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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

零章 『世界が分かれた日』

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五十九話 「RD事変 其の五十八 『女尊世界』」

  †††

 ビシュナットとルヴァナットは、二人で一つの存在。それゆえに複座式のリヴァイアードも見事に操ることができる。その彼らは現在、二人でアピュラトリスの南西部分でルシア軍と戦っている。

 であれば、南東で戦っているリヴァイアードに乗っているのは誰なのか。そのリヴァイアードも当然、二人乗りとして設計されている。

 南東のリヴァイアードはナット兄弟が乗っている真っ黒なカラーリングと違い、ラーバーンの機体としては珍しく白を基調とした色合いになっていた。

 ラーバーンが服や機体の色を黒にするのは、死者に対する【喪】であるからだ。数多くの人間を焼く必要がある改革において犠牲は付き物。たとえ人間の霊が不滅とはいえ、その痛みは簡単に消えるものではない。

 その咎を引き受ける覚悟がある者だけがバーンとなり、喪に服する資格を得るのである。自らも痛みを受けることを受け入れ、それでもなお闘える者だけが漆黒を身につけるのだ。

 しかし、この喪は強要されるものではない。バーンとはいえ、誰もが怒りだけで動いているわけではない。その根幹に宿された怒りはあれど、その先にある未来に想いを馳せるがゆえに闘う者たちもいる。

 【彼女たち】は、機体の色を選ぶ時に迷わず白を選んだ。

 白は黒とは反対の存在。神聖さや純潔、清純さを示す色である。それらはめでたい席や結婚式でよく見られる色だ。そう、だからこそ彼女たちは白を選んだのだ。

 なぜならば、この戦いは【祝福】以外の何物でもないからである。

「お姉様、あいつら何かやってきますよ?」
 白いリヴァイアード・リリスに乗っている、褐色黒髪の少女がダマスカス軍の動きを感知する。

 褐色の少女の名はクマーリア、二十四歳、女性。

 少し短めの髪の毛は、ぱっと見ればボサボサで手入れがされていないように見えるが、これは単純に癖毛。生まれもってのものなので、どんなパーマをかけてもすぐに戻る仕様である。

 黒い半袖のシャツから覗く褐色の肌は健康的で、服の中にも痣なく広がっているために、彼女の地の色であることがうかがえる。加えて瞳も漆黒なので、まるで全身が太陽の下で育ったように黒い印象を受ける。

 小柄で愛嬌のある顔は、まるでぬいぐるみかお人形のように愛らしい。まさにマスコットのような女の子である。

「クマーリア、あまり見ると目を壊すわ。醜いものは極力見てはいけないの」
 声の主は、リヴァイアード・リリスに乗る、クマーリアに【お姉様】と呼ばれたもう一人の人間のもの。

 ナサリリス、三十歳、女性。

 艶やかな長いアイスブルーの髪は柔らかくも、まるで氷の彫像かのように見る者に冷たい印象を与える。ブルーの瞳に宿された強い嫌悪の色も、そうした印象を助長させているようだ。

 肌は病的なまでに真っ白。百合が描かれた純白の戦闘用スーツよりも白く、漂白したような印象さえ受けるほどに白い。目鼻立ちはよく整っており、すべてが流れるようにすらっとしている。こうした欠点らしい欠点が何一つない様子は、まさに美人と呼ぶに相応しい。

 正直、恐るべき美貌である。あまりに完成された美しさに、男性は性的欲求を感じる隙すらないかもしれない。まるで彫像。生気を感じさせない女性。おおよそ生きているかとは思えないほどに、すべてが冷たく静止した雰囲気をまとっている存在である。

 しかし、スーツに抑えられてもなお豊かな胸は、動くたびに激しい自己主張を繰り返しており、彼女が作り物ではない、りっぱな生命であることを机を叩いて大声で叫びながら主張していた。

 両者はまるで正反対。南国で太陽をふんだんに浴びて育ったような全身真っ黒なクマーリアと、一度も外に出たことがないように真っ白なナサリリス。

 当然、両者は姉妹ではない。別の国で育った人間同士であるが、何よりも強い絆で結ばれていた。

「でもお姉様、リフレクターを見ないと相手の位置が…」
「駄目よ。駄目。それでも駄目よ。あなたの目が潰れてしまったら、私は哀しみに打ちのめされてしまうわ。あなたの目は私の目。あなたの心は、私の心ですもの」
「お姉様、なんてお優しいお言葉!!」
 もしクマーリアが目の前にいたらナサリリスは力の限り抱きしめ、その愛らしい黒髪を撫で続けていたことだろう。クマーリアの癖毛は独特がゆえに、撫でると手に不思議な余韻が残るので、ナサリリスは何度でも撫でたくなるのである。

 ただ、リヴァイアードのコックピットは複座なれど、残念ながらそれなりに離れている構造である。ナサリリスは抱きしめるふりをするしかないが、そのせいでリヴァイアードの腕も不自然にわきわき動くことになる。

「ああ、タオも残酷なことをするものね。どうして一緒じゃないのかしら」
 ナサリリスはリヴァイアードの開発中に複座について意見を申した。それはもう恐るべき回数の意見書を出した。しかし、タオには「構造上、無理なんだなー」の一言で片付けられていたのだ。

