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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

零章 『世界が分かれた日』

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四十八話 「RD事変 其の四十七 『コノの旅②』」

 †††

「しかしお嬢、その宝とはいったい何でござるか?」
「鳥頭なんぞに理解できんにゃ」
「でも、コノ様。わからないと見落とすかもしれませんよぅ」
「ワン美のくせに生意気にゃ! バリッ」
「目がー!」

 その宝についてはルイセ・コノから何の説明もない。彼らを信用していないのではない。理解できないのだ。ルイセ・コノにしても、かろうじて意識できるレベルのものである。簡単には説明できない。

「はぅぅ、気になりますぅ」
「お嬢がそれでよければ、拙者はかまわないでござるよ」
 目を押さえて呻くワン美に対し、鳥蔵はそこまで興味を示さない。

 彼らにとってみれば、まさに他の世界、異世界の事情である。仮にそれが目が飛び出るような代物であっても、彼らから見れば「なるほど、すごいな」程度のものであろう。ルイセ・コノが目的を達せられれば、知っても知らなくても同じなのである。

「ほんと、コノ様についてきてよかったですぅ。こんなに世界が広いなんて思いませんでしたぁ」
 ワン美は、ルイセ・コノに憧れの視線を向ける。

 彼女だけに限らず鳥蔵もルイセ・コノを信頼している。彼女たちにとってみれば、ルイセ・コノはまるで神に等しい存在なのである。自身らの生殺与奪の権利すらあると思っているのだ。彼女が何を為そうと、それに対して異論を挟むつもりはない。

 ワン美は自分の国のことしか知らず、鳥蔵も何も考えずに日々を過ごしていた。自分が誰で何であるかも知らずに、自分の世界について圧倒的に無知であったのだ。そこに現れたルイセ・コノは、まさに優れた文明から来た宇宙人に等しい存在であった。

 鳥蔵のやや無関心な態度も、そうした【畏怖】から来ているのである。神のすることに対し、鳥である自分が意見を述べるなど恐れ多いと考えている。それは無知から来るものである。

 が、それについてルイセ・コノはこう語る。

「お前たちは、そういうふうに造られてないにゃ。だから仕方ないことにゃ」
 この言葉に侮蔑の意味合いはない。ただ事実だけを述べている。

「それぞれの種族には造られた意味と目的があるにゃ。結果的にお前たちは失敗作になったけれど、進化が止まったわけではないのにゃ。そのことはありがたいことにゃ」
 ルイセ・コノは、それを【慈悲】と称する。黒賢人が与えた寛容さと優しさの象徴であると。

 アナイスメルには、膨大な量のしゅのデータが蓄積されている。地上からやってきて囚われた人間以外は、ほぼすべてが種としての失敗作であったのだ。それらの事情は女神降臨以前の歴史に遡る。

「星創神だって最初から簡単に人間を創造できたわけじゃないにゃ。それまでにいろいろと試行錯誤があったのにゃ」
 この星の霊たる存在、母たる星創神。彼女が星に生物を創造する際、すべてが上手くいったわけではなかった。人間という種を生み出すまでには、さまざまな苦労が存在したのである。

 ワン美や鳥蔵の種族も、時代こそ違うが人間創造以前に生み出された存在である。最初から実験として生み出された存在もいれば、単純に成功しなかった者たちも大勢いる。

 その失敗の最大の理由が【怠慢】。
 進化のために与えた自由意志を上手く使えなかったのである。

 ワン美たち犬人族は全体的には穏和であったが、時折見せる強い凶暴性と排他性によって衰退していった。鳥蔵たちの大鳥おおとり族は身体能力には優れていたが、単純に知性と情緒を伸ばすことができなかった。

 両者に共通する点は、進化に対して怠惰であったことである。進化とは非常に複雑なパターンを経て至るものであり、進歩と後退を続けながら少しずつ発達していく。彼らもそうしたパターンの中にはいたのだが、残念ながら想定された域にまで達せず失敗してしまったのだ。

 犬人族は、縄張り争いの激化によって数を減らし、食料飢饉によって絶滅をする。大鳥族は、天敵に対して力で立ち向かったため、結果的に絶滅させられてしまった。もし犬人族が生産力と仲間への労りを持っていれば、大鳥族が知力で危険な行動を自重できていれば、もしかしたら進化の道を歩めたかもしれない。

 そこに自由意志の選択が存在する。ただし、自由意志があるということは失敗する権利もあることになる。そして失敗したのが彼らである。

「簡単に言えば、お前たちはアナイスメルに救われたってことにゃ」
 種族別に蓄積されたデータは、次の種族創造のための貴重なデータとなる。

 実際、女神が治める愛の園においても、新しい動植物の種を日々創造している。たとえば星の植物の生長進化を担当する緑の園では、星の生態系を考慮しながら新しい種を研究している。彼らが設計図を作り、それを基にして地上で顕現するのである。動物にしても同じである。

 ただアナイスメルは、すでに絶滅した存在を蓄積しているのが異なる点である。すでに失敗とみなされた種を自らの領域内で成長させているのである。その理由が慈悲であるというのだ。

