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魔法のケン

作者: 斎木リコ

『武器っちょ企画』参加作品です。

●短編であること

●ジャンル『ファンタジー』

●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアッ クな使い方』

二作目、間に合ったー

 青い空、遠くには連なる山並み。実にいい景色だと思う。同じ旅でもこんないい天気の日だと、ちょっと気分がよくなるってもんだよね。

 今歩いている街道には並木が植えられていて、木漏れ日が目にも肌にも優しいよ。小鳥のさえずりなんかも聞こえて、ちょっとした癒しの空間だね。

「あー、腹減ったー。よー、なんかねえ?」

 ……こんな声が聞こえてこなければ。


 声はあたしの腰の辺りから聞こえてくる。や! 別に何かおかしなものを飼ってるとかじゃないよ!? いや、ある意味飼ってるのか、な?

「おい、イージア。お前今変な事考えただろ?」

「別に」

「いーや、考えたね。絶対考えたね! お前がその気なら、今度から力は貸してやらないからな!」

 ちっ。こんな勘だけ鋭いってどうなのよ。まったく扱いにくいったらないわ。いつもそう言えばこっちが折れると思いやがって。みとれよ。

「あ、そう。だったら今すぐあんたはここに置いていくわ。もうじき次の街だし、あんたも次の主みつけやすいんじゃない?」

「え?」

「いやー、あたしも常々思ってたのよねー。そろそろこんな関係清算して、次にいこうかなってさ」

「ちょ」

「大体相性悪いよね、あんたとあたしって。って事で円満解決ね。じゃー、さようならー」

 そう言うとあたしは腰に下げていた剣を、ベルトから鞘ごとはずして手に持った。このまま放り投げてやる!

「や! ちょっと待った! イージア!! イージア様!! 俺が悪うございましたー!! 捨てるのだけはマジ勘弁!!」

 その必死の言葉にちょっとだけ溜飲が下がったから、あたしは無言で手に持った剣をベルトに戻した。


 あたしがこのしゃべる剣、その名もケンと出会ったのは、今から五ヶ月程前の事。修行の旅をしていたあたしの前に、いきなり降ってきたんだ。空から。

「いって──!!」

 空から降ってきたケンは地面に突き刺さり、いきなりそう悲鳴を上げたもんだから、その時相対していた盗賊どもが腰を抜かさんばかりに驚いていたっけ。

「な、何だこの剣」

「しゃ、しゃべったよな?」

「ああ、しゃべった」

「って事は……」

「魔物だ──!!」

 いきなりそんな結果にたどり着き、盗賊どもは逃げ出してしまったんだよね。残されたのはあたしと、空から落ちてきたしゃべる剣だけだった。


「思えばあの時、あたしも逃げ出せば良かったのよねー」

 今更後悔しても遅いけどさ。でも置いて逃げていれば、今頃こいつにとりつかれないで済んだかも知れないって思うとね。

「いやいやいや、俺頑張ってるだろ? お仕事してるだろ?」

「まあ、一応ね」

 そう。こいつ、ケンはそんじょそこらの剣などより余程いい働きをしてくれる。しかも魔法まで自力で使う優れものだ。おかげであたしは戦闘中、敵を切り捨てる事だけを考えればいい。

 回復や補助といった、通常魔法使いが担う仕事を、ケンはやってくれるのだ。おまけに剣としての切れ味もいい。刃こぼれもせず、メンテナンスも基本いらないときている。ここまでを聞くと、逆にあたしがどうしてこいつを厄介払いしたくなるのかわからないだろう。

 ケンはよく食うのだ。食費がばかにならない。大体剣のくせに物を食べるとはどういう事だ?