 タオの唯一まともな点は、MGに関することである。奇抜であっても基本は忘れない。できないものはできない。無理なものは無理とわきまえているところだ。なので、あっけなくリヴァイアードも離れた複座にされている。

「タオったら、可愛い顔をしてなんて強情な子。でも、そんなところも…」
「お姉様、違う女のことを考えているなんて、ひどいですぅ!」
「ああ、違うのよ!! これはちょっとした過ち! 心の揺らぎ! そう、ア・ヤ・マ・チなの!」
「うわぁあーん、お姉様のばかぁあああ!」

 クマーリアの叫びとともに、リヴァイアードの手から戦弾が発射される。放出された戦気が誤作動して起こった事故だが、戦弾は準備中のダマスカス軍にも及び、一時は「先手を取られたか!?」と騒ぎになったほどである。まさか彼らも原因が痴話喧嘩とは思うまい。

「クマーリア、あなたほどの可愛い子はこの世にいないわ。ああ、私の可愛い子…!」
「本当ですか、お姉様!?」
「ああ、見て。私だけを見て。私もあなたしか見ないから。その漆黒の目で私を見て!」
「お姉様…、はい、見ます! ああ、お姉様の美しい深い空色の瞳が私を包んで…あああ! このままじゃ、また! また私!」
「いいのよ! もっと私を感じて! そして、何度でも羽ばたいて! いって、いって、イクのよ!!」
「ああ、お姉様ぁあああああ!」

 ……

 お互い、通信越しの映像でこの状態である。
 これは今に限ったことではない。最初からこうなのだ。

 ナサリリスがクマーリアとラーバーンに来た時、あまりの美貌に誰もが一瞬動きを止めた。ここに来る者の大半は色恋など求めておらず、戦気を燃やす武人は性欲を制御できる者も多い。それだけエネルギーを戦いで使い果たすからである。

 そんな彼らでさえ惹きつけてしまう美貌がおかしいのである。その美しさは、男性という種に対して作用する毒薬かのように、見る者を氷漬けにしていく。しかしながら、ナサリリスは違う意味で彼らを氷漬けにすることになるのだ。

 そう、見ての通りの【同性愛】者である。

 クマーリアとのやり取りは演技でもなんでもない。単純に恋人同士がイチャついているだけである。それだけならばまだしも、ナサリリスにはもう一つの大きな欠点が存在している。

「それに比べて、なんて醜いのかしら。あのうじ虫どもは」
 ナサリリスの目に圧倒的な侮蔑の光が宿る。

 軽蔑、嫌悪、憎悪、あざけり、まるで台所でゴキブリと遭遇してしまった時に見せる視線。か弱な女性ならば恐れおののくところであるが、ナサリリスはそのような女ではない。自ら率先して殺しにかかる性格である。

 そんな彼女が宿す光は【殺意】。

 ナサリリスは男性に対して激しい殺意を持っていた。加えて彼女にはバーンになるだけの力量があり、人を焼くことにもためらいはない。これがどういう意味を持つかわかるだろうか。

 なんと、ナサリリスはラーバーンの男性陣を排除しようと動いたのである。きっかけは恋人のクマーリアの一言「男にいやらしい目で見られた」である。たったそれだけで行動に移るなど、実に恐るべき女性だ。

 実際は、新しく入ったクマーリアをバーン序列三十五位のマルカイオが「あん? 新入りか? なめられるわけにはいかねえな!」くらいの気持ちでガンを飛ばし、それにクマーリアが怯えただけなのだが(マルカイオはチンピラ顔)、その後が最悪であった。恋人を辱められ激高したナサリリスがガチでマルカイオを殺しに来たので、ランバーロが一時戦場と化したのだ。

 ちなみにマルカイオであるが、身長は百九十センチくらいの長身なのだが、基本ポケットに手をつっこみ、背を丸ませながら肩を揺らして歩く癖がある。しかも茶髪ロン毛に加え、大きく開けたシャツの胸元には金の鎖をちゃらちゃら垂らすという、まさにステレオタイプのチンピラを彷彿させる容貌である。当然、目つきも悪い。

 思考回路や言動もチンピラなので、受け答えは「あ?」を連呼する。「あ?(了解)」「あ?(それ何だ?)」「あ?(飯はまだか)」といったように、彼にとって「あ?」はまさに多様な意味を含んだ便利な言葉なのである。

 が、そんなことを知る由もないクマーリアは「目と言葉で犯された」とナサリリスに陳情。それによってこの戦争は勃発したのである。

「新入りがぁあ!! 上等だ!! どっちが上か思い知らせてやんよぉお!!」
 まさに上か下かのチンピラ的発想でマルカイオも反撃を開始。

 マルカイオの序列は三十五位。バーンの中でも五十位以下の下位バーンを圧倒する中位の力量を持っている。口も態度も悪いが実力を伴った男なのは間違いない。

 が、理由もわからずいきなり攻撃された側と、準備と覚悟をもって攻撃する側の違いは明白であった。ナサリリスは氷のような冷徹な攻撃を、彼の【玉】に集中してきたのである。これにマルカイオは戦慄。

