15.昼下がり、正面広場
未だ興奮冷めやらぬ料理屋から出てみれば、昼を少々回ったところだった。
宮殿へ戻るのは、気が進まなかったけれど仕方がない。
「じゃあ、アイツは、コーヴィン将軍の弟だったのか……」
「なるほど、いけ好かない感じがそっくりだ」
「ぐぁー!」
相変わらず人が溢れる大通りを宮殿に向かって戻る。
俺達はコーヴィン大佐について話ながら、歩いていた。
あの後、何故か料理屋店内では酒盛りが始まり、事態の整理も、今後の対策のための情報収集も出来なかったのだ。もう少しいろ、という客達のお願いを振り切るようにして、店から出て来たくらいである。
サラが三角の耳を伏せながら、言った。
「……わかってるのアンタたち……、面倒臭い奴を敵に回しちゃったのよ!?」
さっきよりは少ないとは言え、まだ人通りは多い。サラの大声に周りにいた人々が振り返った。
ルースと俺は顔を見合わせる。
「あの場面ではああするしかなかっただろう?」
「その意見には賛同しかねるが、ああなっちゃったんだから仕方ねぇって」
ルースの正義感や義務感は置いておくとして。
俺としては、それほど悲観していなかった。
俺達は一応国賓として扱われている身の上だし、相手も立場のある貴族なら、この程度の恨みでこっちの命を狙ってくるようなことはないだろう。事が大きくなれば、あの店や客にも調査が為され、コーヴィン大佐達が何をしたのかが白日の下に晒されることになる。どの様な証言がされるかは、先程の帰れコールで明らかだ。
嫌がらせぐらいはあるかもしれない。
しかし、命の危険を経験したばかりの俺には、所詮その程度のことと、いつも以上に割り切れてしまうのだ。
むしろ、何かがあった時に、ルースがどういう行動に出るのかの方が心配だったりする。
それでも一応情報だけは聞いておこうと、俺はサラに問い掛けた。
「んで、面倒臭いってのはどういうことだ?」
「コーヴィン大佐――弟のトリート・コーヴィンはただの貴族上がりのボンボンだけど、兄のリンゼス・コーヴィン将軍は実力も権力もあるんだ」
「つまり、コーヴィン将軍が厄介な訳か……。でも、イイ年して大佐にまでなってる大人が、ちょっとくらい自尊心傷付けられたからって、兄貴に言いつけたりするかぁ?」
「そういう奴だから心配してるんでしょうが。……まったく、今問題を起こす訳にはいかないってのに……」
サラが片手で顔を覆ってしまった。
それを見て、ルースが口を開いた。
「実力というか強さは大体わかるが、権力というと?」
「コーヴィン将軍は、王宮警護が任務の親衛隊を率いているし、憲兵団の団長も兼ねている。王都の兵士はほとんど彼の傘下と言っていい。魔獣師団でも発言力を伸ばしてるぐらいだ。加えてコーヴィン家は伯爵だぞ。代々軍人の家系で、軍部にも貴族たちにも顔が利く。権力的に抑えられるのは、摂政のレストファー・エンバリィ公爵ぐらいしかいない」
それは流石に、ちょっと怖いかもしれない。
「だからあんなことを言われても、我慢してたのか……」
ルースが納得したように呟いた。
「親衛隊はグリフォン部隊を敵視しているから、スロウルム隊長まで含めて隊全員が、普段から挑発されている。隊の皆が我慢しているのに、私だけ挑発に乗ることは出来ないだろう。特にトリート・コーヴィンは私が嫌いらしくてな。あんなことはしょっちゅうだ」
あれは、サラ個人が嫌いとかではなくて、女性を攻撃することに愉悦を感じているだけな気がする。恋愛感情等ではないだろうが、少なくとも弟コーヴィンはサラにいやらしい視線を向けていた。
