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十二英雄伝 作者:ぷるっと企画

零章 『世界が分かれた日』

30/64

二十五話 「RD事変 其の二十四 『アピュラトリス外周殲滅戦①』」

 †††

 アピュラトリス外周では、まさに衝撃の光景が広がっていた。

 ホウサンオーのナイト・オブ・ザ・バーンとガガーランドのドラグ・オブ・ザ・バーンは、互いに塔を逆方向に回りながら【纖滅】を開始。

 そう、纖滅である。
 たった二人。たった二機。だが、それが止められない。

 ナイト・オブ・ザ・バーンが一度長い刀を振るえば一気に百メートルが扇状に斬り裂かれていく。
 MGも戦車も関係ない。一撃だ。兵士たちはもはやその光景に戦意を失い、半数は逃げ出す。

 もう半数は果敢にも向かってくるが、対戦車ロケットはナイト・オブ・ザ・バーンに当たる気配がない。
 ナイトは比較的大きいタイプのMGで、こうして何十発も発射していれば一発くらいは当たるはずである。

 惜しいシーンはいくつかある。かすめるような瞬間もあるのだが、やはり当たらない。

「ほれほれ、さっさと逃げんか」
 ホウサンオーはそうした抵抗をあしらいながら、まるで蟻を追い払うかのように刀を動かして兵士たちに逃げるチャンスを与える。
 抵抗していた兵士たちも攻撃が当たらないことに恐怖を覚え始め、次第に散っていく。

「うむうむ、それでええ。無理に死ぬことはないからの。ワシも面倒がなくてよいわ」
 ホウサンオーが無用な殺生を嫌うこともあるが、もともとナイト・オブ・ザ・バーンは対人用に設計されているわけではない。

 長い刀はあくまで対MG集団戦用に用意されたものであり、地面を這いずり回る人間相手にはそもそも使いにくい。
 すでに黒神太姫の調整は終わりつつあるので、これ以上雑魚にかまうのは御免でもあるのだ。

(あまり弱い相手の癖をつけたくないからのぉ)
 いくら強い武人であっても弱い相手とばかり戦っていれば無意識にブレーキをかけてしまうものである。

 それはAIにおいても同じで、黒神太姫ほど高性能なものとなると【雑魚戦】に慣らすのはもったいないのである。

 本来ナイト・オブ・ザ・バーンは対特機用の機体であり、敵の中核戦力を叩く最強の剣の役割を果たすものなのだ。
 一騎当千の武人がいるならばともかく、この状況では本来のポテンシャルは発揮できない。

 こうした理由があり、ホウサンオー側の兵士は比較的高い生存率を維持できていた。

 だが、反対側のガガーランド側は、それこそ正反対の惨事であった。
 彼もまた誇り高い戦士であるが、そもそもの戦い方が違うのだ。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンが拳を地面に叩きつけると地鳴りとともに激しい衝撃波が大地を席巻せっけんする。
 三十メートルを超えるビルのようなMGが放つ一撃は、相手がMGであろうが人間であろうが、果ては樹木であろうが関係ない。

 一撃で彼を中心とした半径百メートルが吹き飛んでしまう。
 唯一無事なのはサカトマーク・フィールドを展開しているアピュラトリスのみである。

「弱い。弱すぎる。これでは慣らしにもならん」
 ガガーランドは不満そうに侮蔑の視線を周囲に送る。

 ナイト・オブ・ザ・バーンと違い、ドラグ・オブ・ザ・バーンにはMGと戦車の砲撃が直撃している。これだけ大きいとさすがに回避は難しい。
 それ以前にガガーランドは回避そのものをしていない。陸軍が放つすべての攻撃を正面からも背後からも受けている。それでもまったくの無傷である。

 この機体にもタオが付けた障壁が備わっており、その規模はナイト・オブ・ザ・バーンよりも上なのだ。

 ということは、現状のMGの中で【最強の防御力】を誇っているということである。

 しかし、ガガーランドはホウサンオー同様にその機能を切っていた。あっさりと切っていた。
 そんなガガーランドにタオから苦情が来る。

「やっ、こら。ドラグまで障壁切ったらいけないんだなー。しかも全部当たってるしね!」
 ホウサンオーは避けているからまだしも、ガガーランドは全部直撃をもらっている。
 それならば障壁を使ってもいいんじゃないのかねと言っているのだ。

 タオ当人は自分の作ったシステムの実証データが欲しいので必死である。陸軍に囲まれたこんなおいしい場面を逃す手はないのだ。

 だが、ガガーランドはあっさり断る。
「オレには必要ない」

「やっ、壊れたら直すのお姉さんなんだぞー。部品だって集めるの大変なんだな」
 オブザバーンシリーズの機体設計はタオがやっているが、部品などは各地の下町工場に発注していることが多い。

 輸送にはいくつものダミーやペーパーカンパニーを経由して最大の警戒をもってあたっている。
 経費はともかく時間という面ではかなり厳しい状況である。できれば破損は少ないほうがいいに決まっているのだ。

 そう、ラーバーンの技術はこうした小さな町工場まちこうばによって支えられている。

 当然ながら大手のMG企業に頼るわけにはいかないので、必然的にそうした相手になるわけだが、技術的にも彼らのほうが勝っていることが多い。
 彼らのような職人は口が堅く新しい技術にも関心がある。装甲に術式を組み込む新しい技術も彼らから考案されたものなのだ。

 そして、ラーバーン側からの発注は彼らにとって非常に価値あるものである。
 新しい技術、潤沢な資金を与えてくれ、自由に仕事をさせてくれる素晴らしいパートナーなのだ。

 シッポリート博士が手作業で作っているブラックボックスを除くオブザバーンシリーズの精密機器や装甲もまた彼らが製造を手がけている。

 手がけたのは【技術の国】として有名なグレート・ガーデンの町工場である。
 よってハムジェルクの感想は部分的だが正解していたといえる。

 グレート・ガーデンは非常に規制が緩く、ルシアの国家機密からそこらの三流テロリストの仕事まで簡単に引き受けてしまう。
 他の常任理事国からは規制強化を毎度打診されているがグレート・ガーデンは無視。