「本来、地上で絶滅した種は個性を失ってしまうにゃ。お前たちの個があるのは、すべてここで進化できたからにゃ」
 地上に存在する動物といった種は、肉体の崩壊後は自我を保てず全体の中に埋没していく。個人ではなく、種族別の霊として情報を蓄えるわけである。

 ワン実がワン美であるということ、鳥蔵が鳥蔵であるということ、自分が自分であることが消えていく。データとしては残るが、個性を持続させることはできない。それだけ低級な存在であるからだ。

 一方、女神マリスの光を受け継いだ人間は、言ってしまえば星創神の生命力と創造力と引き継いだ存在である。その無限の可能性は肉体の死によって消えたりはしない。永遠に個性を持続させ、永劫の生命を謳歌するのである。

 しかしながら、アナイスメルの領域内においては話が多少異なる。ここでは絶滅した動物たちがデータとして生きており、実際に進化の道を歩んでいる。その種ごとに適した環境において、少しずつであるが成長進化しているのである。その歩みは非常にゆっくりである。何百万年、何千万年とかかって、ようやくにして犬並みの知能を得た種もいる。

 ワン美や鳥蔵にしても、その情感は人間に近いものを有しているが、本来はもっと動物的な種族であったことを思えば着実に進化しているといえる。むしろ驚異的な進歩である。その進化の機会をアナイスメルが与えているのだ。

「だから黒賢人様に感謝するといいにゃ」
 ルイセ・コノは、ドヤ顔で二人を見る。べつに彼女が偉いわけではないが、なぜかしたり顔である。

「はぅ、よくわからなかったですぅ。難しいですぅ」
「拙者も同じく…」
 が、所詮は犬と鳥である。せっかくのルイセ・コノの知識も、いまいちピンとこなかったらしい。

「まっ、そんなもんにゃ」
 ルイセ・コノも、その反応は想定内であった。そもそも地上の人間ですら、いまだ動物的な段階にある者も多い。それを思えば、よくぞここまで進化したと言うべきであろう。

 その後、ルイセ・コノたちはおとなしく外の景色を見ていた。ワン美たちも次々と変化する光景に飽きないようで、何度も歓声を上げながら吠えたり鳴いたりしていた。彼らにとっては、まさに芸術の極みなのだ。

 現在、ルイセ・コノがいるのは百二五階層である。この階層は意識の第四レベル、魂のイニシエーションの第四段階に匹敵する霊域。あらゆる存在のあらゆる形態が存在し、意識の顕現が最高域に達する場所だ。

 地上にある物質は、一見すればそれだけで完成しているように思えるが、実は違う。物が生み出されれば、それはそれで形態をまとうわけなのだが、地上という場所の環境レベルに依存したものとなる。つまりは物質の振動数が低いので、顕現の仕方も低級あるいは低俗な形を取ってしまう。

 しかし、この世界は物質の影響力が極めて希薄である。想像力がそのまま形態となり、生命体もより本質に近い形で表現されている。すべてが強烈であり、すべてがはっきりしており、一目で性質がわかってしまうほど鮮明である。

 ルイセ・コノたちは地上と同じ姿をしているが、あくまで当人がそうしているからである。ワン美や鳥蔵、猿吉は無意識に。ルイセ・コノは意識的にやっている。ワン美たちは知識がないので、今の姿が自分本来のものだと思い込んでいるのだ。

 こうした外的形態は階層を進めば進むほど物質性が欠如していき、理論上ではあるが、二百階層にまで到達すると外面的な形態を必要としなくなる段階に至る。人間でいえば、今のような霊体の形態すら必要としなくなる。そこはすでに完全なる意識の世界であるからだ。

 この星を経綸している女神たちも、すでにその領域に入っているとされている。彼女たちは光そのもの、闇そのものとなり、愛の波動だけですべてを導くことが可能なのだ。光そのものが媒体であり、触媒であり、実用的な道具となるレベルに到達しているからである。

 今、目の前では星々が煌めき、生命という存在が自己の輝きを求めて燃え盛っている。自然が営まれるエネルギーは絶え間なく働き、流れ、回転し、爆発していく。膨大な力の奔流が世界を破壊し、同時に創造していくのである。その行程が絶え間なく、無限に続いていく。

 これらの力もまた【意思】によって営まれている。たとえばガガーランドが、通常の人間とは比べものにならない意思の強さによって強大な戦気を生み出すのと同じである。普通の人間にはありえない光景。しかし、意念や意思に事実上限界はないのである。

 地上のすべては意念によって生まれている。種の設計図を生み出し、そこに生命力が付与されれば、あらゆるものが息づくのである。この星々の創造も、そこに住む者たちも意思によって生み出されたものだ。人間は、そうした高次元の意識による現象を『霊的』と呼ぶ。人智が及ばない意識の分野の総称として。

 このように人間の目では見えない世界には、想像できないほど数多くの霊的な事象が起こっている。そんな世界で、いったい何を言葉にすればよいのだろう。言葉というものの実体すら人間には理解できないのである。ここは地上とはあまりにも違いすぎた。

 事実ルイセ・コノは、この世界ですでに【一年もの時間】を過ごしていた。しかし、地上においては一時間程度にすぎない。また、その時間差も場所と状況によって変わっていく。

