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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

零章 『世界が分かれた日』

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四十四話 「RD事変 其の四十三 『加速と収束の戦場①』」

 †††

「貴様らの非道、見過ごしてはおけん!」
 アミカのブリキ壱式(仮)は刀を構え、ゼッカーのバイパーネッドと対峙する。その怒りはすでに頂点にあった。

「データ照合。該当ありません」
「あれも新型か」
 マレンの報告を受けたフレイマンがブリキ壱式を観察。見たところ壱式の装備は太刀のみ。おそらくは近接特化の機体だろう。
 この甲冑姿を見る限り、ゼルスセイバーズが使用していた機体に似ている。おそらく同じ系統のものと思われるが、明らかに今までのMGとは質が違う。

「ダマスカスも光学迷彩を研究していましたか。ゴーストほどではないにせよ、広まると多少面倒ですな」
「すでに我々が使っているものだ。自然と情報は漏洩するさ」
 フレイマンの言葉にゼッカーが応える。ゴーストはすでに一年前のガネリア動乱に実戦投入されている。その性能を知った技術者がいれば研究したくなるのは当然だろう。そして技術革新のために、ラーバーン側は意図的に情報を流出させてもいる。

「MG開発が進んでいて何よりだ。正直心配していたからね」
 MGの普及もラーバーンの目的には不可欠な要素である。ルシアやシェイクは放っておいても開発をするだろうが、ダマスカスは経済国家なので心配になる。普通にやっていては到底軍事大国には及ばないからだ。
 しかし、ゼッカーはブリキ壱式の能力が高いことをすぐに理解した。そうでなければ、いくら不意打ちとて後れを取ることはない。バイパーネッドの腕を切り裂いた一撃の速度を見てもハイカランとは別格であった。

「では、お手並み拝見かな」
 ゼッカーはアミカを挑発するように銃口を向ける。ただし、向けた相手はブリキ壱式ではなく、さきほど狙った子供にである。少年はいまだ何が起こったのか理解できずに座り込んで呆然としている。

「貴様!!」
 アミカは予想通り激高。怒りに任せてバイパーネッドに突っ込んできた。バイパーネッドは正面から襲いかかるブリキ壱式の斬撃を上半身を回転させて回避。そのままソードで太刀を上から押さえつける。

 しかし、ブリキ壱式は力付くでソードを押し返し、そのまま体当たり。バランスを崩したバイパーネッドに対して横薙ぎ一閃。バイパーネッドのソードと衝突。拮抗。

「やぁああ!」
 ブリキ壱式は、それをさらに力付くで押し切る。バイパーネッドは弾き飛ばされビルに衝突。一階から三階部分が崩れ、バイパーネッドはガレキに埋もれる。

「とどめだ!」
 ブリキ壱式は追撃。太刀を上段に構え、力を溜めて振り下ろす。刃からは放出された水気が迸り、美しい水の流れとなって刃が滑る。体勢を崩していたバイパーネッドはソードを盾にして防御。だが、防ぎきれずに再び吹き飛ばされ、ビルの駐車場を破壊しながら地面に転がる。

(これが・・・魔人機なのか?)
 アミカは倒れたバイパーネッドを目で追いながらも、その手応えに驚きを隠せない。今まで自分は魔人機操作が苦手だと思っていたのだが、それが嘘のように滑らかに動くのだ。そこでアミカは気がついた。

(このMGが別格なのか? それとも里のものが悪かったのか?)
 答えは両方とも正解。ブリキ壱式は現在のダマスカスが持てる最高の技術を費やした機体である。パワーも速度も桁違い。ガトリングガンを受けても大丈夫な強固な装甲。さらにナイトシリーズと同等の戦気拡張機能など、至れり尽くせりの仕様である。

 アミカは自分がMGで技を繰り出せたことにも驚く。今放ったのは水流剣。アミカの得意技の一つである。怒りで自分がMGに乗っていることを忘れ、いつもの癖で放ってしまったのだが、それも意識せずにスムーズに出せた。それ自体がMGとしては高性能な証拠である。

 一方、里の魔人機は旧式も旧式。いったいどこで拾ってきたのかと問いたいほどボロボロで、全身錆だらけのオンボロである。そんなものに乗っていたら実力を出しきれないのは当然であった。

「やれやれ、力押しかね。悔しいがバイパーネッドでは耐えきれないな」
 ゼッカーのバイパーネッドが上半身を百八十度回転させ、昆虫のような気色悪い動きで立ち上がる。同時にダメージを確認。ソードは無事だが腕に損傷。衝撃で後ろ足の一本がろくに動かない。内部にも接触不良の箇所がいくつかある。

 これがゲームのように体力メーターがあるのならば、今ので半分近くはもっていかれた感じだろう。しかも力で強引に押された形なので、初めて外国人ラガーマンと衝突して、あっけなく吹き飛ばされた時の気分である。

(まだ立つのか。そういえば無人機と聞いたが・・・)
 アミカはバイパーネッドが立ち上がったことに驚く。有人機だったならば、中のパイロットは気絶していただろう一撃だったはず。だが、バイパーネッドは無人機であるので力尽きるまで動く。

「だが、この機体ならばやれる!」
 魔人機に対しての嫌悪感を払拭したアミカは自信を宿していた。初めて手にした思い通りに動く機体は彼女の気持ちを高揚させていく。ブリキ壱式はバイパーネッドに向けて突っ込む。