(こいつ、マジで玉をとりにきやがった!!)
 この恐怖は男ならば誰しも理解できるものであろう。ナイフを取り出して威圧したチンピラに対し、相手はガチで玉を狙ってくる鉄砲玉。こうなったら序列の上下など無意味である。これにはマルカイオも逃げるしかない。

 数分後、血まみれになったマルカイオが司令室に逃げ込んできたところで事態が発覚。大騒動に発展する。

「ゼッカー、おい! あいつ、やべええよ!! た、玉…、玉とりにきやがった!! お前も男ならわかるだろう!? た、助けろ! いや、助けてくれ!!」

 このようにマルカイオが泣きつき、ゼッカーの仲介によって場はなんとか収まるも、この「マルカイオ、フルボッコ玉狩り未遂事件」をきっかけに、ナサリリスが反男性同盟を発足。日頃デリカシーのない男どもに不満を抱いていた女性陣が賛同し、ラーバーン創設半年で最初の壊滅の危機を迎えることになる。

 ※タオとルイセ・コノは作業に没頭していたので事件そのものを知らない。バーン序列十五位のシルキュラは、ゼッカーの護衛のため参加していない(最初から、そのつもりもない)

 その後の詳細は痛ましくて伏せるが、何人かのチンピラバーンが多大な被害フルボッコを受けたことと、ナサリリスの性癖に女性陣がついていけず、最終的には同盟は二週間で解散している。しかしこの時にマルカイオが放った言葉は、今でもラーバーン内部では語り継がれている。

「どうしてここには残念な女しかいないんだ!!」

 タオは美人である。が、頭がおかしい。
 ルイセ・コノは可愛い。が、頭がおかしい。
 ナサリリスは絶世の美女である。が、頭もおかしい。

 この事件のあと、何人かの男性は極度の女性不信に陥り、癒しを求めてなぜかメラキ序列二位のレイアースのもとに通うことになる。一応、齢三百歳を超えるらしいが、とりあえず見た目は幼女である。しかも慈悲深い。結果として違う性癖が目覚めそうな彼らであるが、ひとまず事態は収拾したのである。

 ちなみにもう一つ逸話がある。

 最初のマルカイオ襲撃の際、ナサリリスはガガーランドにも危害を加えていた。ホウサンオーとの模擬戦の帰り、たまたま通路を歩いていたところ、逃げ惑うマルカイオの盾にされてナサリリスに左目を抉られている。

 ナサリリスは何も気にせずにマルカイオを追ったが、目を抉られたガガーランドは、こう言って大声で笑ったという。

「このかすかな痛み…。見事だ。お前に凍眼鬼ザーラの名を与えよう! ここも少しは面白い場所になってきたではないか!! 愉快、愉快だ!!」

 これは抉った場所がナサリリスの凍気で凍結したことで、傷の修復に少し時間がかかったことに由来する名であるが、ガガーランドがそのような振る舞いをすることは珍しい。よほど機嫌が良かったらしい。目を抉られて喜ぶ男も問題であるが。

 この事件はバーンにも戦慄を与える。上位バーンであるガガーランドに手傷を負わせるなど、中位バーンの実力でも簡単にはできない。しかも目を抉るなどと…。それだけ彼女の気迫が異常であったことがうかがえるエピソードである。

 今、ダマスカスが対峙しているのは、こういったアブナイ相手なのである。そして、目の前には軍隊で汗まみれになっているうじむしども。ナサリリスの殺意は急激に膨れ上がっていた。

 ただし、クマーリアの見立て通り、ダマスカス軍の動きは今までと違っていた。南西のルシア軍がやっているように、足場を破壊しようと新しい作戦が開始されたのである。

 リュウもまた、ハブシェンメッツの案(アルザリ・ナム案)同様に、相手が何かしらの土台を使っていると考えていた。ただし、彼の場合はとてもシンプルである。

「馬鹿野郎。機体が簡単に浮くわけないだろう」

 という、至極当然の考えによって導き出されたものである。MG開発に携わっていると、機体を空に浮かせることがいかに難しいかを思い知る。

 ミサイルがある以上、機体そのものを飛ばすことはそう難しくない。戦気も利用すれば機体をミサイルのように飛ばすことはできる。だが、やはりそれが精一杯である。だいたい地表二百メートルくらいいくと揚力を失い、あとは落下するだけとなるのだ。

 それを知るリュウは、相手が足場を作っていることをすぐに見破った。それしか方法がないからである。が、見破ったからといって相手が強力な敵であることには変わりない。そのためすぐには動けず、バクナイアとイルビリコフの交渉を待たねばならなかった。

 話はまとまり、両国がそれぞれ別個に対応すると決まった。それまではいい。

(ったく、受身すぎるんだよな)
 そうリュウがぼやくのも仕方がない。

 交渉の結果、結局ルシア側にミサイルランチャー、ML-S8を奪われてしまったのだ。そこはさすが青空位のイルビリコフ。穏やかな口調であれこれ難癖つけながら、ものの一分の交渉で使用権を奪ってしまった。それは即座にハブシェンメッツに渡され、土台破壊に使用されることになる。

 バクナイアもやり手の政治家であるが、彼は戦略家であっても戦術家ではない。大まかな道筋を示すことは得意であっても、細かいやり取りは官僚たちの専門である。文官の彼らを戦場近くの基地内に呼ぶことは難しく、やり手のイルビリコフに対抗することはできなかった。