 これは【体感速度】の違いである。

 以前にも述べたが楽しい時が一瞬で過ぎ去るように、つらくて退屈な時間が長く感じるように、時間の本質は体感にこそ存在している。意識の速度がそれだけ速いことを示しているのだ。考える速度も、地上の脳を使った処理速度とは比べものにならない。ただ、同じ場所にいる存在からすれば、同じ時間感覚を体感しているので気にならないのである。

(まだあっちは大丈夫そうにゃけど・・・)
 今のルイセ・コノには、地上で何が起こっているかを知ることはできない。意識レベルが違いすぎるので、地上のことを時々忘れそうになるくらいである。

 ただしルイセ・コノは、疑似オリハルコンによってアピュラトリス及びランバーロと繋がっている。もし何かあればザンビエルからサインが送られることになっているので、今のところは計画通りに進行していると思われる。が、あまり悠長にはしていられないだろう。

(もうすぐだと思いますけどにゃ・・・。うむむ、こればかりはわからんですにゃ)
 ルイセ・コノの予想では、例のものは次の意識レベルに存在すると考えている。階層でいえば百三十階層くらいである。

 おそらくそこは意識の第五レベル。魂の創造すら行われる炎の領域である。といっても、それは本物の愛の園でのお話。このアナイスメルで行われているのは疑似的なもの。仮想世界と現実世界の中間に位置する、かなり特殊な場所である。どこがどうなっているかは、いかにメラキであっても推測は難しい。

「わうわう! 列車、列車! 列車ですぅ♪」
「キッキー♪」
 ルイセ・コノが思考を巡らせていると、ワン美が吠えながら列車内を駆け回る。それにつられて猿吉も椅子から椅子へとジャンプして遊んでいた。

「ワン美、猿吉、うるさいにゃ! この動物め!」
「だってぇー、楽しいですぅ!」
「キキッ!」
 列車の内部にいるのはルイセ・コノたちだけ。完全貸し切りである。

 当然、他に乗る者はいない。そうなると探検したくなるのが生物の習性なのである。ルイセ・コノはさして珍しくもないといった様子であるが、彼女たちからすれば何もかもが珍しいのである。

「ふむ、どうやって動いているのであろうな」
 鳥蔵も羽でクチバシを触りながら感心する(人間の紳士が髭を撫でる感覚)。車内は質素ながらも清潔感があり、椅子もゆったりとしていて快適だ。宇宙をかなりの速さで駆けているのに振動すらない。

 この列車には百二十一階層からずっと乗っていた。もう一ヶ月近くお世話になっているのだが、その仕組みはまったく不明のまま。彼らはずっと銀河を駆ける列車に、ただただ圧倒されてしまっているのである。もともと知能レベルが低いので、原理を知ろうとしても不可能ではあるのだが。

 百二十層にある迷宮の最奥。そこに鎮座していた門を開いて新しい階層(意識階層)に入った時、目の前には宇宙空間があった。それと同時に駅が存在し、この列車もあったというわけである。

 この宇宙空間は、ヘインシーが初めてアナイスメルに入った時に見たものと同じであるが、低級の階層には同じような空間は存在していない。もし存在していれば、ルイセ・コノの進行はもっと遅くなっていたことであろう。

 アナイスメルは、しばらく休眠状態であった。封印状態と言ってもいい。それがヘインシーによって解放されたので、その瞬間に解放現象、アナイスメル領域内で新たに宇宙創造が始まったのである。下層部は一気に作り替えられ、広大な大地を得るに至る。

 時間軸の変更もあったようだが、各階層で暮らしていた者たちの意識には残っていない。たとえば、ヘインシーが初めて出会った人間が「ずっとここで暮らしている」と言っても、あくまで当人がそう思っている情報にすぎない。感じていることが正しいかどうかは別の話なのである。

 しかしながら、当人にとって事実であるかどうか。ここが重要なのである。そう思うこと自体が現実になる世界なのだ。あとはどれだけ思い込むか。そこで意思の力を発揮できるかにかかっている。結局のところ、彼がそこで何千年過ごそうが、アナイスメルは特段困ることはない。好きにすればよいのである。

〈もうすぐ次の駅。惑星ヘダンテです〉

 列車内に声なき声が響く。それは振動ではあるが、地上のような空気の振動とは多少異なる。もっと心の奥深くに届く、大きい波動のようなものだ。

「ふわぁ、さっさと【鍵】を見つけないと面倒ですにゃ」
 ルイセ・コノは、アナウンスを聴きながらあくびを噛み殺す。

 次の階層に移るには必ず門を開く鍵が必要となる。それを見つけるまでは次の階層には行けないのだ。ちなみに鍵は、文字通りの鍵ではない。その形はさまざまであり、形態に惑わされてはいけない。鍵が人間状の形をしていることもある。

 その最たる例が目の前にいる。ワン美や鳥蔵である。なぜルイセ・コノが彼らを連れているのか。単純にお手伝い役でもあるのだが、それ以上に彼らの存在が鍵であったからだ。そうでなければ、あのルイセ・コノが仲間など作りはしない。

(なんであれがキーなのにゃ。不思議ですにゃ)
 ルイセ・コノも不思議であるし、不本意でもある。がしかし、決まりなのだから従うしかない。

 人間が構築したデジョン・シアターは、もっと無機質なものをキーとしている。それこそ文字通りのセキュリティで、暗号やら配列やらで構成されることが多い。実際アナイスメル百層までは、そうした配列が鍵となっていた。反面、このような有機物的なものはルイセ・コノにとっても珍しい。