(速いな)
 ゼッカーはブリキ壱式を観察。初動が速い。最初の一歩が実に軽やか、かつ加速も素晴らしい。

「はぁああ!」
 そこからブリキ壱式は剣を突き出す。この一撃も袈裟懸けの動きから変化したもので、強さと速さを兼ね備えた一撃。バイパーネッドはかろうじてソードで受けるも再び押される。

 それを見たアミカはさらに連撃。右、左と続けて太刀を振るい、相手の動きを揺さぶる。そしてフェイントをかけての下段攻撃。すでに一本の後足が不調のバイパーネッドは、完全によけきれず前足に被弾。装甲が吹き飛ぶ。

 バイパーネッドは思わず後退。それを追撃するブリキ壱式。その動きは、まるで水の流れのように淀みなく流麗であった。機体性能差もありバイパーネッドは防戦一方になる。

(良い腕だ。基本を踏まえたうえで技に冴えがある。何より正確で速い)
 ゼッカーはアミカが優れた剣士であることを知る。彼女の動きは実に正確で精密。的確にこちらの急所を狙って攻撃し、少しでも防がれた瞬間にはすでに次の行動に移っている。そのすべてが迷いなく速い。

 ブリキ壱式が速いのはもともとの性能もあるが、アミカ自体の能力が加わっていることが大きい。彼女は自分の武器をよく知っている。ただでさえ腕力に劣る女性が剣士として戦うには、ただただ速度と技を磨くしかなかったのである。
 その動きは、まさに獲物を狙う鳥の如く。人の目には感知できない水中の魚の動きを正確に見抜く目があってこそ可能な技。

「貫く!」
 アミカの月下無双。ミタカが放った技と同じだが、彼女のものは水気を拡散させて放つ広範囲攻撃。高圧の水飛沫がバイパーネッドに炸裂。ダメージはさしてないが動きが封じられる。
 そこに必殺の一撃、バイパーネッドの心臓部を狙った高速の突きを見舞う。突きはソードのガードを打ち破り、見事に胸に突き刺さる。

(獲った!)
 アミカは完全なる手応えを感じた。まず間違いなく必殺の一撃である。相手は倒れ、そのまま絶命する。

 それが対人戦ならば。

 バイパーネッドの腰のキャノン砲がゼロ距離でブリキ壱式を捉える。まだ死んではいない。そもそも胸の部分には人間は乗っていないからだ。

(しまった! つい癖が!)
 アミカはここで致命的なミスを犯したことを悟った。今の一連の動きは対人戦ならば最高のコンビネーションであった。彼女もこれで何人かの敵を倒したことがある。
 がしかし、今はMG戦闘。一般的には胸がコックピットであるが、乗っている機体のタイプによって場所は異なる。しかも相手は無人機。クウヤがやってしまったミスは、対人戦闘に慣れている武人ほど犯しやすい。

 バイパーネッドはキャノン砲を発射。

「くっ!!」
 ブリキ壱式は太刀を引き抜き、横に飛び退く。弾丸はギリギリ脇に逸れて当たらなかったが、勢い余って隣のビルに突っ込んでしまい、埋もれる。
 バイパーネッドはガトリングガンで追撃。装甲が火花を散らしながら傷ついていく。ブリキ壱式は慌てて飛び退くも、対向車線にあった車を踏み潰してしまう。幸いながら人は乗っていなかった。

「あまりMG戦闘には慣れていないようだね」
 ゼッカーはアミカのたどたどしい対応に微笑む。剣の腕は一流だが、MG戦闘というものを理解していない。MG戦闘は、ただサイズが大きくなるだけではない。乗る機体や環境条件によって戦い方も大きく変わるのだ。

「さあ、私を殺すのだろう? やってみたまえ」
 ゼッカーは再びガトリングガンを市街地に向ける。あくまで狙いは人間だと言わんばかりに。

(落ち着け。問題なく倒せる。今までだってそうしてきたはずだ)
 アミカの切れ目がさらに切れる。たしかにアミカはMG戦闘には不慣れである。しかし、今戦った感覚でいえば機体性能は上回っているし、剣技も通用している。相手の挑発に乗らず冷静に倒せば問題ないと判断。

「アミカ・カササギ、参る!」
 ブリキ壱式は突進。こうして迷わず前に出る思いきりの良さも彼女の魅力である。鋭い斬撃がバイパーネッドを襲う。バイパーネッドはソードで受け流す。

(この感覚。やはり無人機とは思えない)
 アミカはバイパーネッドの違和感に気がつく。この受け方には【意思】がある。その奥に眠る経験というものが滲み出ている。だからこそ油断はしない。
 初手が流されるのは想定内。続けて小刻みに太刀を振りながら相手を押し込んでいく。幸いながら現在は、機体のおかげでパワーでも勝っている。いつもとは違う強引な戦いが可能だ。

(魔人機は人の写し身。原理は同じ。限界を知り、先を読んで動くべし)
 マスター・パワーの言葉である。生身の人間が動く時、筋力や関節の限界値を知り、それに合わせて動く。魔人機も同じである。可動限界を知り、次の展開を予測しながら行動する。少しずつアミカの動きがブリキ壱式に合ってくる。