 とはいえ最初の交渉で、一度ルシアに任せた指揮権を一部ながらも強引にもぎ取るあたり、バクナイアの手腕も相当なものである。ルシア側がかなり街に被害を出していることを口実に、南東エリアの指揮権を取り戻したのである。

 その後のことを考えるのはリュウの仕事であった。彼は今、どうやって足場を破壊しようか迷っていた。

(ドライカップは、ほとんど使っちまったし…どうすっか)
 土台破壊にはML-S8が一番適切であるものの、ないものは仕方ない。単純な砲撃でも崩せなくはないが、当然相手の反撃があるのでMG部隊を前面に出すわけにはいかない。いきなり砲台を出しても潰されるかもしれない。

 となれば、リュウが思いつく方法は一つである。

「お姉様、何か来ます!」
 リヴァイアードがアピュラトリスに向かってくる存在を感知。距離があるので詳細な形状はわからないが、移動しているのは間違いない。動くとなれば車かMGかである。

「穢らわしい!!」
 リヴァイアードはニードルガンを発射。ナット兄弟のリヴァイアードにはビームガトリングが装備されているが、リリス型にはニードルガンが装備されている。

 これは圧縮弾倉から抽出した素材を、螺旋状の針に加工して撃ち出す武器である。通常の弾丸は炸薬を使うが、ニードルガンは風圧によって撃ち出す。これも風のジュエルを大量に使うので、なかなか贅沢な武装である。

 その反面、貫通力はこれだけ距離が離れていても健在。向かってきた何かを一瞬で串刺しにする。

 そして、爆発。
 穿たれたものが爆発し、激しい爆風で周囲の煙を吹き飛ばす。

「これは…爆弾? 車に載せたの?」
 クマーリアはリフレクターからの情報を収集して、それが爆弾であることを確認する。

 リュウお得意のトラックに載せた爆弾である。

 ミサイルが手元にない以上、使えそうなものは砲台か爆弾である。が、最初に砲台を出せば潰されるのは間違いないので、一番困らない方法を考えると安易なトラック爆弾という結論に達する。

「なんだかこっちがテロリストみたいな気分だが、やっぱり使えるよな」
 車に爆弾を仕掛けるのはテロリストの十八番だが、手軽で安易がゆえに使わない手はないだろう。当然、車両は自動運転にしてあるので人的被害もない。リュウは効果に納得顔である。

 しかし改めて見ると、両者ともに南西側とは違って大味な対応である。ナサリリスは「汚い」という理由であっさりと迎撃するし、リュウもトラック爆弾を攻撃されても「まあ、そうだよな」くらいにしか思っていない、非常に雑な戦場ともいえる。

 このような読み合いではなく単純な感情同士の戦いの場合、物を言うのが【勢い】である。それを支えるものがこれ。

「砲台とトラックを同時に出してくれ! 相手を引きずり出す!!」
 リュウの指示(を受けたバクナイアの指示)で、ダマスカスは物量作戦に出る。基地の砲台で牽制しつつ、大量のトラック爆弾を展開。

「なんて見苦しい姿!!! 背筋が凍るわ!!」
 ナサリリスは絶叫。その姿は、わらわらと向かってくる蛆虫の群れ。大量の蛆虫が這い寄るさまは、おぞましいの一言である。

「潰すのよ!! あんなものを近づけてはいけない!」
「わかりました!」
 ナサリリスもクマーリアがリフレクターから得た情報を使って、トラックを次々と潰していくが、その量が増えるごとに間に合わなくなっていく。

「なんてしつこいの!?」
 あまりの粘着質にナサリリスも舌を巻く。こうなったときのリュウをなめてはいけない。粘り強く、何度でも執拗に嫌がることをやってのけるのが彼なのである。

 人間の構造を知れば関節の可動域を知るように、MGの構造をよく知るということは限界を知ることができるということ。さまざまな角度から大量のトラックを出立させたリュウの作戦は、実にいやらしかったのだ。

 リュウは相手がリフレクターを使っていることは知らなかったが、そもそもMG一機ならばおのずと限界が生まれるものである。自動運転にいくつかのフェイントやフェイクを仕込むことで、相手のタイミングをずらしながら、少しずつ押し込んでいく作戦をとった。

 そして、拮抗してから五分後、リュウが奇襲として違う入り口から出したトラック爆弾が凝固材を直撃。それを目標にトラックが殺到し、ついには足場が崩壊。リヴァイアードは大地に引きずりだされることになった。

 リヴァイアードは徐々に低い足場に移りながらも、やはりビルの上に着地。とりあえず高い場所に乗るのはスナイパーの習性なのだろう。しかし、そこはまさに彼女たちにとっては地獄であった。

「「いやああああああああああああああ!」」
 ナサリリスとクマーリアの絶叫が戦場にこだまする。

「お姉様、ここ臭いです!」
「男の臭い!! なんて不潔で不愉快な!!」
「うう、呼吸が…! 息ができません!」
「クマーリア!! ああ、その可愛い口を今すぐ塞いでしまいたい! 私の吐息ですべてを満たしてあげたいのに! なんて恐ろしい空気なの!? 死ぬ、このままでは死ぬわ!!」
 周囲に満ちた男の臭いが二人に襲いかかる。リヴァイアードは機密性に優れているので外の臭いは感じないはずだが、ここまで病状が進むともう雰囲気だけで駄目らしい。