 なぜならば、それこそが彼らの強みなのだ。

 あの国には世界各国の技術が集まり、自由な発想と多様性が生まれる。
 それこそ技術の国が愛する力であり、最大の【売り】となる。

 結局、他の常任理事国も最高の技術のお世話になるしかなく、グレード・ガーデンは今日も職人や芸術家を好きにさせているのだ。

 悪魔が使っている戦艦ランバーロも賢人の技術を使っているが、組み立てたのは町工場の職人である。
 彼らの自由な発想、探求心がラーバーンを支えているといってもいい。

 といっても、やはり輸送には気を遣うので部品は貴重である。
 ラーバーンは明確な拠点を持たないのが強みである一方、それが補給には不利になることもある。

 と、こうして長々とタオが正論を言ってもこの男が聞くわけもないのだが。

「機械屋ふぜいがバーンの戦いに口を出すな。戦うのはオレたちの役割だ」
 そのガガーランドの言葉も正論である。
 むしろラーバーン内においては唯一絶対の【掟】に近いほど厳格だ。

 ラーバーンには役割が存在している。

 こと戦闘においてはバーンの意見と決断が最優先される。仮にメラキがいても最終決定はバーンが行う決まりである。

 主宰であるゼッカーはもちろん、序列が高い順に決定権が与えられている。
 この作戦においてはゼッカーの直接の命令がない限りは、序列二位のホウサンオーの意見が絶対的に優先される。

 それに次ぐガガーランドも然りである。
 造ったのはタオであるが、どう使うかはバーンの自由なのだ。

「なにをーーーー! MGがなければ戦えないんだぞー! もっとこっちに配慮するんだな!」
 というのはバーン側の言い分。
 タオはかまわず激高。技術屋には技術屋の言い分があるものだ。

「ふん、MGだろうが何だろうが武人の戦いに道具の優劣は関係ない」
 ドラグバーンの装甲は厚いうえにガガーランドの戦気が上乗せされている。これがあまりに強固ゆえに装甲には傷一つついていないのだ。

 通常、障壁なしでここまで強固な防御力は生まれない。
 まさに武人としての圧倒的な力量が反映されている希少な例であるといえる。

 さらにダイレクトフィードバックシステム、カノン・システムを起動させ、感覚を機体と共有していた。
 これはナイト・オブ・ザ・バーン同様、感覚、思考のすべてが機体とシンクロするので自分の身体のようにMGを扱える利点がある。

 ただし、感覚を共有するということは、【痛みさえも共有】することになる。

 仮に腕が落ちればガガーランドもそれと同じ痛みを感じることだろう。

 それは錯覚ではあるが神経をジュエルモーターとつなげているので実際の痛みとなり、その痛みが現実に肉体を損傷させる。
 人の精神とはそれだけ強い力を持つのだ。

 なぜならば肉体は精神の道具であるからだ。

 戦気そのものが精神の強さの表れである。
 これだけの強い戦気を生み出すガガーランドの精神力が強くないわけがない。

 並外れているのだ。桁が違うのだ。

 その圧倒的な戦気の量はホウサンオーすら上回る。いや、バーン最強である。
 おそらく彼は休みなく一年間戦い続けることができるだろう。精神が完全に肉体を制御してしまうので、寝る必要もなく食事も必要ない。

 ただただ圧倒的なのだ。精神そのものが彼そのものでもあると言えるほどに。
 それがドラグ・オブ・ザ・バーンの力をさらに引き出しているのは間違いないだろう。

(タオが天才だというのは認めるしかなかろう。出来は見事なものだ)
 ガガーランドは道具の優劣は関係ないとは言ったもののドラグ・オブ・ザ・バーンの出来には感嘆していた。

 優れた演奏家はくたびれたウクレレであっても良い演奏ができるが、超一級品のバイオリンであったほうが最高の曲が弾けるのは当然のこと。
 優れた武人に優れたMGを与えてこそ意味があるのだ。それでこそ名機なのだ。

 オブザバーンシリーズは、ゼッカーがガネリア動乱で使用していたアンバーガイゼル【杭打ちの悪魔】の技術を受け継いだ機体である。
 その中枢の構築においてはアンバーガイゼルを造ったシッポリート博士の協力を受けたものの、その他の動力とフレーム設計はすべてタオがやったものだ。

 その腕、まさに天才的。
 その発想、まさに狂乱的。
 孤高の芸術家と呼ぶに相応しいセンスである。

 彼女のような人間を評価してこなかった五大国家は大きなミスを犯したとしか言いようがない。
 ガガーランドでさえ、もしタオが敵側に回ったと思うと嫌なものである。変人ではあるが、それだけの逸材なのだ。

 こうした天才が集まって生まれたのがラーバーンなのである。
 当然、ガガーランドもまた【異端中の異端】なる存在だ。

「痛みだ!! オレに痛みを与えろ!! 生きている証を与えろ!!!」
 ガガーランドは【痛み】を欲している。
 戦いとは痛みあってのもの。殴る側に痛みが伴わない戦いは邪道であると考える。

 だからこの戦いにも不満を感じていた。
 誰一人として自分を傷つけないのだ。
 傷つけてくれないのだ。

 ドラグ・オブ・ザ・バーンから膨大な戦気が放出され、TJMトライジュエルモーターの出力が上がっていく!!

「やっ、気をつけるんだな! ドラグのTJMは試作機の三十倍の出力なんだぞ!」
 オブザバーンシリーズを造るためにはいくつもの試作機を開発しなければならなかった。

 彼女が考案したトライジュエルモーター、簡単に言えばジュエルモーターを三つくっつけるものなのだが、これが非常に厄介であったのだ。

 一つは、パワーが強すぎること。

 試しにジンクイーザに付けて出力を最大にしたらバラバラになってフレイマンに五時間に渡って小言をネチネチ言われた件について。
 まだ最大出力では安定しない欠点もあるので怖い。

 二つ目は、パイロットへの負担が大きすぎること。

 試しにロキを乗せたら圧力で死んでしまって、その後に他のバーンがまったく協力してくれなかった件について。
 ゼッカー本人にも乗ってくれとお願いしたがザンビエルが本気で怒ったので「なんだ、あのハゲジジイめ」とか思った。

 三つ目は、ジュエルの消耗が激しい点。

 すぐジュエルが壊れるので高品質のアグマロアをこっそり持ち出して使ったら爆発して格納庫で変な生き物が大量発生した件について。
 よく見たらゴキブリがアグマロアの力で巨大化したもので、リアルテラフォーマーだ!とか思った件は懐かしい。