(たぶん、こいつらの波長データが鍵となっているにゃ。問題は、どうしてそうなのかにゃけど・・・)
 それについては、さすがのルイセ・コノも理解できない。こうした暇を見つけて考えているが結局謎のままであった。

 序列五位のメラキといっても、黒賢人からすれば存在しないにも等しい低級のレベルに属する。猫は所詮、愛玩猫。その程度の存在に映るだろう。

 それに対してルイセ・コノは、ありのままを受け入れていた。地上の人間のように自尊心を刺激されたりはしない。広大な宇宙を知る者は、静かに宇宙に想いを馳せるのであって、つまづいた足下の石に怒ったりはしないのである。無意味だと知るからである。

「この声って、車掌さんなんですかぁ?」
 ワン美は、不思議そうにアナウンスを聴いていた。何度聴いても仕組みが理解できないのである。

「ワン美は、ある意味で幸せですにゃ」
「えー、なんですかぁ? コノ様と一緒だから幸せですよぅー」
 あまりの呑気さにルイセ・コノがつっこむが、ワン美は尻尾を振りながら笑顔で答える。

 これは『素直さ』。
 人間が失ってしまったもの。

 地上の人間の多くは、こうして不可思議な出来事に直面すると持論を展開して、どちらが正しいかを言い争うだろう。「あれはこうだ」「いや、本当はこうだ」と。その探究心があってこそ進化するのだが、過度な自己主張は身を滅ぼすことがある。

 それと比べればワン美たちは知能では劣るが、行動は純真(動物的)で不快な点は少ない。人間のように永遠に解決しない問題を考えて悩むより、純粋に目の前のことを楽しめるのは幸せであろう。

「そういえば車掌さん、変な形でしたですぅ」
 ワン美は車掌を見た時、それが生物であると認識できなかった。

 列車の車掌はワン美や鳥蔵とは違い、個体としての身体を持っているわけではないようである。形容するならば白い蒸気。モヤのような煙のような、そんな不思議な形状をしていた。もし地上の人間が見れば、幽霊と思ってしまったかもしれない。

 ただ、彼の意識はしっかり存在している。試しに話しかけると、このアナウンスのように言葉ではないが思念で返答が来る。あくまで意識の媒体が人間とは大きく異なるだけであり、彼なりにちゃんとした知性と個性があるのだ。

 その証拠にルイセ・コノが「上層界に行きたい」と言うと素直に頷いて案内してくれているし、世話もしてくれている。

「お水欲しいですぅ。お水、お水♪」
 ワン美がこうして催促すると、車掌に似た白い存在がトコトコ歩いて水を持ってくる。車掌よりもサイズは小さく、人間の腰くらいの大きさの雲状の存在である。この列車には、こうしたお手伝いさんもいたりする。

「水は没収にゃ!」
「わぅ!? なんでですかぁ!」
「お前が犬だからにゃ!!」
「えーーー!?」
 ルイセ・コノはワン美の水を没収。特に理由はないが、そもそもここでは水を飲む必要性はない。

 ルイセ・コノたちは霊体を使ってこの場にいる。肉体の食料は同じ振動数の物的な野菜や穀物であるが、霊体のエネルギー補充方法は至って簡単である。周囲からエネルギーを吸収すればよいのだ。

 植物が光合成をする時、わざわざ「これから光合成をしよう」とは思わない。身体に備わっている機能が自動的に発動し、エネルギーを周囲から勝手に吸収するのである。霊体も同じ。わざわざ水を飲む必要もなければ食べる必要もない。

 場所によってはエネルギーが枯渇、あるいは届かないエリアも存在する。そういう場合は水や果物といった、この世界のエネルギーをすでに蓄えているものから摂取する必要がある。ただ、この列車内はエネルギーに満ちており、乗っている間は飲み食いの必要はなかった。

「お水がないと落ち着かないですぅ。くぅ~ん」
 ワン美はいつもの習慣でそう思う。

 彼女がいた階層は、いまだ物質性が強い場所であったので、日常的に食事をしてエネルギーを摂取していた。周囲の粒子から摂取もするが、それが十分でないので補う必要があるのだ。(当人たちは日向ぼっこするとお腹が空かない程度に思っている)

 そんな彼女も、ここに来てからは疲労が激減している。周囲が力に満ちているので、身体も影響を受けて進化しつつあるのだ。これは鳥蔵や猿吉も同じである。

「ふぅむ。しかしこの列車、何のために存在するでござるかな」
 鳥蔵も列車に疑問を抱く。彼もまた自分の階層以外には無知である。ルイセ・コノがいなければ、こんな夢のような体験はできなかっただろう。

「単純に人間用に調整されたナビゲートシステムにゃ。珍しくもないにゃ」
 鳥蔵の疑問にルイセ・コノが答える。彼女の見立てでは、ここまでやってきた存在を案内するためだけに造られたもの、であるらしい。

