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暴君ユーベル迷いナく. 作者:霧山病

第一章[迷い人のバチカル]

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0-0/いつかの必然

 ノクタで掲載して(エタって)いた作品のリメイク版です。
 残酷描写、不快な言動、鬱要素などがそこそこあるので、それらを受け付けない方はブラウザバックしていただけると幸いです。
 
 暑気が漂う、蒸し暑い(サラマンダー)の季節。燦々と照りつく太陽の日差しから逃れるように、林の中を数台の馬車が爆走していた。
 どれもこれもが、とても豪奢な作りの馬車だった。一行の馬車は例外なく、数々の装飾が施されている。その中でも一際目を引くのは、華美な造りの剣を抱く王冠を被った天使を模すエンブレムが彫られている一台だ。

 ここシャハテル大陸において最大規模の領土を持つ、大国ナルシス。そのエンブレムは、彼の国の王家を象徴する紋章だった。

 その馬車を牽引するのは、神聖な生き物として広く知られている聖獣・ユニコーン。
 魔物の一種でありながら聖獣とまで呼ばれているユニコーンは、本来ならば勇猛で、鉄火場の只中であろうと物怖じしない、とても気高い生物であったが――

 ひひぃーんと、甲高い嘶きの音が響いた。ユニコーンが鳴いたのだ。その嘶きはどうしてか、恐怖に怯える悲鳴のようにも聞こえた。
 駆ける四脚は忙しなく、何かから逃げるかの如き必死さでユニコーンは馬車を牽引している。
 ついには足並みを外し、馬車の並びから飛び出ようとしたユニコーンに、慌てたように制止の声を張り上げる御者。

「おい、待て! 足並みを揃えろ! この畜生め! これだから処女厨は嫌なんだよ! すぐに先走って周りが見えなくなっちまう!」

 男は手綱を強く引っ張り、純血の乙女にのみ騎乗を許すというユニコーンの生態を揶揄しながら、野太い声でそう叫んだ。
 粗野な見た目の男だった。人相悪い顔立ちに、粗悪な質の皮製のジャケット。所々に薄汚れてくすんだ色合いの防具を身に付けているが、その姿は戦士と言うより野盗を思い起こすものだった。
 馬車の外観から言って、一行の中にはナルシス王家の血脈に連なるやんごとなき身分の者がいるのだろう。しかし馬車を繰るのは、王族の旅路にはおよそ相応しくない姿の御者。男や制止の声を気にもせず駆け足を早めるユニコーンから、今の状況の異常さの一端が垣間見れる。

 ユニコーンが牽く馬車の中、では。

「離れなさい、この下朗! (わたくし)を誰だかわかっているの? 薄汚れた手で触れるんじゃ――」

「うっせぇアマ! てめぇこそ、自分の立場がわかってんのか?」

「威勢良く吠えたってなぁ……王女様(・・・)のご立派な血も、こうなりゃ何の役にも立たねぇのさ! だから大人しく俺等の玩具になりやがれ!」

 大きく肩を露出した漆黒のドレスで着飾った少女に、複数の男が詰め寄っていた。
 抵抗する少女だが、多勢に無勢。か細い腕では男達を押し退けることも出来ず、好き勝手に肢体をまさぐられてしまう。
 声を張り上げようにも、少女の言葉に応える者はいない。どころかより一層威勢を良くした男達に、一目で高級品とわかる華美な装飾のドレスを破き取られてしまった。

「きゃあ! 何て非道な……恥を知りなさい! この罪人共め!」

「罪人……そうだよ。俺達は罪人だよ。くそったれ! あの糞野郎のせいで、旦那に見限られちまった。俺達の居場所はもうどこにもねぇ! ははっ、笑えねぇ!」

「笑ってるじゃねぇか! だが、そうだな。居場所なんて――なくすものなんて、ないんだ。だったら、何も怖くない。怖くないんだ。何も、怖くは……」

「おらぁ! 生意気な王女様に愛の教訓を刻み付けてやる。ひひひっ、泣け! ほら、泣けぇ!」

「い――い゛だ! ちょっと貴方、止めなさ、あう!」

 その発言の、何が琴線に触れたのか。男達は粗野な悪人面を尚更醜悪に歪め、唾を撒き散らす勢いで少女にがなり立てる。
 少女の近くにいた一人の男が、興奮で顔を真っ赤にして張り手を繰り出した。パァンと甲高い衝突音が、馬車の中で木霊する。