(もう慣れてきたか。飲み込みが早いな)
 ゼッカーは、ブリキ壱式の動きが少しずつ様になってきたと感じていた。なかなかにセンスがある。

 ただ、これはエルダー・パワーの教育が優れていたからでもある。里で旧式の魔人機を使わせるのは意図的で、あえて不自由な状況を生み出すためのもの。その環境でもある程度動かせれば、どんな魔人機においても対応ができるようになる、という理屈だ。これは優れた機体に乗った時に初めてわかる事実である。

「やあああ!」
 ブリキ壱式の横薙ぎ。バイパーネッドはソードで受けながらも吹き飛ばされる。それでも倒れない。上手くバランスを取って体勢を整える。同時にガトリングガンで牽制。ブリキ壱式は走って間合いを詰めながら回避。

 アミカは戦気を練って水気を放つ。まるで自分の身体のように自在に動くブリキ壱式は、その力を倍増。水流となってバイパーネッドに激突。
 剣王技、水門華すいもんか。これを発動させたまま剣で直接攻撃すれば水流剣となる。バイパーネッドは水流に圧されたまま後退。アミカは追撃。

(押している。押している!)
 ブリキ壱式は上下左右に太刀を振るい、そのすべてにバイパーネッドは押されている。相手からの反撃はほとんどなく勝利は目前である。

(押している。押している・・・のに!)
 外から見れば一方的な展開であった。相手はすでにロープを背にして必死にガードしているだけの死に体。そうであるはず。そうに違いないのに。

 なぜか倒れない。

 少しずつ相手は消耗している。装甲も剥げ、ソードも次第に軋んできている。足もすでに限界だろう。そうであるのに、なぜかバイパーネッドは倒れない。それどころか目の前の殺戮兵器から感じる波動は、さらにさらに強くなっていくようであった。

(なぜ! なぜ倒れない!!)
 アミカは焦りを感じていた。あと少しで倒せる。あと一撃で決められる。勝機が見えるたびに強く押し込むが、そのすべてが紙一重でかわされていく。何度吹き飛ばしても倒れず、何度押し込んでもいなされる。

(私はそこまで未熟なのか?)
 ゼルスセイバーズでさえバイパーネッドを倒せた。それに比べて自分はどうだ。たかが一機とて倒せないではないか。この事実は真面目な彼女にしてみれば非常にショックである。

 だが、アミカは気がついていない。目の前の男の本当の恐ろしさ、その真なる実力に。今彼女が対峙している男は超一流の相手なのである。機体性能差を加味しても、なお差がある。

 それは圧倒的な経験の差。

 アミカはエルダー・パワーの一員として多くの実戦を経験してきている。強い相手とも戦ってきている。殺してもいる。にもかかわらず今目の前にいる男は、それをさらに超える相手。死線を乗り越えた場数が違いすぎる。
 ゼッカーはアミカより優れた相手と何度も戦っている。ルシアの強兵と戦い、テベス・ローグと戦い、ハーレムと戦ってきた。剣の才以上に、その身と魂を焦がしてきた。その経験こそが最大の武器である。

 そして、ここにきて急造のコンビに破綻がやってくる。アミカが右に体重移動をしようとした時、ブリキ壱式は急加速。慌てて左に傾けるも、今度は大きくスリップ。バランスを崩す。

(なんだ? 急に感覚が合わなくなった!)
 まるで氷の上で戦っているような感覚。肉体と機体の間に何かしらのギャップが存在する。その違和感の正体がわからず、アミカは機体を制御するだけで精一杯だ。

「あの機体、相当なじゃじゃ馬のようですな」
 フレイマンは自分の機体であるジンクイーザを思い出す。あの機体も非常に扱いにくいギアで、フレイマンのように操縦技術が高くなければ振り回されてしまうだろう。今のアミカもそうした状態にある。

「設定がかなりピーキーだ。相当な使い手が扱うことを想定しているのだろう」
 ゼッカーも実際に戦って同じ感想を抱く。しかも今までの戦いは、ブリキ壱式の性能の半分程度しか出せていないとも。
 おそらくゼッカーやホウサンオーのような非常に優れた剣士が乗ることを想定した設定になっていると思われる。アミカは優れた剣士だが、彼らと比べると未熟。さらにMG操縦には慣れていないうえに、いつもとは違う戦いをしている。

「機体に酔って慣れない戦いをしたね。それが君の敗因だ」
 バイパーネッドはバランスを崩したブリキ壱式に体当たりを仕掛ける。機体の地力では劣るが、重要なのは体勢である。一気に押し込んでいく。

「くっ! 振りほどかねば!」
 アミカは太刀を振るおうと腕を伸ばす。しかし、太刀はビルに当たり、引きずられて振り回せられない。気がつけば周囲はビルとビルの谷間、MG一機が通れるような路地に押し込まれていた。

「しまった! 誘い込まれたのか!?」
 アミカは自分が誘い込まれたことを知った。バイパーネッドが防戦一方だったのは戦いながら移動していたからだ。アミカは機体のことで気を取られ、周囲のことにまで気が回らなかった。

「MG戦闘において重要なのは地形の把握だよ」
 ホウサンオーがそうしたように、MG戦闘で重要なことは常に自分がどこにいるかを知ること。周囲の地形を利用しながら戦うことである。