 地上のシステムにおいても、こうしたナビゲートシステムは存在する。ダイバーが正規のルートで意識をアクセスさせると、人型の案内人が出てくることが多い。

 この列車も人間用に造られた存在であると思われる。そうでなければ、わざわざ列車の形を模すのもおかしい話である。人間型のワン美はまだしも、鳥蔵にとって列車はあまり意味を為さない。彼らの文化には電車がなかったので、これを乗り物とは認識しないだろう。

 人間を相手にするから列車の形をしているのだ。公共機関のデジョン・シアターに人型のナビゲーターがいるのは、人間にはそのほうが接しやすいからである。稀に動物のキャラクターを代用しているシステムもあるが、やはり擬人化である。そこに親しみを感じるからである。

「なるほど。さすがお嬢でござるな。しかし、こんなところまで人間が来ることを想定していようとは、なんとも奥深いものでござるな・・・」
 鳥蔵は、破壊と再生を繰り返す世界を見つめる。

 彼の頭脳では、これらの活動が何を意味するのか、まるで理解できない。武人肌の彼であっても、そもそも世界とは何か、生命とは何かと問いたい気分になる。その疑問は間違っていない。こんな場所に人間が来る必要性があるとは思えないのが普通である。

(あいつの思念から察するに、うちが初めて来た人間って感じにゃ)
 ルイセ・コノが車掌の思念を読んだ際、人間と接触した形跡が見当たらなかった。彼らはとてもまっさらで、まさに【新品】といった様相であった。

 このことからもアナイスメルが地上の人間に認識されてから千年以上、実際にはこのアナイスメルがシステムとして構築されてから最低でも数千年から一万年以上の間、外部の人間がここまでやってきたのは初めてなのだろう。

 黒賢人が列車を造ったのは間違いない。その目的は当然、アナイスメルが必要とされた場合に備えてである。ルイセ・コノという個人の特定までは不可能だろうが、いつか必ず来る可能性を考慮して造られたのだ。

(アナイスメルを使える段階まで人が進化するのを待っていた。ということかにゃ)
 ヘインシーたちは、アナイスメルが破棄されたものだと考えていた。それも間違ってはいない。何か問題があるから放置されたのだろう。しかし、ルイセ・コノの意見も一つの真理を言い当てていた。

 この世界に広がる光景を見ても、普通の人間が扱えるものではないことは想像に難くない。地上の人間など、ダマスカスがやっているように、たかだか富の集積くらいにしか使わないのである。そんな程度ならばアナイスメルでなくてもできる。

 人間がアナイスメルの本当の使い方を知るまで眠らせてあった。また、その必要性が出てくるまで可能性の一つとして用意しておいた。これがルイセ・コノの見解である。偉大なる黒賢人ならば、この程度は造作もないことである。

「キキッ、キーー!」
「猿吉さん、どうしたですぅ?」
 突然、猿吉が手すりに掴まってわめき散らす。その様子は発狂したと思わせるレベルである。

「発情期ですかにゃ?」
「いきなりすぎですぅ。猿吉さん、ご乱心ですぅ」
「ワン美、尻を出すにゃ! お前が鎮めるにゃ!」
「わぅーーん! 無理ですぅ!」
 ルイセ・コノはワン美の尻を蹴って促すが、残念ながら種族が違った。

「お嬢、外に何か見えるでござるよ」
 鳥蔵が車外の異変に気がつく。煌めく星々が浮かぶ宇宙の中に、何かこちらに向かってくるものが確認できた。必死に指をさして何かを訴えているので、猿吉はそれに反応していたと思われる。

「あっ、流れ星ですぅ! たくさんですぅ!」
 蹴られた尻を押さえながら、ワン美が外を見て目を輝かす。その単語は、彼女が昔地上で暮らしていた時に見たものから連想したものである。

 それは幾千もの流れる星々の欠片。彗星群であった。光と炎をまとった小さな天体が宇宙を疾走している。実際の世界と違うのは、それぞれが意思を持っているかのように自由に動き、まるで航空ショーのようにさまざまな陣形を取っていることだろう。

 赤や青。緑や黄。さまざまな色の彗星が縦横無尽に走り回っている。幻想的で派手な光景に、ワン美たちは釘付けになっていた。彼女たちには、ただの光の乱舞にしか見えないが、ルイセ・コノはその正体をあっさりと見破る。

「あれは龍ですにゃ。たぶん、【流れ龍】だと思うにゃ」
「龍って、ドラゴンですかぁ?」
 ワン美が想像したのは、かつて地上にいた大きな蛇とワニの中間のような生き物。たしかにドラゴンである。

 まったく同じではないものの、そうした獣は現在の地上にも存在しており、世間では魔獣として認識されている。大きいものとなれば小さな山くらい巨大なものもいるという。ちなみに傭兵の中でこうした魔獣を専門で狩る者をハンターと呼び、普通の傭兵とは区別している。

「普通の獣とは違うにゃ。あれは龍神の一種にゃ」
 ルイセ・コノが言う龍とは、龍神と呼ばれる存在であった。

 龍神とは星創神に造られた存在で、主に地上の造化の仕事を担当している自然神の総称である。特に本体が龍の形をしたものをそう呼び、かつての神々の配下として使役されていたものが多い。

