潜入と再会。
「見えてきた、そろそろ降りるぞ。」
タイムホールが開き、ロンはひょいと穴から出た。二人もそれに続いて穴から出る。とたんに、イヴの物でもマリアのものでも勿論ロンのものでもない悲鳴が、その部屋一杯に響き渡った。
それもそのはず、3人が出た先は
調理実習中の調理室。
先生と生徒の声が響く中、慌てる3人は急いで部屋を出ようとする。だがその3人に、思わぬ声がかけられた。
「ロン、マリア、それにイヴ…?どうしてここに…。」
一斉に振り返るとそこには手にフライパンを持ったジェドーラがぽかんとした様子で見つめている。イヴは思わず近寄ろうとするが、ロンに服を引っ張られてしまい、そのまま三人は部屋の外へ出た。階段の踊り場まで走り、ロンが廊下を確かめても誰も追いかけてくる気配は無かった。
一息付いているとマリアが意を決したように
「もう1度行ってくる。」
とだけ言って姿を消してからあの部屋へと行った。ロンもイヴも止めようとはしなかった。とにかく今は、ジェドーラのことが気がかりだったからだ。
マリアが部屋に入るとまだざわついた様子だった。だが料理は大体は出来ており、あと少し盛り付けたりすれば完成だ。失敗している所は1つも見当たらず、全ての班が中学生にしては上出来な出来映えの料理を作り上げていた。
生徒が集まっているジェドーラのよこで、マリアはその様子を見ていた。
ジェドーラは楽しそうな表情で生徒達と話をしていた。料理を見せて上手く出来たと喜ぶ生徒達の話を聞いたり、自分の作ったクッキーの余りをお裾分けしていたりしている姿を見ていると、犯罪組織の一員という風には見えない。ただの料理好きな美人さんといった感じだ。
生徒達が席につき、ジェドーラが一番前の席に座った時、マリアはそっと話しかけた。
「ジェドーラ…。」
「何かな?」
離しかけると、ジェドーラは誰にも聞こえないほど小さく返事を返した。やはり前と同じような話し方なので、どうしてもマリアは腑に落ちない。そう思っていると、今度はジェドーラのほうから話しかけた。
「僕がどうしてクロネコに入ったのか聞きに来たんだろう?
ロンがいたって事は、小龍から話は聞いてるはずだからね。」
「そう言う…事になるな。頼む、聞かせてくれ。
お前等の力だったらクロネコからは逃げれるはずだ、なのに…なんでクロネコにいる?」
生徒と先生が、それぞれ自分の作った料理を口に運び始める。ジェドーラも一口スパゲッティを口に運んでから、また話し始めた。
「確かに僕は逃げれるかもしれない。ドラパンだって。僕達を捕えている呪縛からも、頑張れば抜け出せるかも知れない。
だけどね…それじゃ駄目なんだ。」
「何故だ?その気になれば抜けれるし、いざとなればのび太達だって…。」
「だから駄目なんだ。今のクロネコは…前とは桁が違う、とてつもなく強い。
…僕達のために組織に挑んで、その所為で死んで欲しくはない。だから僕達は組織に絶対忠誠を誓って、彼等が来ても絶対に帰らないと、そう決めたんだ。
そうすれば…いつか僕等を諦めて、僕等から行かない限り僕等を取り戻そうとはしなくなってくれるから…。」
ジェドーラはそう言うと、少しだけ笑みを浮かべた。マリアは少し難しい表情をしながら180度方向転換し、最後にジェドーラにこう告げてから、部屋を出た。
「お前等が帰らないと言えば言うほど、あいつらは追いかけてくると私は思うがな。
あいつは…のび太は、そう言う奴だ。」
***
「マリア、お帰り。…何か、言ってた?」
「言っていたが…まあのび太達の所でまた話すさ。」
「んじゃぁ行くか。今なら走ればバレねえよな。」
ロンが階段を駆け下りて行くと、右手が図書室の出入り口、左手が保健室に通じる廊下となっていた。迷わずロンは左手に向かって走り出した。保健室、校長室、そして職員室の前を一気に三人は走りぬけて行く。結局正門を出た時まで誰とも会うことは無く、誰もいないのを確かめてからどこでもドアを使って、小龍達のいる部屋へと移動したのだ。
***
「ロンにイヴさん、それにマリア!?どうしてここへ?」
「いちいちうるさいぞのび太。そう言う所は相変わらずだな。」
マリアとイヴさんに会うのは久し振りだった。こっちは喜んでいると言うのにマリアの方は相変わらずの無愛想だ。そんな中、イヴさんはノンちゃんの姿を見付けるとそっと歩み寄り、右手を差し出した。
「はじめまして、紅野ノン子さん。紅野イヴです。」
「え…?どうして私の名前を…?」
そう尋ねると、イヴさんはにっこりと笑って答えた。
「信じられないかもしれないけど、私は貴方の孫の孫よ。そして彼女が…もう死んじゃったんだけどマリアって言うの。