 これが生身ならば感覚でわかることもあるが、MGという媒体を挟んでしまうと感覚が狂ってしまう。常に周囲を観察する【余裕】こそが戦いにおいて重要なのである。
 バイパーネッドはブリキ壱式をビルに押しつける。アミカは押しのけようとするが、機体が空回りして馬力が出ない。

「まさか、こんなことになろうとは!」
 アミカは必死に抵抗。バイパーネッドの左腕を掴んで、なんとか組み伏せようとする。機体のパワーでバイパーネッドの腕が軋む。おそらくそう長くはもたないだろう。しかし、ゼッカーはアミカを押しつけたまま離さない。

 離れない。離れない。離れない。

(なんだ、この強さは! この恐怖は!)
 どう考えても相手のほうが劣勢だった。それが逆転する妙。逆転してしまう怖さ。加えて、バイパーネッドから発せられる異様な圧力が何より怖い。黒く、強烈で、身の毛のよだつような圧力。魂まで拘束してしまいそうな、ただただ恐怖の波。

「あああああああ!」
 アミカは、その【視線】に声を上げる。その姿は、ワニに噛みつかれた水鳥の如く。どんなに翼を羽ばたかせても強靱な顎は絶対に離してくれない。一度獲物を捕らえた時の迫力は今までの相手の比ではない。

 これこそが強者の強さ。殺す時は必ず殺してきた男の強さ。

「さあ、終わりだ」
 バイパーネッドが自爆。火焔砲弾のような巨大な火球が生まれ、周囲を燃やし尽くしていく。

「きゃあああああああ!」
 ブリキ壱式は、まさにその爆心地にいる。逃げ場のない状況で受けた自爆に機体全体が焼かれていく。爆音、衝撃、圧力がアミカを襲う。
 爆発はいくつものビルを呑み込み、何度も何度も激しく爆発。およそ五秒間、その爆炎は続いた。そして収束。

 残ったのは周囲の建造物が完全に消失して更地となった大地と、ただ一機、焼け焦げたブリキ壱式の姿だけ。ブスブスと煙を上げながら機体が横たわっている。

「ぐ・・・うう・・・」
 アミカはかろうじて意識があった。ブリキの装甲は焼けてしまったが、さすがは特機。あの爆炎を耐え抜いた。ただし、アミカも無傷ではない。ハイリンク型のブリキ壱式は、ある程度のダメージを還元する。身体のあちこちに打撲と火傷の傷痕がある。

(あれが・・・悪魔。なんと恐ろしい相手だ)
 周囲を見回せば、その空間だけ抉り取られたかのように大きなクレーターができていた。アミカは心に恐怖が刻み込まれた気がした。
 悪魔という男の奥底に眠っている怒りの感情。強烈な意思の前にアミカは完全なる敗北を喫したのだ。機体の性能差など、武人や人間といった本質に比べれば微々たるものでしかないと痛感する。

「おい、無事か」
 追いついてきた伊達のハイカランが、黒こげになったブリキ壱式を覗き込む。バイパーネッドが移動しながら戦っていたので追いつくのに時間がかかったのだ。結果的には追いつかなくて正解だった。巻き込まれていたらハイカランでは跡形も残らなかっただろう。

「回収してやるから、さっさと出てこいよ」
「屈辱だ。このような屈辱は初めてだ・・・」
 アミカは痛む身体を動かしながら機体の外に出る。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。痛みではなく、こんな失態を演じたことが恥ずかしかったからだ。

 慣れない機体でここまでゼッカーのバイパーネッドと戦えるだけで、アミカが優秀であることは立証できている。だが当人としては、まったく手が出なかった屈辱は計り知れない。

「街が・・・燃えている」
 規模は小さいが、バイパーネッドの攻撃によって街は混乱に陥っていた。人々にも被害が出ただろう。エルダー・パワーとして国を守ってきたアミカにとっては見るのがつらい光景である。

「ほかの場所は!? どうなった!」
 アミカは現在の状況に詳しくないが、バイパーネッド一機でこの有様なのだ。あのような恐ろしい相手が他にもいる。それだけで恐怖が蘇ってくるようである。

「ああ、反対側か。あっちは大丈夫だ」
「大丈夫だと? あのような悪魔が相手では、ただの兵では対応できぬぞ!」
 エルダー・パワーのアミカでさえ、ゼッカーのバイパーネッド一機に競り負けたのだ。数で押せればダマスカス軍にも勝ち目はあるが、少数では逆に全滅の恐れもある。

「だから大丈夫さ」
 伊達はアミカの言葉を聞いても動じない。彼は悪魔の実力を実際に戦って知っている。それでもなお大丈夫だと言いきれるのには理由があった。


 アミカが対処していた東側に対し、西側の状況はこうだ。
 ダマスカス軍に対抗するために残った三機のバイパーネッドは、東側の一件で落とし穴があることを知っていたので最後まで激しく抵抗。最終的に落とし穴には落としたが東側より被害が多く出た。この段階でハイカラン部隊は、ほぼ壊滅に近い。

 問題は街に向かった二機である。この二機はリュウが仕掛けたトラップを迂回して街に向かった。ダマスカスには余裕がなく、この二機はほぼ手放し状態という危険な状況。放っておけば街は東側より悲惨なことになっていただろう。

