滅びの刻印
まえがき
このシナリオには、流血シーンなどが含まれていますのでご注意ください。
―――ザッ
少年の体は剣に貫かれた。
貫かれた腹部からは赤い血が流れ出し、そして口から赤い血が流れ出る。
「ゴホッゴボゴボ」
口から溢れてくる血におぼれそうになり、少年はドサリと倒れた。
(そ、んな・・・)
言葉にしたつもりの言葉が口から出ることもなく、少年の意識は急激に暗い闇の中へと吸い込まれていく。
かすかにまだ残っている意識だけが、少年の目の前に立っている男の姿を見る。
そこには、黒い軍装をまとった兵士が何人もい立っていた。
「チッ、何だガキが1人だけか。次へ行くぞ、金目のものを探せ!」
兵士の1人がそう叫ぶと、その兵士に従って、他の兵士たちはその場から次々にいなくなっていった。
「たく、戦争に勝ったって言うのに、そんな金もない家に押し入ったって仕方がない。金持ちの家を探せ、司令官は略奪の許可も出しているんだぞ」
そういいながら、兵士たちの姿は完全に少年の視界から消え去っていった。
(ああ、僕は・・・もう、ダメ・・・かな?)
暗く冷たい世界が急激に広がり、少年の生はもはや閉じようとしていた。
その時だった。
暗く沈んでいく少年の胸が突如として暖かい光に包まれた。
「もしかして、僕は死んだのかな?
だから、こんなにも暖かくて気持ちいいのかな?」
胸の暖かさが広がってきて、なんだかそれが少年に心地よく思える。
「生きたいの?」
だが、そんな暖かな空間の中で声がした。
「・・・誰かいるの?」
姿は見えないが、響いてきた声に少年が問いかける。
「生きたいのか?」
そんな少年に、しかし声はそれだけを問いかけてくる。
「・・・はい、まだ生きていたいです」
「そう」
少年がそう答えた瞬間、胸の中の暖かな力が突然消え去り、少年の意識は再び暗い闇の中へと突き落とされた。
「ああああっ」
無限につつくかに思える暗い闇へと突き落とされた気分だ。闇の中に、永遠と落ち続ける。そのあり得ない大権に少年が悲鳴を上げた。
悲鳴を上げて、慌てて少年は飛び起きた。
すると、今まで闇に包まれていた世界が、消え去った。
代わりに、赤い炎に包まれた少年の住んでいる街の姿が目に入ってきた。
それは、たったさっき少年が剣を刺されて死んだはずの街の姿だった。
「!
ボ、僕は生きてる!?」
件に刺されたはずだったのに、生きている。
目の前の光景よりも、少年は死んだはずの自分が生きていることにまず驚いた。慌てて、件で刺されはずのお腹を触ると、グショリとした血の生温かくて、いやな手触りがした。
「ヴッ!」
その感触の悪さに、思わず気を削がれる少年。
「でも、生きているんだ。僕は生きている!」
それでも、自分が生きていたことに喜び、驚きながらも少年は自分が生きていることに精いっぱいの喜びを上げた。
だが、死の淵から救われた少年は、再び絶望に突き落とされる。
目の前に、黒い軍装をした兵士がいたのだ。
「なんだ?こんなところに生き残りがいたのか。
タク、司令官はこの街の人間を全員殺せと命令したんだ。
坊主、悪いが死んでくれや」
兵士がそういい、赤く血塗られた剣を振り上げる。
「ヒッ!」
死の恐怖に、少年は震えた。逃げたくても、足も体も全くいうことをきかない。
「い、嫌だ・・・」
震える声でそういう少年に、しかし兵士は無残にも剣を振り下ろす。
(もう駄目だ!)
