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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

零章 『世界が分かれた日』

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三十話 「RD事変 其の二十九 『富の塔奪還作戦②』」

 †††

「せっかく出てもらったのに申し訳ないね」
 そうヨシュアに声をかけたのはベガーナンであった。

 ルシアが指揮権を得たためにシェイク側も一歩下がるしかない。
 すでに会議は会議であっても【作戦会議】になりつつある状況では、結果としてヨシュアの発言の場もなくなってしまっている。

「いえ、これでよかったのだと思います。自分には過ぎた場所ですから」
 ヨシュアも一国の筆頭騎士団長ではあるものの、これだけ大きな場においては脇役にすぎない。もう発言する機会はないだろう。

 それに、これでよかったのだと思える。
 なまじ発言してしまうことで注目を浴びるのは事実。それならば黙っていたほうがよいこともある。

「でも君は不安なのだね。これだけの武人がいても」
 ベガーナンはヨシュアの不安を見抜いていた。
 彼でなくても一人眉間にしわを寄せている人間がいれば誰でもわかることである。

 ただ、その誰でもわかるということ。
 人間は自分に余裕があると周りがよく見えるが、焦って余裕がないと案外見えないもの。

 ベガーナンとごくごく少数の人間以外はヨシュアの表情に気がついていない。
 この場に出席している人間の数はさほど多くない。周囲を見回せばある程度出席者の顔色はわかるものだ。

 そうでありながら見えていない。それは実のところ彼らに余裕がないことを示していた。

 各国も異常事態にまだ戸惑っている。そこまで余剰戦力があるわけでもなく他国という慣れない場所である。
 さきほどのナイト・オブ・ザ・バーンの戦闘を見ればわかるように地形も重要な要素なのだ。慣れない場所ではその点においてやりにくさがある。

 そしてこれが【負けられない戦い】であることも騎士たちに影響を与えている。
 この場に集っているのは百戦錬磨の強者たち。それでも準備不足は否めず、百戦錬磨だからこそ状況をよく分析できていた。

 正直、五分五分。
 それが客観的な意見である。

「君はあの剣士に心当たりはないのだろう?」
 ベガーナンの言葉にヨシュアは頷く。

 ガネリア側もゼッカーが集めた異端の天才、秀才たちのすべてを把握しているわけではない。
 ゼッカーが集めた人間の中には当然武人もいたが、あれだけの凄腕の剣士がいればすぐにわかることだ。

(あの剣士はおそらくゼッカー殿より強い。陛下でも勝てるかどうか・・・)
 黒い剣士はヨシュアの目には今まで見た誰よりも強く映っている。

 それは比較対象がハーレムであっても変わらない。
 真正面からのぶつかり合いならば爆発力のあるハーレムにも分があるだろうが、あの老獪さはそれをあっさりと補ってしまうだろう。

 少なくとも当時のガネリアに黒い剣士はいなかった。それは間違いない。
 この短期間でどうやってそんな人間を集めたのか、ヨシュアには不思議であった。

 まるで何か巨大な力が彼を背後から援護しているようにすら感じられる。それが不気味なのだ。

 それが怖いのだ。

「【黒い亡霊ゴースト】か。味方であれば心強いのだろうけどね」
 ベガーナンはかつてガネリアにいた頃のゼッカーの異名を呟く。

 もはや誰も救いようがない貧困国をまとめて新たな連合国家を生み出し、卓越した手腕で次々と戦果を挙げていく漆黒の英雄。
 弱き人々の夢となり希望となり、真の平等のために剣を振るう彼はまさに英雄であった。

 ただし、シェイク側からすれば悪魔なのは今と同じである。

 シェイクの駐屯基地をいくつも潰し、新たに派遣した艦隊すら追い返してしまう。さらには各市場操作を行い、裏側からも経済的破壊工作を仕掛ける狡猾さ。
 より被害の大きかったシンタナ州軍の間では、黒い悪魔、黒い亡霊などと呼ばれて恐れられていた。

 シンタナ州が過剰にガネリアを敵視するのも【怖い】からだ。
 かつてのゼッカーのように巨大なうねりを生み出し、すべてを巻き込んでしまうのではないかと怖れているからである。

 その時、確実にシェイクにも大きな余波が来るだろう。それが怖いのだ。
 それが今まさにシェイクだけではなく、全世界の敵になったのだ。

 といっても所詮は地方で名が知れただけの悪魔。全世界を敵にして勝ち目があるとは思えない。
 この場にいるのは名だたる武人ばかり。客観的には五分五分であるが、やはりやや控えめな評価だろう。

