1年前と出会い。
僕達はずっと、二人でいた。
たまに喧嘩もした。でもすぐに仲直りもした。
喧嘩の理由はいつだって簡単なもので、周りは喧嘩をするほどじゃないだろうといつもたしなめようとしていた。
今思えば、その喧嘩がなくなった頃から僕達は刺激を望んできたのかもしれない。
そして、刺激の足りないこの生活にいつしか僕達は飽きてきた。
社長になるのはどっちか。
社長の後継ぎなんだから、もっときちんとしなさい。将来恥かくわよ。
そんな悪戯もう二度としちゃいけません。
そんな事を毎日の様に聞かされてきた僕達の限界は、
ある人との出会いをきっかけに
ぷつんと、糸が切れるような音がして
脆く、崩れてしまった。
***
「透。」
「何、薫。」
「暇だね。」
「そうだね。」
そんなつまらない、単調なやり取りを今日だけで何回繰り返したのだろうか。数え切れないほどの短いやり取りを繰り返すのが、いつのまにか二人の日課になっていた。
二人の部屋で、ぼんやりとしていると透の目が不意に窓の外の世界に行った。
外の世界には、ほとんど行ったことが無かった。
もうすぐ成人を迎えようかというのに二人の親は決して外の空気に触れさせようともせず、ただなかで、膨大な量の知識を詰め込ませていた。
最後に外の世界に行ったのは、18の誕生日を向かえた日以来。
そっと二人でビルを抜け出して、まる1日外の世界を楽しんだ。美味しいドラ焼き屋も見付けたし、家になかった古い本も読んだ。
だがそれがバレて以来、二度と両親は二人を外へ出そうなんて言う考えを持とうとはしなくなった。
外を恋しげに見る透の隣に薫が立ち、そっと透に耳打ちをした。
「…いかない?外。」
「…良いね。」
禁止された事は、どうしてもやりたくなってしまう。そんな無邪気な所は、まだ二人の心の中にあった。
決めてからの二人の動きは速かった。監視カメラを取り外し、少し改造を加える。このカメラは五分おきに作動し、10分間カメラの映像を監視ロボットのいるモニタールームに映す仕組み。その後憤慨作るかは、小さいころ忍び込んだ時に拾った資料で確認済みだ。
カメラにはあらかじめ撮っておいた映像を流す様に改造し、バレることはまず無い。
二人はタケコプターを取り出して、窓の外の世界へと飛び立った。勝ち誇った顔をして、二人はその拳をコツン、と当てる。
久し振りの外出をした時は、真っ白な雲が所々漂っている、良い天気な日だった。
***
街に出た二人が、話しながら歩いていると急に誰かにぶつかってしまった。
何かの紙を見ていた少年の沢山の紙が道へぶちまけられる。
「あ…。」
少年は急いでその紙を拾って行く。ぶつかってしまった透と、彼と話していた薫もそれを拾うのを手伝っていた。
三人で拾うとすぐに全ての紙は彼の手元に戻った。ホッとしたような表情を浮かべて、少年が二人に話しかけた。
「ありがとうございました。ぶつかってしまってすみません…。」
「いや、ぶつかってしまったこっちも悪かったからね。」
「気を付けてね。」
「はい。」
ペコリとお辞儀をすると、少年は急いで走り出して行った。数字や設計図のような物がかかれていた辺りを考えると、学校の宿題かなにかだろうか。
そう透が考えていると、薫が道のゴミ箱に何か引っかかっているのを見付けた。
拾って裏返してみると、それはさっきの少年の持ち物の様だった。
細かい字で難しそうな言葉が書き込まれている。
「おい、君…。」
薫が振り返って声をかけたときには、もう少年の姿は無かった。透がその紙を覗きこみ、どうする?と言った目でこちらを見る。ふぅと溜息をついてから、薫はその紙をもう一回見なおしてみた。
次の瞬間、薫の表情が驚いたような物に変わる。
「透…これ…制限解除用のチップの設計図だ…。」
「嘘!?ありえない、そんな…。」
―――制限解除用チップ。
それは、自分達科学者の間でも造ることの出来る者は僅かだ。
その設計の複雑さに加え、国に認められた技師しか扱う事の出来ないと言うことも加わり、二人の知る限りでは自分達がその人物にあった事は一度も無い。
そんな代物が、何故少年の元に…。
二人が顔を見合わせていると、急に声がかけられた。
「ねぇ、滝沢薫さん、滝沢透さん。」
びくりと驚きながら声のした方を振り返ると、さっきの少年がこちらを見ながら立っていた。だがさっきと明らかに違う所は、その瞳には冷たく暗い光しかなかったと言うこと。
二人が驚いた理由は、さっきまで気配も感じなかった少年が急に現れたのと、自分達の名前を知っていたと言うことでだ。
冷たい響きで、少年は二人に話しかける。
「それ僕の。」
「何で…君がこれを?」
薫が設計図を持ったまま、少年に話しかける。
「持ってちゃいけないの?
