ユートの特技
今日は早上がりっ!
どうでもいい話ですが、私の最近の悩み。
一日に消費するタバコの数が増えた!!
でした。
村の木材で作られた壁が一晩の内に鋼鉄へと変身した。
それは、外敵の脅威を感じている人達にしてみれば、途轍もなく良い事である。
一応、考えて造られているのか、壁の一部は柵のようにされており、一面全てが鉄板などは余りなく、鉄の使用量も少なくしているように見える。それでも、幅は三メートル近くあり、物凄い量の鉄を消費した事が分かる。
それを行なったのは、村人の中には居ない。そう誰もが思った。
なぜなら、壁を全て鋼鉄に変えるなど、彼等にとって不可能な事だからだ。もし、実行したとして、まず、お金が幾らあっても足りない。それに、鉄を加工して壁に作り変える技術など、とある種族を除いて誰も持っていない。
一番の理由は、そこまでの鉄を持ち合わせていない事だ。
大きな街へ行って、全ての鉄を使う武器や防具を加工しても足りないだろう。
それだけ、村を囲う鋼鉄の壁は大きく見えた。そんな事が出来る人に誰も心当たりがない。
だが、ここに一人、それを行った人を知っている人がいる。
エミルだ。彼女は唖然と、聳え立つ壁に目を奪われながら、村の中を歩いている。
一応はユートを探しているのだが、どうしても壁に目が行ってしまうのだ。
そんな時、彼女の耳に子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
一晩経てば、壁が豹変していれば、子供達が騒ぐのも頷ける。だが、子供達は別の理由ではしゃいでいた。
「わぁー!つめた〜い!」
「すごーい、ぼくのパパよりも力もち!」
「ねぇ!次はわたし!わたしもやって!」
「これなに〜?かたいよ?つめたいよ?」
子供達の声が聞こえる方へと歩いていくエミル。そして、目にしたのは、ユートが子供達と遊んでいる姿だ。
女の子と男の子がユートの右足を触って疑問を浮かべたり、はしゃいだりしている。笑みを浮かべながら男の子を高い高いしているユートは、子供達に囲まれている。
「…ユート?」
ユート達の近くに向かい、声を掛ける。子供達の声が大きくて、エミルは声が届いていないだろうと思ってもう一度声を発しようとした。
が、その必要はなかった。
「ん?エミルか。昨日、探したんやで」
幾ら子供達の声が大きくても、ユートにエミルの声が届いた。
振り返った彼の表情は、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
「ちょっと兄ちゃん用事できたから、コレで遊んどき」
子供達に断りを入れ、ツギハギだらけのボールを渡してからエミルの元へと歩み寄ってくる。
そして、口を開こうとした瞬間。
「ごめんなさいっ」
エミルが頭を直角に下げて謝罪した。
昨日、ユートを置いて家に帰ってしまった事に謝った。だが、ユートは彼女が謝る意図を見つけ出せず、ポリポリと頬を掻いて困った表情を浮かべた。
「…俺、エミルに謝られるような事されたっけ?」
「昨日、置いていっちゃったから…」
おずおずと顔を上げながら、申し訳なさそうに言う。
「ハハッ、そんな事かいな。別にええよ。全然気にしてないし」
軽く笑って、手を小さく振って言った。
言い終えると、ユートは視線をボールを不思議そうに見ている子供達へと向けた。
「そんな事よりさ、俺も謝らなアカン事があんねんよ」
視線をエミルへと戻して、苦笑いを浮かべるユート。
彼女からすれば、彼が謝る必要なんてどこにもなく、逆に感謝すら言いたい程だった。
だが、彼女が何かを言う前に、ユートは「ちょっと付いてきてや」と言ってエミルの手を引いて歩き始めた。
少し歩いて辿り着いた場所は、ユート達の所へと辿り着く前に見た、馬のいない馬車のような箱だった。
馬車の割には、車輪が見た事もない物で造られ、御者席がなく、手綱を付けるところもない。馬に引かせることすらできない変な箱だ。
「ここにあった手押し車覚えてる?」
視線を変な箱に固定したまま、エミルは頷く。
「それな、壊してもうてん」
視線をユートに戻してから、一応、頷く。そして、疑問を口にしようとする。が、ユート方が言葉を発するのが早かった。
「だから、代わりのもん造ったんやけど、やっぱ謝っとかななって思ってさ」
最後に「ごめんな」と付け足して後頭部に手を置いて小さく頭を下げるユート。彼の謝罪は、謝るのが下手くそなのか、本気で謝る気がないのかのどちらかだ。
エミルは、どう返答すれば良いのかわからず、少し困った顔をする。それを別の意味で受け取ったユートは『やっぱ、アカンかったんやな』と若干落ち込む。
「怒るんなら後にしてな。逃げるから」
