君が押せ
今から少しだけ俺の話に付き合ってくれないか。
俺は今、刑務官に連れられて絞首台へ向かう廊下をゆっくりと歩いている。
暴れたりしなければ、少しぐらいゆっくり歩いても何も言われない。
いつもは歯に海苔やネギがついている刑務官も今日は歯を磨いてきている。口臭も無い。
人生の最後に見る壁は真っ白で、床は磨きあげられている。
裸足で歩けばよかった。ひんやりした床を足の裏で感じるのが好きだった。
俺は人を三人殺した罪で、この廊下を一方通行で歩くことになった。線引きは個人個人違うだろうが、この世の中には殺してはいけない人間と、殺してもいい人間がいる。
少なくとも俺の中にはそういう人間がいた。
俺が殺したのは全員殺してもいい人間だった。それでも他人は俺を人殺しと呼んだ。
絞首台のある部屋に入ると、刑務官同士が書類とペンで事務的なやりとりをする。
自分の人生を思い返す。13段ある階段を上がりながら。
さて、首に縄がかかった。そろそろ俺の話も終わりだ。
ここまでつまらない話に付き合ってくれた君に頼みがある。
なに、簡単なことさ。
この画面の下にある『1』ってボタン、それを押してくれないか。
そのボタンがこの絞首台のボタンなんだ。
君が俺の人生を終わらせてくれ。
さぁ、早く。
ガタンッ…。
(よくやった。これで君も立派な人殺しさ)
終わり
これはケータイ小説でしか出来なかったこと。これがやりたかったから書いたようなもの。