転校生と留学生。
ついに二学期が始まった。
皆それぞれ日焼けをしていたり、宿題を1つ家に忘れていた事に気付いたり。
朝の一時間目、学活の時間が始まり、さあ宿題提出だと言う時に、僕達のクラスの担任、ちょっと頼り無さそうな数学科の久保先生が手に数枚の資料を持って、ちょっとざわついているクラスに向かって言った。
「えー、今日からこのクラスに転校生がやって来ます。皆、静かにー。」
そう言うと、余計騒がしくなるのが中学一年生。
そんな中、先生が中にその転校生をいれた。とたんに教室は静かになる。なぜならその転校生は僕が言うのもあれだけど、美人さんだった。
肩まで降りている赤茶色の髪。ちょっと伏せ目がちな大きな目。
静香ちゃんを可愛いと評価するならばこの子は綺麗、だった。
口をそっと開いて、顔を少し上げてから、彼女は自己紹介を始める。
「…転校生の、紅野ノン子です。何年か前まで私もこの辺りに住んでいましたがこの度また、戻ってくる事が出来ました。
これからよろしくお願いします。」
僕の中のバラバラのパズルのピースが、どんどん組み合わさって1つの物になって行く。
マリアを見たときのあの違和感。
二学期の転校生。
そして彼女の名前、ノン子。
僕は皆の目の前の事というのも忘れて、叫んでいた。
「ノンちゃん!?」
彼女も僕の存在に気付いたようで、瞳に涙をうるませて彼女も言った。
「のびちゃん!」
僕は驚く皆を無視してノンちゃんの元に走り寄る。ノンちゃんは僕にいきなり抱きついた。
この事には流石の僕も驚いた。
「いつ引っ越してきたの?」
「この夏休み…でものびちゃんの家が分からなくって…。」
「そう…なんだ。」
―――というかさ、このクラスの男子の視線が滅茶苦茶痛いんだけど。
オホンオホンと久保先生が咳払いをする。
その声でパッとノンちゃんは離れ、顔を真っ赤に染めた。
僕も急いで席に戻るが、それでもクラス全員の視線が僕に浴びせられているのが分かり、僕は宿題のワークで顔を隠した。
これで全てが納得した。
マリアの顔を見て思い出したのはノンちゃんの顔だったんだ。
たぶんあれからノンちゃんはきっと僕じゃない、別の人と結婚してどんどん辿って行って…それでマリアとイヴさんが生まれたんだ。
マリアが金髪だったのは途中で外国の人と誰かが結婚したからだろう。
大金持ちの紅野家でもハズレものは出てくる。それがマリアの家、だったのかな?
まあきっとそんなカンジだろう。
「…あともう2人、このクラスに留学生が来ます。中国からとブラジルからだそうで。
入ってください。」
僕は、彼女等を見て思いっきり叫んでしまいそうになった。
オレンジの綺麗な髪にチャイナルックの超美少女。
そして小柄な体の緑の少女。
オレンジの髪の方がにっこりと笑って言う。
「初めまして。中国から来ました。王と言います。」
「アミーゴ!僕、ドラリーニョ!!ブラジルから来た!」
叫ぶまいと思っていたのだが思わず叫ばずにはいられなくなる。
「何で君たちがここにいるのさっ!!!」
がたんと立ち上がった弾みに椅子が大きな音を立てる。だが王ドラ…じゃ無くて王は僕に向かってにっこりと微笑む。
「言い忘れていました。私達は今のび太さんの家にホームステイさせて頂いています。
これからよろしくお願いしますね、皆さん。」
「アミーゴ!ヨロシク!!」
その後の休憩時間、僕が質問攻めされたのは言うまでもない。
***
「どうしたのですか?浮かない顔をして。」
王がすっかり身についてしまった爽やかスマイルで僕に尋ねる。僕はぶすっとした顔で窓の外を何もせずただ見つめる。
放課後の教室で、僕達いつものメンバー以外誰もいなくなった教室。ノンちゃんと静香ちゃん達が話している所から離れた自分の席に座っている。王は僕の隣の席になり、彼も自分の席から僕の方を見ている。
僕は呟くようにこう言った。
「何で君たちがここにいるのさ。」
「それがですねえ。家にいても暇だなと思いまして、ですが全員が行くのもちょっと不安なのでくじ引きで誰が行くか決めたんです。」
「そしたら君とドラリーニョになったわけ?」
「そうです。」
僕は溜め息を1つ付いた。
君達の気まぐれと変な運で、僕は朝っぱらから叫ぶ破目になったのか。
王が声を潜めて僕に言った。
「ところで、あの紅野さんはマリアたちの…?」
「みたいだね。というか、そうとしか考えられないよ。」
「ですねえ。ほら、ドラリーニョ。あんまり迷惑をかけてはいけませんよ?」
「は〜い。」