 それでもヨシュアの顔色が優れないことにベガーナンは心当たりがあった。

「君が案じていることは少しはわかる。ルシアだってそれは知っているはずだ」
 ベガーナンは少しばかり声のトーンを落として言う。

 【反応兵器】については各国とも研究を続けている。

 直接の被害を受けたルシアはもちろん、シェイク側も遅れを取るまいと新たに施設を作り積極的に研究しているところである。

 しかしまだ誰も解明には至っていないのが現状だ。当然生産も量産もできていない。
 その意味においてもガネリアは世界各国から注目されていた。

 ベガーナンがヨシュアをこの場に招いたことは、そうした可能性を暗に示唆するためでもあった。
 ルシアにも、少なくとも天帝のザフキエルと監査院の人間にはメッセージとして伝わったはずである。

「何でもお見通しなのですね」
 ヨシュアは素直にベガーナンをすごいと思った。

 彼の言葉は自分が思っていることをすべて知っているように言い当ててしまうから。
 それはまるでエシェリータのようである。

「これも情報の成果だよ。僕にとっては情報こそが命だからね」
 ベガーナンは人間の機微に精通しているが、それ以上に重要なことが情報である。

 その人間の性向、嗜好、思想を知ることができれば
、あとは周囲の環境条件を考えればだいたいのことは推測できる。
 彼が大統領になれたのもこうした諜報力に優れていたからにほかならない。

「あまりこの男のことを信用しないほうがいいぞ。表面おもてづらは笑顔だが、裏では何を考えているか怪しいものじゃ」
 シャーロンはそう言いながら懐から菓子を取り出して机に広げる。

 いつの間にか紅茶まで用意しており、まったりと独り茶会を始めてしまった。
 緊急の集まりだったため第四会議場には茶菓子などは用意されておらず、これらはすべて第一会議場でシャーロンがくすねたものである。

「君は相変わらずの手癖の悪さだね」
「用意周到というのじゃよ。茶を出さぬほうが悪い。ほれ、食え」
 シャーロンはベガーナンの口に茶菓子を投げ入れる。

「・・・ぱさぱさするね。僕も茶が欲しいよ」
「準備を怠るとどうなるか、よくわかったじゃろう?」
 口の中の水分を吸われたベガーナンが羨ましそうにシャーロンの紅茶を見つめるが、それを見ながら彼女は笑うのみである。

 こうしたやり取りにヨシュアは二人の間にある関係を少しばかり理解した。

 ベガーナンの裏には常にシャーロンがいた。
 ジュベーヌ・エターナルはもともと一介の諜報部隊であり、その頃はまだ正規軍の証たるエターナルの称号は得ておらず、ただの外国人部隊にすぎなかった。

 もしそのままであったならば使い捨ての駒としていつかは滅びていただろう。
 しかし、シャーロンはベガーナンと出会った。その出会いが彼女のすべてを、彼の人生を、そしてシェイクの未来すら変えてしまうのだから面白いものである。

「すでにさいは投げられた。案じたところでわしらにはどうすることもできんよ」
 シャーロンは茶をすすりながら部隊編成に奔走している副官のザッカルトを眺める。

 ルシア側が攻撃を担当するならば、シェイクは下がって防衛に徹する側である。
 大国としての役割を果たすために最低限は動かねばならないだろう。その準備である。

 シャーロンは表向きベガーナンの護衛という任務があるので、そうした雑務はザッカルトに任せている。
 より正確に言えばサボっているところである。

「あなたでも・・・ですか?」
 ヨシュアから見ればシャーロンは強者である。
 シェイクという強国に属する最高の暗殺者。それだけ見れば誰もが羨むし、恐れる存在だ。

 しかし、シャーロンから見れば違う。

「ヨシュアよ、国という存在に惑わされてはいかんぞ。所詮人は人。弱くもろいものが集まっても強くなるとはかぎらん。その逆になることも多々ある」

 誰もが思い通りの人生など歩めない。
 挫折し、諦めそうになる直前で道が開かれて、息も絶え絶えでやっとのこと歩いている。

 結局、その過程はいつになっても変わらないのだ。
 最高の暗殺者と呼ばれてもシェイクがいくら大きくなっても、所詮は重荷が増えるだけのことである。背負うだけで精一杯なのだ。

 シェイクとて、万全の状態で戦ったことなど一度たりともない。
 全世界に部隊を分割している以上、それは不可能である。

 それは今回の戦いでも同じ。
 どれだけのことができるかはシャーロンにもわからないのだ。

「しかしじゃ。ルシアを侮ってもいかんぞ。なぜわしらがあの国を極度に警戒しているのか、この戦いでそのことを知るじゃろうな」
 シャーロンの視線の先にはルシアの陣営があった。

 すでにルシア陣営では戦の準備が進められている。
 ルシア騎士たちの目は今までとはまったく違う。怯えや動揺など何一つ存在しない。

 騎士の頂点たる天帝のめいが下った。
 それが彼らにとってすべて。

 ただただ命令を実行するため。相手を破壊するためにすべての力を尽くす。

 【敵を滅することに関して世界最強】。

 それはダマスカスやシェイクすら凌ぐ恐るべき力である。

 数ではシェイクも同等以上の兵を揃えているが、特に攻撃部隊の質に差がありすぎる。
 ルシアの突撃を真正面から受けられる部隊など、もとよりどこにも存在しない。シェイクが犠牲を覚悟で消耗戦を仕掛けてようやく互角になるにすぎない。

