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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

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零話 「始まりの詩」

   †††

 黄色い花。

 世界のすべてが黄金になってしまったかのように、美しく、優雅で、完全な場所。
 ゆっくり、ゆっくり、そのすべてを噛み締めるように歩いていく。
 歩くたびに、光が舞うのがわかった。その光は、私を包むようについてくる。
 不思議なほど心が穏やかになる。ここにはすべてがある。
 ないものは、何もない。

 さらに少しばかり歩くと、大きな花園がある。
 私がいつも行く場所だった。
 ここで目を閉じるのが好き。そうするといろいろなことが見えてくる。私がかつてあの大地にいたこと。こちらの世界に来てからのこと。

 そのすべてが愛しく、私の宝物だった。
 そして今もなお、何かと闘っている人たちがいる。彼らを想うだけで、胸がいっぱいになる。愛しくて、愛しくて、愛しくて。

 彼らへの愛、彼らからの私への愛情、そのすべてが私をかたちづくっていく。


 そうですね。すっかりと忘れておりました。
 ここはとても穏やかで、すぐに忘れてしまいます。私としたことが、申し訳ありません。

 お久しぶりです。覚えていますか?
 もう忘れちゃったかもしれないですね。少し前のことですから。でも、私は覚えていますよ。忘れるわけがありません。あの大地で起こったことのすべてを、そして、これから起こることも知っています。

 さて、何から話せばよいのか少し迷いますね。いろいろとありましたから。
 まず、あのあとの出来事をお話しします。私や…【彼】のことを。

 あのあと【彼】は、言葉通りに動いています。そうすることしかできないのです。この世界のために、いろいろなものと闘っています。壊そうとしています。
 あえて私のためとは言いません。なぜなら彼は【英雄】なのです。あの人は大勢の弱い人たちのために闘っているのです。
 私にはわかります。いえ、私にしかわかりません。わかってほしくないのです。
 私だけが、彼のすべてを知っています。
 ふふ、少し贅沢ですかね。世界で最高の男性を独り占めにしているのですから。

【彼】は【世界の意思】に従い、この世界を焼こうとしています。あの頃と比べるとまったく印象が違うかもしれません。それだけ必死なのです。彼のすべてを使って本気で焼こうとしているのです。
 私にはそれを止めることはできません。それが正しいことでもあると知っているのです。こんなことを言うのは意外ですか? ですが事実なのです。

 世界が人によって滅ぶことはありませんが、人が人を苦しめているのです。自ら、戦争、貧困、差別を生み出しています。世界がではなく、人が、なのです。
 人は自由です。偉大なる者たちから与えられた自由があります。新たなるステージに立てるのに自らそれを捨てているのです。あまりに哀しいですね。どんな人も、同じ人間なのに…。

 彼には、その痛みも苦しみも、すべてがわかるのです。人と世界の嘆きがわかるのです。もはやそうすることでしか、人は止められないところにまで来てしまいました。もし彼がやらねばもっと大きなことが起きます。ここに来てからそれを知りました。

 光と闇は、常に一緒になって動いています。一方が強いことは好ましくありません。光が見えない世界では破壊も必要なのです。壊さねば新たに生まれることはありません。もし彼が動かねば世界の理はさらに強大な【王】を生み出すでしょう。【王の中の王】、できうればその存在を生み出すことは避けたいのです。
 それを知っているあの人は、すべてを背負って立ち向かっているのです。そんな彼を責めることはできません。

 優しすぎるのです。弱い人の心がわかるのです。
 誰もが怖がっています。不安、恐怖に苛まれています。正しいことがわかっていながらも、それによって今の自分の生活が壊れることが怖いのです。
 それを解放するには、たとえ弱者を犠牲にしても、こうするしかないと考えているのです。人の気持ちがわかりすぎるから止められないのです。