 彼らは星の自然の管理を行い、地水火風の分野でさまざまな仕事をする。彼らの色を見れば、どういった属性かは一目瞭然だ。赤ならば火を担当する龍で、青ならば水である。緑ならば植物や風といったところだ。これも表現がはっきりしている世界だからこそ、一目でわかるのである。

 この霊域では、いまだ低俗な状態ながら星の創造と破壊が繰り返されている。傍目では一瞬の出来事であるが、そのエリアにおいては数億~数十億年の月日が流れており、星が役目を終えると死に絶える。そうすると残った龍神は、彗星となって新たなる星に流れていくのである。それを流れ龍と呼んでいる。

 龍神の中心霊には、その星の生態系の各種データが収められており、次の星に到着するとデータを基に新たなる生命体(分霊)を生み出す。そうして龍神も個別に進化しながら全体の生命の進化が営まれているのである。あの彗星群は、その流れ龍の群れだと思われた。

「珍しいものなのでござるな」
「うちも初めて見るにゃ。こっちの世界にはいないですからにゃ」
 ルイセ・コノも鳥蔵と一緒に流星群を眺める。すでに存在していないという意味では珍しいのはたしかである。

 ルイセ・コノがいるこの星にも、かつて龍神と呼ばれる者たちが大勢いた。彼らは動物たちの類魂の支配者でもあったが、母神の消失により現在の地上には存在しない。(母神がすべての神を吸収した際、龍神も吸収)

 今のように女神の支配体制となってからは、龍神の代役を【狼】が務めている。魂の管理を白狼が司るように、造化は黒狼が担当する。よって、造化の自然現象が起こる場所では黒い狼が目撃されることがある。当然だが怖がることはなく、単に仕事をしている分霊にすぎないので無害である。

 狼以外にも仕事をしている分霊はいるので、細かく分ければまだまだ種類はいるようであるが、人間には理解しにくい分野ゆえに詳細は不明である。

 基本的に自然に関するものについては、かつての神の因子を宿していた爪神や拳神の分霊が担当していると聞く。もともと高級自然霊であった彼らにしてみれば、そうした仕事は得意分野なのかもしれない。

 ただ、龍神そのものが非常に珍しいのは間違いない。これもすでに失われた種であるともいえる。まるで発掘された旧文明の古いビデオデッキを再生している気分に近い、妙な懐かしさと珍しさ、興味深さが入り交じった雰囲気が車内に満ちていた。

「おーい、おーいですぅ!」
「ウキー! ウッキッキ!!」
 ワン美と猿吉が窓を開けて手を振る。宇宙ではあるが、彼女の身体も霊体であるので窒息などはしない。真空はこの世界に存在しないのである。

「まったく。犬と猿はうるさいですにゃ。猫を見習ってほしいですにゃ。はっ、バリバリ!」
「いたーい!」
「ウギィイイイイ!」

 ルイセ・コノは二人の尻を引っ掻く。ワン美はまだスカート越しだが、猿吉さんは生尻である。悶絶して猿吉さんは崩れ落ちる。ついでに爪にこびりついた猿吉さんの尻皮を、ワン美のスカートで拭き取るという暴挙に出る。

 恐ろしいほどに鬼畜である。この猫女。

「あっ! ああ!」
「ワン美、喘ぐでないですにゃ! はしたないマゾのメス犬め!」
「ち、違いますぅ! あ、あれ! なにか変じゃないですかぁ?」

 ワン美は、ふさふさの手で外を指さす。その先には龍神たちの彗星群がある。それは今まで見ていた通りに優雅に宇宙を駆けている。

 しかし、様子が少しおかしい。何やら一つの大きな赤い彗星が、暴れるように周囲の彗星にぶつかっているのだ。そして、その赤い彗星は列車に向かってきているようにも見える。

 彗星は最初は小さく見えたが、近づくにつれて徐々に巨大さがわかるようになる。赤い龍神。少し蛇に似た巨大な飛龍の姿。頭には立派な三本の角が生えており、開いた口からは長い舌が見える。そして全長にすれば、およそ三千メートル以上はあろうかという巨躯であった。

 しかも全身が真っ赤な炎で包まれており、煌々と燃え盛っている。これだけ離れているのに熱気が伝わり、車内の温度が上がっていく。

「で、でかいでござるな!」
 鳥蔵は、あまりの大きさに驚きを隠せない。このような巨大な生き物など、今まで見たことがない。おそらく恐竜と呼ばれる種においても存在しないだろう。神話の中にしか出てこない、まさに龍である。

「ビビるでないにゃ。あんなの小物にゃ」
 ルイセ・コノが言うように、これでも小さい部類である。

 進化した高級龍神ともなれば、大地そのものと思えるほど巨大な身体を持っている。彼らは地震や津波を引き起こす存在でもあるので、自然と霊体も巨大になるのである。

「何かトラブルですぅ。揉めてますよぉ!」
 ワン美は、叫びながらも注意深く龍神たちを観察する。

 犬人族の知能は高くはないが、こうした争いには敏感である。縄張り争いともなれば殺し合いに近いことも行われる種族である。それゆえにどちらが敵か味方かを見分ける能力に長けているのだ。