 正直に言えば、本気のルシア全軍を止めるためには他の常任理事国の四カ国が協力してようやく互角となる。

 これはあくまで仮定。そんなことが起きればまさに世界の破滅である。

 されど事実。

 一度動き出したルシアを止められる存在など、この場にはもはやいないのである。
 あの騎士たちの目を見ればすぐにわかる。彼らは自分の命などまるで気にも留めない。天帝の天威を守ることだけが彼らの存在意義なのである。

 シャーロンが言ったように賽は投げられたのだ。
 もはや見ていることしかできない。

「ハブシェンメッツ、うぬが指揮を執れ」
 ルシア天帝ザフキエルは一人の高官を呼び寄せる。

 偶像の前に呼び出されたのは一人の壮年の男。
 名はロイス・ハブシェンメッツ。三七歳。

 ボサボサのオリエンタルブルーの髪にはいくつもの寝癖があり、目も少し充血していて隈もある。常に寝不足なのかいつも眠そうにしているのが特徴だ。

 もしルシア高官が身につける黒と青の服がなければ誰もそうとは気がつかない、一見すれば【イケてない男】である。

 しかしながら、ここに呼ばれたことには意味がある。
 なにせ賢王と呼ばれるルシア天帝から直々に指揮を任されたのだから。

「え? 僕ですか?」
 ハブシェンメッツはルシア貴族が聞いたら眉をひそめるような気だるそうな態度でルシア天帝の言葉に首を傾げる。

 まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのだろう。
 周囲をきょろきょろしながら戸惑う姿は小動物のようである。

「ハブシェンメッツ、陛下の御前ですよ。しゃんとなさい!」
 アルメリアの叱咤が響きわたる。

 彼女の声は小鳥のさえずりのごとく美しい音域であるが、非常に強く、聴くものを怯えさせる圧力を備えていた。

 他の高官は自分が怒られたわけではないのにもかかわらず、その声を聴くだけで縮み上がってしまうほどである。

「はあ、そうですね。・・・困ったな」
 仕方なくハブシェンメッツは偶像の前にやってくる。
 怒られたから嫌々という感じを隠そうともしていないのは、ある意味で大物なのかもしれない。

「あの悪魔、どう見た?」
 それでもザフキエルは気にした様子もなく意見を求める。
 天帝自らの指名に加え、他の高官らの視線が厳しいのでハブシェンメッツはこれまた仕方なく答える。

「なかなか面白いですね。まっ、普通じゃないのは見れば誰でもわかりますけど」
 当然ながらハブシェンメッツもあの映像を見ている。

 退屈な会議に半ば居眠りをした状態で始まった【劇場】であったが、それなりに興味深いと思える内容だった。
 それに加え、いつも偉そうにしている周りの高官が大慌てだったのが見ていて楽しかったのもある。

「陛下にあれだけ言えるなんて、なかなかどうして面白いとは思いませんか? それにルシアに関しては事実そのとおりで・・・」
 と、ついつい調子に乗ってハブシェンメッツが語ろうとすると、周囲から返ってきたのはアルメリアたちからの冷たい視線。

 それも今すぐにでも氷海に放り込んでやろうかという強烈な殺意だったので、ハブシェンメッツは慌てて帽子で顔を隠す。
 その姿もやはり小動物っぽい。

 基本的にルシア皇室の内情を語るのは禁忌タブーである。
 それも血の衰退などと言おうものならばタブー中のタブー。即刻投獄され始末される可能性さえある。それはどのような地位にあっても同じことだ。

 この場にいる多くの人間は保守派の元老院派ばかりなのだ。その中でも愛国主義者たちの集まりは天帝を神のごとく扱っている。

 彼らにとって天帝だけは絶対に守らねばならないものである。
 天帝は自らを偶像と呼ぶが、ルシアにとって偶像が存在することそのものに意味があるのだ。

「かまわぬ。それよりもやつの要求についてどう感じた?」
 ザフキエルは周囲の騎士たちをなだめながら続きを促す。
 ハブシェンメッツには最初から作法など求めていない。

 彼に求めているのは、たった一つ。

「あー、アレですか。まあ、本気でしょうね。一応、本心としては」
 迷うことなくハブシェンメッツはそう答える。

 ゼッカーは本気である。本気で世界を変えようとしている。その迫力はハブシェンメッツにも感じられた。

 あの薄い笑いの下には、目に見えない【熱量】が宿っている。
 それはザフキエルの王気すらはじく強固な意思の力。迷いもためらいもまったくない、本気の力である。

 ただし、ハブシェンメッツはそのさらに裏を見ていた。
 だからこう付け加える。

「あの要求はフェイクです」

 その答えは実に簡単である。

「だって無理じゃないですか。そんなの誰だってわかることですよ」

 悪魔が提案した、全世界に富を分け与え、全民族、全宗教を統廃合し、全階級をなくす。

 そんなことはできはしない。

 それを一番知っているのが悪魔そのものなのである。
 ゼッカーはそれを理想だと知っている。ただし、彼が底知れないのはそれだけではない。

「あの悪魔とやらは、きっと今頃こう思っているでしょうね。『我ながら滑稽なことだ』って」
 ハブシェンメッツがゼッカーを見て最初に思ったのが、「ああ、見ているほうが恥ずかしい」であった。

