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『明治浪漫譚(仮)』 作者:矢玉・奏嘉 (リレー小説)
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緩んだ蜘蛛の巣への足掛け *奏嘉

彼女に最後の偽りを暴露した、次の日。

朝食の為にと大広間へと足を踏み入れれば、想像通りの家人達のどよめきも去る事ながら、意外にも弥生は上機嫌に将臣へと駆け寄った。

彼女の性格から、責めることや罵倒することはないだろう。
だからこそ、青年がどうしたのか、そう問うよりも先に。


「貴方に初めて出会った日と同じね、とてもいいわ。私はすき」


屈託のない、少女のような微笑みを浮かべる母の姿に、暫し瞠目する。



(相変わらず、)

変わっているな、そう思い青年は苦笑を浮かべた。
勿論のこと良い意味で、だ。
安堵と共に本当にありがたいと、そう素直に思った。


手短な説明をしただけで簡単に納得した使用人達も然り、青年はその寛容さに心から感謝する。



昨日の今日では、流石に染め粉は用意できず、青年は仕方なくそのままの髪色で仕事をするためにと屋敷を出た。

道中は馬車であるため、人の目など気にならない。

軍部につけば、同僚達や上官は見慣れないとはいえ、例の戦場での噂を耳にした者が多いらしい。



『あれが、鬼の姿か』

『恐ろしい』

『あれでは、まるで』


『西洋の悪魔や死神の間違いではないのか』


青灰色の瞳に白銀に近い髪色は、この国の常識からあまりに現実離れしているに違いないのだ。

それを畏怖するのは、当たり前のことなのだ。そう青年は自分を納得させる。

辺りでひそひそと囁かれる声を耳障りと思いながらも、それでも平気で後ろをついて回る二ノ宮に今日ばかりは関心した。


誰に畏怖されようと、軽蔑されようとどうでも良いのだ。
好ましいものにだけ好かれていれば良い。

立場的にも一目を置かれている今、恐ろしいものなど殆ど皆無に等しかった。


―――――こんな自信、いったい今までどこに隠れていたのだろう。



源頼光や渡辺綱を気取るつもりは更々ないが、今なら鬼さえも喰らえそうな気さえするのだ。


(鬼と呼ばれることすら、何も感じなくなった)



誰がそう例えたのか。
彼女が朱点童子だというのなら、その恐ろしささえぞくぞくする程に妖しく愛おしい。

まるで異国のいばら姫のようだとさえ思うのだ。

(嗚呼、貴女には一生言えないだろうな)


―――――小さく笑えば、脇に控えた二ノ宮は不思議そうに小首を傾げて見せた。



********



歪な枝の先、ふっくらとした花弁を精一杯に伸ばす白い小さな花。

街の其処此処に咲き誇る梅が、街を優しく彩る。



柔らかな肌触りのいい風をその振袖で切りながら、少女は兄を連れ街を闊歩していた。


「それで兄様、しみずやさんはどちらなの」


きらきらとその瞳を輝かせながら問う少女に、兄と呼ばれた男はおかしいと言った様子で笑って見せる。


「あの桜の花びらが描いてある暖簾のとこだ。あまり騒ぐんじゃねぇぞ」


普段から騒々しいとでも言うようなその発言に、少女は頬を膨らませて見せると「わかってます!」と肩を尖らせつつもその甘味屋へと足を踏み入れた。



「あれ、山縣さん」



聞き慣れた声とその容姿に、山縣はきょとりと目を丸くする。


「伊織君か。どうした、こんなとこで」

問いながら、その隣の御人へと視線を移した。



―――――流れるような視線、端正な顔立ち。



将臣とは違う、人の感情を絡め取るその妖しさ。



「……坊、逢崎の」




兄の呟きに、桐子は息を飲んだ。
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