…人間に迷惑をかける事はご法度と、教わってきましたので。」
ニコリと僕に微笑んで見せるが、心なしか少し不安そうな顔つきにも見える。机の上の落書きは鉛筆で書かれていたので王ドラはHR中ずっと消しゴムで消していた。
机の上の落書きは消えた物の、僕達いつものメンバーから不安が消える事は、なかった。
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