俺は紳士なので、こんな推測はもちろん口にはしない。代わりに気になっていたことを聞いた。
「じゃあ、実力の方は?」
「トリート・コーヴィン大佐はその辺の兵士に毛が生えた様なものだが、リンゼス・コーヴィン将軍は強いぞ。私などではソリスに乗っても、勝てるかどうかわからない。魔獣に乗らなくてもイイ勝負になるのは、ルークセントでもスロウルム隊長ぐらいじゃないかな」
「そこまで強いとは思わなかった。確かに、そんな奴に目を付けられちゃあ、堪ったモンじゃないな……」
気が付けば、大通りを抜け、跳ね橋のすぐ前だった
ここまで来ると、かなりヒトが少なくなる。
ルースが爽やかな笑顔で言った。
「なに、直接的な暴力なら僕が対応出来る。心配することはないさ!」
「そこはあんまり心配してねぇよ」
「お前達は一応国賓扱いだ。正面切って攻撃を仕掛けるようなことはまずない」
「そうなのか……」
俺とサラの突っ込みを受け、途端にしょんぼりするルース。
女だとわかったことで、素直に可愛いと思うことが出来るというものだ。
イクシスの処遇で執行猶予の身とは言え、俺達は外国人旅行者であり、ルークセント内の権力闘争とは距離を置ける。正面切った攻撃ではない嫌がらせ等は、サラやスロウルム将軍の方が大変だろう。しかも彼らはそれとずっと付き合っていかなくてはならない。
そう考えると、かなり迷惑なことをしてしまった気がしてきた。
跳ね橋を渡り、緩やかな坂道を上った。すぐに王宮の正面広場が見えてくる。
「――ん?」
ざわめきが聞こえて来た。
広場の喧騒とはまた違う、火事場の野次馬達が上げるような、奇妙な緊張感と好奇心を伴った声だ。
サラを見ると、訝しげな顔をしていた。彼女は早足になって、俺達よりも先に城門を潜る。
「――なっ!?」
全身鎧を着込んだサラが、鋭い声をあげ、まるで壁にぶつかったかの様に立ち止まった。
後を追いかけて、俺とルースも城門を潜る。
王宮の南側、広大な正面広場には多くのヒトが溢れていた。高そうな服に身を包んだ文官らしき男達に、装備の質に差はあれど一目で兵士と見て取れる集団、さらに商人や女性が少々。本来なら昼食の時間帯で、ここまでの人数が屋外に出るようなことはない筈だ。
そんな人々の中、城門と宮殿玄関のちょうど真ん中あたりに、剣を地面に突き立てて、トリート・コーヴィン大佐が立っていた。
「何だぁ……?」
俺は思わず呟いてしまった。
「来たな、外国人」
ピカピカに磨かれた鎧に身を包み、豪奢なマントを羽織ったトリート・コーヴィンは、呆けた俺に気が付いたのか、口を斜めに持ち上げる。
その後ろには、まるで保護者の様に、頼もしげな笑みを浮かべたリンゼス・コーヴィン将軍がいた。
「こ、これは一体どういう……?」
サラの台詞に答えたのは兄であるコーヴィン将軍だった。
「弟が、お前達に名誉を著しく傷付けられた、と言うのでな。決闘を申し込みに来たのだ」
本当に兄貴に言いつけやがったのか……。
俺は一気に脱力してしまい、将軍の言った台詞の後半をちゃんと把握することが出来なかった。
「思い切り直接的な手段で来たな」
むしろ感心した様子でルースが呟く。
「け、決闘……!?」
サラは鸚鵡返しで言った。彼女も相手が何を言っているのか、いまいち理解出来ていないらしい。
「弟は親衛隊に属する騎士。例え不愉快な思いをしたとしても、激情に任せて剣を抜くこと等出来ない。しかし、古来よりルークセントでは、戦士の問題を決闘で裁いてきた。決闘という死力を尽くした勝負なら、何の問題もあるまい」
俺の制止がなければ、コーヴィン大佐は激情に任せて剣を抜いていたけどな!