 これは道化師という意味でもあったが、もう一つ、「演じることを恥じるピエロ」という意味合いもあった。
 ピエロはプロだ。人前で道化を演じるのが仕事であり、どんな滑稽なことも真剣に演じきることができる。

 しかし、新米のピエロや慣れない人間、もっと言えば性に合わない人間は、どこかに恥じらいを覚えてしまうものである。
 それがぎこちなさを与え、どことなくこちらも恥ずかしくなる。そんな経験がないだろうか?

 ハブシェンメッツは、あの悪魔の演説にそれと同種のものを感じ取ったのだ。

「あの男は本気でしたよ。でも、真剣にこちらに向き合っていない。つまりは、あの要求なんて最初から意味がないってわかっているんですよ」
 ハブシェンメッツは悪魔の要求を改めて考えて、こう結論付けた。

 悪魔当人が、【その理想を叶えることが人にとって良いことではない】ことを知っている。

 と。

 だからこその恥じらいなのだ。
 少なくとも悪魔は道化ではない。されど道化のふりをしなければならない。その答えがフェイクである。

「まっ、陛下もご想像の通り、時間稼ぎですよ、これはね。最初からこっちと話をする気なんてさらさらないわけです」
 金髪の悪魔は最初から対話など望んではいない。

 自分が欲しいものは最初から奪い取る。

 そして現にそうしている。話し合うつもりならばもっと妥協点を見いだそうとするはずである。悪魔にはそこがまったくない。
 一方的に押しつけ、自分のやり方を認めないならば壊そうとする。そんなものが対話と言えるだろうか。

「はっきり言えば自己中。テロリストに多いタイプですが・・・問題は当人に力がありすぎることじゃないでしょうか」
 普通のテロリストならばそのうち捕まるか殺される。それだけの力しかないからだ。

 しかし、悪魔には知恵と力、何よりも絶対的なカリスマがある。
 たとえ夢見がちな少年の一方的な理想であっても実現できてしまうだけの材料が揃っている。

 ハブシェンメッツは、これを【不幸】と呼ぶ。

「自分が凡人でよかったと思いますね。間違えないで済みますから」
 ボサボサの青い髪を引っ張りながら自称凡人は呟く。

 力があるから簡単にできてしまう。普通ならば夢想して終わらせるだけの妄想を実現させてしまえる。

 それは幸せだろうか?

 もし自分の妄想全部が実現できてしまうのならば、それはきっと、少なくとも楽しくはない世界に違いない。
 ハブシェンメッツは自分がそうでないことを心から喜び、安堵していた。

 朝ベッドで起きられてコーヒーとパンがある。それだけで満足できてしまえる。それが幸せだと思うのだ。

 だからこそまだ自分は人に幻滅しないでいられる。
 このシステムに対して寛容でいられる。それは幸せなのかもしれないと。

 ネズミは空を見て何を思うだろう。
 空が綺麗かどうかなど思いもしない。その日の食べ物探しに夢中で、ましてや天を掴もうとなど絶対に思わない。

 そして食べ物が得られれば今日は幸せだったと静かに眠るのだ。それが死ぬまで続くにすぎない。

 それが普通。それが凡人である。

 だが、悪魔は天才がゆえに満足できなかった。
 自分が目指す理想と違う世界に対して苛立ち、力付くで変えようとする。それができてしまう。

 天才がゆえの不幸。

 ハブシェンメッツは同情に値するとさえ言うのだ。
 しかし、あの騒ぎの中で悪魔の本質に気がついた人間がどれだけいただろうか。

 たしかに悪魔の要求は改めて考えると馬鹿げている。不可能だ。
 それでも多くの人間は妖艶なオーラに見とれてしまい、そんなことを考える余裕がなかった。

 そんな中でこの男は静かに観察し、その内奥を見極めようとしていた。
 これはれっきとした【能力】。経験と観察眼によって培われた力である。

 その力を持つハブシェンメッツは、当人がどう思っていようが【こちら側】の人間なのだ。
 ザフキエルやアルメリアと同じ側の人間。あるいは悪魔と同じ側の人間。

 才能があり、磨き、能力を実際に使える人間。
 それだけは隠しようにも隠しきれない。

(さすがはアーマイガーの秘蔵っ子か。よく見ているものだ)
 ザフキエルはハブシェンメッツの中に、ルシア帝国最高戦略参謀長、【蒼天位そうてんい】のアーマイガーの面影を見る。