 彼の話は、またあとにしましょう。その前に、私のことを語りましょう。

 みなさんは、ここがどこかわかりますか?
 もしかして、ずっと闇に閉じ込められていると思っていましたか?
 最初はそうでした。しばらくは闇の中で、身動きがとれませんでした。怖くて泣いたりもしました。これからどうなっちゃうんだろうって。
 彼に助けを求めたこともありました。かなりの時間、うずくまっていたと思います。でも、しばらくすると周りに人がいるのがわかりました。というか人々です。あまりに大勢で私は数えきれませんでした。
 みんな、とても優しい人たちです。闇の牢獄から救い出し、この光の世界に連れてきてくれました。そして、この世界のこと、地上の大地のこと、いろいろなことを教えてくれました。その知識は膨大で、【記録】されている今までの過去の出来事も知ることができました。
 偉大なる者たちが歩んできた道、それ以前のことも、たくさんです。私を包んでいた闇の正体もわかりました。わかればそんなに怖いものではなかったのです。

 世話をしてくれる人もいます。励ましてくれる人もいます。こうしてこの場所に来るときも、いつも手助けをしてくれます。だから私はけっして不幸ではないのです。それだけは知っておいてください。
 むしろ、幸せなのです。ここにはかつて私が住んでいた国のように飢える人もいません。誰もが生命を自由に表現できる場所なのです。人も動物も、草木もすべて光り輝いています。あのときに私が見た【川】。その一粒一粒が、人々の夢であり、意思だったのです。

 その誰もがかつて、「今」という一瞬にすべてをかけ、生きて生きて、生き抜いた人たちです。彼らによって、この世界は成り立ってきました。そして、今もそうやって維持されています。
 【母】なき今、人はここでも生きているのです。あのとき私が見ていた夢の先に、ここがありました。世界は本当に大きいのです。人にとっては無限ともいえるかもしれません。
 【彼女】の気持ちが少しずつわかってきました。心の一部はあれからずっと彼女と融合しています。彼女の優しさ、愛情、慈悲。そして哀しみ。そのすべてがわかるのです。
 私の肉体は、彼女に戻すことにしました。それが自然だと思います。
 誰もがいつかこの場所に来るのです。そう、ここは…すべての人の故郷なのです。

 愛の巣。

 【偉大なる者】と呼ばれている彼らが住んでいる場所です。ここは最上部にあたります。その下にはあらゆる人々が住んでいます。笑顔、笑顔、笑顔。笑顔しか見られません。痛みも苦しみもないのです。
 私は特別に最上部に招待されています。普通なら、なかなか来られません。でも、ここが閉鎖されているわけではないのです。人がそこまで進化していないからです。
 何も求めず、心から愛を与えられるような人たちを、偉大なる者と呼ぶのです。私たちの親でもあり、兄でもあり、姉でもあり、いつも愛してくれる方々です。
 今存在しているほとんどの人間は、彼らから生まれているのです。彼らの愛から生まれています。彼らは、ここから地上に愛の光を放っているのです。人が人を愛する本当の姿を見せています。
 すべての束縛から解放された自由な人間。愛し、愛され、また愛することができる人の強さの【象徴】。それを見習って生きることが、私たちの幸せにもなります。そして、可能性なのです。

 私たちの無限の可能性に限界はありません。どんな生き方だってできます。ですが今、多くの人が自らその光を拒絶しています。愛されていることを知らないのです。
 誰かを憎み、罵り、殺してしまう。自分さえよければいいと思います。自ら衰退の道をたどっているのです。誰もがあまりにかわいそうです。
 それでもここの人たちは咎めません。間違いを犯すことは誰にもでもあるからです。そう、誰だって、かつて【女神】と呼ばれた私だって、完璧とは程遠いのです。あのころの私を知っている方がいれば、なんとも気恥ずかしいですけど。

 そうそう、私をお世話してくれる人たちがいると言いましたよね。その中には、みんなが驚くような人もいたのです。私もびっくりしました。
 あの【親子】は、とても仲がよいのです。みんなが嫉妬してしまうくらいです。それに、何度も謝られました。私は気にしていないのに、しつこいくらいです。ハーレムがこのことを知ったら、きっと喜ぶに違いありません。
 【紫色の髪をしたかわいそうな彼】は、少し間違えてしまっただけなのです。正しく愛を知っていれば、そんなこともなかったのです。愛を憎み、愛を傷つけ、愛を殺そうとしても、そんなことはできないのです。