 本人曰く、魔法を使うと腹が減る、らしい。でも魔法を使わず一撃で相手を倒した時でも腹減ったって言うよね? 一度それを聞いた時、こいつはこんな事を言ったんだ。

「腹が減っては戦ができぬと言うだろうが」

 聞いた事ねーよ! そんな事。とにかく、そんなこんなでこいつとはもう五ヶ月程共に旅をしている。


 あたしの元々の旅の目的は修行だったんだけど、今はもう一つ目標が出来た。この世界に、勇者が誕生しているのだ。あたしはその勇者のもとで、共に戦いたいと思い、彼を探している。

 今目指しているのは、少し前に立ち寄った旅人が魔物を倒していったという噂を聞いたからだ。魔物は普通の剣士あたりでは倒せない。多分その三人組が勇者一行なんだと思う。

 ただその中に小さな女の子がいたっていうのが気になるんだけどね。子供を戦場に連れて行くのは感心しないよ。

「なー、イージア」

「何?」

 旅の途中ではケンとおしゃべりする事もある。このケン、まあよくしゃべる。途中であたしが呆れて返事を返さない時でも一人でしゃべっている時がある程だ。

 その話の中で、彼がこことは別の世界から来たんだという事を知った。そして元は人間なのだとも。友達の部屋に遊びに行く途中で、気がついたら今の姿でこの世界にいたんだそうだ。

「お前が探してる勇者ってさー、俺みたいに他の世界から召喚されたとかいう話はないのか?」

「は? いや、聞いた事ないけど」

 今日に限ってケンの声がちょっと固い。しかもおかしな事を聞いてくるし。普段はとてもまともに聞けないような事ばかり言ってくるのに。

「そっかー……そうだよな……そんな都合のいい話、ないよな」

 何だかケンが珍しく落ち込んでいるように見える。変なの。


 でも実は勇者についてはあたしも詳しくは知らないんだよね。、聞こえてくる話はどれも人づてだし、しかも話しを聞く相手によって言ってる内容がまちまちだしね。

 ただどれにも共通しているのは、勇者は三人で行動している事、男性二人に女の子が一人な事、彼らは明確な目的を持ってどこかを目指している事、くらいかな。

 一度勇者達の足跡を地図上で確認した事があるんだけど、北に向かっているのだけは確かだった。北っていうと、神殿のでかいのがあるとかなんとかいうよね。普通の人は入れないらしいから、これも噂程度でしか知らないんだけど。

 そして今、あたし達もその北を目指している。今あたし達がいる場所と、勇者達がいる場所は東と西に分かれているみたいだけど、うまくすれば神殿に入る前に合流出来るかも知れないじゃない?

 まあ向こうが剣士はいらないって言うかも知れないけどさ。でもケンがいるから大丈夫な気がするんだよなー。剣としては本当に優秀だから。他はダメダメだけど。

 街道を歩いていると、たまに魔物に出くわしたりする。でもケンがあるから大して問題になってないのも事実。あー、色々な意味で辛いわー。

「なー、イージアー」

「何? 休憩はまだ先だし、食べ物も夕飯まではなしよ」

 食い意地の張っているケンには、こうやって先に言っておかないと際限なく食べ物をねだられるのよね。ちゃんとやる事はやるのでただ飯食いって訳じゃないんだけど。

「ちげーよ! お前、俺がいつも飯の事しか考えないって思ってるだろ!?」

 うん、もちろん。だって本当にそうだし。

「ひでーよな、相棒の事をただの大食漢だと思うなんてよー」

 口には出さなかったのに、どうしてわかるんだろう。まあ常日頃そう言ってるからか。もしくはちゃんと自覚があったか。前者かな?

「で? 食べ物の話じゃないのなら、何なの?」

 腰の辺りから漂ってくる落ち込んだ鬱陶しい雰囲気に、あたしは溜息をつきたくなるのを押さえてそう聞いてみた。これで言わなかったら鞘ごと放り投げてやる!

「いやさ、この先の方から何か変な感じがしてくるんだよ」

「変な感じって、何?」

「わかんね」

 ちっ! 使えねえ。


 街道は一本道だ。歩いていればそのうちその「変な感じ」にもぶち当たるだろう、そう思ってあたしは普段と変わらない速度で歩いた。なのに。

「急げ! イージア!! 何かすんげー気になる!!」

 歩くのはあたしだよ。走ったとしてもあたしだよ。あんたはあたしの腰でぶら下がってるだけだから楽だよなあ!?