 さらに他のジュエルでもすぐに壊れたのでゼッカーのバルス・クォーツ〈星の記憶〉を盗もうとして怒られた件はトラウマだ。

 タオがゼッカーに夜這いを仕掛けたと護衛のシルキュラに勘違いされ、マジで殺されそうになった。
 いまだに思い出すとちびりそうになる。あの女、冗談が何一つ通じない。恐ろしいやつ。

 問題点の一つ目のパワーが強すぎる件は、装甲の強化と機体の大型化によって克服した。
 それでも通常のMGの三倍以上の大きさになったので正直運用面では使い勝手が悪い。
 ミユキとマユキの転移でさえ送るのが苦戦したので、いつかは規格そのものを見直す必要があるかもしれない。

 二つ目の問題はガガーランドが来たことで解決。
 それまでは頑丈なガルベスを騙して乗せていたが、乗るたびに口から血を出すのが正直怖かったので助かった。
 毎回「口から血が出るのは健康な証拠」と嘘を言っていたタオも心苦しくなっていたので良かったと思った。

 三つ目の問題は耐久性の強いテラジュエルを見つけてもらって(二つは人様のものを盗んで)解決。
 ただ、最初は組み合わせを間違えてエネルギーが逆流したためドラグ・オブ・ザ・バーンでさえ吹っ飛んだという苦い経験がある。

 その際、ランバーロの格納庫にも穴が開いたのでめちゃくちゃ怒られた。
 しかも巻き添えをくらって穴から落ちたキースがいないことにしばらく気がつかず、その後砂漠に放置していた件が発覚。

 あとですごいキースにキレられた件もいまだにトラウマである。なにあのチンピラ、うざいと思う。

(ああ、がんばったよ。私、がんばったんだな)
 タオは製造の大変さを思い出して思わず涙を流す。
 このように文字通りタオの涙ぐましい努力によってようやく完成した機体なのだ。

 ただし、その苦労に見合うほど【超危険なMG】になってしまったのだ。

 TJMは正直まだ実験段階である。ジュエルの組み合わせ次第では無限の可能性を秘めているものの安定性と耐久力には難があるのだ。

 試作機が簡単に吹っ飛んだことからも暴発した際の威力は想像を絶するだろう。
 タオとしてはデータが欲しい反面、できれば少しずつ出力を上げていってほしいなーと思っていた。

 願望である。
 希望である。

 しかし、ガガーランドが聞くわけがないのである。
 所詮願望は願望のままでしかない。

 この戦う以外に何の取り柄もない男にそんなことを言っても無駄なのはわかっていた。
 だからバーンなのだから。

「いやぁぁあああ! やめてぇええーーー!」
「雑魚は消えろ!!」
 タオの叫びむなしく、ドラグバーンの拳が三倍に膨れ上がった。
 戦気があまりに強固で膨大なため、実際にMGの手が肥大化したように見えたのだ。

 それを大地に叩きつける!!

 大地が割れ、戦気のマグマが爆発しながらアピュラトリスの外周を回っていく。

 局地的な天変地異が起きたかのごとく、ダマスカス陸軍の部隊は次々と爆発に呑まれて消えていった。
 わずかに戦気の欠片が触れただけでも人間程度ならば消し飛ぶ威力。痛みがなかったのはせめてもの幸いだろうか。

「うぁあ、足がぁーー!」
「腕が・・・俺の腕がぁあ」

 そこら中で余波に巻き込まれた兵士たちがのたうち回っている。誰もが痛みに苦しんでいた。
 だが、ガガーランドにはわからない。

「わからん。なぜ痛みを怖れる?」
 周囲から発せられる恐怖の感情、痛みを怖れる感情はガガーランドを不快にさせる。
 痛みこそ彼にとっては至福なのだから。

「ゲート、開きます。衝撃にご注意ください」
 ダマスカス軍を圧倒する二機にマレンから連絡が入る。
 同時にゲートが解放。

 始めに落ちてきたのは衝撃爆弾、DP5であった。
 本来の使い方はあらかじめ設置しておき、敵が来たら爆発させるものであるが、現在は直接ゲートから投下している。

 DP5の特徴は、爆発力が通常の爆薬を圧倒している点だ。
 むしろ爆薬が強すぎるのが難点であり、安定性にも欠け、製造中や輸送中の事故が相次いで兵器としては失敗作の烙印を押されたものである。

 が、こうして転移させてしまえばあとは爆発させるだけであるので、攻撃する側としては非常に都合がよい。
 特にこうした大多数の敵を相手にする場合、受ける側にとってはまさに脅威である。

 DP5は二機から逃げまどう兵士たちを狙って落とされる。
 ちょうどアピュラトリスから多少離れた地点、転移がギリギリ可能な場所に落とされた。

 爆風はすさまじく、まるで火山の噴火である。
 巨大な竜巻に小さき人間たちが呑まれていくかのように一瞬で人を殺していく。

 それを見た兵士たちはパニックに陥り、中にはアピュラトリス側に逃げる者たちもいた。
 しかし、彼らをまた悲劇が待ち受ける。

 次に転移してきたのは、そんな彼らを一瞬で押し潰す悪魔の兵器、巨大MGリビアルⅡである。
 リビアルは巨大な砲台を装備した全長五十メートル、全高二十メートルの対戦艦用のMGだ。

 その巨体のリビアルが兵士たちの上に落下。容赦なく踏み潰す。
 それから砲撃を開始し、手当たり次第に周囲の動く物を破壊していく。遠方にあったビルもあっけなく倒壊。

 そのリビアルの隙間から次に降り立ったのは、あの悪魔の兵器バイパーネッドだ。
 バイパーネッドはまさに悪魔の兵器そのものであり、人を殺すためだけに造られた殺戮機械である。

挿絵(By みてみん)

 リビアルが打ち漏らした敵をバイパーネッドはダブルガトリングガンで完全排除していく。
 そのコンビネーションは完全なる統一の上で行われており、誰一人として逃さない。
 気がつけば周囲は一瞬で血の海、焼け焦げた跡である。