 なぜならば、彼自身が愛から生まれていたからです。
 愛されていたからです。

 悔いることもあるのでしょう。時間は無限にあります。彼なりに償えばよいのです。大丈夫。彼には最愛の人たちがいます。母親と【父親】がいるのですから。

 ここでは、誰もが許されるのです。それを知っただけで、本当にうれしいのです。どのような罪を犯しても、どのような生き方をしても、偉大なる者たちは愛してくれます。多くの同胞が、温かく迎えてくれるのです。誰も彼を非難しません。
 彼がずっと求めていた愛がいくらでもあるのです。その愛が彼を立ち直らせてくれました。望んだものがすべてあります。ここが愛そのものなのです。

 生命は消えません。死は再生への第一歩なのです。それが進化なのです。最も進化した偉大なる者たちは、ただ愛を与えるだけの存在なのです。人の過ちも許し続けます。
 罪が許せないのだとすれば、私たちがまだその段階にまで至っていない証拠なのでしょう。ですから子供たちなのです。地上の子らは、彼らの愛すべき子供なのです。
 子供は間違えるものです。仮に転んでも成長を信じ、自ら立ち上がるのを待つのが親心なのです。見守る側もつらいのです。どうかその気持ちを察してあげてください。

 そうそう、偉大なる者と呼ばれていますが、誰もが気さくな人たちです。
 【白狼】様とは、よくおしゃべりをします。物知りで、とても慈悲深い方です。あの川、【ウロボロスの環】は、あの方が中心となって管理なさっているそうです。詳しいことはわからないのですが、とてもすごいことはわかります。
【黒狼】様は無口だけど、いつも気遣ってくれます。そういえばいつも何か作っているようです。…何だろう、アレ。たまに爆発するので怖いです。
 ほかには…【金狼】様もいるという話ですけど、一度も会ったことがありません。白狼様が言うには、いつもタバコを吸うために下に降りている「ろくでなし」とのことです。う~ん、タバコを吸うのか…。想像できないです。

 あと、狼と言っていますけど、本当に狼かよくわかりません。だって、姿がないのです。光が広がって音が溢れ、色が見えます。そこに個性と意思があるのです。じゃあ、どうやってタバコを吸うのかと聞かれても、私にはわかりません…よ?

 それと、闇の女神様にもお会いました。とても優しくて素敵な方なのです。無限の闇は彼女にとって優しさです。すべての人々が毎晩、愛に包まれているのです。
 闇がなくては地上の子供は眠れません。光だけでは生きてはいけません。毎晩のように我が子を抱き、子守唄を歌ってくださいます。全世界の人々が彼女の子供なのです。
富める人も貧しき人も、病める人も健やかなる人も、全部です。
 ああ、この愛をどう伝えたらいいのか私にはわかりません。それだけ大きく深く、この星全体を包んでいるのですから。

 そして、彼女から【使命】が伝えられました。私がここに来たのは、そのためだったのです。

 彼…、ゼッカーを見守ることと、彼を打ち倒す【十二人の英雄】を集める手助けをすることです。

 私が見たあの夢は…事実でした。ゼッカーが…死ぬことも。

 この戦いの結末を知っています。
 彼もまた悟っているのです。いつか【英雄】に殺されると知っているのです。
 でも、哀しむことはありません。私はいつだって彼と一緒にいます。こうしている今も、彼は気がついていないかもしれないけど、一緒にいるのです。
 ゼッカーったら声をかけても無視するんですよ。能面みたいな顔しちゃって。白い肌がまた白くなったようにも見えます。ちゃんとご飯を食べているのかしら。

 ふふ、私はいつだってそばにいます。彼が見えなくても…見てくれなくても、いるのです。

 彼がすべての役目を果たしたあと、迎えに行こうと思っています。どれだけ多くの人が非難しようと、地上の人が彼の死を喜ぼうと、私だけは彼のことを知っています。

 私だけが、この世界で、この宇宙で一番彼を愛しているのです。

 愛の力だけは無限です。
 愛だけが世界の真実なのです。

 さあ、そろそろ舞台を戻さねばなりませんね。あなたも一緒に歴史を垣間見ましょう。

 ああ、ゼッカー。あなたの苦しみ、哀しみ、嘆きのすべてを私は知っています。
 【英雄】としてではなく【悪魔】として生きねばならないことに自分自身で苦悩していることも、すべて。
 あなたが見えなくてもそばにいます。あなたを見守っています。
 だから私も一緒に罪を背負いましょう。そして、その日が来たらともに一つになりましょう。

 何があっても、あなたを守ります。

 では、詠いましょう。始まりの詩を。
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