 青は叡智を司る色であり、ルシアの国色である。その中でも最高の蒼を受ける者、それが蒼天位である。
 ルシア帝国の国家戦略案を生み出し、国の命運すら左右する重要な役職である。

 現在はアーマイガーという老参謀長がその任についている。
 その才は測り知れず、若い頃より数々の国力増強案を打ち出しているルシアの鷲目(わしめである。

 ただ、そんな彼もかなり老齢になり、後継者を選ばねばならない時期が迫っていた。
 そして彼は、自らの弟子をルシアの各重役に送り込んで実際の手腕を試すことにしたのだ。

 ハブシェンメッツもその一人。

 現在はルシア行政府、特定戦略局の戦略アドバイザーである【青風位せいふうい】に任命されており、こうして意見を求められるのも彼の仕事である。
 また国家戦術士も兼任しており、軍師としての役割を果たすこともできる。

 ただし、今回この連盟会議に賛同したのは彼の意向ではない。アーマイガーに命令されて仕方なくついてきたのだ。

 そう、彼は後継者争いにはまったく興味がないのだ。

 さらに言えば、弟子になったのもたまたまネット軍人将棋でアーマイガーをボロクソにしたのがきっかけ、いや原因である。

 ネット上にはアーマイガーを名乗る偽物は数多くいるので、ハブシェンメッツも相手が偽物だと思って気軽に対戦したにすぎない。

 だが、そうした状況を利用して本物が逸材探しをしているとは、ハブシェンメッツでさえ夢にも思わなかったに違いない。

 そこはさすが蒼天位のアーマイガーである。残念ながら狡猾さでは彼のほうが一枚も二枚も上であった。

 アーマイガーは即座に相手の身元を調査させ、半ば拉致に近い形でハブシェンメッツを連れてきたのだ。
 監査局まで駆り出したので一時はスパイ容疑すらかけられ非常に迷惑した記憶がある。

 フリーター(浮浪者)であったので職を与えてくれたことには感謝しているが、当人は師弟関係とはどうしても思えないでいる。
 どちらかといえば【悪評名高い将棋仲間の横暴なじいさん】程度の認識である。

 ただし、アーマイガーはハブシェンメッツの知的好奇心を大いに満たしてくれていた。
 アーマイガーが持つ知恵、考え方、流れを読む力は非常に興味深くハブシェンメッツを引き寄せる。

 そうして十年、いつしか彼も優れた観察眼や洞察力を持つに至る。
 その能力は特定の分野に限ればアーマイガーを凌ぐとさえいわれるほどである。

 彼は大いに成長した。
 私生活の乱れ以外は。

 暇があれば軍人将棋にのめり込むので、いまだに寝落ちすることが多く、そのままの姿で職場に行くことがざらである。

 ギャンブル癖も直っておらず、給料はほぼすべてつぎ込む。
 不思議なことにギャンブルでは彼の能力は発揮されず、基本的に全敗である。

 ルシアだからこそ養える駄目な男。
 されど、そういう男だからこそ特異な能力を持つものなのだ。

 これこそがルシアの強みであるといえる。

 何十億という人間の中から異端の者を選りすぐってさらに強化するだけの度量がある。潤沢な資金と安定した社会制度がそれを可能にしているのだ。

「それで、どう打開する?」
 ザフキエルはハブシェンメッツがどういう策を練るのか興味があった。

 本国にいるアーマイガーもすでにこの事態を知っているが、判断はハブシェンメッツに任せるという指示が出ている。

 そもそもハブシェンメッツを代理戦略長として派遣したのはアーマイガーである。最初から彼の裁量に任せるつもりでいるのだ。

(試金石のつもりにしても、これを踏み台にするとは・・・相変わらず剛胆なじいさんだ)
 全世界の金融が危機的状態であるこの局面で若造を任命する度胸。
 ハブシェンメッツはアーマイガーの胆力に呆れるしかなかった。

 しかもアーマイガーはすでにこうした事態を予測していた恐れもある。
 ここまでのことはさすがに予測は難しいだろうが、何かが起こることは把握していたようだ。

 そこでハブシェンメッツを起用した。嫌がる彼を強引に帯同させたのだ。
 そこには何らかの意図があると思われるが当人にはわからない。

 ただ、アーマイガーと知恵比べをするつもりはハブシェンメッツにはなかった。
 好きでやっているわけではないし、あくまで公僕として生きるためにやっている【仕事】なのだ。

(しょうがない。なんとかするしかないか。自分の職のためにね)
 ギャンブルでの借金を返済するためにハブシェンメッツは仕方なく案を考える。
 こうした時、彼の思考は非常に偏りのないものになる。

 彼にとってルシアという国に愛着はあまりない。半分浮浪者でホームレスだったのだから、それも当然かもしれない。
 ただ、そうした体験が偏りなく物事を見据えることを手助けしていた。