 リビアルもバイパーネッドもガネリア動乱で投入された機体である。
 【代理悪魔】であったテベス・ローグが生み出した殺戮マシンは、当然の流れとして今や本物の悪魔の手に渡ったのだ。

 正当な所有者たる金髪の悪魔へと。

 色は両者とも黒に変更されており、禍々しさが増しているが、当然中身も変わっている。
 もともと賢人の技術が入っていた機体が、現在はさらに強化され出力は二倍となっている。

 こうしてアピュラトリス外周には次々と悪魔の軍勢、ラーバーンの機体が投入されていた。

 マザー・モエラの起動によってアピュラトリス側に門の出口が作られたおかげで、ミユキとマユキの能力である大転移はさらに強化されることになったのだ。

 ただでさえあらゆる障壁を超えて転移できる反則級の能力であるのに加え、今は大型MGを含めたあらゆるものを転移可能である。
 これはすべてアナイスメルの演算能力によるものである。今はそれを流用しているので負担も非常に少なく済む。

 投入された機体数は両種含めて五十。ほぼすべてが【無人機】であった。
 この動きの完全なる統一感は機械でなければ不可能である。

 ただ、MGを無人で動かすことは可能であるが、そうしてしまうと本来の【強い武人が乗れば乗るほどMGも強くなる】というコンセプトが揺らぐ。
 それでは戦術的価値が下がり、通常の戦車などを運用したほうが効率が良いことも多い。

 本来ならばそうである。
 しかし、ラーバーンの機体は特別だった。

 降りるや否や、周囲にいる敵を圧倒的な力で排除していく。
 それがMGのハイカランであっても関係ない。的確な攻撃によって次々と撃破していく。

 ハイカランも応戦はしていた。マシンガンを撃ち続けていた。それでもまったく歯が立たないのだ。
 恐るべきことにそのすべての銃弾がバイパーネッドの射撃によって完全に撃ち落とされていたからである。

 そして隙が生まれたところにリビアルの砲撃を受けて、ハイカランはあっけなく撃墜される。
 あまりに無力。あまりにあっけない。アミカが虐殺だと言うのも無理はない。まさにそうなのだから。

 なぜ無人機がこれほど強いのか。
 並とはいえ武人が乗った高品質MGを圧倒できるのか。

 その理由の一つが【彼】であった。

「オロクカカ、ただいま参上いたしました」
 まるで蜘蛛のような八つ足の機体が舞い降り、偉大なるホウサンオーとガガーランドに頭を垂れる。
 下半身が蜘蛛、上半身が乙女を模した人型という異様さが戦場では際立つ。

「ふん、いらぬ真似をする。このような雑魚など我らだけで十分よ」
 ガガーランドは不満そうに増援である蜘蛛型の黒い機体【ヘビ・ラテ〈禍津蜘蛛まがつくも〉】を睨む。

 ヘビ・ラテに乗っているのはオロクカカと名乗った男。彼もバーンである。
 彼の能力によって無人機は通常の無人機を超えるものとなっていたのだ。

 無人機は彼の統制下にあり、そのすべての状況を同時に把握できる。
 無人機の判断が適切でなければ瞬時に情報を送って修正できるシステムがヘビ・ラテには組み込まれている。

 いわば頭。

 手足の無人機の司令塔がオロクカカとヘビ・ラテなのだ。
 それによって無人機であってもあらゆる状況に対応ができる。

 また、機体は限定的であるが彼の戦気も送って強化されている。その意味においては完全なる無人機とは呼べないかもしれない。

 だが強い。
 機体だけではなくオロクカカも特別である。

 これだけの数を同時に制御しているのに当人はまるで涼しげな顔をしている。
 その情報処理能力はAI以上だというのに平然とこなしている。

 戦気の量も並外れている。もし並大抵の武人が同じことをしようとすれば、ものの数秒で戦気を失いすぎて昏倒してしまうだろう。

 だが、オロクカカにとっては造作もないことである。
 どの程度の出力にするかによるが、数だけならばこの数倍、二百機程度は問題ない。

「申し訳ありません。しゅ様のご命令でありましたので」
 ガガーランドにとっては無人機という存在そのものが気に入らないのだ。痛みを感じない【人形】自体を侮蔑しているのだから仕方ない。

 しかし、オロクカカは喜悦の感情を感じていた。
 バーンにとって悪魔に従うことは喜び。この世界に構築された過った人のシステムを破壊するために集まった【悪魔の手足】なのだ。

 ようやく出番が来た。名前が呼ばれた。
 【下位バーン】のオロクカカにとってはまさに光栄極まりないことなのだ。
 一介の騎士にすぎない者が【王】に直接使命を授けられるようなものである。

 これが喜びでなくて何であろうか。
 こうしている今もオロクカカは喜びに打ち震えていた。

「面倒なことは任せるぞい。それよりユニサンたちの機体は持ってきたかの?」
 対するホウサンオーはオロクカカを歓迎する。もう完全に飽きたらしい。
 それよりもホウサンオーはユニサンを気にかけていた。
 あの状態では寿命もそう長くはない。ならばせめて戦う道具を与えてやりたいと思うのは同じ武人としての情である。

「心得ております。ドラグニア・バーンが転移される予定です」
 オロクカカの言葉とほぼ同時にユニサンの位置を算出し、その場に転移された機体がある。

 ドラグニア・バーン。
 ドラグ・オブ・ザ・バーンが生まれる前にタオが試作機として作ったものを今回の作戦用に改修した機体である。
 いわばドラグバーンの弟。獣竜の系譜を持つ機体である。

 爆弾の投下の連絡を受けた段階でユニサンとロキ二人は下がり、待避していた。
 そこに漆黒の小竜、ドラグニア・バーンが舞い降りる。同時にロキ用のガヴァルⅡも転移される。

「おお、これが・・・バーンの機体! なんと凛々しいのだ!」
 ユニサンはあまりのたくましさと美しさに感嘆の声をあげた。

 ドラグニア・バーンはドラグ・オブ・ザ・バーンとは異なり、サイズは半分ほどである。
 それでも一五メートルはあり、ハイカランが子供に見えるほど大きい機体だ。

 姿は四肢を持った人型MGであるも頭部から背中にかけては人とは異なる獣竜のデザインが施され、まさに竜人といった様相の容姿である。

 完全にタオの趣味である。
 ヘビ・ラテのデザインほど奇抜ではないにしても、このあたりが彼女の独特の美術センスを感じさせるところである。
 ただ、ユニサンも称賛しているので、この男の美術センスも若干怪しい。