 そう嫌味を言いたかったのに、ケンのヤツったらよりにもよって魔法を使いやがった。

「願いよ、星に届け! イージアのスピードアップ!!」

 って、勝手に人の足の速度上げるなー!! しかも何度聞いても噴き出しそうなその呪文は何なのよ!! 星に届けって、今昼だっての!

 でも魔法はしっかりかかっていて、あたしの足は持ち主の意思に反して走り出し、しかもすんごい早さで走る事になった。

 魔法ってさ、便利ーとか思うよね。でもさ、こういう身体能力向上系の魔法って、かけられた方は大変なんだって知ってた?

 魔法で重い物持ったりとかも出来るんだけど、持ち上げた後とかに肩や腕、腰なんかが凄く痛くなるんだよね。魔法って、本当に身体能力を瞬間的に上げるってだけで、強化まではしてくれないんだよ。後でダメージが来るんだよ。

 って事で、今全速力で走ってるあたしは、当然ながら魔法が切れた途端その場にへたり込むくらいの疲労をするって訳だ! そこらへん、何にも考えてないだろ!! 足だってめちゃくちゃ痛くなるんだぞ!!

 でも確かに魔法は凄かった。本来なら夕方くらいにならないと到着しない場所に到着するのに、太陽はほとんど傾いていないよ。

「ぜー、ぜー」

 その代わり、あたしの疲労はとんでもないけどな!

「大丈夫かー? イージア。今回復してやっからなー」

 のんびり言うケンに、あたしが殺意を抱いたとしても不思議はないと思うんだ。つか今この場でへし折ってやりたい!!

「おー、何かやってぞー」

 もうちょっとで柄に手を掛けそうになっていたあたしの耳に、わくわくしてますと言わんばかりのケンの声が聞こえた。

 ここは街道の中でも丘の上に位置する場所で、道からちょっと外れて掛けまでいくと、下が丸見えになる。あ、本当だ。魔物に囲まれている三人組がいる。

 一人は神官服で、一人は男性、もう一人は女の子だ。あれ? こんな組み合わせ、どっかで聞いた事ない?

「……もうちょっと、近くに寄れないか?」

 あたしが首を傾げていると、いつになく固い声がケンから聞こえた。何だろう。緊張してるのかしら。でもあの程度の魔物、今までも倒してきてるんだけど。

 あたしはどこから下りれば向こうの魔物に気づかれないか、周囲を見回したんだけど、下に下りちゃうと身を隠す場所がないみたい。下りるなら戦闘に参加する事になる。

 でもここまで全力疾走したあたしには、もう体力がない。正直言うと動けないくらいに体がだるいんだ。足の痛みはケンが回復してくれたからもう大丈夫なんだけど、疲労までは消せないんだよね。しかも体力回復のアイテムももう底をついているし。次の街で補充する予定だったんだもん。

