第5話 車に乗って
動物病院に連れて行った時、クンクンはおとなしかったといったが、おとなしく車に乗ったのは後にも先にもあの時だけだった。クンクンは車に乗ると車酔いしてしまう。初めて車に乗せた時は、だんだん落ち着きがなくなりそして酔ってしまったのだった。それ以来、クンクンは車に乗るのを嫌うようになった。犬が車に乗り、窓から涼しげに顔出している光景を見かけることがあるが、我が家には無縁だった。
困るのは家族で旅行に行く時だ。
車に乗ってくれるなら一緒に行けるのだが、それができないのだ。家に置いていくとなるとクンクンのえさをどうするかが悩みの種になる。試しに何回分かのえさを並べてみたが食べてもらえなかった。朝夕の時間に誰かがあげないとだめなようで、しかもえさとなると誰があげてもいいわけではなく、家族か余程クンクンが信頼している人でないとだめだった。近所にクンクンを特に可愛がってくれている御婦人がいる。
その方は自分でも犬を飼っていて本当に犬が好きだった。クンクンはその方に撫でられたりすると目を細めて気持ちよさそうだった。時々おやつの差し入れもしてくれたりして、逆にクンクンはその方が庭の前を通ろうものならおやつをねだったりする始末。ただ、その方もいつでも犬のおやつを持ち歩いているわけではないので、時には
「クンクンごめんなさいね。今日は手ぶらなのよ。」
ということもあったが。その方ならと、無理を承知でえさやりをお願いしたところ、二つ返事で引き受けてくれた。それ以来、旅行などで不在になる時はえさやりをお願いするようになった。そして帰宅するとお土産を持ってその方にお礼に行った。
一度、その方の都合が悪くてお願いできない時があった。その時は散々迷った末、車に乗せて一緒に行くことにした。車酔いするのがわかっているので一計を案じ、酔い止めを飲ませた。車に乗る際に嫌がったが、家族総出で車に乗りこんでいるのを見てついていくしかないと思ったようである。落ち着かない様子だったが、酔い止めのおかげか、無事に目的地に着いた。行った先は海の近くの保養所で、シーズンオフで人がまばらな砂浜にクンクンを連れていった。クンクンは生まれて初めて見る海にびっくりしつつも楽しそうだった。帰路の車の中ではやっぱり落ち着かなかったが。 |