「ドラグニア、これが俺の機体か」
 ユニサンはドラグニア・バーンに乗り込む。
 本来ならばけっして乗ることができないもの。触れることすら許されないMG。
 バーン、人を焼く者にしか乗ることができない誇り高い機体なのだ。思わず心が高鳴るのも無理はない。

「小僧、並の覚悟で乗れば機体に喰われるぞ」
 ガガーランドは機体に乗り込んだユニサンに忠告する。

 これはロキすら圧死してしまった機体なのだ。
 あのタオが人間の痛みなど考えずに、とりあえずやりたいことをやるために造った無茶な試作機である。
 まさに命をかけなければ乗れない代物であった。

「ありがたき幸せ。全身全霊をもって挑ませていただきます」
 今のユニサンならば操れる。この般若の身体ならば耐えられるのだ。

 これが彼に与えられた褒美。
 こうしてバーンの一員として迎え入れられることは、ラーバーンに関わる武人にとって最大の名誉でもある。

 だが、同時に【痛み】でもある。

 痛みを知らねばバーンにはなれず、真の意味で人を焼くことはできない。
 ユニサンが味わってきた痛みはそれに相応しい。

「この痛み! ドラグニアよ、共に道を開こうぞ!!!」
 ユニサンのドラグニア・バーンとロキに与えられたガヴァルⅡが駆ける。

 目の前には戦車の群れ。それはまるで突然の天災から逃げまどう哀れな弱き人間たちに見える。
 これも自然と同様、人間が自ら生み出した【害悪】であった。

 人が愚かであったために起こった自然の成り行き、法則!
 怒りの鉄槌である!

「砕けろ!!」
 ドラグニア・バーンの拳が膨れ上がる。
 当然ガガーランドには及びもしないが、強力な戦気によって強化された拳が地面に叩きつけられた。

 放たれた拳衝の威力はユニサンの戦気を上乗せし、恐るべき力へと変わっていった。
 大地を走る拳衝が十数両の戦車を吹き飛ばしていく!

 暴力。圧倒的な暴力がここにある!

「なんと・・・! 今まで乗ったどのMGよりもすごいぞ!」
 ユニサンは自分がその機体を動かしていることに半信半疑であった。
 夢にまで見た高級スポーツカーを手に入れた平凡なサラリーマンの心境である。

 その加速、馬力、感受性、どれもが今までのMGを凌駕している。
 般若の身体を手に入れた時も驚いたが、その身体を全力で動かしても当たり前についてくる黒い小竜に驚きを隠せない。

 ガヴァルもまたガネリア動乱の頃よりも強化されていた。
 ドラグニア同様、パイロットがロキとなったぶんだけ負担を考えずに出力を上げることができる。
 現在では動乱当時のジンクイーザ並みの出力を誇っている悪魔の道具である。

「ふっ、小僧の玩具にはちょうどよさそうだな」
 ガガーランドにしてみればユニサンなど幼児のようなもの。玩具の車に乗って遊ぶ姿が妙に微笑ましい。

 それでも彼らのような存在がラーバーンを支えているのだ。
 独りでは戦えないことをガガーランド自身はよく知っていた。

(ゼッカー、悪魔か。このオレすら道具にするあいつだけが世界を焼ける。すべてはこれからか)
 今頃ゼッカーは会議場において各国首脳陣と渡り合っている頃だろう。

 金髪の悪魔でさえ独りでは戦えないことを知っている。【数の力】を知っているのだ。そして、【個の力】を熟知している。
 すべてはゼッカーの意のままに動く。ただし、それもすべては彼の頭脳を実現できる道具あってのことである。

(バーンの役割は簡単よ。所詮、力は力であることに変わりはないのだ。だが、ゼッカーのやつのほうが面白いのは間違いない)
 ガガーランドも異端である。むしろゼッカーより遙かに異端の存在であるといえよう。

 なにせ、ガガーランドはもはや人間でさえないのだから。そしてゼッカーもまた大きく変わってしまった。
 そんな異端な鬼を従える者の名が悪魔である。その構図も面白いと思える。


「むっ・・・」
 纖滅戦が順調に進んでいたと思われたそんな時、オロクカカの気が乱れ、ヘビ・ラテの八本足の一つが大きく上がった。

「どうしたんじゃ?」
 それに気がついたホウサンオーがオロクカカに問う。

「リビアルが一機、落とされました」
 すぐにオロクカカは【戦糸せんし】から情報を集めながら報告する。

 無人機には肉眼では見えない戦気で練られた糸がついており、ヘビ・ラテとつながっている。
 特殊な電波も使っているが、最優先されるのはこの戦糸の情報のやり取りである。
 だからこそ電波障害が起こっているこの状況でも完全なる伝達が可能なのだ。

 落とされたリビアルは塔の南西に配置した機体である。それが撃墜されたことがわかる。
 リビアルは強化されている。そこらの戦車の砲撃を浴びたくらいでは簡単に撃墜されないし、その前にオロクカカが対応するだろう。

 となれば、リビアルは【瞬時】に撃破されたことになる。
 オロクカカが対応するよりも早く、迅速に処理されたのだ。

 そして、異変はさらに広がっていった。
 一機、また一機と無人機が潰されていく。リビアルに続きバイパーネッドも二機ほどやられたようだ。

「敵のMG部隊が南西から突入してきます。数およそ三十余り。該当機体情報はありません」
 マレンが新たなMG部隊の出現を報じる。照合したが機体の情報はなかった。

 ラーバーン側はダマスカスの情報をかなり高いレベルで取得している。
 SSSトリプルエスである最高機密のアピュラトリスに関しても情報を得ていたのだ。ダマスカスの機体情報もほぼすべて持っている。

 だが、そこに該当する機体はない。
 唯一わかっているのは機体がダマスカス側の識別を出していることであった。

「ほっほ、敵さんも新型かい。こりゃお披露目合戦じゃな」
 ホウサンオーは痛快に笑う。
 この場はラーバーン側にとってのお披露目。悪魔とその配下の力を見せつけるための展示会場のようなもの。
 当然、観客は世界のトップたちである。