 だがしかし。正義はあった。

 バイパーネッドが市街地に進入しようとした瞬間、そこに立ち塞がる者たちがいた。

「正義の名の下に、貴様らの悪行、許してはおかん!」
 若干アミカと被る登場の仕方をしたのは、銀色に輝く二機の機体。叫んだのは先頭に立っていたシルバーナイト99ー058、シルバーグラン〈銀の聖闘士〉。搭乗者はロイゼン神聖王国、第二騎士団長のアレクシートである。

 彼らはハブシェンメッツの指揮の下で出番を待っていた。先陣は彼らの英雄であるラナーに任せる手筈になっていたからである。だが、ダマスカス軍の状況は悪化。街に被害が出ると判断したアレクシートは、独断で対応することを決めたのである。

「罪なき人々を攻撃するなど、人間として許してはおけん! この私が相手だ!」
 アレクシートは正義感の強い人間である。ロイゼン自体が博愛の精神を大事にする国であるが、その中にあってアレクシートは力による積極的な守護を信条としている。

 彼はカーリス教徒として貧困国に赴いたことがある。カーリスが行っている弱者への慈善活動だ。しかし、ラナーがラナトーコラムで経験したように、そうした国では異教徒に対して敵意を持つ人間も多い。
 アレクシートの場合は、そうした宗教的な問題ではなかったが、そこでは犯罪が多発し、人々の生活は危険と隣り合わせにあった。

 そこで彼が学んだことは、どんな博愛も力がなくては守れない、ということ。それを知った彼は、守るために力を使うことをためらわないのである。
 たとえそれが命令に反することであっても、目の前の罪なき人々が殺されることを見逃すことなど絶対にあってはならない。そう考える青年であった。

 ただ、リスクも考慮し、出てきたのは二機だけ。自分ともう一機。最高に信頼できる【友】だけ。

「サキア、もう一機は任せる!」
 アレクシートは後方にいるもう一機、シルバーナイト99ー083、シルバーフォーシル〈銀の星守〉に乗るサンタナキアに叫ぶ。

「気をつけて、アレク。かなり危険な相手だ」
 サンタナキアはバイパーネッドが普通ではないと直感する。その動きからは熟練した武人の気迫を感じさせる。そして、異様なほどの威圧感。アミカが感じた悪魔の気質を感じ取ったのだ。

「我々二人が出たのだ。あのような雑魚は一蹴だ」
 アレクシートは自信満々に答える。それだけ自己の力に自信があるのだ。そしてサンタナキアを信頼している。

 シルバーグランは専用武装であるグレイブを持って駆ける。グレイブの刃の部分は長く、槍状というよりは柄の長い青竜刀を持っているようである。アレクシートはまったく恐れることなくバイパーネッドと併走する。

「ロイゼンの若き騎士団長の登場か。単機で飛び出してくるとは血気盛んなようだね」
 ゼッカーはアレクシートの情報を思い出す。家柄がよく、いわゆるエリート。早くから騎士団の中で頭角を現し、この若さにして第二騎士団長になった【若大将】である。ロイゼンでは人気があるも、他国からは所詮若造と侮られる風潮にあった。

「貴様らは我らカーリスを侮辱したな。その罪も併せて成敗する!」
 シルバーグランがグレイブを薙ぎ払う。バイパーネッドは余裕をもってソードで受ける。機体性能差があっても、剣の速度はゼッカーのほうが速い。難なく受け止める。
 が、ソードごとバイパーネッドの腕が弾かれる。シルバーグランは続けて第二撃。返す刃で再び薙ぎ払い。今度はダブルソードで受け止める。しかし直後、両腕が弾かれ、バイパーネッドはバンザイのような格好になった。

(なんだこの威力は)
 腕が痺れる。ゼッカーは予想外の威力に少しばかり驚く。その膂力は今まで体験した中でもトップクラスである。もしかしたらハーレム並みの一撃の重さかもしれない。そうでなければ、ゼッカーの防御が簡単に吹き飛ばされるなどありえない。

「非力だな。人形!」
「力は強い。ならば近寄らねばよい」
 シルバーグランは続けて攻撃。だがその前にバイパーネッドは、ガトリングガンを掃射しながら回避運動。四本の足を使っての不規則なステップ。神楽舞かぐらまいと呼ばれる足技の一つ。相手とのタイミングをずらす技だ。

(神楽舞まで使うのか。やはり悪魔か)
 アレクシートもサンタナキアと同じく、バイパーネッドから悪魔の波動を感じていた。会議場で感じた金髪の悪魔が放つ、あの独特な甘美で恐ろしい威圧感である。正直、あれだけの気配を放つ男と正面から戦うのは難しい。

「しかし、所詮人形! 私を倒したいのならば本気で向かってこい!!」
 シルバーグランはガトリングガンをよけない。当たるに任せて駆け、バイパーネッドに向かう。そして力任せにグレイブを上段から振り下ろす。大振りの一撃をバイパーネッドは回避。神楽舞によってタイミングをずらされたのだ。

「関係ない! この正義の心がお前を倒す!」
 ただ、アレクシートにとって、そんなものはどうでもよかった。グレイブの刃先には戦気が集められており、地面に激突した瞬間、大きな爆発を起こす。剣王技、炎王強撃波。炎気を一点に集めて強撃。衝突と同時に強い爆発を起こすA級剣王技である。