俺の心の叫びを代弁するかのように、サラが言った。
「そっ、そもそも私達はコーヴィン大佐の名誉を傷つけて等いません!」
コーヴィン将軍は、こっちの言い分を聞く気などないのだ。路上の石ころを見るような表情からそれがわかった。
「弟は傷付けられた、と主張しているのだ。そちらに主張があるなら、それこそ決闘で示せばいい。これ以上の問答は無用だ。――トリート、やれ」
「はい、兄上!!」
トリート・コーヴィンは篭手を外し、放り投げた。
俺に向かって。
「っ!?」
がらんと金属的な音をさせながら、俺の足元に落ちる篭手。
群集がどよめいた。
俺はどこかで、決闘を受けるのはルースだと思い込んでいた。
俺達の中で、大佐の言動に最初に抗ったのはルースだし、俺がしたことと言えば言葉でやり込めた程度。荒事はルースに任せて来たので、それが当たり前になっていたこともある。とは言え、まさか俺に決闘を申し込んで来るとは……。
この篭手を拾えば、決闘は成立する。
サラが一歩踏み出して叫んだ。
「彼はラチハークの人間で、しかも王女が正式に招待している国賓ですよ!」
リンゼス・コーヴィン将軍が勝ち誇った顔で言った。
「フン、体面を繕う為だけに与えられた招待なぞに何の意味がある。聞けばお前もラチハークの貴族だというではないか。まさか逃げ出すようなことはあるまいな?」
俺個人としては心の底から逃げたい。身分を明かしていなければ、あるいは逃げるのも一つの手かも知れないが、流石にこれを突っ撥ねるのは母国の名誉にも関わって来る。
俺は内心の動揺を隠して、口を開いた。
「受ける前に二、三聞きたいことがあるのですが……」
「何だ?」
「ルークセントでの決闘は、命をかけるような類のものでしょうか?」
「いいや。基本的には、互いに防御魔法をかけ合い、どちらがそれを先に破るか、というものになる。場合によっては怪我をすることもあるだろうが、命に関わるようなことにはならない」
どうやら最悪の条件ではないらしい。
命を賭けた決闘等は勝っても負けてもロクなことにはならないのが普通だ。怪我の心配もそれほどしなくていいのなら、事後処理もスムーズに行くだろう。
「なるほど。使用する武器は何でしょう?」
「自由に選んで構わない。こちらはこのレイピアを使用する」
将軍は、トリート・コーヴィンの前に突き立てられた細剣を手で示した。
「立会人はどなたですか?」
「ここにいる全員が立会人だ。望むのなら、お前が決闘責任者を選んでもいいぞ」
「……わかりました、受けましょう」
俺は篭手を拾い上げた。
「ぐぁっ」
「ちょっと!」
「大丈夫なのか、カインド」
口々に声を上げる面々をそのままに、俺はコーヴィン兄弟に近付いていった。彼らの周りには、子飼いと思われる兵士達が、まるで主君を守るように立っている。全員の視線が俺に注がれた。
「ふん、よくぞ逃げずに受けたものだ。勝てると思っているのか?」
弟の挑発には乗らず、篭手を押し付けるように返す。視線は兄に向け、俺は言った。
「私はルークセントの様式を存じ上げません。最低限のことは知っておきたいですし、色々と準備もあります。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
コーヴィン将軍は、余裕たっぷりの笑顔で頷いた。
「よかろう」
やけに俺を睨んでくる弟は最後まで無視して、ルース達の下へ戻る。
「……時間は稼いだ。対策を立てたい。場所を移動しよう」
サラは何か言いたそうな表情をしていたが、言葉を飲み込んで、歩き始めた。
文官達のざわめきや兵士達の野次、女性の上げるルースへの黄色い声が耳に付いた。
集団を横切るように広場を縦断し、宮殿近くの木陰で顔を付き合わせる。
「さて、どうしよう?」
開口一番の俺の台詞に、サラとルースは呆れた顔をした。
「な、悩むくらいなら受けないでよっ!?」
「落ち着いてるから、何か手があると思っていた。本当に大丈夫なのか、カインド」