「青いほうは、なんだか安心する感じですぅ。赤いほうが悪そうですぅ」
 ワン美の分析の結果、青い龍神のほうが味方であるという結論が出たらしい。

 よくよく見ると、青い龍が赤い龍を止めようとしているが、あまりに凶暴なので止められない状況のようである。赤い龍からは、見た目通りの激しい気性が感じられた。

「あいつ、狂暴化しているっぽいにゃ」
 ルイセ・コノは、赤い龍が普通の龍神とは異なることを見抜く。まとうオーラも他の龍神とは明らかに違う。見る者に嫌悪と恐怖を与えるような、禍々しく、刺々しい波動を発していた。

「狂暴化とは、錯乱している状態でござるか?」
「それよりもっと危険にゃ。あいつは【負の想念】に汚染されているにゃ」
 ルイセ・コノは、ダイバーとして数多くの秘密に触れてきた。この世界の成り立ち、すでに失われた文明の情報も多少は知り得ている。

 かつて星神が生み出した高級自然神(神々)たちは、そのすべてが光り輝く存在であった。彼らが生み出した龍神たちもまた純朴な者たちばかりである。しかし、人間という種が造られてから、彼らが放つ負の思念、負の想念が次第に世界を汚染するようになる。

 その影響は神々にまで及び、いわゆる悪の勢力に荷担する神が生まれてしまった。人間が悪い誘惑に耐えきれず悪事を続けると、いつしか罪悪感が希薄になり悪に染まってしまうように、龍神もまたそうなる可能性があるのだ。人間の体験を集めて経験にする龍神だからこそ、負の想念に囚われやすい一面もある。

 人間は、負の想念というものを甘く見ている。地上でも誰かを恨んだり憎んだりすると、汚染された人間からは嫌な感じを受けるものである。感受性の強い人間ならば、隣にいることすら不快で我慢できないほどに影響力がある。

 しかも目で見えないエーテル層には、想念で生み出した醜い創造物を無意識に吐き出しているのである。世界のすべては意念によって生み出されている。人間が生み出した想念もまた力となり、場合によっては固定化される。

 けっして武人だけが意念を具現化できるわけではない。これは人間そのものにそなわっている能力なのだ。意念は実際に力を持ち、物理的にも力を発するのである。普通の人間には見えないので安易に考えるが強力な力である。

 これが良いものならば問題ないが、悪い想念が長い間続くと、人間だけではなく自然霊にまで悪影響を与えることになっていく。自然が汚れれば自浄作用が働くように、何らかの浄化の必要性が生まれるのである。

 いわば、善が悪を駆逐する必要性が生まれるのである。

 かつての刃神やいばがみや雷神などの最上級の高級自然神は、堕落した神々を排除する役目も負っていた。そうしないと星に対する悪影響が甚大になるからである。場合によっては汚染された存在の解体、魂の解体という手段すら取ることもあった。そのために彼らは武に特化していたのである。

 目の前にある青い龍と赤い龍の戦いも同じような状況だと思われる。赤い龍は、おそらく火系に属する龍であり、もともと気性の激しい性質を持っているのだろう。それが暴れれば火の世界の秩序が乱れ、予定にない火事や噴火が起こることもあるので危険だ。

 今回はたまたま移動中であったので、他の龍神が止めようとしているのだろう。本来は同じ系列の上位の龍神による粛正が行われるはずである。

 一つ注意しなければならないのは、善と悪の戦いも【進化の一つ】である、ということ。

 もし人間が善しか考えられないように造られていれば、到底完全への道は歩めなかっただろう。完全とは、悪のすべてをも内包するものだからである。善だけでは完全にはなれないのだ。

 しかし、赤龍の力は強く、青龍を一蹴。そのままなぜか列車に向かってきている。その速度はまさに彗星の如く。かなり距離があるにもかかわらず、列車に近づいただけで車内が揺れる。その揺れは地上でいえば震度六に匹敵するくらいの大揺れである。

「わうわうーーーーん!」
「ウキーーーー!」
 ワン美と猿吉は地面に這いつくばるのが精一杯。ルイセ・コノも必死に爪を立てて椅子にしがみつく。

「しゃーー! 喧嘩なら違うところでやってほしいですにゃ!」
 完全にとばっちり。ルイセ・コノにしてみれば、まったく興味がない出来事に巻き込まれた形なので非常に迷惑である。だが、その声に反応したように赤龍は列車に視線を向ける。ただ向いたのではない。しっかりと見ている。

「はぅぅ、睨んでますよぉ!」
 ワン美は、その迫力に縮こまる。誰しも巨大なものを見たときには足が竦むものである。外は宇宙。海の深い場所で巨大生物に出会えば誰でも怖い。

 龍神には当然ながら知性がある。あれだけの龍となれば普通の人間を超える次元の生き物である。あの中には、おそらく数千以上の体験データが集まっており、彼らの知識や経験をわがものとしているからだ。

 ただし、その力を悪に使うから困っているのである。しかもそうなった状態の龍神は、ひどく過敏である。社会に疲弊して神経過敏になった人間のように、触れるものすべてを傷つけるナイーブな存在でもあるのだ。

 赤龍はルイセ・コノに激しく反応。巨大な口を開き、炎を吐き出す。その迫力は羽尾火の出した火竜のものを遙かに凌ぐ爆炎。火焔砲弾よりもさらに巨大な力が列車に向けられた。炎は火球となり、列車に命中する。