 が、それは何もラーバーンだけに限ったことではない。ダマスカス側にとっても威信をかけた戦いなのだ。
 ハイカランにしても量産型としては高品質である。各国のMG企業にとっては非常に興味深いものだ。

 では、量産型の次は何か。


 【特機】である。


 ゼニスブルーに統一された機体が駆けていく。
 手足のスマートな曲線のフォルムは特殊部隊が装備するアーマーに似ているが、もっとたとえるならば甲冑を着た騎士に近い姿である。

 武装は前衛は対MG用高周波ブレード、後衛は一二八ミリ特殊弾を発射できる大型レールガン。
 この二つの武装はまだ実験段階であり、実戦投入はこれがMG史においては初である。

 その成果は上々である。
 高周波ブレードはリビアルの足すら切り裂き、レールガンは中距離からでも分厚い装甲を貫いた。
 この威力にさすがのバイパーネッドですら迎撃はできなかった。それによってバイパーネッドも比較的安全に撃破できた。

 その特殊な部隊の中で、先頭を走る五機はまた特別であった。
 鮮やかなターコイズの色合いで、形状も他の機体とは異なり、大きさも一回り上のサイズである。

 その中の一機、指揮官機として特別に頭部につのが生えた機体、ゼルスワンのメイクピークが命令を発する。

「臆するな。この機体ならば十分対抗できるぞ! 進め!」
 ダマスカス陸軍の通常装備では到底ラーバーンに対抗はできない。
 彼らは特機なのだ。特別に用意された特別な存在なのだ。

 ならば答えは一つ。

 【特機には特機を当てて砕く】。これが一番である。

 ゼルスセイバーズとは、そのために組織された戦力なのである。通常の相手ではなく、手に負えない怪物が現れた時に真価を発揮する刀なのだ。

「隊長のやつ、今日はやる気みたいだぜ」
 ゼルスワンのすぐ後ろを走るゼルスツーには、クウヤ・ブラウンズが乗っている。

 階級は小尉。年齢は二五。茶髪パーマとサングラスに加え、ガムを噛みながら操縦と、実にフリーダムである。
 機体は一目見ただけで攻撃特化型だとわかるほど、ひときわ長い剣を持っている。

「ついに我らの出番が来たのだ。当然だ」
 他の機体よりさらに大型のレールガンを両肩に装備したゼルススリーには、ドミニク・ナガノーダン。

 このチームにおいて四十二歳のメイクピークに次ぐ四十歳の年長者である。
 階級は大尉、ゼルスセイバーズのサブリーダーを勤めている射撃のプロである。

「へっ、どうかな。焦ってんじゃねえの? なんか殺気立ってたしな。俺はそっちのほうが楽しいけど」
 クウヤはパーマのかかった茶髪を掻き上げながら、お気に入りのロックバンドの中でもさらにハイテンションの曲を流す。

「クウヤ、うるさいよ。こっちにまで聴こえるじゃないか。少しは辛抱しな」
 両腕がまるで岩塊のように膨れ上がったゼルスフォーに乗るのは、紅一点のステヤ・M・コウラン。

 階級は中尉。出産を契機に軍を抜けていたが、メイクピークの誘いによって復帰した三十二歳の女性である。
 女性とはいえ戦士なので、このメンバーの中で一番腕力が強い。

「うっせえな。俺は自由にやるのさ。なあ、隊長、いいんだよな? 好きなだけ殺してもよ!」
 クウヤはメイクピークに馴れ馴れしく話しかける。
 階級はメイクピークが大佐でありクウヤは小尉。軍において本来ならばありえないことである

 が、このゼルスセイバーズでは問題ない。

「結果を出せ。結果を出すなら好きにしろ」
 メイクピークは常にそう言い続けている。
 結果。明確な結果。上層部が頷くしかないほどに結果を出せばいいのだ。

 軍の力が必要なのだと。
 ダマスカスを守るためには戦力が必要なのだと。
 かつてよりこの国にある武こそが、富を守る力であると、これでもかとわからせる必要がある。

「見ろ、富の塔が燃えている。ここから先は武だけが物を言うのだ!」
 正直、メイクピークは怒っていたが、それと同じくらい相手に感謝もしていた。

 ゼルスセイバーズはまだ小さな組織である。
 集めた隊員は百五十名程度で与えられるMGも五十機に満たないなど、各国騎士団の特殊部隊と比べるにはあまりにも恥ずかしい数である。

 ルシアなど第二騎士団の特殊部隊でさえ三十に及ぶ数があり、その一つ一つが最低でも数百から千名単位で構成されている。
 それらが全員プロフェッショナル。誰も彼もが軍の中から選ばれたトップクラスの武人なのだ。

 それでもメイクピークの努力によってここまで集めたのだ。
 数こそ少ないが質は高い。それは同じことである。
 このクウヤにしても気に入らない上官を平気で殺すような落伍らくご者だが、強い。ただ強い。

 強さこそ、ゼルスセイバーズにおける正義である。

 当然、それだけではまとまらない。
 今はメイクピークという存在が全体を唯一支えている大きな要素である。
 彼という軍における異端であり一つのカリスマが存在するからこそ成り立つ組織であるのは間違いない。

 皮肉なことに、それもまたゼルスセイバーズが完全には認められない要素の一つではある。
 武闘派のメイクピークは他派閥から警戒されてもいるのだ。いつ牙を剥くかわからない相手に力を与えるのは危険であると思われている。

(今はまだ、ただの刀。されど必ず巨大な力にしてみせる)
 それがメイクピークの野心であった。
 それこそ最低でもロイゼン神聖王国と同レベルの騎士団を形成することが彼の夢なのだ。

 すべてはダマスカスを守るため。
 本来あるべき姿に戻すためである。

 だから感謝しているのだ。これほどの大事件がなければ上層部を説得することなどできはしない。
 圧倒的な力でダマスカスを蹂躙している相手がいるからこそ、対抗手段を訴えられるのだ。

 これは千載一遇のチャンス。
 もう後がないメイクピークには絶体絶命であり、最大の好機である。

「手段は問わない。必ず破壊しろ!!」
 ここであの黒機を倒せば、ゼルスセイバーズの評価は上がるだろう。
 今はバクナイアしか味方はいないが、いずれ皆もわかる。今がその時である。