「まず、我々の行動としては、三十分以内にすぐに対抗措置を取るべきでしょうね。敵の狙いはたぶん違うところにありそうですから」

 ハブシェンメッツは、その時間を【三十分以内】と指定する。
 悪魔は二時間を提示したが、それがカモフラージュだとすればそれくらいが妥当なところだろう。

 その理由をこう説明する。

「一つ気になるんですよね。どうしてあれだけの戦力を投入しなければならなかったのか。だってアピュラトリスはすでにシールドを展開しているわけですからね」

 ハブシェンメッツにとって腑に落ちないことは、わざわざ外周防衛部隊を纖滅したことである。

 すでにアピュラトリスはサカトマーク・フィールドを展開させており、そのままでも絶対防御を誇っている。少なくとも一ヶ月くらいはあのままの状態だろう。

 ならば、あえて戦力を投入する意味はない。

「たしかに印象的でしたよ。刺激的でもあった。でも、それってつまり【余裕がない】証拠なんですよね」
 ああして力を見せつけることは交渉を有利にする意味もあるが、一番の目的はこちら側の出鼻をくじくことである。

 あれだけの力を見せれば、いくらルシアやシェイクといった大国でさえ迂闊には動けない。
 大国といえばすぐに軍事行動を取るイメージがあるが実は違う。

 国が大きいだけ既得権益が存在し、損害に対して非常に敏感になるのだ。
 仮に作戦が失敗すればどこの組織が補填するのかで揉めることになるだろう。

 シェイクの州制度と同じくルシアも植民地から兵を集めている。
 その多くは植民地の総督府が管轄する【辺境軍】に組み込まれ、その地域別に役割が与えられている。

 より迅速な動きが必要な場合は、正規艦隊よりも動かしやすい辺境艦隊が派遣される場合も多い。

 ただし、辺境軍が同植民地出身者で構成されているため、被害が多く出てしまうと後々問題になる。
 植民地は各有力貴族にとっても重要な資源であり資金源である。

 自分が懇意にしている植民地に被害が出れば経済活動にも大きな影響を与えるので、被害が前提となれば動きが重くなるのも当然だろう。

 今回の連盟会議において各国は正規軍を連れてきているが、それはそれで同じく難しい。
 正規軍ともなれば国の誇りを背負う存在である。

 仮に敗北すれば大きく名を落とすことになりかねない。
 それは単純なプライドだけではなく、後々の利益を損なう結果にもつながる。

 ナイト・オブ・ザ・バーンとドラグ・オブ・ザ・バーンと戦うだけで損害は間違いなく出るに違いない。
 加えてサカトマーク・フィールドが展開されているのだ。

 これもストッパーになっており、今は様子を見ようという気持ちが働く。
 ヒューリッドが出兵を渋った気持ちも国家運営の責任者としては当然のことである。

 しかし、これらすべてが一つのことを示していた。

 悪魔には五大国家すべてと戦う力がない。
 できれば【事が済む】までアピュラトリスに近寄ってほしくない。

 近寄ったら怪我をしますよ。どうせ手が出せないのですから、少し遠くから見ているくらいにしてください。

 そう言っているように見えるのだ。
 それはつまりもう一つの重大な事実を物語っている。

「もしかしたらなんですが、アピュラトリスあるいはアナイスメルって・・・この状態でもまだ侵入できるんじゃないですかね?」
 ハブシェンメッツの言葉に周囲の人間の誰もが驚きの表情を浮かべる。

 サカトマーク・フィールドは絶対防御。一度発動すれば誰も入れない。力付くでも一ヶ月はかかる。

 そう思っていた。【思い込まされて】いた。

 誰もがそう言っており、そう思っている。
 それこそが一番の効果であることを知っている人物がいる。

「カーシェル、どうなのだ?」
 ザフキエルはカーシェルに問いただす。
 知っている人物。それは当然ダマスカスの頂点に位置する人物であるはずだ。

「さて、どうだったかな。私は詳しくないな」
 カーシェルは首をさすりながら思い出すそぶりをする。だが、もう丸見えである。

 カーシェル自身が最初に奪還を提案したのだ。軍事力をもって奪い返すと。その言葉の意味そのものが現状を打開できることを示している。

 周囲の視線が強まる中、さすがのカーシェルも黙っているわけにはいかなくなる。

「わかったよ。白状するさ。方法はあるんだ。機密・・・なんて言ってももう意味はないしね」
 カーシェルはそう言うと、一人の青年、ヘインシー・エクスペンサーを呼ぶ。

「一つだけ弁解させてもらえれば、これを私が知ったのはついさっきだ。けっして隠していたわけじゃない。それは理解してほしい」
 それは事実である。カーシェルもまたすべてを知っているわけではない。彼は【あくまで大統領ふぜい】にすぎないのだから。