「問答無用とは、強引だね」
 バイパーネッドは爆発に吹き飛ばされる。相手が避けようが防ごうが関係ない、ただただ強引に突き破るアレクシートの攻撃。最初から神楽舞など気にしてもいない。

「では、君ならばどうするかな?」
 ここでバイパーネッドは砲口を街に向ける。まだ距離はあるが、ゼッカーの能力ならば射程距離。ビルの一つに穴をあけるくらいは可能だろう。
 悪魔はアレクシートを試したのだ。今までは動揺する者、激高する者、冷静に対応する者と、反応はさまざまであった。では、アレクシートはどうか。

「笑止。迷うくらいならば戦場には出ない!」
 アレクシートは無視。その砲弾が街に発射されようが最初から気にしていない。怒るのでもなく、利害を天秤にかけるのでもなく、単に無視。彼は最初から相手を倒すことに集中しているのだ。それ以外のことは気にしない。

「消えろ、悪魔!」
「ならば仕方ないね」
 ゼッカーは、最後の一撃が繰り出される前にキヤノン砲を発射。直後、シルバーグランの重い一撃がバイパーネッドを切り裂く。迷いなく放たれた一撃は、簡単にバイパーネッドを破壊する。

「見事だよ。君は私たちに似ている」
 バイパーネッドは自爆。爆炎がシルバーグランを包む。ブリキ壱式すら焦がした巨大な炎だ。

「悪魔に褒められるとは、聖騎士としては複雑だな」
 しかし、シルバーグランは炎の中で悠然と立っていた。このシルバーグランは炎に対して強力な耐性を持っていた。それは耐性というよりも【無効化】である。
 ナイトシリーズの中でも、シルバーナイトは防御能力に特化している。親機のシルバー・ザ・ホワイトナイトそのものが完全なる防御を体現した機体なので、そのレプリカが防御に優れるのは当然でもある。近年では最新技術の術式付与も、ナイトシリーズにとってはすでにお馴染みのものであった。

「サキア、無茶をしたな」
 バイパーネッドを倒したアレクシートは、相棒たる友に対して声をかける。そのサンタナキアのシルバーフォーシルはすぐ近くにいた。シルバーフォーシルの巨大な剣には、衝突して圧砕した砲弾がこびりついていた。バイパーネッドが放った砲弾は、見事サンタナキアが受け止めていたのだ。

「アレク、ヒヤヒヤしたよ。あそこは庇ってほしかった」
「お前がいたのが見えたからな」
 アレクシートはサンタナキアがいたのがわかっていた。だからこそバイパーネッドの砲撃を無視したのだ。ただ、たとえそうでなくてもアレクシートは無視しただろう。そこには覚悟がある。

「サキア、守りたいならば倒すしかない。お前だって知っているだろう」
「守れるものは守りたい。それが聖騎士じゃないのかい?」
「理想論だよ。それは今まで嫌というほど味わった」

 アレクシートは、サンタナキアの行動は素晴らしいと思っている。しかし、一時の慈善のために優れた騎士が傷つくことは、のちの大事にとってマイナスになる。守るためには力が必要なのだと知っているからだ。

 だが、一方でサンタナキアがこう言うことも知っていた。

「守るさ。この身が砕けてもね」
 アレクシートが何と言おうと、サンタナキアは守ることをやめないだろう。愚かだと言われても、大局を理解していないと言われても、彼はそういう男なのである。

「・・・そうだな。だから私はお前が好きなのだろう」
 アレクシートには、サンタナキアが眩しく映ることがある。ある種の嫉妬に近い感情。家に縛られて、エリートであることを強制されている自分への苛立ち。自由への憧れ。彼の理想がサンタナキアに凝縮されているように思えるのだ。

(それは私も同じだよ)
 それはサンタナキアにとっても同じ。アレクシートが今まで受けた愛に、彼もまた同じ感情を抱いていた。親をほとんど覚えていないサンタナキアにとって、アレクシートは眩しく映るのだ。
 だからこそ強い。ロイゼンの若き騎士は強い。互いが最高のパートナーなのだから。

「しかし、その本気をいつも出してくれると嬉しいのだが」
 アレクシートはサンタナキアに苦言を呈する。サンタナキアはゼッカーの悪意を感じるや否や、即座に目の前のバイパーネッドを排除。一刀両断する。そのまま自爆も気にせずに砲弾の盾になるために走ったのだ。
 その判断力。何より強さ。普段はアレクシートのために一歩身を引いているが、実力はほぼ同格。あるいは上回るとさえ思われる。

「いや、あれはとっさのことで・・・」
「隠すな。私が哀れに思えるだろう?」
「アレクは凄いさ。それは本心だ」
「わかっている。だから私もお前と対等にありたいと思う」

 アレクシートはサンタナキアがいるから全力で戦える。他のものを気にせずに戦える。だからサンタナキアにも前に出てほしいと思うのだ。その後ろを守れるのは自分だけ、アレクシートだけなのだから。それが兄弟というものだろう。

「ラナー卿には申し訳ないが、このまま一気に叩かせてもらう! ロイゼン騎士団、出陣だ!」
 もはや隠れている必要はない。ロイゼン王国、第二神聖騎士団〈聖女の剣〉、第三騎士団〈信仰の光〉の中でも精鋭部隊がいるのだ。敵の数はそう多くない。一気に叩くつもりでいた。