 そして、ついには激怒。

「もう許さない!! どうなっても知るものですか!!」
 ナサリリスがあまりの男の気配に我を失い、暴走モードに入る。そして、ビシュナット同様、一般回線で宣言する。

「醜き男ども、よく聞きなさい!! 今から私たちは、お前たちを【絶滅】させる!!」

 この宣言を聴いた中には、頭に「?」を浮かべ、何度か聴き直した者も多かったとか。

「絶滅させる」

 そう、ここが注目ポイントである。

 男どもを排除する、でもなく、復讐する、でもなく、「絶滅させる」である。絶滅、それは文字通りの言葉である。

「私はここに、女性の楽園の創造を宣言します!!! すべての女性よ、私とともに世界に反旗を翻すのです!!」
「そうなのです!! 私とお姉様が中心となって、この世界のいびつな構造を変えるのです!!」
「女だけの世界を!!」
「女が優れている世界を!!」

――「「女尊の世界を創りましょう!!」」

 ついには二人の声は重なり合い、見事なハーモニーを生み出す。その声にはいっさいの不純物もなく、まさに美しいソプラノの高い高い世界。志も高ければ、ちょっと考えていることもぶっ飛んで高すぎる世界が降臨する。

「男は醜きもの。ただ、私たちも鬼ではありません。女性に憧れるものは生きることを許しましょう」

 おそらくまた「?」を浮かべた者も多いだろうが、これを要約すると

「玉、とってやんで!!」

 となる。

 古来より、高貴な女性に仕える男性たちは去勢をする習慣がある。万一の過ちが起きないようにであるが、これと同じように彼女たちの世界にも男が唯一生きる道があるわけだ。

「玉を献上せよ。玉を献上せよ!」

 この瞬間、マルカイオは震えた。

 ヨハンの一件でランバーロで入院中のマルカイオがこの宣言を聞いているわけもないが、彼はたしかに背筋が凍った思いをしたのである。相当な修羅場を経験したバーンである彼でさえ、その宣言には恐怖を覚えたのだ。

「やつらは何も変わっちゃいねえ。古い慣習に縛られた悪魔どもだ!!」

 ゼッカーがカーリスに言いそうな内容の台詞であるが、マルカイオの切実たる思いが凝縮された言葉である。ナサリリスは女性同盟を諦めたわけではなかったのだ。より巨大で、より恐ろしい形で継続しようとしている。

 若干ラーバーンとは無関係なところで。

 当然、この宣言はリアルタイムでゼッカーたちも聞いていた。この瞬間は、いかに冷静なマレンとて思わず股間を押さえたという。その他の男性陣も脂汗を浮かべたことだろう。

 ただ、それに関してはゼッカーから何の発言もなかったため、主宰が黙認しているのだから、その僕であるメラキやバーンが口を出すことではないということで、特に問題にされることはなかったという。

 唯一ザンビエルだけが「対応を誤ると世界が滅びかねない」と呟いていたのが若干気になるが。

「ダマスカスの女性よ、今が立ち上がる時!! 男などに支配される時代は終わったのです!」
「お姉様の言う通りです!! これからは女性の時代なのです!」
 誰も止めないのをいいことに、二人は過熱する一方である。ここぞとばかりにダマスカスの女性に向けて決起を促す。といっても、市民は避難するので必死であるし、一般回線とはいえ、受信設定をしていなければ聴こえないので、聴いているのは周囲の人間に限られている。

「あいつら、さっきから何を言ってやがる?」
 ショウゴ・伊達は、予想していなかった事態に呆然としてタバコをふかすしかなかった。それは他の兵士も同じで、相手を引きずり出して浮かれているダマスカス軍を一瞬で沈黙に陥れていた。

「伊達さん、どうします、あれ?」
「思った以上にヤバイ団体かもしれん。あまり関わらないほうがいいかもな…」
 ダマスカスにも似たような圧力団体があり、女性に対する社会問題が発覚すると、猛烈な勢いで国会に押しかける困った人たちがいる。

 彼女たちの頭には常に「男性に抑圧されている女性」の図があるようで、まるで獣のように猛々しく衛兵に襲いかかるのである。彼女たちにとってすれば、女性のために振るう暴力は正当化されるらしいので、かなり過激なこともやってのける。

 二年前、公務員による女性へのセクハラ問題が発覚した際などは、リュウがやったようにトラックに爆弾を搭載し、門に突撃。その後、小銃を使って威圧するなど、この平和なダマスカスでテロかと騒がれたほどの大きな事件に発展したものである。

 この時は愛妻家で有名なバクナイアが作った「公僕による愛妻家の会」の説得で事を済ませたが、女性の血走った目を見たバクナイアはしばらく寝込んだくらいである。何日かは「妻が襲ってくる」とうわ言を繰り返して悪夢に苛まれたそうな。

 それだけ女性は恐ろしいのである。そのパワーは男性の比ではない。まさに世界創造の力を秘めた強力なものなのだ!!