 悪魔が現れる直前、バクナイアとヘインシーがやってきて事の説明を始めた。カーシェルはそこで初めて事情を知ったのだ。

「では、時間もないことだし、続きは専門家から聞いてくれ」
 カーシェルはヘインシーにバトンを渡す。
 ヘインシーにマイクが付けられると、すべての人間の視線がヘインシーに集まる。

「ヘインシー・エクスペンサーと申します。技術次官としてアピュラトリスの管理を担っています」
 ヘインシーは軽く自己紹介をする。

 このような状況、このような面子の前であっても特に緊張は見られない。彼にとって重要なのは一つだけだ。
 普段は前口上の長い彼だが、今回はさすがにすぐに本題に入る。

「ああなってしまったアピュラトリスに物理的にはしばらく入れません。しかし、アナイスメルに侵入する方法はあります」
 この発言の意味を理解した者が、この場にどれだけいたかはわからない。

 多くの人間にとってはアピュラトリスとアナイスメルは同一の存在なのだ。ダマスカスの高官でさえそう思っている者は多い。

 そこはヘインシーも理解しているので、詳しくは話さない。話したところでバクナイアと同じ反応をするだろう。
 よって、ヘインシーはほぼすべての前口上を捨て、要点だけを述べる。

「アナイスメルに侵入し、強制コードを発動させてサカトマーク・フィールドを止める、あるいは一時的に停止させることができます」

 アナイスメル自体はアピュラトリスの内部にあるわけではない。

 言ってしまえば【次元】が違うのだ。

 それは人間の身体と同じ。肉体と霊体が同時に存在しつつも人間の目には肉体しか映らない。
 が、霊体はより高度な次元、高い波長においてはまさに肉体以上にしっかりと存在している事実と同じである。

 それと同じくアナイスメルはアピュラトリスの上位の存在である。そこから命令すればアピュラトリスに干渉することができる。

 アナイスメルにはまだ侵入できる余地がある。それは奪還作戦においての最大の希望ともいえた。

「アピュラトリス以外からもそのようなことが可能なのかい?」
 ベガーナンは素朴な疑問を発する。

 それも当然。そんなことができるならばアピュラトリスの意味がないからだ。
 アピュラトリスを守るのはアナイスメルを守るためである。少なくとも五大国家はそう認識している。

 そのためにわざわざあのような巨大な塔を建て、数多くの兵士を防衛にあてているのだ。
 もし違う場所からの干渉が可能ならば、そもそも守る意味がなくなってしまう。

「もちろんこれは非常手段です。しかも私にしかそれはできません」
 ヘインシーはここを特に強調する。
 ダマスカスの機密というだけではなく、実際にとても危険なことなのである。

 本来、アナイスメルへのダイブそのものが非常に危険なもので、アピュラトリス以外から行うのは【精神の死】を意味する。
 世間で一流といわれるダイバーが本気で挑んだところで失敗するのは間違いない。

 そもそも前提が違うのだ。

 もともと地上人の意識レベルではアナイスメルを感知できない。

 このアナイスメルという存在はもっと大きな次元に存在する別世界のようなもの。
 地上と重なりあっていながら、まったく異なる法則によって成立している異世界なのである。

 物質には物質の法則があり、精神には精神、霊には霊の次元の法則がある。
 それらが複雑に絡まって一つあるいは無限の現象を生み出している壮大な世界なのだ。

 雨が降るにしても自然界の明確な意図があって行われており、無駄なこと、無価値なものは存在しない。
 人間にはただ雲が流れ、たまたま降ったように思えるが、それは物的な視野で見るからそう思えるにすぎない。

 アナイスメルも同じである。
 最初から物的なものではないのだ。より精神的、より霊的な環境条件の中で、恐るべき演算システムによって成立している謎の世界。

 幾億という世界が混在する無限の世界において人の意識などまったくもって役に立たない。
 巨大な人の本質、霊の本質たるインディビジュアリティーをもってして初めて理解できるものであって、そのごくごく一面の個という存在では到底理解できるはずもない世界なのだ。

 ルイセ・コノがダイブするにしても制御室に細工をしなければならなかった。
 彼女ほどの腕をもってしても【命綱】なくしてあの巨大な世界に赴くことはできない。

 そして、ヘインシーもまた特別。彼もまた特殊なダイブが可能な【人種】である。
 そんなヘインシーだからこそ外部からのダイブもかろうじて試みることができるのである。

 ただし、それはまさに非常手段。

 塔の管理者としてさまざまな状況に対応できるように準備をしている彼であっても、できればやりたくないことである。
 最悪はそのまま戻ってこられない可能性もあるのだ。そこはまさに賭けである。

 そう、これによって違う前提が生まれる。

 そもそもアナイスメルは何ら隠された存在ではなく、【その気になれば誰もがダイブできる】ということ。
 しかし、そのほぼすべてがアナイスメルに囚われ、精神の死を迎えるだろう。