「いいな、サキア?」
「でも、ブラックツーは私たちでは・・・」
 今までロイゼンが出られなかった最大の理由が、ガガーランドのドラグ・オブ・ザ・バーンである。単体での戦闘力はナイト・オブ・ザ・バーンと同格。しかも対集団戦闘を得意としているのだ。このまま戦っても、まず勝ち目はない。

「そこまで傲慢じゃない。自分の実力は知っているつもりだ。私たちは周りの掃除をすればいい」
 アレクシートは、自己がラナーには及ばないことを知っている。そのラナーが警戒するナイト・オブ・ザ・バーンと同格である相手と戦うつもりはない。

 ならば、誰がドラグ・オブ・ザ・バーンの相手をするのか。その相手はもう決まっていた。


「ロイゼン騎士団が動き出しました」
 マレンからの報告。ロイゼン騎士団が西側に集結。アピュラトリスに向かっている。その数はおよそ四十。

「こちらは雑魚ばかりが釣れるな。ホウサンオーとは雲泥の差だ」
 ガガーランドには、ロイゼン騎士団の実力が気配でわかる。たしかに実力者ではあるが、ドラグ・オブ・ザ・バーンと戦えるほどの相手はいない。アレクシートとて、バーンの獣の前では雑魚に等しい。

「あのような者たちなど、私にお任せください」
 オロクカカのヘビ・ラテが討伐を志願。あのような相手に、バーン序列三位のガガーランドが出ることが許せないのである。彼にとってバーンとは、この世でもっとも誇り高い存在なのだ。

「よかろう。蹴散らしてみろ。お前も食い足りないだろうからな」
「お任せください」
「小僧、お前も・・・」

 ガガーランドがユニサンのドラグニア・バーンに振り向いた時、違和感を感じた。戦気に乱れがある。呼吸が乱れて練気が上手くいっていないのだ。

「はぁはぁ・・・」
 ユニサンは身体の異変に気がついていた。全身のチャクラがバラバラになったように、すべてがまとまらない。身体から汗が噴き出し、黒い煙が出ている。

(まずい。リミットが近いか)
 この身体になった時に覚悟していたこと。ザックル・ガーネットを移植した時に、この事態はすでに想定内。しかし、実際になってみれば、やはりとんでもない苦痛である。身体を作り替えたのだから当然である。魂にまで変容を与える禁忌の術の代償は大きい。

(俺は、まだ戦える。戦わねば・・・!)
 全身に力を入れ直す。必死に戦気を練り、身体を整えていく。だが、どうしても痛い。

「小僧、お前は弱いな」
「ガガーランド様・・・」
 ガガーランドはユニサンを見下ろす。普通の人間から見れば凶悪な鬼と呼ばれるような巨体。志郎やデムサンダーすらはねのける強さを持つ悪鬼。されど、ガガーランドから見れば、なんと脆弱な存在だろうか。だが、そこには何かに必死になる人間の輝きがあった。

「お前は鬼にはなれん。だから最後まで戦士でいろ」
 ドラグ・オブ・ザ・バーンの大きな手が、ドラグニア・バーンの頭上にかざされる。そこから放出されたのは闘気。ユニサンのような作り物ではない、正真正銘の闘争本能から生み出された気質。

「これは・・・。身体が燃えるようだ!」
 ユニサンの身体が闘気に反応して活性化していく。痛みによってしぼみかけていた魂が、活力に満たされていく。痛みが消え、圧倒的な闘争本能に染まっていく。

 戦気術、賦気ふき。自己のエネルギーを分け与える技である。ただ、ガガーランドがやったのは、そんな生ぬるいものではなく、闘気を放射して強引に体内にねじ込む荒業である。通常の人間ならば圧力で死んでいるが、今のユニサンの身体にとってみれば「かつ」である。

「行け。そして死んでこい。所詮、死などは結果にすぎぬ。どう死ぬかがお前の価値を決める」
「ありがたく・・・! 誠にありがたく・・・!」

 ガガーランドはユニサンに死に場所を与える。それが彼の望み。ならば最後は憧れた力に浸って死ねばいい。それこそバーンの戦士に相応しい死に方なのだから。
 オロクカカとユニサンは、ロイゼン騎士団討伐へと向かう。今までならば相手にさえされない存在だったのだ。ユニサンにとっては十二分の死に場所だろう。

「君は優しいね、ガガーランド」
 カノン砲台があらかた排除され、暇になったケマラミアがふわふわと浮いている。ミサイルも来ないので、もうすっかりやる気がないようである。

「あいつらは弱すぎる。まるで虫だ」
 ガガーランドにとっては、ユニサンもオロクカカも羽蟻と同じような存在。握れば簡単に潰れてしまう虫も同じ。

「でも、君はそんな虫が眩しくもあるんだね。人間が羨ましい?」
「それはお前に問いたいところだ。オレもお前も人間ではないからな」

 ガガーランドには痛みがない。ゼッカーが与えてくれる心の痛みだけが唯一のもの。それは彼が人間ではないことを示している。しかしそれは、ケマラミアも同じことであった。

「人は儚いね。だからこそ強くなれる。女神が生み出した最高の存在だ」
「では、オレやお前は何だ?」
「そんな弱い彼らを守る存在、かな」
「くだらない。そんな気もない男の言葉か」
「そうだよ。だからボクはここにいるんだから」
 ケマラミアやガガーランドが存在している意味。その意味はゼッカーが、悪魔が与えてくれるだろう。

