第3話「男」
係員の声を背にエミネはバイクへ戻り、バックパックを担ぎ直した。バイクにまたがり、エンジンをかけようと…………
「だ〜、もう!! だから言ってんだろ!? どこか不審なんだって!?」
そんな怒気を孕んだ声が聞こえてきたのはそんなときだ。
エミネが振り向いた先で、別の審査受付で一人の男が係員と口論になっていた。こんな場所で口論なんて穏やかではない。なにかと思い、
「えぇ…………?」
思わず目を丸くしてしまった。
男は灰色の砂塵を防ぐためのロングコートを着込み、荷物はバックパック一つだけ。その他はなにも持っていないようで、エミネに比べれば明らかに軽装備。フードの隙間から垂れる赤紫色という珍しい髪色が特徴的だった。だがそれ以上に……
「な、に?……仮面?」
男は仮面をしていたのだ。幾何学的な紋様が刻み込まれた、不気味な面を。どこか太古の民族衣装にある仮面を連想させる。
「……あのな、あんた、その仮面を外してからそれを言ってくれ。そのままじゃ、誰がどう見ても、明らかに不審者だ。OK?」
さすがに係員も呆れきった表情をしている。当たり前と言えば当たり前である。
「あ……」
男は今現状を理解したのか、仮面を外を外そうと手をかけた。
「…うわ……何よ、あの馬鹿」
エミネが冷ややかな視線を向けつつ、ゲートをくぐった。
このときはまだ分からなかった。彼が、自分にとってどのような存在になるのか。
そしてこの先の未来のことも……
まだ、なにも、知らなかった………… |