「ゼッカーは言ったわ。この先の世界を生み出すのは女性だと。女が世界を導くべきだと。だから私はバーンになったのよ!!」
「お姉様、私もしっかり聞きました!! 録音もしました!」
「ゼッカーは男だけど、その点だけは評価できるわ。それだけの力がある。それだけの器がある。私に力をくれたものね!!」
 かろうじてゼッカーは、彼女たちの標的から外れているようである。単純に周りの男ほど臭くないというのもあるが、契約を交わした相手には一応敬意を払ってくれるらしいので、ゼッカーの余裕はそこからくるのかもしれない。

 それとホウサンオーのような翁や、ガガーランドやケマラミアのような人外は放置の対象らしい。そこは彼女たちなりの妥協点だとか。それも当然か。彼女たちの目的は破壊ではなく、その後に来る創造の世界なのだから。

「お前ら、いったい何を言っているのだ!!」
 そこに登場したのは、強化外装を外したブリキ壱式に乗るアミカ・カササギである。

 基礎フレーム状態のブリキ壱式はまさに鎧を脱いだ武者である。屈強な武士という印象は大きく薄れ、腕や足も細くなっているので、少し弱々しい印象を受けるかもしれない。

 しかし、ブリキ壱式は不思議なことに、古来ダマスカスの和服である直垂ひたたれを着たように、ふわりふわりと浮いた光の粒子をまとっていた。それが見事に連なって服のように見えるのである。

「おい、アミカ。なんだ、それ?」
 伊達がブリキ壱式のあまりの変わりように思わずツッコむ。外装を外したところまでは見たが、その時にはこんなものはなかった。

(むう、どいつもこいつも呼び捨てにするな。ふん、もう好きにしろ)
 すでにどうでもよくなったアミカは、呼び捨てにされても気にしないことにした。男とはこういうものだとよく知っているからだ。リュウが言うように「ちゃん」付けされるよりはましである。

「起動させたら勝手に出てきたのだ。故障ではないと…思う」
 最初アミカも、まさか壊れているのではと驚いた。が、とりあえず動くようなので問題ないと思っているのだが…

「気にするな。そいつは強化外装との接着に使っている粒子だ」
 そこにリュウが回線に割り込む。これは説明にあったように、強化外装と基礎フレームの隙間を埋めて両者を結合させるための粒子である。今は外装がないため、周囲に漂っている状態なのだ。

「問題ないのか?」
「たぶんな」
「お前は整備士であろう!? たぶん、とはなんだ!」
「うるせーな。わからないことがあるから試作機なんだよ!! ごたごた言わずに、とりあえず試してみろ!」
「なんていい加減なやつだ!!」
 さきほどのやり取りの通り、アミカはリュウのことが嫌いであった。実にいい加減で雑なのが気に入らないのである。リュウも細かいことは嫌いなので、両者の相性はあまり良くないのは明白である。

「あら、この匂い。お姉様、お気づきになって?」
「ええ、クマーリア。匂う、匂う、匂うわ。腐ったチーズの中に、かぐわしい本物が交ざっているわね」
 ナサリリスたちは、戦場に漂う汗臭い男臭の中にあって、それとは違う匂いを放つ存在、女性であるアミカを的確に嗅ぎ分ける。

 アミカは専用回線を使用しているので会話は周囲に漏れていない。それにもかかわらず嗅ぎ分けるとは、実に恐るべき能力である。震えるほどに。

「そこのあなた!! 女性なのでしょう!? ならば、私たちに賛同なさいな!」
「そうです! そこのお姉様も、ともに花園を作りましょう!」
 さりげなくクマーリアの特殊能力が発動。相手が年上であるかを一瞬で見極める能力である。それに意味があるかは別として、絶対命中の特殊な技能である。

「………」
「さあ、さあ!」
「………」
「おい、あんたのことだぞ。たぶん」
「え? え? 私!?」
 アミカはしばらく傍観していたが、伊達に指摘されて自分のことであると、ようやく気がついた。しかし、状況はまるで呑み込めていないようである。

「何のことだか、わからないのだが…」
「私にはわかるのよ。あなたは、男を嫌っている!!」
「えっ!?」
「いいの。わかるのよ。あなたも同じなのね。男なんかに騙されて、こんなにボロボロになるまで利用されるなんて…かわいそうに!!」
 ぶわっとナサリリスの美しい顔が崩れ、とめどなく涙が溢れ出る。それを拭うことなく、大量の涙を流しながら彼女はアミカに同情する。「いいから」「わかっているから」を連呼するので、話がまったく見えてこない。

(これは…どういう状況なのだ?)
 ブリキの調整に時間のすべてを注いでいたアミカは、彼女たちのイカれた発言をよく聞いていなかった。ようやくパージして出た頃には、戦場が謎の空気に包まれていたという現状である。

 唯一わかるのは、敵が女性だということ。

 まさか女性が乗っているとは思わなかったので、アミカも相当に動揺しているらしい。さきほどから挙動不審である。

「あー、あいつの相手は新型がやる。ハイカラン部隊は逃がさないように周囲を固めるだけでいい」
 そんなアミカを見放すように、リュウが部隊に通達を出す。これは当初から決まっていた段取りである。が、アミカはぎょっとする。