怒られるのが嫌いなユートは本音を隠さず話した。いや、口を滑らせてしまった。
だが、言った本人は余り気にしていないようだ。
「怒らないよ。それより、それ、なに?」
エミルは、ユートの頭の悪い発言に苦笑いを浮かべて、遂にずっと気になっていた箱を指差して尋ねた。
「手押し車の代わりの、車ちゅう乗りもんや」
「乗り物?」
変な箱ーー車の方へと歩いていくユートの背中に首を傾げながら疑問を投げ掛ける。
「せやで。ちょい来てみ」
車に辿り着いたユートは振り返って手招きする。それに従い、エミルはユートの元へと歩み寄り、恐る恐る車体へと触れてみる。
温もりは当然ながら無い。鉄のような冷たさでもなく、僅かに冷たい感じがする。石を磨き上げたみたいに光沢があり、ツルツルとしている。
「ここがドアノブで、引いたら開くねん」
説明しながら実演する。そして、反対側を指差して言う。
「とりま、反対側にも有るから乗ってみ」
ニカッと笑って、運転席へ乗り込んだ。
車外に残されたエミルは少しの間、鉄のような重たそうな戸が簡単に開けられた事に驚き、呆けていたが、ユートに言われた通り行動し始める。
助手席に乗り込んだエミルを確認したユートは「ほな、いくで」と声を掛けてから、ハンドルの右側面に付いている鍵を捻る。
すると、キュルルと短時間だけセルモーターが回転し、ブオォンッと音が鳴り、エンジンが起動した。
その音に周囲からコッソリと見ていた村人達は驚いて尻餅を着き、助手席に座るエミルは「ひやぁっ!?」と可愛らしい声を漏らした。
規則正しくエンジン音が鳴り続け、ユートは満足そうに頷いてから、シフトノブをDに動かす。
すると、ゆっくりと進み始めた。
「う、動いてる…ユート、動いてるよ!」
畏怖と感動が混ざった感情を表しながら、馬を必要としない車に驚いている。
村人達の観客も増えて来ている。そして、皆が同じように口をあんぐりと開けて驚愕を露わにしている。
「椅子がふかふかしてる…。あれ、壁?透明…すごい…」
ソファのような椅子に感動し、窓ガラスに疑問を浮かべてツンツンと指先で突き、エアコンから発せられる温もりに声を漏らす。
ユートの元居た世界にあった物と殆どそっくりに作られている。この車の車種を例えるならば”エルグランド”だ。車体は白一色で、ブレーキランプやウインカーなどの灯火は一切ない。あるのは、ヘッドライトなどの前照灯だけだ。
車で村の中をゆっくりとアクセルを踏まず、クリープ現象だけで一周する。
ちなみに、クリープ現象とは、Dレンジに入れた時、ブレーキを踏んでいなければ車が勝手に進む現象を言う。
走っている間、振動がほぼ皆無だった事やハンドルを動かすだけで向きが変わった事などにエミルは驚き続けていた。車の中から見える人達は、皆、唖然と、又は、呆然と、走る鉄の塊に驚きを隠せないでいた。
そんなこんなで、元の場所へと戻って来て、エミルは車から降りるや否や地の感触を足で確かめてからヘナヘナと地面に座り込んだ。
車と言う乗り物すら知らない人が車に乗れば、勝手に進む乗り物と言うのは、怖いものがあったのだろう。
「まぁ、手押し車よりは楽に荷物運べるようになってるで」
エミルの反応を見て苦笑いを隠せなかったユートは、ポリポリと頬を掻きながらそう言い、もう一台の車へ視線を向けた。
それも全て白一色だ。あるのも、ヘッドライトやフォグランプぐらいだ。
ただ、彼が運転していた車とは違い、車体が大きく、後部座席が失く、大きな荷台がある。所謂、トラックだ。見た目的には中型の部類に含まれるだろう。
その後、我に返った村人達から「俺も乗せてくれ!」や「どうやって動いてるんだ?」などと言われたのは言うまでもない。
そして、ユートは嫌がる素振りを一つも見せず、教えをこう一人一人に優しく運転の仕方を教えたのだった。
エミル「あの車って言う乗り物、どうやって動いてるの?」
ユート「興味津々やな。えーっとな、普通の車の場合はガソリンや軽油を使って動かすんやけど、アレは、大気中に漂うマナをオートバキューム機能を利用して吸収して、マテリアルに変換させてんねん。んで、インジェクションでマテリアルを噴射して、シリンダー内に彫った魔法陣がマテリアルに反応して爆発を繰り返す。んで、爆発の威力を利用してクランクを回し、デフやらなんやらと色んな機構を経由してタイヤが回るって言う感じやな」
エミル「………」
ユート「あれ?目回してる?」
エミル「……む、むずかしい」
ユート「そか。なら、もっと簡単に説明するわ。…魔力で動力を動かして、タイヤを回すねん」
エミル「……?」
ユート「それもアカンのか…。えーーっと…要するに、魔力で動いてんねん」
エミル「ああ、なるほど」
ユート「説明の意味ないやん…」