「へへっ、今の隊長は最高だぜ。これが俺が求めていた理想の職場ってやつだ」
 クウヤは上機嫌である。ようやく思う存分剣を振るえるのだ。今までの訓練とは違う緊張感を味わっていた。

「侮るんじゃないよ。相手は間違いなく強力な武人だ。普通にやって勝てる相手じゃないからね」
 ステヤが軽い気持ちのクウヤを戒める。
 誰が見ても相手は普通ではない。他の常任理事国のトップ騎士団と正面から戦うくらいの気持ちでなければ危ないのだ。

「いちいちうるせーな!! っと!!」
 クウヤはメイクピークのゼルスワンを追い越して長剣を構える。

 残骸の陰から出てきたのは殺戮機械のバイパーネッドである。
 バイパーネッドはダブルガトリングガンを掃射。今までの相手ならばこれで倒せていた。粉々である。

 しかし、このゼルスセイバーズは通常の軍隊ではない。乗っている機体も武人も並ではない。

 クウヤは長剣を使ってガード。その後ろにいたメイクピークたちもすぐさま回避運動を取る。
 多少被弾するも装甲の厚さでさしたるダメージにはならない。

 だが、バイパーネッドの武装はダブルガトリングガンだけではなく、その両腕のソードの攻撃も実に恐ろしい。
 機械的な正確さと素早さをもって一瞬で敵MGを切り刻むキラーマシンなのだ。

 その冷酷な刃がクウヤに向かって降り下ろされる!

 しかし、クウヤは動じない。

「踏み込みが甘いのさ!」
 クウヤは長剣を構えると、恐るべき速さで剣を振るう。
 その一撃は大きな弧を描き先に振り下ろしたバイパーネッドのソードをたやすく弾く。

「非力だねぇ! 大事な胸ががら空きだよ!」
 そして回転しながら必殺の一撃を胸部にたたき込む。
 メキメキと巨大な鉄塊がバイパーネッドに食い込み、そのまま破砕した。

 速い。そして強力。
 相手の緻密で正確な一撃を、ただただ攻撃力で押し切ったのだ。

 長剣型高周波ソード【ザンギリ】。

 他の一般の機体が装備している高周波ソーードよりも帯広で重さも二倍以上ある。
 それだけ強く、攻撃に適しているともいえるが、あまりの使いにくさから現在使えるのはクウヤだけである。

 高周波ソードはただ当たるだけではなく、振動波によって切断のほかに破砕の効果も与える武器である。
 こうして一発で切断までいけない場合は、ある意味では破砕鈍器としての使い方もある。

 というのは後付けであり、単にクウヤが適当に振り回しているだけであるが。

「どうだ。こんなもんさ!」
 クウヤ・ブラウンズが勝ち誇る。
 たしかに彼にはそれだけの資格があるだろう。この凶悪なバイパーネッドを真正面から叩ける武人がどれだけいるだろうか。

 問題はある。この男の素行はひどく問題がある。
 常に戦っていないと精神が安定しない男で、定期的に誰かを殺していないと発狂する殺人狂である。

 彼がいつ刑務所送りになっても仕方ないと思うし、死刑になっても当然だとも思うだろう。

 しかしだ。

(天才だな)
 メイクピークは紛れもなくクウヤが戦闘の天才であることを知っていた。

 彼が発狂しそうになれば、時間があるときはメイクピークが剣の相手をしていたし、どうしても駄目な場合は海外の戦場に連れていくこともあった。
 時には非公式で死刑囚の死刑執行をやらせたりもしていた。むろん、相手には武器を持たせて、である。

 そんな危険な男を飼う価値は大いにあった。
 今日という日のために彼は生かされてきたともいえるのだ。

 だが、パイパーネッドは悪魔の兵器。この日のために用意された完全なる殺戮機械なのだ。

 ガゴン。胸を破壊されたバイパーネッドが倒されかかった姿勢を制御し、クウヤの機体にガトリングの照準を定める。

 MGの胸部には通常コックピットブロックが存在する。そこを砕けばたいていのMGは停止するはずだ。

 中に人が乗っていれば。

 しかし、バイパーネッドは無人機である。最初からコックピットブロックなど存在しないのだ。
 人を殺すことに慣れていたクウヤには、それが若干の狂いとなってしまった。

「なに!」
 クウヤは気配を感じ、とっさに長剣で胸部を防いで必死に防御の構え。
 そこにバイパーネッドがガトリングガンを発射。

 防御したとしてもかなりのダメージは覚悟しなければならない間合いである。
 だが、ガトリングガンはクウヤには当たらず、機体の数メートル右に逸れていった。

 クウヤの視界には、刀を抜いたゼルスワン、メイクピークが操る機体がバイパーネッドの肩を粉砕しているのが見えた。
 ガトリングガンが備え付けられている肩を正確に破壊したのだ。それによって射線がずれた。

 そして間髪入れずにゼルスフォーのステヤが頑強なナックルでバイパーネッドを殴りつける。
 スピードに乗った強力な一撃は頭部を破壊しつつ吹き飛ばす。それでもまだバイパーネッドは動いている。

「ドミニク! 下腹部だ!」
 メイクピークの言葉に、すでに大型レールガンを構えていたドミニクが反応。
 バイパーネッドの下腹部に一五八ミリ爆砕弾を打ち込む。

 着弾と同時に爆発。バイパーネッドの下腹部は破壊され、上半身と下半身がちぎれる。
 これは貫通ではなく爆砕と衝撃を目的とした弾であり、装甲が厚いMGにも有効である。
 バイパーネッドにはパイロットがいないが、もしいれば衝撃で気絶あるいは死亡していただろう。

「カゲユキ! 捕縛だ!」
 そしてゼルスファイブに乗っている寡黙な青年、カゲユキが電磁ネットを放出。上下にちぎれたバイパーネッドを包み込む。

 電磁ネットは捕縛用の支援武器で、放出される強力な電磁波によって機器をショートさせることができる。
 バイパーネッドが万全の状態ならば防御されてしまうが、ここまで破壊されていれば防がれる恐れはない。