「無理」

「そこを何とか!」

「無理なもんは無理」

「イージア様! お願いします!! 一生のお願い」

「ここまで魔法使ってまで全力疾走させたあんたが悪い。もう立ってるのすら辛いくらいなのに」

「う」

 どーだ、何も言えまい。という訳で、あたしとケンは崖の上に隠れながら、下の戦闘を見守っていた。

 てか、戦闘って言っても一人が妙な杖を振り回してるだけみたい。でもそれで魔物が次々倒されていくんだから、彼が魔法使いで間違いないね。

 でもさすがに数が多いみたい。魔法使いの彼も頑張ってるんだけど、後から後から湧いて出て、あっという間に三人は呑み込まれちゃった。

 どうしよう? 助けに行った方がいい? でもさすがにあの数ではこっちが危ないかも。悩むなあ。

 でも彼らが本当に勇者一行なら、やられるはずはない、って思うんだよね。だってこんな所で倒されるようなら、この先真の敵まで辿り着けないもの。

「よー、イージア。助けに行かねえの?」

 ケンからのんびりした声が聞こえる。どうせあんたもあたしと同じ事考えてんでしょうが。

「彼らが本当に勇者一行なら、こんな所で倒されたりしないわよ」

「まー、そりゃそうか。お! なんか魔力が高まってるぞ」

 ケンが面白そうにそう言ってる。残念ながらあたしは魔法の方はからっきしだから、魔力の高まりなんてものは当然わかんない。ちっ! ケンのくせに。

 でも目で見てわかる変化なら、当然私にも見える訳で。呑み込まれた三人のいた辺りから、一筋の光が差した。と思ったら見る見る光はその量を増やして、あっという間に眩しくて見えない程になっちゃった。何あれ!? あれも魔法?

「おい、イージア! どうした、何があったんだ?」

 あ、ケンは今あたしの腰にあって、そのあたしが地面に這うようにして崖下を見ているから、ケンからは今の光景見えなかったんだね。

 あたしは一度ベルトから鞘を外すと、顔の前辺りに掲げた。

「これで見える?」

 正直遠すぎるし、眩しすぎてあたしにはもう見えないんだけど。

「おー、よく見えるよく見え……なんじゃあ!? ありゃあ!?」

 ケンってば! いきなり素っ頓狂な声出すんじゃないわよ! 敵に見つかったらどうすんのさ!! それに勇者一行に見つかるのもばつが悪いでしょ! 見ていたのに手伝わなかったーとか言われたらどう責任取ってくれんのよ!!

「な、何であれ……イージア、下りろ! この崖から今すぐ飛び降りろ!!」

「あほかあ!!」

 いくら高さはそんなにないとはいえ、こんな所から飛び降りたら怪我するわ!!

「あほでも何でもいいから行く! ほら!!」

 そう言うと、ケンはぐいっとあたしを引っ張った。あたしは崖の際で這うようにして下を見ていた訳で、ちょっと引っ張られただけで簡単に崖から半身が飛び出してしまい、そのまま下に……いーやー!! あたしは目をぎゅっと閉じた。

 落ちる! 来るだろう衝撃に身構えていたら、何もない。あれ? と思って目を開けたら、地面すれすれの場所でぷかぷかと浮いていた。ケンが魔法で浮かせているんだ。た、助かった……

「ちょっとケン! あんたねえ!!」

 正気に戻ったあたしが、手にしたケンに怒鳴ってもおかしくはないと思う。でもそれを遮った声があったんだよね。

「誰だ? あんたら」

 声のした方を見て、あたしは絶句した。何これ。

 あたしの目の前にいたのは、魔法使いが持つ杖のような感じの杖で、ピンク色のハートと羽根が付いたやつを握りしめた、ピンクのひらひらとした丈の短いどう見ても女物の服を身につけた図体のでかい男だ!

 頭には星とハートとリボンの飾りがついたでかい帽子を被り、足下は服や帽子と同じピンクで、これまた星とハートの飾りがついた女物らしきブーツ。

 あたしは自分の目が信じられなくて、二度三度頭のてっぺんからつま先まで視線を移動させてしまった。何これ。つか、誰これ。

「おーい、声が聞こえないのかー? お前ら誰だ? 何でこんな所にいるんだよ? ってーか、さっきそこの崖から降ってこなかったか?」

 格好はもの凄く変なのに、言ってる事はなんだかまともそうだよ! つかお前こそ誰なんだよ!!

「お、おおおお」

 あたしの手の中で、ケンがぶるぶると震えている。何? 怖いの? まあ怖いか。こんないかれた格好したヤツを目の前にしちゃっちゃあねえ。

「会いたかったぜ!! 護ー!!」

 はい──!? ケンのヤツ、あたしの手から離れて目の前の怪しい格好した男に懐いているよ。何これ?