皆も、宜しくね。」
まだ驚いている顔をしているノンちゃんと握手をすると、今度は静香ちゃん達のほうへ振り返った。美人な彼女の笑顔を見て、ジャイアンとスネ夫の顔が赤く染まる。透さんはベットの上でその様子を見ていて、不意に声を上げた。
「マリアは本当に幽霊になっていたのか…。驚きだよ。」
「お前のいない間にいろんなことがあった。私を殺した元凶は、お前の兄だと言うことを忘れるな。」
「分かってるよ。…イヴにも悪い事をしたね。」
「良いの、もう。この腕にもなれたことだし、悪いのは透じゃないし。でもね」
そう言って裾をまくると、精密な機械で出来たイヴさんの左腕が姿を現した。ひじの辺りに右手をそっと当ててみる。
「私にはわからないの…。薫がこんな事をしだした理由も、こんなバカみたいな事をして何になるのかも…。
だから…せめて、薫をこの腕で一発引っ叩くまで…私も戦わせて。」
機械の腕で一発頬を叩く。それは歯が一本飛ぶくらいじゃおさまらないであろう。ちょっとトラウマになってしまうくらいの壮絶な痛みだと僕は思う。
それと同時に、イヴさんの決意は凄い物だと僕は思った。
「私もだぞ。」
そう言ったのはマリア。フヨフヨとキッドの頭の上で頬杖をつきながら投げやりに話す。
「私だって薫に言いたいことは山ほどあるのだ。それをしてからじゃないと安心して成仏できない。手伝うぞ、のび太。そして小龍!!」
急に会話の矛先を自分に向けられた小龍は驚いてびくりと体が反応した。マリアは少し頬を赤らめ、白い(と言うよりも半透明と言った方が正しいだろう。)指をびっしと小龍に向ける。
「情けないぞ小龍!お前も時空警察で働いているならもっとちゃんと働け、ちゃんと!
こんな真っ黒いのと戯れるくらいなら道具でも磨いておけ!この馬鹿小龍!」
「だーっ!俺は黒いのじゃねえっ!名前があるんだよ名前がっ!」
「うるさいぞ黒いの!大体私は小龍に話しているのだ!」
「だから、ロンもマリアももう少し静かに…。」
小龍が止めようとしても無駄に等しく、マリアとロンは子供さながらの口喧嘩をはじめ出した。こうなってはもう止まらない。
「大体貴様は何なのだ!小龍にそっくりなクセして!私が好…嫌いなのは小龍だっ!そしてそっくりなお前の存在も気に食わんのだこの真っ黒クロすけ!」
「黙りやがれこのクソチビが!幽霊なら幽霊らしく大人しく墓場で寝てやがれ!」
「それを言ったらお前もだろう!ネコならネコらしく屋根の上でお昼ねでもしたらどうなのだ!」
「言ったなこの糞チビ馬鹿幽霊!部屋出ろよ!俺が成仏させてやる!」
顔を付き合わせて喧嘩をする二人。そんな二人が可笑しくて、思わず僕は笑ってしまったのだ。つられて小龍、イヴさんも笑い出す。部屋の皆が笑い出し、しまいには透さんまでクスクスと笑い出す始末。だが二人は喧嘩を止める気配を見せる事無く大騒ぎをし始める。キッドとマタドーラにいたっては冷やかしを始めだし、口笛を鳴らし出す。
しばらく笑ってなかったのを思い出すと、余計に笑い出したくなってしまった。
僕達はしばらく、嫌なことも忘れて笑ったのだ。
そんなに大した事のない、ただの喧嘩だったけど、僕達はこれを望んでいたのだろう、ずっと。
何も考えずに笑うと言うことを、したかったのだ。
***
「ただいま、ドラパン。」
「あぁ…帰ったのか。」
「うん。…そう言えばマリアとイヴに会ったよ。」
ドアを開け、近くにあった椅子に座ったジェドーラがカマンベールチーズ入りドラ焼きが無くなった皿をテーブルに置きっぱなしにしているドラパンに話しかける。殺風景な部屋でドラパンはのび太の家にいたときと同じように読書に没頭していた。ぼんやりと空を仰ぎ見ていると、ドアをノックする小さな音が聞こえてきた。ジェドーラが立ちあがりドアを開けるとそこにはドラミが立っていた。ジェドーラが口を開く前にドラミが口を開く。
「セワシさんが呼んでいるわ。研究室。」
「うん、分かった。ドラパン、行こう。」
「あぁ。」
二人が立ちあがり、先に歩くドラミに付いて行く。正面を向いているドラミの顔は見えないが、さっき自分達に向けた表情は、何かききたげなそれだった。
「ドラミ。…何か、あったのか。」
ドラパンがそう聞くと、ドラミはぴたりと足を止めた。数秒あってから、ドラミが振り返る。ドラミは、少し寂しそうな表情でこちらを向き、話した。
「何で貴方達は、そんなに簡単に諦める事が出来るの…?」
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