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秋の出来事
作:凪沚


中学三年の秋。
部活を終えた僕らは、受験勉強に熱を移し始めていた。
秋なのに色付くのが遅いイチョウの葉を、指でくるくると静かに回す。無意味に寒くなり、すべてが青から赤に変わろうとする景色は僕を魅了した。
固くなった空気は透明でガラスのように尖っていた。
「集合」
次の瞬間には広がっていた。体操服の袖を手の平まで伸ばし、寒さを凌ぐ姿が多く見られた。自分もその中の一人で必死に寒さと戦っていた。
「いち、に、さん、しー」
体を動かすと隙間が出来る。そこに容赦なく流れ込み僕の体を冷やした。冷やしては温め、冷やしては温める。これこそ無意味の最終形態だ。
氷を作っては水に戻すの繰り返し。
本当にあの教師は教員免許を持っているのだろうか?あのヒゲ面で教師と名乗っているのが犯罪だ。熊だ。奴は熊だ。
そんなことを考えている間に体操は最後の深呼吸に入ろうとしていた。
「いち、に、さん、しー、ごー、ろく、ひち、はち」
腕を上げて空気を吸うと肺が綺麗になった気がした。
何度も何度も吸って、僕の肺は黒っぽい色から透き通った赤に変わっただろう。
そして二度目の集合に従った。
「待って」
誰に向けた言葉かわからないけれど声の方に振り返った。
イチョウの木が並ぶ鮮やかな色の中、一人の少年を見付けた。
周りを見渡しても声に気を止める人は居なかった。
少年は舞い散る木の葉を一つ拾い上げると、僕に駆け寄って来た。
僕の前に止まると荒れた息を整えて一言。
「あげる」
差し出されたのは先程拾っていたイチョウの葉。他の葉とは違い、色が濃く形も綺麗だった。
「あ、ありがとう」
「どう致しまして」
それだけ言うと少年は、僕に背を向けて歩き出した。
焦げ茶色のパーカーを着ていて、秋を思わせる色合い。すごく秋という季節が似合っていた。
見送る訳じゃないけれど、少年の後ろ姿を見続けた。
「田辺ー」
「お、おう今行く」
一瞬目を離した隙に少年は居なくなってしまった。
イチョウの木、広いグラウンド、寂れた校門。
どこに目を向けても少年は見当たらなかった。
秋に消えていた。
授業が終わりグラウンドから教室に戻るとき、もう一度見回したけど少年の姿は見当たらなかった。
ざわついた教室の中で着替えを終え、大人しく席に着いた。窓際のこの席は外の景色が見渡せる。グラウンドは見えないが、グラウンド側から吹かれた風に木の葉が舞っていた。
アスファルトの上で円を描いたり、吹き上げた風に乗ったり、楽しそうにカラカラ鳴り響いた。
あの少年は何だったんだろうか?貰ったイチョウの葉を取り出す。光に透かしても裏に返しても何も書いていなかった。
「田辺集中しろ」
「はい、すいません」
いつの間にか始まっていた授業。
本当何だったんだろう?
イチョウの葉をそっとノートに挟み込む。気になって仕方ない。
そんな秋の出来事。
小さな小さな出来事。














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