少年は再び自分の死を覚悟した。目を閉じて、死の瞬間が来るのを待ったが、だがいつまでたっても少年に振り下ろされる剣の気配がなかった。
そのことをおかしく思い、恐れながらも少年はゆっくりと目を開けた。
すると、そこにはさきほどまでいた兵士が黒い炎に包まれていた。
「ギャー。な、何だこの黒い炎は!」
兵士が叫び声をあげながら、絶叫を上げている。
黒い炎は、みるみる間に兵士の体を焦がしていき、肉の焼かれる嫌なにおいだけを残して、兵士は骨さえも残ることなく、死んでしまった。
生きていた何ものをも残すことなく、しんでしまったのだ。
「・・・」
その光景に少年は茫然とした。
だが、少年は茫然としながらも、少年は新たにこの場に現れた人の姿を見逃さなかった。
その人物が現れた瞬間、少年は目の前で起きた兵士の死の姿を忘れ去ってしまった。
目の前に現れた人物の紅の色をした瞳に、一瞬で引きつけられてしまったのだ。
その人は、紅の赤い瞳に、鮮血のように赤く鮮やかな色をした女性。高い背丈ゆえに、少年は首を上に向けて仰ぎ見なければならなかったが、それでも少年にはわかった。
「なんて、綺麗なんだ」
少年のその言葉が聞こえたのだろう。
目の前の女性はニコリと微笑んで見せた。
そして、彼女は語る。
「あなたを生かしてあげましょう」
その声は、少年が死の世界にいたときに、響いてきた声そのものだった。
「あなたは、さっきの!」
驚く少年。
そんな少年に、彼女はアヤシイ笑みを浮かべて見せた。
その瞬間、それまで赤い炎に覆われていた都市の炎が、一瞬にして黒い炎へと変わった。
続いて響く、阿鼻叫喚の叫び声の数々。だが、それが一瞬のあとに消え去った。黒い炎は、またたく間に歳の全てを覆い尽くし、その場にいた、人間も建物も一瞬にして呑み込んでいった。
黒い炎が触れた瞬間に、人の体も、堅固な作りの建物も一瞬にしてボロボロと崩れ去っていく。
黒い炎は、目の前の彼女を飲み込み、そして少年までも飲み込んだ。
「わあああっ!」
「安心なさい。この焔であなたは死なない」
だが、炎に包まれたなかで、女性の声が聞こえた。気がつくと、少年のすぐそばに、彼女が立っていた。
「いい、これは私からのプレゼント」
そういい、少年の首筋に彼女は手を触れた。
触れられたところに、鋭い痛みが走って少年が小さな悲鳴を上げる。だが、それは瞬間の痛みだった。
「私からあなたへのプレゼント。その滅びの刻印をあなたにあげる」
彼女がそう言ったあと、突如として消え去った。そして、それと同時に少年を、そして都市までも飲みつくした黒い炎が消え去った。
そこに残ったのは、少年だけだった。
あとには、この場所に存在したはずの巨大な都市の姿さえ消え去っていた。年を略奪していた兵士たちは全て消え去り、建物も何一つ残っていない。だが、都市があったはずの場所にだけ、なぜか草木の一本すら生えていない。
「みんな・・・みんなあの黒い炎に飲み込まれたんだ」
だが、都市も人も完全に消え去ったのに、それがあの黒い炎のせいだということを、少年は直ちに理解することができた。
「アッ、アハハ」
だが、理解はしたが、そのあまりにもあり得ない出来事に、少年は奇妙な笑い声をあげるしかなかった。
何もかもが消え去ってしまった。
一体、一体どういうことなんだろう。
少年は、ただただ、あり得ない出来事に心が付いていくはずもなく、乾いた笑い声だけをあげ続けた。
・・・あげ続けるしかなかった。
「さあ、新たな魔王として、あなたには期待しているわ」
そんな少年の乾いた笑いの遥か彼方で、鮮血の髪をした女性は、かすかな期待を込めた声でそう言った。
あとがき
ども、制作者のエディルンでございます。
さて、この短編小説『滅びの刻印』は、特に深い設定も何もなく、いきなり書き出した小説です。
計画がそもそも存在しない話なので、物語の展開自体が行き当たりばったりです。
一応、この後日談は、十年ぐらい過ぎて少年が青年へと変貌を遂げて、そこで異世界の魔王を退治でもする話~とかなんとか、アイディアがないでもないです。
もしくは、青年自体が魔王役をやっててもいいですけど。
とはいえ、ぶっちゃけそんなところまで書くつもりもないので、これでおしまいです。
そう、お終い(oΔo"
(あの、赤い髪の女性は一体何なの~)
とはいえ、こんなダークで精神に異常をきたしているような話より、もっと明るくてラクチンな話を書きたいものです。
最後に物語の雰囲気を見事にぶち壊して、このあたりでお別れでございます。