「うにゃーーーーー!!」
 列車が縦に大きく揺れ、ルイセ・コノたちは衝撃で天井に叩きつけられる。痛みの感覚はないがショックで目が回りそうだ。

「お嬢、後部車両が吹っ飛んだでござる!!」
 鳥蔵が直撃した箇所を確認すると、列車後部の車両がいくつか吹っ飛び、外の宇宙が丸見えになっている。

「にゃにゃ! あいつ、何してくれるにゃ!」
「コノ様、前に移動しないと!!」
 彼女たちがいるのは真ん中やや後ろの車両。ここが吹っ飛んだら宇宙に放り出されてしまう。それ自体はまだ大丈夫なのだが、この場所で案内人とはぐれるのは危険すぎた。

「急いで移動にゃ!!」
「お嬢、また来るでござる!」
 ルイセ・コノが移動を開始すると同時に、赤龍もまた攻撃を再開。火球は何度も放たれ、列車が少しずつ削られていく。そのたびに揺れる車内は大パニックであった。

「このままじゃ死んじゃいますぅ!」
「たわけ! お前はもう死んでいるにゃ!」
 実際、地上の観点でいえばワン美はすでに死んでいるので、いまさら死ぬことを恐れることはない。

 しかし、不滅とは損傷しないことではない。霊体も大きく傷つけば修復期間が必要となる。それだけの養分を摂取しなければいけないし、精神的なダメージが大きければ休眠状態にもなりえる。その間に変な場所に落ちてしまえば、二度と元の場所には戻れない可能性すらあるのだ。ここはアナイスメル。無限の世界が連なる場所だからだ。

「キッキ、キーー!」
「猿吉、何が言いたいにゃ?」
 猿吉がルイセ・コノを指さして何かを言っている。激しく訴えているような仕草である。何を言っているかわからないが、その仕草にワン美が一つの事実に思い至る。

「もしかして、あの龍さんはコノ様を狙っているんじゃ・・・。だって、コノ様のいた場所に当たってますし」
 最初に赤龍が反応したのはルイセ・コノの声である。その後、彼女を追撃するように火球は襲いかかっていた。火龍からすれば列車は狙いにくいので多少ずれているが、明らかにルイセ・コノを狙っている。

「つまり、うちが狙いってことにゃ?」
「キキ! キッキ!」
 猿吉は、まさに満面の笑顔で頷く。一応、言葉は理解できるようだ。猿吉はさらにルイセ・コノに「あっちに行け」ポーズをかます。彼女が近くにいると自分が危ない、という意味だろう。

「そうだったですかにゃ。うちがみんなに迷惑を・・・」
「キッキ!」
 その通り、と手を叩く猿吉。だが、それが彼の運命を大きく変えることになるとは夢にも思わなかったに違いない。この猿は非難した相手が誰かを忘れている。

「なんて言うと思うかにゃ!! お前が餌になれにゃ!!」
「キィイーーーー!」
 ルイセ・コノは、猿吉を掴まえて外に放り出すと術式を展開。

 猿吉の姿がルイセ・コノにそっくりに変わると同時に自分の声を猿吉に転写。猿吉から彼女の声が反響していく。ついでに爆発を起こして注意を引き寄せる。赤龍は、音と声に敏感に反応。宇宙に投げ出された猿吉を追っていく。

「ケケケ、これで時間が稼げるにゃ!」
「さすがお嬢、抜け目ない」
「天才の発想にゃ!」
 鳥蔵はルイセ・コノの機転に感銘を受ける。どうやらこの鳥、倫理観というものは希薄らしい。この間にルイセ・コノたちは一番前の車両にまで走ると、運転席には車掌がいた。

「おい、もっと速くするにゃ!」
「・・・・・・」
 ルイセ・コノが車掌に催促。車掌から言葉による返答はなかったが思念による回答があった。その答えは、これが精一杯、であった。

「にゃー! 使えんにゃ!」
 腹いせに車掌を引っ掻くも身体が霧状なので突き抜けるだけであった。ルイセ・コノもそれは知っていたので、まさに単なる腹いせである。

「うわわーん! また来ましたぁ-!」
「猿吉はどうしたにゃ!?」
「もう食べられちゃったですぅ!」

 所詮、猿である。何の防衛手段も持たない猿にすぎない。餌となった彼は赤龍に捕食され、あっという間に消えてしまった。そうなれば、あとはまた本物のルイセ・コノが標的になるだけのことである。

「今度はワン美が行けにゃ!」
「わわん!? すぐに弾切れになりますよぅ!」
 食べられてしまえば結局また誰かを犠牲にするしかない。残るは鳥蔵しかいないので負のスパイラルである。

「お嬢、一戦交えるしかないでござる。このままでは全滅でござるよ」
「しょうがないにゃ。あんまりやりたくないけど時間を稼ぐにゃ!」
 鳥蔵の提案にルイセ・コノも渋々了承。

 このままでは列車は破壊されてしまうだろう。それ以前にルイセ・コノがやられてしまったら意味がない。自己防衛のためにも戦わねばならなかった。

「それに、あんな小僧に舐められるのも癪な話にゃ。一発ぶっ飛ばしてやるにゃ!!」

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