 こうしてバイパーネッドは捕縛される。

「散会! 油断するな! ステヤ、シールドの準備だ!」
 が、ゼルスセイバーズはすぐに近寄らない。メイクピークは万一に備えてステヤに命令を出す。

 案の定、その直後にバイパーネッドは【自爆】。巨大な炎とともに対戦車用の散弾がまき散らされる。

「シールド展開!」
 ステヤがゼルスフォーに搭載されている特殊シールド【ハブリムの盾】を展開。
 薄く広がる黄色の光が部隊を覆い、散弾を受け止める。

 ゼルスフォーは格闘用のチューンに加えて高出力シールドが搭載されている。
 シールドは物理結界と同じシステムであり、現在世界で開発が進められている【術式装甲】を発展させたものである。

 エネルギーを調整すれば広域にも展開でき、こうして部隊全体を守ることができる。
 ただ、広げると防御力も低下するため、砲撃にはまだ対応できていないなど課題も多く、今回は散弾で助かったともいえる。

「やはり自爆したか」
 メイクピークは想定通りだったことに安堵しつつも、その恐ろしさを思い知っていた。

 実はここに来るまでにリビアルとバイパーネッドとは交戦していた。
 今回のように倒したものの相手が自爆。そのせいで隊員が乗る機体が二機ばかりやられてしまった。
 こうなればすべての機体に自爆装置がついていると思ってよいだろう。

「クウヤ、油断するなよ。こちらも新型とはいえ相手も未知の相手だ。何をしてくるかわからん」
 メイクピークはクウヤに忠告する。
 いくら天才であっても相手も普通ではない。油断すれば間違いなく死が訪れるだろう。

「へいへい、了解。まあ、楽しくなってきたけどねぇ」
 クウヤは死の危険すら楽しんでいた。今まで感じたことのなかった刺激をビンビンと感じるのだ。
 危ういが、これこそ死と隣り合わせに生きる者たちに共通する感覚なのだろう。

「隊長、どうしますか。このままではこちらも消耗します」
 ドミニクが状況を確認しつつメイクピークの指示を仰ぐ。

 敵の数は増えていき、現在ではこちら以上の数を揃えているようである。
 すでに陸軍の援護は得られない。この状況で戦うには相手はかなり危険であるといえる。

「当初の予定通り、【ブラックワン】を落とす。他の機体にはかまうな」
 ブラックワンとは、最初に降りてきた黒い機体、ナイト・オブ・ザ・バーンのことである。
 そもそもゼルスセイバーズの目的はブラックワンを倒すことであった。その目的に変わりはない。

 そのための新型。
 いまだ正式名称すらない試作機を持ち出したのは、こういうときのためなのだ。

 【武力ブリキ計画】。

 ゼルスセイバーズが主体となって押し進めてきた新型MG計画である。
 コンセプトは特機タイプの量産。通常のMGでは対抗できない相手を倒すための強力なMGの開発と量産計画である。

 現在、WGウルフガーディアンが製造したナイトシリーズが高性能OGとして有名であるが、製造から何百年も経っており、失われた機体も多く存在する。

 WGが追加でナイトシリーズを製造することはなく、年々こうした特機型の量産機は減っていっていた。
 そのため各国は自ら新しく生み出す必要性が出てきたのだ。

 この時代はMG技術が急速に普及するため、こうした実験機や試作機が何十万と造られたMG生産の隆盛期である。
 すでに各国騎士団においてはナイトシリーズに代わる特機MGが開発されている。

 その中には【色物】と呼ばれる意味不明なコンセプトのものがあったりと、まさにこの時代の混沌さとダイナミックな進化のリズムを感じさせる例もある。

 ただ、富の国のダマスカスでは武力があまり重視されないため、ブリキ計画はかなり厳しい状況にあった。
 Aプランのオリジナル試作機が五機。その量産タイプのBプランが予備含めて四〇機。それが精一杯であった。

 メイクピークたちが使っているのは、そのBプランの機体だ。
 量産タイプと銘打ってはいるが、その性能はナイトシリーズにも匹敵すると自負している。

 さらに汎用性はこちらのほうが上で、武人の特性に合わせて武器が換装できる優秀な機体である。
 特にメイクピークたち五人が使っている機体はBプランのさらに改良型であり、すべての能力が向上している。

 まだ名前がないのでそのままゼルスワン、ゼルスツーとコール名で呼んでいるが、いずれダマスカスの主力MGになると期待していた。

 そして、それを実現させるためには敵を倒すしかない。

「大佐、ブラックツーはどうしますか?」
 ステアがブラックツー、ドラグ・オブ・ザ・バーンの名を出す。

 ブラックワンの次にやってきた機体で、通常のMGの規格を超えているモンスターMGである。
 ブラックワンだけでも危険であるが、それがさらに増えたのはゼルスセイバーズにとっては災難であった。

 こうして思えば、ナイト・オブ・ザ・バーンはまだしもドラグ・オブ・ザ・バーンなどは色物の部類に入るかもしれない。
 タオの【最強の戦士が乗る最強の格闘用MG】を追求した結果生まれた機体なのだから、おかしくて当然であるのだ。

「我々五機でブラックワンを叩いている間、他の者はやつの動きを止めておけ。牽制でかまわん。その後、一度撤退する」
 メイクピークは対象をナイト・オブ・ザ・バーンだけに絞る。

 実に賢明である。メイクピークという男は自己の限界というものをよく理解していた。
 敵は明らかに周到な準備を進めてこの作戦を行っている。場当たり的に対処しているこちらとは練度が違うのだ。

 その意味では、アタックをした後に一度撤退するのが望ましい。
 状況を冷静に整理できるし、不本意ではあるが各国騎士団の協力も得られる。アミカたち、エルダー・パワーもまだ残っているのだ。

 だが、手ぶらで帰ることはできない。
 明らかに格が違うブラックワンの首を持ち帰れば、少なくともダマスカス軍の面子は立つ。
 もっともこれだけ蹂躙されているのだからいまさらではあるが、少なくともゼルスセイバーズの有用性は立証できる。

(我ながら自分のことばかりか。だが、今は力が必要なのだ。戦うための力がな)
 死んでいった同胞の兵士たちを想えば気が重い。それでも今は結果が必要なのである。

「行くぞ! 何を犠牲にしても必ず倒せ!」

 ゼルスセイバーズが駆ける!
 目標はホウサンオーのナイト・オブ・ザ・バーンである。

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