 それを防ぐためのものがアピュラトリス。いや、あの石版装置なのだ。
 あれが波長を一定に合わせるため、それを頼りに戻ってくることができる。それだけのことである。

 が、それだけのことが恐るべき重要性を持っているのだ。

「アピュラトリスからおよそ三キロの場所に私の私邸があります。そこに行けばアナイスメルに侵入することができます」
 ヘインシーは自分が塔の管理者であるのに【侵入】とは妙な言い方だと思った。

 だが、すでに主導権は相手側にある。ともすれば相手は【正統な所有者】と何かしらの関係があるかもしれない。
 そう考えると自分たちが賊になった気分である。

「座標位置を転送します」
 ヘインシーは私邸の位置をモニターに映し出す。
 そこは会議場から見てアピュラトリスのちょうど裏側にあった。

「ここにあなたを運べばよいのですか? それにしても場所が悪いですね」
 ハブシェンメッツは思わず顔をしかめる。

 最短距離で行くのならば間違いなく敵部隊と遭遇するだろう。
 どう見てもヘインシーは武人ではない。民間人を戦場に運ぶのは非常にリスクが高い。しかもこれだけの要人を運ぶとなれば難しい任務となる。

「彼はダマスカスが責任をもって運ぶ。その間、ルシア軍は敵を引きつけておいてほしい」
 カーシェルがそう付け加える。

(あまり知られたくない、ということかな)
 ハブシェンメッツはダマスカスがすべての情報を出したとは思っていない。

 当然、これは非常に重要かつ危険を伴う機密漏洩である。
 なぜヘインシーしか駄目なのか。具体的な方法は何であるのか。そうしたことは伏せておきたいはずである。

 実際、私邸というのも怪しいものである。
 おそらく他国には知られたくないさまざまな事情がある。それは間違いないだろう。

 その証拠にカーシェルの言葉にも有無を言わさぬ強さがあった。

「わかりました。その代わりダマスカス側からもいろいろと許可をいただきたいのですが・・・」
 ハブシェンメッツはそれ以上追及せず、まずはルシア軍のことに集中する。

 ルシアにとってもこの戦いは難しい。
 問題なのは敵MGだけではない。あの金髪の悪魔そのものである。

 ハブシェンメッツは悪魔が相当場慣れしていることを直感していた。
 幾多の死線を潜り抜けた者だけが持つ深みは、まるでアーマイガーと対峙した時のような緊張感に似ている。

 おそらくまだ隠し玉があるはずである。それに対抗するためには準備が必要だ。

「必要なものがあれば言ってくれ。何でも用意しよう」
 国防長官のバクナイアがそう明言する。今さら出し惜しみなどする必要もない。

 たしかにダマスカス軍は敗北したが。武器や道具はルシアやシェイクと比べても最新鋭のものばかりである。
 ユニサンたちでさえ、真正面から戦えば苦戦は免れなかった装備が山ほどあるのだ。これは大きな力になると思われる。

「こちらも同じこと。うぬの好きに使うがよい」
 さらにはルシア天帝からのお墨付きももらう。

 この場にいる護衛軍だけではなく、公海上には万一に備えてルシア艦隊が配備されている。
 ルシア一個艦隊の戦力はダマスカス陸軍を簡単に凌ぐ力を持っている。時間的な制限はあるが、これも大きな力になるだろう。

「一応言っておきます。僕はレスキュー隊じゃありませんが、よろしいですか?」
 ハブシェンメッツは改めてザフキエルに確認を取る。

 それはこういうことである。

 塔の中の人間を含めたあらゆる損害に対して責任は負えない。
 むしろ積極的に破壊するかもしれない、と。

 それに対するザフキエルの答えは当然ながらこうである。

「二度は言わぬ。何を使ってもかまわぬ。敵を排除せよ」
 その言葉にバクナイアは複雑な心境であったが、もはや指揮権はルシアに委ねられた。
 それはダマスカスの人々の犠牲もある程度覚悟するということである。

(まあ、駒の目は悪くないか)
 ハブシェンメッツの目には、すでに軍人将棋の世界が広がっていた。

 軍人将棋は遊戯用の簡易なものが一般的だが、マインドスポーツとしてプロが使うものには囲碁以上に複雑なものもある。
 戦術士養成学校においては授業の一つとして採用されており、知略を磨く道具として非常に有益なものである。

 実際の戦略士もまずはこの軍人将棋の要領で作戦を組み立て、多くのシミュレーションを行っている。
 むろん本物の戦場は将棋盤とは違う。そこにはさまざまな要素が入り交じり、人の意思さえも大きな力になる。

 ただ、この段階でハブシェンメッツが手に入れた駒はなかなか悪くはなかった。
 なにせルシアの正規軍を使えるうえに、限定的とはいえロイゼン神聖騎士団も使えるのだ。駒の質としてはどれも上質である。

「リストはすぐに回しますから用意をお願いします」
 こうしてハブシェンメッツの指揮下の元、アピュラトリス奪還作戦は始められることになった。
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