永遠の誓い
「…お前はわたしのモノだ。アイオーン」
束縛を告げる言葉に、燕尾服に身を包む銀髪の青年はわずかに口の端を上げ、笑う。
その表情は穏やかで、それでいて底知れない何かを秘めていた。
窓から降り注ぐ月光を纏う銀の髪は艶やかに煌めき、闇の中に淡い光彩を宿す。
青年の眼鏡の奥から覗く、黒い瞳に映るものは──月を背負い、窓際にもたれる小さな主の姿だった。
「アイオーン」
静かに、従者の名を呼ぶ。
黒いフリルドレスに身を包む幼い少女。艶やかな黒髪は腰まで流れ、長い睫毛に縁取られた瞳は血のような赤を映し出していた。陽光を浴びたことがない肌は透き通るような白。少女の儚げな美しさを彩る。
「わかっているな?」
可憐な口許に笑みを浮かべ、甘くとろけるような声で少女は言う。
彼女は誰よりも尊い存在であると、アイオーンは思う。
小さき主人の手を取って、アイオーンは恭しく跪いた。
「ええ、リーゼロッテ様。人の生を捨てた時から──私は貴方だけのモノですよ」
手の甲に唇を寄せると、彼女は満足そうに薄紅の口唇を綻ばせた。
同時に細められた赤い瞳が喜びの輝きを宿す。
少女と同様に、青年も歓喜していた。
美しい吸血鬼を手に入れた永遠の喜びに、胸が踊る。それをこらえ、アイオーンは妖しく微笑んだ。
(…──そして、貴女は私のモノだ。絶対に離すものか)