「待て、待て待て待て!! 何か変だ!! おかしい!」
「何を言っている。もともと変な相手だろうが」
「あれは違う! 今までと違う! さっきのと違う!」
 アミカはバイパーネッドに負けたことは悔しかったが、改めて考えてみれば相手の気迫は相当なものであった。その気質は、まさにサムライのもの。自分が死んでも相手を倒すという決死の覚悟。そこにはアミカも感じ入るものがあったのだ。

 悔しい。だが、相手のほうが上手だった。

 だからこそリベンジを誓ったのであるが、目の前にいる敵からはそうした気迫を感じない。むしろなんというか、まとわりつく何か、執念や妄執のようなものを強く感じる。

「ブラックワンよりましだろう。なんとかがんばれ。死んでも倒せ。いいな」
「あっ、待て!!」
 アミカの抗議もむなしく、リュウが回線を打ち切る。同時に伊達のハイカラン部隊も、まるで関わりたくないという意思表示のように距離を取っていった。

「おい、伊達!! 置いていくな!!」
「そんなこと言われても命令だしな」
「伊達! 伊達大尉! 武士の情けだ!!」
「俺、あんたらと違って武士じゃないからさ。命令に絶対服従の軍人なのよね。なんつーか、公僕の悲しい性ってやつだよ。それじゃ」
「ああ、待って! 待って、お願いだ!!」
 アミカの懇願などめったに見られるものではない。それだけ切羽詰っていたのだろう。しかし、どんなに泣き叫んでも現実は変わらないのだ。

「男に懇願するなど、女としてあってはならぬこと。もうおやめなさい」
「そうです。男など、踏んづけるくらいでちょうどよいのです!」
 男に懇願するアミカを、女性の弱い部分の発露だと思ったナサリリスたちが諭す。

「あなたも感じているでしょう。男たちの傲慢を! あの蛆虫どもは、今まで女性を搾取することしか考えてこなかった。なんておぞましい存在!! 呼吸することも許しがたい!! 切るのです! 切り取るのです!」
「ああ、その…、いや、そこまでは…」
「さあ、さあ!! さあ!!」
 何が「さあ」なのかわからないが、リヴァイアードはビルの上から手をわきわきさせて叫んでいる。

「訳がわからん!! 私は勝たねばならないのだ!!」
 このような茶番に付き合ってはいられない。せっかく一騎討ちのチャンスが舞い込んだのだ。ここで相手を仕留めなければならない。

 ブリキ壱式は標的に向かってダッシュする。

(軽い)
 アミカは今までの機体との差に驚く。まさに重苦しい鎧を脱いだ時のように、なんと軽やかな足取りなのだろう。羽が生えたような軽さである。

 駆ける際に感じるサスペンションのしなやかさ。膝の関節がすべての衝撃を吸収し、それが反発してバネになる感覚。これはさきほどまではなかったものだ。

 強化外装のメリットは、当然ながら強固さである。銃弾で撃たれても、あるいは剣の攻撃をもらっても耐えられる防御力にある。その強みを生かした戦いは豪胆で、恐れを知らぬ姿は男性的な側面を強く意識させる。

 MGに乗る人間の多くは男性である。これは男女差別ではなく、単純に役割と比率の問題でそうなっているにすぎない。駅の改札口が右手用に出来ているのと同じ仕組みだ。右利きのほうが多いからである。

 しかし、MGの元祖である神機には男女の性質が明確に存在しているし、男性が女性型のAIを入れることも多いことからも、この性別というのは大きな意味を持つのだと考えられる。

 女性であるアミカが男性的な装いで戦っても、それはそれで趣があるかもしれないが、やはりどこかで無理が出てしまう。いつも以上に重い太刀を使って戦ったさきほどの戦闘などはよい例である。

 だが、今のブリキ壱式は、男女どちらでもない印象を受ける。この基礎フレームはいろいろな外装を取り付けることを想定しているので、なるべく癖をつけないようにされているためだと思われた。

「これならばやれる!」
 手応えを得たアミカは、さきほどまでの動揺が嘘のように気分が高揚するのを感じる。ぶっつけ本番だが、この感触ならばいける。そう思えたのだ。

 ブリキ壱式は凄まじい速度でビルまで駆け寄ると、窓を蹴破り足場にして跳躍。一気に屋上まで駆け上がる。

「一撃で決める!!」
 今ブリキ壱式が持っているのは、太刀よりも少し軽めの刀であった。これはブリキの汎用予備装備の一つで、どのタイプでも使える平凡な刀である。

 ただ、太刀に振り回されていたアミカを見たリュウが、外装を取り替える暇はないがせめて剣だけでも、と用意してくれたものだ。当然威力は落ちるが、それだけ速い。

(私の特徴は速度!! 急所に素早く打ち込めば!!)
 アミカはスピードに自信を持っていた。相手が誰であろうと速度に関して劣ったことは少ない。せいぜい最速の剣技である神刃と競り合った時くらいなものである。

 その剣は高速。
 間違いなくアミカにとって自信のある一撃であった。

 しかも相手はビルの屋上という、ほとんどスペースのない場所にいる。この状態で外すほうが難しい。されど、アミカはまだ知らない。目の前にいる存在が何者で、なぜバーンと呼ばれているのかを。