ねぇ、二人の腕を見込んでお願いがあるんだけど。」
驚きを隠せずにはいられない二人を無視しながら、少年は薫の手から設計図を奪い取り、書いてある内容に目を向けながら更に続けて言う。
「僕はあるどうしても叶えたい願いがあるんだ。
その夢の実現の為に、この制限解除用チップを作って欲しい。」
「…夢って?」
「僕に付いてくればその内分かるよ。
どうなの、手伝ってくれるの、くれないの?」
***
僕達はチップ作りに協力する事にした。
その時は制限解除チップを扱うという事に対しての興奮と興味だけで体が動いていた気がする。研究室に閉じこもり、白衣をどろどろにしながら作ったチップはたった1センチ四方の小さなモノだった。この1枚の小さなチップがあるだけで人を殺す事が出来ると考えると少しぞっとする。
作る終わると、そのタイミングを見計らったようにあの少年から電話がかかってきた。それを持って来て欲しいと言われた先は、人通りの少ない場所に立つ小さな倉庫の裏だった。
チップを見せると、少年はさも嬉しそうな顔をした。
「ありがとう。これでまた、夢の実現に一歩進むよ。
…言い忘れてたね、僕の名前はセワシって言うんだ。
お礼にこれを、君達に上げるよ。」
そう言って少年セワシが透に渡したのはこの前セワシが持っていた沢山の資料。十数枚はあるそれを渡すと、セワシはどこでもドアで自分の部屋の中へと消えて行ってしまった。
取り残された二人がそのずっしりとした重さがある資料を1枚1枚丹念に読んでみる。
1枚、2枚と枚数が進んでいくたびに透と薫の興奮は増して行く。
制限解除チップを使う事による道具への影響が事細かに書き示され、
またそれによるロボットへの負担が科学的に検証してもどこに見つからない事を証明する論文等が書き上げられている。
そして最後の2、3枚にかかれていた内容が、余計に二人の興味を引き出した。
「透…凄いね彼は。」
「うん、それにこの最後の紙…
サイボーグもクローン人間もこのやり方なら不可能じゃない…。」
「透。彼に協力してみないかい?」
「僕もそう言おうとしていた所。」
「決まりだね。」
「だね。彼に発信機はつけたんでしょう?」
「付けたさ。追いかけよう。」
***
僕達が彼の元で最初に作ったものはクローン人間だった。
ある人間の細胞を元に人間と言う物を作り上げた時には、彼に付いて良かったと喜んだ物だ。だがそのクローンも完璧ではなく、細胞の作りは似ているものの外見は全く違った。
僕等は彼のもとの人間、今はもう死刑にあってしまった人間の名乗っていた名前から「ギガ」と名付けることにした。
次々とセワシのアイデアを実現させて行く内に、言いようのない楽しさに自分達が包まれているのを感じた。たとえそれが悪い事だとしても、自分達が楽しむ事が出来ればそれでいいと、そう感じるようになって行った。
だが数ヶ月が立ち、僕達はある人物達と合う事になった。
それが、野比のび太及び彼と共に行動をするドラえもん達だった。
最初は透もセワシや薫同様、ただの邪魔な存在だと思っていた。
だが、のび太と同時に中学校に侵入して彼の状況を見ていると、何故だか懐かしいものを思い出したような気がした。
のび太をよく迎えに来ていたドラえもんの姿を見ていると、昔自分が薫とともに学校から帰ったりしていた様子と良く似ていた。
そしていつしか透の気持ちは違う物へと変わっていった。
自分達だけの幸福の為の研究なんて間違っている。
他人の幸福の為に研究をする事こそ、意義がある…。
そう言うと、薫に冷たい目で見られ、氷のように冷たい一言をかけられた。
「馬鹿みたいな事を言い出すね。」
それでも透はその考えを曲げる事をせず、仕事もサボるようになった。反抗なのか、かけていた眼鏡も下ろしてコンタクトレンズへと変えた。
そして遂に透はクロネコからの脱退を決めた。去る前に薫にかけた一言は、こうだった気がする。
「僕には今の薫よりも昔の薫の方が好きだった。
皆を楽しませる為にいろんなものを作ってくれた薫の方が、僕は良かったよ。」
***
「…おい!透!!目ェ覚ませよ馬鹿野郎!」
―――キッド君の声か…。
微かにしか聞こえない。
だいぶ深くやられた…もしかしたらこのまま大量出血で死んじゃうかな。
咳き込むと口からも血が出てくる。
ドラえもんがお医者ごっこ鞄を取り出しているのが、ぼんやりとした視界に映る。
透は痛む口を微かに開いて
「…だ…よ。」
「え?」
ドラえもんが聞き返すが、透の声は微かにしか聞こえない。すぅっと一回息を吸ってから、一気に透はいった。自分が今、出す事の出来る最大限の声で。
「それを使っても、僕には無駄だよ…。
僕は…のび太君達とは違うか…ら。」
「どう言う事?」
「僕は…改造された人間だから…。」
「え…。」
ドラえもんが言ったその声を聞いてから、透の視界は真っ黒になり、それからは一切の声も聞こえなくなってしまった。
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