第6話 雷鳴
車に乗ったクンクンだったが、クンクンは室内犬ではないので家の中や車の中には基本的には入らない。入れないと言った方が正しい。我が家の庭が文字通りクンクンの庭だった。でも家の中に全く入れないのかというとそうではなかった。実はクンクンが家に入れる時があった。
ことの始まりはこうだった。ある日、夕立で雷が鳴り出した時のこと。初めて聞く雷鳴に驚いたクンクンはものすごい声で吠えたのである。あまりの吠え方にこっちが驚いてクンクンの様子を見ようと窓開けたとたんに勢いよく家の中に飛び込んできたのだった。。制止する間もなかった。窓が開いているので雷鳴はよく聞こえて、鳴る度にクンクンは怖がっていた。雷を怖がってることに気付いて慌てて窓を閉めると、雷鳴が多少聞こなくなったためか、クンクンは落ち着きを取り戻した。クンクンが家に入ったのはダイニングの庭に面した窓際で、でも初めて家に入ったので勝手がわかっていなかったのだろう、すぐにそこを離れて部屋を徘徊しだした。ついにはちょっと目を離した隙にソファーに寝そべってる始末。父は怒っていたが、僕は雷が怖いとか、ソファーが居心地がいいとか、犬も人と同じなんだと笑ってしまった。
クンクンが怖いものは雷だけではなかった。地元では毎年花火大会があってたくさんの花火が打ち上げられるが、花火の音も怖がって家に入れてくれと吠えてきた。どうもあの爆音が嫌いなようだった。
音が多少なり聞こえなくなると落ち着くのか。
それだけではだめだったようだ。
ダイニングの窓際にマットを敷いて、家に入る時はそこだけと言い聞かせていたところクンクンもわかってそこだけにいるようになった。そんなある日の夕方、その日は家には僕しかいなかったのだが、雷が鳴りだしてクンクンが騒ぎだしたので家に入れてやった。いつもの一階のダイニングの窓際に入れて、僕は二階の自分の部屋に戻った。雷鳴やガタガタ鳴る窓の音などこれはクンクンだけじゃなくて僕も怖かった。しばらくして、机に向かっていた僕はカタカタという音を聞いた。窓の鳴る音とも違った。不気味な感じがしていたところに、背後に気配を感じて振り向くと僕の部屋の入り口にクンクンがいたのだ。
「わーっ!」
僕は雷鳴より大きいのではないかと思う位の声で驚いた。
「キャン!」
クンクンも驚いたようである。それにしてもよく僕のいるところを探したものである。僕はクンクンに感心してしまった。僕が側にいるとクンクンは落ち着くようで、結局僕はクンクンと一緒にダイニングにいることにしたのだった。
そのことがあって以来、クンクンを家に入れる時はダイニングの出入口のドアを閉めるようになった。でもそのことでまた騒動が起きた。ある雷の鳴る日にクンクンを家に入れた時のこと。母はダイニングのドアを閉めて別の部屋に行ってしまった。
ダイニングに取り残されたクンクンは別の部屋にいる母のところに行こうと出入口のドアを開けようとした。しかし、クンクンはドアの開け方を知らず、ただひたすらドアを引っ掻いていた。木製のドアは無残にも傷だらけになってしまった。でも、クンクンは恐怖のあまり必死だったのであろう。怒るに怒れなかった。さらに、家に誰もいないある雷の鳴る日のことである。
いくらクンクンが叫んでも誰も家に入れてくれないことにしびれを切らしたのであろうクンクンは庭を脱出してしまった。なんと、クンクンを可愛がってくれていてえさやりなども頼んでいる方の家の庭に逃げ込んだのである。その方にしてみれば、家の庭から聞き覚えのある犬の鳴き声がしたので庭を覗いたところそこにクンクンがいたので相当びっくりされたようである。こっちもびっくりである。よくその方の家がわかったものである。ほんとに雷の鳴る日は、クンクンだけにしてはならない。 |