「ケマラミア、お前も向こうに行け」
「そうみたいだね。ボクはボクの役目を果たすとしようか」
 そう言ってケマラミアは素直に飛んでいく。この場にいることは危険だと判断したのだ。そして周囲には誰もいなくなった。

「さあ、邪魔は消えた。そろそろ出てこい」
 ガガーランドは何もない空間に話しかける。そこには何もない。余裕のないユニサンはもちろん、オロクカカでさえ何もないと思っていた。しかし、ガガーランドとケマラミアだけは気がついていた。

「出てこないのならば掘り出してやろう」
 ドラグ・オブ・ザ・バーンは拳に戦気を集め、大地を殴りつける。アピュラトリス周囲は、塔内部と同じく強固な特殊素材によって塗り固められた硬い大地。それが一瞬で砕け散り、大きなクレーターを生み出す。

 本来ならば、ただの穴掘り。何の価値もない行為。されど、クレーターの底には人型の機体があった。しかし、普通のMGとは明らかに雰囲気が異なる。それはブリキ壱式のような違和感ではなく、もっともっと異なる存在であることを示すもの。

 硬質化した幾万本もの毛に覆われた異様な機体。肉食動物のような顔には牙、太い両腕には強靱な爪。体色は、白と黒のまだら模様。それはまるで【人型の獣】のように見えた。
 人型の獣は、ドラグ・オブ・ザ・バーンの拳を片腕で受け止めていた。ゼルスセイバーズの特機型MGでさえ、その拳圧だけで潰された一撃を、まともに受けてまったくの無傷である。

「見事。よくぞ気づいた」
 人型の獣は、ドラグ・オブ・ザ・バーンの腕を払うと跳躍。大地に降り立った。改めて見れば、やはりその姿は異様であった。だが、ガガーランドはその姿を見て笑う。

「【獣王階級】。大物が釣れたようだな」
 ガガーランドは相手の正体を看破する。それは紛れもなく神機である。
 神機の中には階級が存在する。ただし、それらは各カテゴリー内に存在するものである。たとえば、シルバー・ザ・ホワイトナイトは、【人界のカテゴリー】に入る神機である。その中で、兵士、騎士、王などの階級が分かれているのである。

 目の前の機体は、明らかに人界のものではない。これは見たままの存在、獣界に属する存在なのである。しかも階級は【王】。それを獣王階級と呼ぶ。

「私のグレイズガーオ〈欲深き不遜なる白黒の獣王〉を見つけるとは、やはりただの武人ではないな」
 グレイズガーオ。この機体に乗っている男を調べる必要はない。そんな男は一人だけ。ルシアの雪熊、ジャラガンである。
 彼はルシアの親衛隊長でありながら、厳密な意味で雪騎将ではない。この機体はルシア天帝から与えられたものではないからだ。しかし、彼は雪騎将をはるかに凌駕する存在である。

 なぜならば、この機体はゼブラエスが弟子に与えたものだから。
 覇王から与えられた、まさに武人のいきが宿っている存在であるから。

「せめてもの情けだ。一騎討ちを望むのならば受けよう」
 ジャラガンの役目は黒機の纖滅。雪騎将の二人が黒機のどちらかを引きつけている間に、もう一機を撃破するのが役目である。

 ラナーがナイト・オブ・ザ・バーンの討伐を志願したので、ジャラガンがドラグ・オブ・ザ・バーンを引き受ける算段であった。
 ただ、ジャラガンからすれば、そんなことは些細なこと。これだけのことをした相手を許すつもりなどはない。最初から全員自分で倒すつもりでいた。それが一番確実で安全だからだ。

 べつにオロクカカたちが移動するのを待っていたわけではない。いたところで倒すことには変わりないのである。待っていたのは別の理由。ユニサンに活を入れたのを見て、人外にも武人の情があるのならば、せめて誇り高く倒してやろう。そういった気持ちである。

「獣王ふぜいが吠えるものだ。モグラに情けをかけられるほど落ちぶれてはいない」
「その余裕もここまでだ」
 グレイズガーオは跳躍。まるで消えたかのような速度。そこから繰り出される蹴り。ドラグ・オブ・ザ・バーンは、今までそうしてきたように無防備で受ける。ただ己の戦気だけで防御する。

 貫通。

 グレイズガーオの蹴りは、いともたやすく戦気の壁を貫通。そして装甲にまで到達した瞬間、まさに激震が起きた。ドラグ・オブ・ザ・バーンが吹っ飛んだのだ。
 三十メートルを超える巨体が、半分程度の大きさの機体の蹴りで激しくのけぞり、吹き飛ばされた。ドラグ・オブ・ザ・バーンは踏ん張りながらも倒れることは回避。それでも衝撃的な映像である。

「今ので無事か。たしかに普通の武人では勝てぬな」
 今の一撃は、普通のMGならば消し飛んでいたレベル。それを耐えたドラグ・オブ・ザ・バーンは、特機中の特機であるといえた。もちろん、それを扱いこなすガガーランドがいてこその強さである。

「制御を失った獣の不始末は獣王がするもの。私とガーオが、ここで喰らってやろう」

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