「うわ!! 何だこれ!?」

「俺だよ俺!! 心の友、足立剣あだちけんだよ!!」

 何だって────!? あたしのあごは限界まで下がった。きっとこれ以上下がることはこの先もないだろう……

 あんた、この人と知り合いなの? それじゃあ、同じ世界から来たって事? あの時勇者は他の世界からとかなんとか言っていたのって、この事だったの? 例の遊びにいくはずだった友達って、この人だったの?

 あたしの中で疑問がぐるぐる回ってるんだけど、驚き過ぎて言葉にならない。だって余所の世界から来たってだけでも嘘くさい話だと思っていたのに、勇者一行の一人、多分勇者だよね? って相手と同じ世界から来て、しかも友達だなんて、誰が思うよ!?

「あ、足立!?」

 驚き過ぎてあごを元に戻すのも忘れたあたしの目の前で、勇者一行の彼も驚いてる。そりゃそうだよね。知らない世界に連れて来られたのに、こんな所で元の世界の知り合いに会うなんて、思わないよね。

「そうだよ、俺だよ! もしかしてと思ってたら、やっぱりお前もこっちに来てたんだなー!?」

 ケンは犬がじゃれつくように怪しい格好のマモルとかいうヤツにまとわりついている。ピンクの女物着たごつい男にまとわりつく剣。み、見たくない……

「つか、お前、何でそんな格好なの?」

「……言いたかないが、護、お前こそ何だよその格好」

「こ! これは!! 俺の趣味じゃねえからな! 断じて違うからな!!」

「俺だって好きこのんでこんな姿してる訳じゃねえよ!」

 そんな二人の言い合いは、しばらく続いていた。


「……と言う訳で、魔法を使うにはこっぱずかしい台詞と決めポーズをしないとならないようになっちまってんだよ。で、さっきの格好はだな」

 あの後近くの街に移動して、お互いの事を話そうって事になったんだけど……。彼の言ってる事が本当だとすると、何だかすごい不憫な気がするんだけど。

 全員で同じ宿屋に宿を取って、今は人の数がまばらになった食堂の隅で反しているとこ。夜もとっくにふけてるから、食堂もそろそろ閉める頃合いなんじゃないかな。

「パワーアップの為のものらしいんだ、このエネに言わせると」

 そう言って彼、マモルが指さしたのは、隣のテーブルに幼女と一緒に座る髪の長い青年だ。綺麗な顔立ちで着ている物から神官だとすぐにわかる。

 でもマモルの話が正しいとなると、彼の不憫の元凶はこのエネとかいう神官なんだよね……。人は見かけによらないというか何というか。

「俺だってまさかあんな女児向けアニメに出てくる魔女っ娘そのものの格好までするとは思わねえよ。スティックだけでも相当な精神的ダメージだっていうのに」

 そう言うとマモルは両手で顔を覆ってしまった。うん……あんなとんちきな格好を人に見られたら、そうなるよね……ちょっと遅いけど。

「でもおかげでパワーアップは無事成功。あの数の魔物を一瞬で倒す事が出来たんですから、良かったですね」

 しれっとした顔でエネ神官はそう言うけど、あれは割り切れないと思うよ。現にマモルも激高してるじゃない。

「ふざけんな!! てめえが最初に妙な呪いをかけなきゃこんな事にはならなかったんだよ!!」

「呪いとは失礼な。きちんと君の魔力を測ってそれを一番効率よく引き出せる方法を選んだだけじゃないですか。それも君のいた世界を参考にして」

 絶対嘘だ。その時ケンとあたし、それにマモルの心は一つになった。エネ、恐るべし。

「ま、まあ俺の方はそんな感じだ。で? お前の方は何なんだよその姿は」

「あー、まあ話せば長くはならないんだが」

「なら話せ今すぐ話せさあ話せ」

「あの日はお前の部屋に行く途中でさ」

 そう言って語り出したケンの話を要約すると、彼、マモルの部屋に遊びに行こうとして、途中で眩しい光に包まれたそうだ。で、次に気づいたら今の姿で大地に突き刺さっていたらしい。大雑把だな本当に。それってあたしが聞いた話とほぼ変わらないんじゃない?