「文句なら終わってから受け付けるよ。サラ、トリート・コーヴィンの戦力は、その辺の兵士に毛が生えた程度だって、言ってたよな?」
サラが三角の耳をピンと立て、俺を睨んだ。
「その程度なら勝てるって? 貴方が?」
「そこまで自惚れてねぇよ。傾向を知らないと対策が立てられないだろ」
「剣術は、一般的な兵士とそう変わらない。ただ、コーヴィン大佐は精霊魔法の方が得意だった筈だ」
「魔法はアリなのね……」
そこは不安要素と勝機の見極めが難しい所だ。俺の剣術など道場通いの子供にも劣る。かといって魔術は使えない。戦術の幅を広げるには魔銃を使いたいところだが、魔法の使用を認めると防御手段がないことが問題になる。
「そこは条件を付ければ回避出来るかもしれない。向こうはお前を舐めているだろうから、同じ条件なら少しは融通が利くはずだ」
「大体把握した。スロウルム将軍に事情を話して、連れてきてくれ。決闘責任者を頼みたい」
俺が知るルークセントの人物で、ある程度信用出来るのは、サラとスロウルム将軍ぐらいしかいない。サラは当事者なのでコーヴィン側が嫌がるだろう。となるとスロウルム将軍に頼む他ない。
「わかった。何とか連れてくるから……勝手に暴走するなよ」
「俺よりルースに言ってくれ」
俺の軽口に構わず、サラは宮殿の中に走っていった。
スロウルムが来るまでの間に、何とか勝負になる道筋を考えなければ。
「ぐぁー……」
肩に前足を乗せたイクシスが、心配そうに顔を寄せて来る。
「僕が助太刀に入る訳には、いかないのか?」
「流石に無理だろ……。頼むから、決闘が終わるまでは手を出すなよ。話がこじれる」
俺が答えると、ルースは顔を顰めた。
「幾らなんでもそんなことはしない。相手が卑怯なことでもしない限りは」
「代理を立てるのは難しいだろうなぁ。わざわざ俺をご指名したのも、何か理由があるだろうし」
「君なら勝てると踏んだんじゃないか?」
「それは当たり前のことだろ」
自分で言うのは情けないが、三人の中で一番弱く、コーヴィン大佐でも勝てると判断されても何ら不自然ではない。
気になるのは、勝てることを前提として、何か策を弄していないか、だ。
しかし、今は目の前の決闘に集中しなければ。
「お前の見立てだと、アイツどれぐらい強い?」
「君三人分ぐらいだ」
「ぐっ」
「ぐぁー?」
俺は自分で問い掛けておきながら、絶句した。
あと二人、どこから持って来ればいいんだ……。
「大事になるようなことはないと思う。向こうは舐めてかかって来るだろうから、そこが鍵だ。君達ぐらいのレベルなら、気合一つで結果は幾らでも変わる。勝機はあるぞ」
何ともありがたいお言葉で。
頭を抱えていると、サラがスロウルム将軍を連れて走って来た。
「事情は聞いた。まさかこんな事態になるとはな……」
スロウルム将軍は、困惑しつつもどこか面白がっている様な表情で言った。
恐縮するしかない俺は、深く頭を下げた。
「申し訳もございません。何故か、気付いたらこんなことに」
「サラのことを庇ってくれたそうじゃないか。コーヴィン兄弟の人格もわかっている。謝ることはない。――それより、戦うのはソーベルズ卿、君だと言うじゃないか。心配なのはそこだ」
当たり前だけど、俺って信用ないなぁ。
「まぁ、やれるだけやりますよ」
「私が責任者を務める以上、贔屓は出来ないぞ」
「公平に判断して頂けるだけで十分です。向こうがヘンなことをしないように、注意を払って下さい」
スロウルム将軍がしっかりと頷いたのを確認し、コーヴィン兄弟の待つ正面広場の中央へ向かった。
人ごみが大きくなっている。文官や女官など、宮殿に勤めるヒト達が騒ぎを聞きつけて集まって来たらしい。俺達の顔を見ると、道を空けてくれる。
「ようやくか。おお、スロウルム、わざわざご足労だな。決闘責任者として連れて来たわけか」
兄弟で何やら語り合っていたコーヴィン将軍がこちらを見て、せせら笑った。
尚も俺を睨むトリート・コーヴィンの方を見ないように、口を開いた。