ドラリーニョはジャイアン達と一緒にサッカーボールでリフティングやらヘディングやらをしていた。
サッカーボールと戯れている時のドラリーニョは本当に楽しそうで、見ているこっちまで明るい気分にさせてくれるようだった。
生憎ながら、僕はそんな気分にはなれなかったけど。
***
12時のサイレンが町内に鳴り響き、僕達は先生に下校を強いられた。ノンちゃんの家の前を通ると、前と同じように広くて豪華な家で、羨ましく思ってしまった。
そして静香ちゃん達とも別れ、家の前まで来ると、ポストの中に沢山の便箋が突っ込まれていた。
僕に当てての脅迫もどきの手紙もさる事ながら、王ドラやドラリーニョに対してのが多かった。だが王ドラはどれも読まずにゴミ箱に捨て、ドラリーニョは折り紙にして遊んでいたが。
僕に当ててのも全部破り捨てる事にした。
2階に上がると案の定、というべきだろうか。
ドラえもんズメンバーが思い思いに寛いでいた。
「お帰りのび太君、王ドラ、ドラリーニョ。」
ドラえもんがドラ焼きを食べながらのん気そうに言った。僕は鞄を机においてから返事を返す。椅子に座って改めてよく見てみると、一人足りない気がする。
ジェドーラだ。
「ジェドーラはどうしたの?」
ドラパンが昨日祭りのついでに買った英語の分厚い本を読みながら答えた。
「昨日屋台のかき氷にいちゃもん付けてたろ。
あそこの親父があいつを偉く気に入ったらしくてな。
今日はあっちの家で教室を開くらしい。」
「かき氷の?」
「いや、ケーキやらクッキーを作ると言っていたな。」
「暇だねえ。」
「だから王ドラとドラリーニョがそっちへ行ったんだろう。」
しおりを閉じてパタンと本を閉じる。モノクルをかけなおして、こちらを見るドラパン。キッドが退屈そうに大あくびをする。
「だってよ、する事ねーんだもん。漫画も読んだし、この辺りはもう夏休み中に散歩してきたし。
またあの超簡単な宿題ねーの?」
「残念でした。今日は何もありません。」
「シケるな。」
ゴロンと畳にねっころがるキッド。だが王ドラはさもそれが不愉快そうにこう言った。
「寝転がるのは止めてください。ただでさえ狭い部屋がもっと狭くなる。
どうせするならスモールライトを使ってからにしてください。」
「面倒くせー。」
「じゃぁ屋根にでも登ってください。」
「あちー。」
「じゃぁ寝ないで下さい。
…そういえばのび太さん。紅野さんから今日誘われていたんじゃないですか?
そろそろ行きません?」
「あ、そうだね。行こうかドラリーニョ。」
「ウン、行く〜!」
ドラリーニョ達と部屋を出て行こうとする僕達に、ストップがかけられた。
キッドが半身だけ起こして僕等に尋ねる。
「誰だよコウノって。」
「マリア達のご先祖。ドラえもんはあった事あるよね?ノンちゃんだよ。」
「ノンちゃん!?帰って来たの?」
「今日転校してきた。」
それだけ言ってからまた部屋を出て行こうとするが、またもキッドに止められる。
「なんでお前等だけ行こうとするんだよ。」
王ドラが少し勝ち誇ったような顔をしてキッドに言った。
「誘われたのは、私達に、ジャイアンさん、スネ夫さんそれに静香さんです。
残念ながらキッド達の存在はお知らせしていませんので、ご了承下さい。では。」
そう言ってから王ドラはパタンとふすまを閉じた。残されたキッドからは怒りのオーラが立ち上がる。
ドラえもんはなだめようとするが、怒りのオーラは止まらない。
「ふざっけんなあいつ等…。許さねえ…俺達を差し置いてアイツ等だけ行きやがって・・・。」
「しょうがないであーる。くじ運の悪いキッドが悪いであーる。」
タロット占いをしながら3世がさらりと言う。
「うっせぇ!こーなったら意地でも付いてってやる…。」
メラメラと燃えあがる怒りの炎が部屋の温度を一割増にする。窓を開けるとそこからまず屋根に、そして地面にと降りて、消えかかった王ドラ達の後を追いかける。それを見て、ちょっと躊躇ってからドラえもんも後を追いかけた。
マタドーラもニヤッと笑ってから窓から飛び降りる。
「ドラパンはどうするであーる?」
「放っておけ。お前は行くのか?」
「人様にはあまり迷惑かけたくないであーる。」
「そうか。」
フッと笑ってからドラパンはまたページを開き、読み始める。
蝉の季節もそろそろ終わり始め、窓のそばに吊るしてある風鈴の音だけが部屋に響いた。
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