 何度も、何度も。

 何も、馬車の中にいる者の全員が、少女を甚振って嗜虐的な欲求を満たそうとしている訳ではなかった。
 喧騒の中から離れた位置で事の成り行きを見ている、頭から異形の角を生やした一人の男。シャハテル大陸においての最大勢力である人類と長年対立しているはずの魔族である男は、寄って集って少女へ詰め寄る男達を冷めた目で見ていた。

 何の事情があってか、己の種の王族に向けて何の躊躇いもなくこのような仕打ちを――旅路の最中の王女一行を襲撃し、拉致した王女に対して暴行を振るう男達の醜悪さに、辟易としているのだろう。
 不快感が隠しきれていない目で男達を眺めながら、「これだから人類は」と小さな声で漏らした魔族の男。彼はもう見ていられないとばかりに徐に目蓋を閉じて――


 その目が、唐突に見開かれた。
 クッと口端を吊り上げて、魔族の男は興奮した様子の男達に声を掛けた。

「北の方から、何者かが近付いている。まだ遠い……どうやら人間のようだが、にしてはどうにも魔力反応が大きいな。大方、セントラルタウンから王女の救援にやってきたギルドの手の者だろう」

 魔族の男が語った話を聞いて、興奮の最中にいた男達が一様に静かになる。
 魔族の男は、付け加えるようにこう伝えた。

「待て、今姿を確認する……どうやら空を飛んできたようだな。灰色の髪に赤い目。漆黒のローブに身を包んでいる」

「お、おい、もしかして、それって」

 一瞬、信じられないとばかりに呆然とした顔をした男達だが、次の瞬間には揃って顔を青ざめさせて、各々が慄きの声を上げはじめる。
 男達の変わりようにぽかんと口を開けた少女だったが、最早彼女の姿など目に入らないと言わんばかりの様子で、掠れた呟きを漏らす彼等。
 魔族の男は、その様を嘲笑うかの如く不敵に頬を吊り上げていた。

「旦那だ……旦那がやってきたんだ」

「くそっ、早すぎる。ギルドの追っ手がまだ潜んでいたのか?」

「もうダメだ。おしまいだぁ……」


 馬車の遥か上空では、今しがた魔族の男が口にした特徴と合致する容姿の青年が、冷徹な視線で直下にある林を睥睨していた。
 「まだ遠い」と言った魔族の言葉は、どうにも検討外れのものだったらしい。
 青年は手持ち無沙汰な右手を胸の前へ持ってきて、ぐっと握り締めた。
 そうするとばちりと、青年の右腕に赤い魔力光の煌めきが迸る。不快げに顔を顰める青年は緩慢な動作で赤い輝きを湛える握り拳を振り上げて、振り下ろし――

「くくっ、噂に名高き暴君か。お前達グリード(・・・・)にとって、浅はかならぬ因縁がある男だと――」

 ポツポツと、上空に赤い魔力光を輝かせる球体が現れる。現出した球体は瞬く間に空を覆い、天高くに居座る太陽からの日差しを遮った。
 「聞くが?」と続けようとした魔族の言葉が終わらないまま、それは林の中を走る馬車の一行に降り注ぐ。

 恐怖に戦慄くユニコーンの嘶きが空しく響いた。災いの渦音が、林を包み込む。

 降り注いだ球体――初級無属性魔法バレットの雨により、林は束の間に更地へと変わった。見るも無惨に荒れ果てた景観の中で、偶然か必然か、混乱の隙を突いて何とか無事だった馬車から飛び出てきた少女は、タイミング良く大地へ降り立った青年の姿を唖然として見上げた。
 魔族の男が言った通りに、燃え尽きた灰の如き色合いの柔らかい毛髪を靡かせている青年。血のようにどす黒い赤目が、顔を腫らしてドレスが破かれあられもない姿となった少女へ向けられる。
 黒い外套が、風に翻ってバタバタと忙しなく音を立てた。無感動に少女を見詰める青年の瞳は、喜怒哀楽の一切を排した深淵の如き暗闇を携えていて――


「貴方が……」

 少女は言った。翡翠色の右目と金色(・・)の左目。唖然としていた左右非対称の瞳が、どうしてだろうか。あたかも自身の窮地を救ってくれた青年を哀れむかのように、細められた。

「災厄の、ユーベル――」

 
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