 リヴァイアードは非常に大きな機体だ。ブリキ壱式よりも遥かにかさばる。砲撃をするためにはある程度の大きさが必要だからだ。ただ、そうであるのに、どうしてリヴァイアードはこうも簡単に敵陣に姿を晒すのか。本来ならば、もっと距離を取ろうとするのではないか。

 いいや、そんな必要はないのである。

 ブリキ壱式の刀がリヴァイアードに接触する瞬間、その姿が消えた。目標を失った刀はビルの屋上に叩きつけられ、コンクリートに深く突き刺さる。

「っ!」
 アミカは何が起こったのかわからなかった。最速の剣がかわされたショックを受ける前に現状が理解できなかったのだ。

 もちろん、リヴァイアードは消えたのではない。そのような瞬間移動をする装置をMGに搭載などできない。だから単純に「かわした」のだ。リヴァイアードは、その巨体に見合わずに素早く身体を回転させ、アミカの攻撃を回避した。防御ではない。完璧にかわした。

 実際、リヴァイアードはまだビルの屋上にいる。アミカの攻撃をかわし、その真横に移動しているのだ。巨体が高速で動くなど、それ自体かなり奇妙な光景である。だが、それは事実であり、認めねばならない現実である。

 リビアルにとって最大の弱点であったのは、その機動性。砲撃能力に長けたぶん巨大になり、簡単に足元に潜り込まれる弱点があった。一方、ガヴァルの弱点は火力。強みである機動力を完全に生かしきれていない攻撃力の低さ。両者は正反対の存在である。

 その二つの長所を組み合わせたのがリヴァイアードである。

 まさに今使ったのはガヴァルの機動性にほかならない。この巨体が、これほど素早く回り込めるだけの小回りを持つ。それはアミカの最速の剣すらよける速度。この戦いにおいて、この事実は致命的である。

「お姉様に手を出すなんて!!」
 クマーリアはアミカの行動に憤慨していた。せっかく解放してあげようとしたのに、恩を仇で返される気分である。といっても、まだ何の恩も与えていないので、彼女の勝手な思い込みである。

 それより敬愛するナサリリスを攻撃したことが許せなかったようで、ぷりぷりと怒っている。それをナサリリスはやんわり諌める。

「いくら尊き女性とはいえ、蛆虫の中で育つと臭いが移るものよ。寛容の心が必要だわ」
「でもお姉様!!」
「あなたの私を想う心は嬉しいの。でも、その愛を、どうか少しでも他の女性に与えてあげてくれないかしら。愛は等しく与えられるべきものではなくて?」
「お、お姉様…わ、わたし、感動です!!」
 公衆の面前でイカれた発言をしたとは思えないほど、慈愛に満ちた言葉である。その愛ある言葉にクマーリアは感動を隠せない。しかし、その愛はあくまで女性にのみ向けられるものである。

「あのMG、男の臭いがします!」
「そうね。それが原因かしら。なら、まずは剥ぎ取ってあげないとね」
 リヴァイアードはニードルガンを発射。鋭い針状の弾丸が六発、ブリキ壱式に襲いかかる。

(この体勢では!)
 至近距離で放たれた弾丸にアミカは青ざめる。銃の最大の利点は力を入れなくてよいこと。刀のように振るという動作が必要ない。どの体勢で撃っても威力は同じなのだ。

 アミカはダメージを覚悟しつつも回避運動をとり、力一杯跳躍する。もう間に合わない。アミカ自身もそう思っていた。しかし、機体は彼女の予想を超えた動きをする。

 アミカの意思を受けたブリキ壱式は、力強くしなやかな動きでニードルガンをかわすと、非常に狭いビルの屋上の隅に着地する。その際にもまったく機体は揺れず、振り回されることもなかった。

「こ、これは…!? そ、損傷は!! …ないのか!?」
 アミカは無傷であったことに驚愕。念のためにチェックしてみたが損傷はなかった。

「へえ、素敵ね」
 その動きにはナサリリスも感嘆。かわせる間合いではなかった一撃を見事にかわしたアミカに興味をそそられる。しかも、周囲に展開している粒子がふわりとゆらめき、まるで羽衣のように見えたので、その優雅な動きにうっとりと表情を緩めまでしている。

「いいわ、あなたのこと、欲しくなってきたわ。私の世界に加える最初の女性にしてあげる」
「お姉様、最初は私です!」
「ああ、そうね。ごめんなさい! 二人目の女性ね! いつも言葉足らずでごめんなさいね、クマーリア」
「いえ、いいのです。お姉様はお優しくてお美しいから、私が独占するなんて畏れ多いこと」
「何を言うの、クマーリア! 私はあなただけのもの!! さあ、遠慮しないで! もっと奪って!!」
「ああ、お姉様!!」

 この瞬間、アミカには百合の花びらが舞う光景が見えたそうな。それは錯覚だったとは言いきれない。ダマスカス軍の男たちも、その光景を見たからである。

 何はともあれ、



 バーン序列五十三位 ナサリリス組



 女尊の世界を強烈に思い描く、恐るべき相手である。


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