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『明治浪漫譚(仮)』 作者:矢玉・奏嘉 (リレー小説)
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毬と子猫 *奏嘉

先程の一件のせいか桐子が紫子の腕に抱きついたまま離れなくなったため、将臣は苦笑しながらも壁の花を決め込む事にした。


とはいえ流石に女二人に男一人では居心地が悪いのか少し離れた場所にて一人壁に寄り掛かれば、給仕の青年が通りかかった為にワインを貰う。
厭な緊張をした為か喉が渇いていて、直ぐにその一杯を飲み干してしまえば少し気が楽になった。




暫くすれば漸くダンスの時間に切り替わったのかメインのホールに男女のペアがひとつ、またひとつと集まり始め、定番のワルツが流れ始めると先程までざわついていた空気が一変、一気に静寂が訪れた。



早く壁へと下がろうとグラスを返し溜め息を吐けば、不意に後ろから服の裾を引かれ振り返る。



「とっ、東郷様」


そこにいたのは、見覚えのない黒髪の小柄な女性だった。
少し考えるも誰かは分からず見慣れない女性の姿に首を傾げれば、「何か?」と問い掛け返し女性へとその身をゆっくりと翻した。


女性はその白い頬を真っ赤にしドレスの裾を握りながら決心した様に口を開く。


「お、お相手がもしいらっしゃらないようでしたら、わたくしと一曲踊って頂けませんか」


突然発せられた女性からの予想外の御誘いに青年が目を丸くし声を漏らすよりも早く、次に言葉を発したのはその二人の間に割って入ったまたも見覚えのない女性。


「私は前回もお願いしましたのに、東郷様途中でお仕事だからと御帰りになられて…!」


いつのことだったかすら記憶に無かったが、それは無礼であったとそれについての謝罪を口にしようとするのに、再びまた別の女性が間に割り込んだ。


「抜け駆けだなんてずるいわ、私なんて一度も…っ」



次第に収集がつかなくなり目眩すら覚えれば、取り敢えず二番目の女性に以前の無礼を詫び彼女と踊る事にした。


軍人であるが故にやはり踊り慣れてなどおらず、あまりダンスは得意では無かったが、単調で緩やかな動作は何度か見ていれば大抵は覚えられるために誤魔化しながらステップを踏む。


時折身を寄せてくる女性に何の感情も抱かない事に気付き、いっそ可笑しさすら覚えながら一曲を踊り終えると、軽く頭を下げ素っ気ない程にあっさりと青年は彼女から離れた。


その様子を遠くで見ていた山縣は友人の冷たい無関心さに相変わらずだな、等と呟き自分も相手をしていた淑女から離れ友人へと歩み寄る。


「おう、紫子さんとは踊らないのか」


がしっと突然肩を抱かれ僅かに体勢を崩した青年は山縣の言葉に肩を竦めて見せた。


「恥ずかしがって踊ってくれないかもな……しかも今は、ほら」


友人がさす方へと視線を向けた山縣は、溜め息交じりに「悪い」と苦笑を浮かべる。


視線の先にあったのは、紫子から初めての夜会にて、ダンスの指導を受ける桐子の姿だった。
時折じゃれるように笑って見せる二人の姿に、何故かくすぐったさを感じ将臣もつられて口元が緩んでしまう。



「良いんだ、紫子さんのあの表情の方が貴重だろう」


その様子を穏やかな表情で見守る友人の横顔を見れば、山縣も子供の様に破顔して見せた。




「相手がいないのか、寂しいなぁ美人さんよ。なんなら俺とでも踊るか?」



わざとらしく女性にする様に将臣の手を取った山縣の腹に間髪いれず拳を手加減をしながら打ち込めば、再び将臣はワインで喉を潤し女性の相手をしにホールへと戻った。




軍装姿である為かよく目立ってしまいいつも以上に何度も声を掛けられ一つ一つ相手をしていれば、いつの間にか紫子の指導は終わったらしく桐子が兄と練習がてらくるくると愛らしく人々の間を舞っているのがみえた。



「……?」



(紫子さんは、どこに)



暫く辺りを見回しやっと壁際にて見知らぬ男に詰め寄られている紫子に気付き、将臣は慌てて淑女から離れるとそちらへと歩を進めた。

***

あとがき

中将回。そして百合回
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