 同じ世界から来た友達にだったら、もっと詳しく事情を話すかと思ったのにな。もしかしてこれが事情の全てだったりするの?

「あれ? お前俺んところに来るなんて言ってたっけ?」

「いんや。サプライズで遊びに行こうと思ったんだよ」

「何のサプライズだ何の」

 マモルの呆れ声にあたしは同調したい。何のサプライズだよ本当に。結果的にはマモルを驚かせる事には成功したんだろうけど、随分と体張ったサプライズだよねえ。


「んでさあ、俺の姿、元に戻せると思うか?」

 ケンのこの一言に、その場は一瞬静まりかえった。そう、彼があたしと一緒に行動している理由は、自分の姿を元に戻す為なのだ。

 勇者一行ならもしかしたらその方法を知っているかも知れない。知らなくても他に知っていそうな人に心当たりがあるかも知れない。そんな思いでケンはあたしと一緒に旅をしてきたんだ。

 聞かれたマモルはちょっと目が泳いだけど、助けを求めるようにエネの方に視線をやった。考えて見たらマモルもこっちの世界に連れて来られた人だもんね。元に戻す方法なんて、知らなくても当然か。

「そうですね……呪いという事なら呪った相手を倒せば元の姿に戻せると思いますよ」

「本当か!?」

「確証はありませんが、こういった呪いは魔族が得意としますから、もしかしたら魔族の誰かが呪ったのかも知れませんね」

 エネはにっこりと笑ってケンにそう言った。魔族……。確か魔物の上位腫属に当たるって聞いた事がある。魔力も何もかも桁外れに強いって。

 ケンってば、そんな連中を倒そうっての? 呪いを解く為にはそれしか方法がないんだろうけど……

 あれ? 何か今引っかかったよ? マモルがこっちに来たのは、エネが喚んだからだよね? そんでケンはマモルの所へ遊びに行こうとしていた。

 もしかして、ケンってマモルの巻き添え食ったんじゃない? だとしたら魔族がケンを呪うのはおかしいよね? じゃあ誰が?

 視線がエネ神官に向かったのは、本当に何となくだ。でも視線があうと、にっこりと微笑まれてしまった。でも目が笑っていない。

 怖え────!!

 あの人だ。あの人なんだ。マモルをこの世界に引っ張り込んだのも、ケンをあの姿にしてこの世界に放り出したのも。魔族じゃなくてあの人がやったんだ!!

 でもマモルはまだしも、どうしてケンをあの姿にしたんだろう? それがわからない。

 でも話が終わってそれぞれ部屋に引き上げるとき、私の耳元でエネ神官が囁いたんだ。

「剣士がいた方が、何かと便利でしょう?」

 怖え────!!

 あの人、ケンを剣士釣るための餌にしたんだ!! 絶対そうだ!!

 ……って事は、釣られた剣士は、あたし? え? そうなの?


 結局あたしは当初の予定通り、勇者一行に入る事になった。あのおっかないエネ神官の思い通りになるのはしゃくだったけど、断る勇気もなかったんだ。

 その後、勇者だと思っていたマモルは実は魔法使いで、本物の勇者はあの幼女だと知った時のあたしとケンの驚きったらなかったね……

真の敵はエネでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法のスティックで護を視野的に貶め、今作では本人を剣に変えるとかから導き出すと、エネはファナに対して光源氏的な計画でも立ててそうな気がするんですが気のせいですかね…?
[一言] 武器っちょ企画より参りました。 キャラクターがしっかりとしていて、読みやすいお話でした。 それからヒロインがこの後ケンと恋愛に発展したら、自分は人間を好きになれないのだろうかというようなこと…
[気になる点] エネ神官の口調ですが、ですます系と言い切りが混在していますね。 男性3名の掛け合いのシーンでは少し違和感がありました。 誤字らしきものを 確か魔物の【上衣腫属→上位種族】に当たるって…
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