14.知らなきゃいけないこと
「1000年…ですか。」
それ以上の言葉が出ない。
私の困惑した様子をメルバさんは静かに見守っている。
(1000年かぁ…すごいご長寿。って、違う!そうじゃなくて、そうじゃなくて…)
若干混乱しつつも、事実の確認をしていく。
(えっと、エルフのみなさんがこっちに来てから魔力も寿命も伸びた。
それで、私もそれに当てはまる、と…。)
そこまではわかる。
でも、それが1000年ってなると、どうにも信じがたい。
「実感が湧かないよね〜。僕らもそうだった。」
メルバさんがしみじみと言う。
そうなんだよね。いきなり寿命が10倍になりましたって言われても信じられない。
「それが本当なら、私、どっちにしろ戻れませんでしたね。」
苦笑しながら言うと、メルバさんが申し訳なさそうな顔をする。ぐふっ。
美形の困り顔は威力100倍ですね。というか、そんなつもりじゃなかったんです。
…だからその麗しい困り顔は勘弁して下さい。
私が何かフォローしようとする前にメルバさんが口を開いた。
「ごめんね。ホントはあーちゃんみたいに魔法で返してあげられたらよかったんだけど…。僕は「魔法」は使えないから…。」
あー兄ちゃんは姿も戻してもらったんだっけ。
でも、魔法がないのは仕方ないし、使えないのも…ん?
「もう気にしないで下さい。それより、あの、メルバさんって魔法使いじゃないんですか?」
「魔法使い?あーちゃんもそんなこと言ってたね。魔法は神様や精霊が使うものだよ。「有り得ないこと」を実現する。
僕たちが使えるのは魔術。世界の法則に則って現象を起こすんだ。だから僕の場合は魔術使いになるし、世界の法則を超えるものは実現できない。」
ああ、そういうことですか。
ラノベによっては「魔法」と「魔術」を明確に区別しているものもあった。
つまり、「魔法」は奇跡で、「魔術」が私が思っていた魔法にあたるんですね。
それで、メルバさんは魔術使いで世界の法則には逆らえないと…。
(だから、世界の違うここには魔法はないし、世界の法則を曲げられないメルバさんは帰り道も作り出せないと…。)
どっちにしてもメルバさんのせいじゃありませんね。
帰れない理由が具体的にわかって納得すると、胸の中のもやもやしてたものがすっきりした。
そこまでショックを受けてないのは、昨日には大まかに説明されてるからかな。
それに思いっきり泣いたし…。
(ううん。違う。…たぶん、クルビスさんがいてくれたからだ。)
黒一色の横顔が浮かぶ。
あんまりこっち向いてくれなかったから、横顔の印象が強いんだよね。
「…成る程。そういうことだったんですね。すっきりしました。ありがとうございます。」
「納得出来た?」
「寿命についてはまだ実感がわきません。でも、今の状況は理解しました。不思議ですが、いろいろ教えてもらえてかえって落ち着きました。」
「ふふっ。よかった。…後、もう1つあるんだけどいいかな?」
まだあるんですか。
今度は何だろ?