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童話

伝説の竜と王子様

作者: せおはやみ

 昔々の物語。


 まだ世界には不思議があふれていたそんな頃。


 森の木々は深く暗く、妖精が飛び回り、魔法使いが箒にのって飛んでいるそんな頃。


 一匹の竜が長い長い眠りについているお城がありました。





 遥か昔に王国を作った伝説の竜がいる。


 優しい竜と優しい王様の物語。


 そんなお伽噺がこの国にはあります。


 月と太陽が何度も何度も通り過ぎて、誰もが竜の名前を忘れても、お伽噺の竜は語られ続けていました。


 感謝を忘れない為に。





 お城の広間からもの凄く大きな声がします。


 王様が家来の人に命令しているのです。


「もっと美味しい食事を持って来い!」

「つまらない」

「おまえなど必要ない」


 誰も王様には逆らえません。


 国を作った竜が認めるのは王様だけ。


 王様に逆らったら仕事を失ってしまいます。


 王様の次に偉かった大臣もお城にはもういません。


 王国に住んでいる人々は嘆きました。


 仕事をしない王様のせいで国はどんどんと悪くなります。


 王様の機嫌をとるだけの家来しかお城にいないからです。


 愚かな王様は贅沢な望みだけしか言わなくなりました。





『ああ、なんという事だ』と眠りから覚めてしまった竜が嘆きます。


 一緒に国を作った友達の子供のそのまた子供の……


 自分が眠っていた間に、一体何人の子が後を継いだのか。


 今の王様はいつのまにか愚かになってしまっていたのです。


 何故(なぜ)、深い深い眠りに落ちていた筈の自分が起きたのか。


 竜には理由は判りませんでした。


 ですけれど、起きてみれば国中が悲しい声で溢れています。


 このような国になってしまったのならば潰してしまおうか……


 竜の怒りは凄まじいもの。


 暴れればお城はもちろんですが、国も滅びてしまうでしょう。


 そうして、今にも暴れようとした竜に声が届きます。


『ああ、このままではいけない……』


 それは深い深いこの国の誰よりも深い悲しみを持った者の思い。


 その心の声が竜に届いたものでした。





 竜は人間の言葉を話せません。


 ですが、遥か昔にいたたった一人の友達。


 友達は不思議な力をもっていました。


 竜と心で会話をすることが出来たのです。


 この心の声はまさか!


 竜は暴れる事をやめました。


 夢を見続けて眠る竜を覚ましたのもこの声の持ち主でした。


『ああ、我が友よ、君は居なくなってしまったのではなかったのか!』


 喜びのあまりに怒りなど忘れていました。


 竜は喜びの気持ちを抑えきれずに心の声を送りました。


『え? 何!? 君は誰!』


 勿論、人と竜は寿命が違います。


 ましてや深く眠っていた竜と同じ時間を過ごせる筈がないのです。


『君……ああ、違うのか……そう、そうだよね』


 竜は思い出しました。


 竜は悲しみの余りに眠りについていたのです。


 失った友達。


 たった一人、心を通わせた相手を失って。


 話す相手が居なくなってしまったと。


『こんなことは初めてなんだ、すまないね、私はヴォルフラムというんだ』


『ああ、何てことだろう、名前まで同じなんだね、私はヴェル・・・そう呼んでもらっていた』


『ヴェルかいい名前だね、ところで……』




 何故心の声が聞こえるのか……


 ヴェルとヴォルフラムは語り合いました。


 ヴォルフラムはこの国の王子様でした。


 いなくなった友と同じ名前をもつ王子様。


 友の子供の子供の子供……と血を受け継いでいる王子。


 竜と心で話せたのはその為でしょう。


 ヴォルフラムも驚きました。


 絵本やお伽噺に聞いていた竜がいたのです。


 その竜と自分が心で話したのも凄い事でした。


『ヴォルフラム、君が僕を起こしたんだと思う』


『うーん、恥ずかしいなあ、独り言のつもりだったんだけど』


『ああ、感情がはっきり伝わってしまうからね、ハハハハ』


『ねえ、ヴェル……僕は嘆かわしいのさ……』


 自分の父親の王様は国を悪くするばかり。


 そんな国を見るだけなんてと悲しんでいたのです。


『ああ、ならば私が力を貸そう』


『そんな事を頼んでもいいのかい?』


 ついさっきこうして話し合っただけの仲なのにと気が引けるヴォルフラム。


 気にするなと軽く答える竜のヴェル。


 最後にはヴェルが暴れるといいだします。


 有難うと照れながらヴォルフラムはヴェルの助力を受けました。


『さあ、行こう! ヴォルフラム、剣を掲げて』


『ああ、ヴェル。笑顔を取り戻す為に』


 ヴェルが魔法を使って空に浮かぶと、その背中にはヴォルフラムをのせていました。


『ああ、久しぶりの大空だ! 大事な友とこうして空を飛ぶのが竜なんだ』


 突然大空に現れた巨大な竜にお城は大騒ぎです。


「グォオオーンッ」という雄叫びを聞いた兵士は腰を抜かしました。


 王様が喚こうともだれも竜には敵わない事を知っています。


 倒せと命令されてもできません。



「私はこの国の王子、ヴォルフラム、人々を苦しめる父上には隠居して頂きましょう、兵たちよこの竜こそは建国の竜、人々を苦しめた王と貴族を捕らえよ」


 ヴェルの背中から大きな声でヴォルフラムが叫びました。


 誰もがお伽噺の竜は知っています。


 最初の王様と共に空を翔け、魔物を倒し、山を砕いて川を作り、人々に恵みを与えた伝説の竜。


 名前は語られなくなっていても人々は感謝の気持ちを物語りに託していたのです。




 愚かな王様と悪い貴族が捕らえられて、王国はヴォルフラムが王となり、良い国にしようと頑張っています。


 仕事をなくした大臣たちもお城にもどり、少しずつ人々の生活は豊かになりました。


 人々の生活を見守るように今日も大空には大きな竜が空を翔け、背中には王様が笑顔で乗っています。


 その後も竜と王様は国を見守り続けると言っては空を翔け続けました。


 そして王様の子供達と共に空を翔ける姿が何時までも見られたといいます。


童話風に……できたでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] おとぎ話の形式をうまく継承していると思います。 ラスト、竜と王子が空を駆けるシーンの情景が浮かぶようでした。 ありがとうございます。
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