「私が知っているルークセントの方は少ないもので。よろしいですか?」
「もちろんだ。将軍職にある者なら、片方に肩入れした判断なぞしないだろうしな」
「どこかの誰かじゃないんだ、そんなことはしない。……条件を聞かせてもらおう」
皮肉たっぷりのコーヴィン将軍の台詞を皮肉で返して、スロウルムは言った。
俺の正念場は実質ここだ。
何とか五分五分まで勝負になる条件を勝ち取らなければ。
「決闘は武を競うことで行う。武器はそれぞれ持っているものだ」
兄の言葉を受けたトリート・コーヴィンが、突き立てられていた細剣を引き抜き、翳した。
俺も腰の剣と魔銃に手を添え、訊ねる。
「魔法の使用は?」
「そちらの好きにするが良い。トリートは精霊騎士だ」
まるで自分の決闘の様に主導権をとるコーヴィン兄。相談すらしていない様だけどいいのか。
「では、魔法で決着を付けるのはナシにしましょう。名誉を賭けた決闘は、あくまでも剣で雌雄を決する、ということです」
「フン、何か策でもあるのか? まぁ、いい。認めよう」
「魔獣は一緒でも構いませんよね」
ここが通るかどうかで結果は全く変わってしまう。
何とか受け入れて貰おうと、さりげなく言ったつもりの俺の台詞に反応したのは、トリート・コーヴィンだった。
「なっ、何だと!?」
「え、ルークセントでは魔獣を伴うことは認めていないのですか? 魔獣騎兵国家とまで言われるルークセントで? 共に戦うといっても、こんな小さなドラゴンですよ?」
「ぐぁっ」
イクシスがフードから顔を出し、小さく鳴いた。
「じょ、条件を一緒にするのが決闘の基本だ! 私は魔獣など――」
「いいじゃないか、トリート。あのような小さな魔獣に恐れをなした等と言われてみろ。末代までの恥だ」
弟の台詞をコーヴィン将軍が遮った。
――よし、これで何とか勝負になるかもしれない。
トリート・コーヴィンの実力が俺三人分だと言うなら、俺とイクシスで二人分、もう一人分くらいなら何とか策で捻り出せる……といいなぁ。
俺が内心満足していると、コーヴィン将軍が何かを思いついたか様に手を打った。
「そういえば、ルークセントの作法というなら、決闘の勝者は敗者から一つ要求出来る、というのがあったな」
「……?」
「こちらが勝った暁には、そのドラゴンを頂こう」
「はぁ!?」
俺は思わず叫んでしまった。
スロウルム将軍も物凄い顔で呟く。
「コーヴィン、貴様……!」
「何を驚くことがある。魔法防御を使うことで決闘が命のやり取りではなくなったその頃から、命の代わりとして、一つ品物や行動を貰うことになった。決闘を真剣勝負にする為に、必要なことではないか」
スロウルム将軍を見ると、苦りきった顔で頷いた。でまかせを言っている訳ではないのだろう。
「確かに古い作法ではあるが、ないこともない。だが、何も知らない外国人にそんなことを要求するのは……」
「相手の要求は呑んだのだ。こちらの要求を呑んでもらっても構わないだろう。そもそも『龍の卵』はルークセントの物。返してもらうだけだ。まさか今更逃げ出すようなことはあるまいな?」
周りの群集がそろそろ焦れて来ているのもわかる。今ここでなかったことには出来ないだろう。
俺は大きく深呼吸をして、言った。
「……わかりました」
サラの名誉の為にも、そう簡単に負けるつもりはなかった。しかし、イクシスをどうこうするつもりなら、絶対に勝たなければならない。
覚悟を決めた。
スロウルム将軍が感情を押し殺した声で言った。
「では、これより決闘を行う。責任者は私、トマス・スロウルム。防御魔法を双方にかけ、これを剣で砕いた者を勝者とする。魔法で砕くのは反則となり、その時点で負けとなる。ソーベルズ卿はドラゴンを伴う。よろしいか?」
「異論なしッ!!」
「はい」
コーヴィン大佐が堂々と答え、俺も同意した。
「ならば、双方用意だ!」
スロウルム将軍の叫び声に続いて、広場の人々の歓声が上がった。
11月4日初稿
2月19日指摘を受けて誤字修正
スルウルム将軍が感情を押し殺した声で→スロウルム将軍が