これでも魔王です、一応。
遊森謡子様企画の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
◆ ◆
勇者が魔王城へやってくる! その魔王城は、ちょっととんでもないものになってました。
「これでも錬金術師です」の魔王様視点です。
お話は進んでいますので、そちらから先にお読みいただいたほうが良いです。
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じゃかじゃかじゃかじゃかじゃじゃーーん!
ぎゅいんぎゅいーーん!
だかだかだかだかだだだーーん!
「「な、な、な、な、な…?!!」」
「おおう…太一くん、こういうの見覚えない?」
「うん、ばっちりあるよ、博士…ていうか僕、行ったことある。」
「おおっ!どこかのグループのオタクですか?」
「そこまでじゃないよ、ファンだったってだけ。」
………ふぃぃぃぃん……
青い座布団の上に載った水晶球に手をかざして、映像を消す。
とうとうやってきたか、勇者。
……いや、覚悟はきちんとあった。
この大地に降り立ってから、様々な出会いと別れがあった。
今回の出会いが、俺と勇者達にとって、幸運でありますように…
「魔王様、勇者一行がやってまいりました。」
「あ、うん。今水晶球で見てたよ。」
「…それは水晶ではなく、氷晶石です、魔王様。」
「んー…まあまあ(笑)」
「はああ…して、いかがなさいますか、今日の催し物は…」
「うん、続行しよう。勇者達も巻き込んじゃえ!」
「御意。城内放送をいたします。」
「…まって、勇者達がドームに入ってからのほうが良いな。」
「はっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おや、人間さんですカー、イラッシャイマセー。」
「え、あ、は?!」
「オトナ5名、5000メードになりまス。」
「ちょ、ちょっとまってったら!」
「エ?あ、はーイ。 失礼いたしマシタ、勇者様ゴ一行様は、魔王様のお計らいで、無料でございまマすー。」
「「!!」」
「どうして、僕が勇者だと?」
「はイ、魔王様がご確認されマした。」
魔王城は、ライブ会場でした。
どっかの大きなドームみたいなのが、若干おどろおどろしい姿になってて、お化け屋敷を思わせる。
一応入り口を探してみたところ、チケット売り場みたいなのがあった。
で、さっきのやり取りだ。
受付は鹿みたいな魔族。
後ろからやってきて説明をしていた魔族は馬だ。
パスカードを受け取り紐を首にかけて、馬の魔族に案内されるままについていくと、大きなモニターが設置されている場所に出た。
「今演奏されている曲の後、ちょうど休憩時間になります、その間に入りましょう。」
「「演奏!?」」
魔法使いのプラムさんと、ギャンブラーのシードさんと、格闘家のローレルさんが、さっきから声をそろえて絶叫する。
いや、仕方ないけど…
こんなの、むこう…地球の日本では普通かもしれないけど、ここはシュークリプスっていう異世界だ。
僕、要太一と、博士…矢樫勇太は日本人だから、受け入れるのもぎりぎり何とかなった。
でも、彼らには無理だろう…
魔王城で、コンサートだなんて意味がわからないに違いない。
今歌っているのは鳥の魔族3体。
『―――ふりかーえーる、このプリズムみたいな。まるで恋心!』
『プリナン・プリナン・プリナーン』
『ふりかーえーる、まるでうそみたい。ふりかーえーる、夢じゃないよね?』
ずさあああーーー!
「勇者!博士!?」
思わず、二人でずっこけた。
ぱぴーむかよぉぉおおおおおおお!!
そっくりじゃん!
「? あ、もうすぐ終わりますよ、いきましょう。」
「…ハイ……」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ピンポンパンポーーン♪
『第一部終了でございます。只今より30分間の休憩といたします。』
ざわざわと客席から移動するものや売り子から弁当を買うものなどがいる。
…魔界はずいぶん丸くなった。
今ではもう人間を襲うものは無い。
表現の自由を与え、ちょっとだけ法律を作り、人間界の下に広がる広大な魔界を行き来できるよう交通機関を作った。
俺がほしかったもの、その中にもう一つあったのは娯楽だ。
とはいえギャンブルは無し。
スポーツはそこそこある。
…たどり着いたのが、コンサートとライブだった。
運よく楽器は沢山あった。
見目麗しい魔族をどっさり集めて、いくつかグループを作って、最初は演奏会からはじめた。
こちらへきたときに得た魔法。
「創造魔法」でスピーカーやマイク、音を調節する機械も作った。
電気の代わりに魔力を使うことで問題のほとんどはクリア。
仕事と雇用を作れたのも良かった。
俺は満足している。
むこうから吹っ飛ばされた当初は思わなかった。
ここはもう、俺の住むべき場所になった。
そして、やりたいことがどんどん増えた。
さてさて…勇者よ、オオトリの俺に、どうおどろいてくれるかな?
ピンポンパンポーン♪
『ご来城の皆様にお知らせいたします。 只今、勇者が魔王ドームにやってまいりました。』
一気にどよめきが大きくなる。
スポットライトが勇者一行を照らす。
慌てふためいて武器を構え損ねる勇者以外の連中。
勇者は構えない、お、もう一人いるな。
『お静かにお願いいたします。 勇者ご一行様、武器をおしまいください、当ドームは武器の抜刀は禁止でございます。…あ、ちょ!魔王様!!』
『おーう野郎共、レディ共!魔王"エクレア"のケンゴーだ。』
きゃぁあああああーーーーー!
うぉおおおおおーーー!!
大絶叫。
なんて心地よい。
『よしよーし、静かにしてろよ。…おう勇者、オメーは聞いてくれそうだな。見てのとおり、今日は月に一度の異種混合ライブの真っ最中なんだ。申し訳ないがいつか来るだろうと思って前もって、席を設けてある。第二部で終わりだから、それまでは静かに頼むわ。 ま、そういうわけだ、安心しなおまえら。ライブは続行だ!!』
きゃあああーーーー!!!!
よっしゃぁああああーーーーー!!
ふふふ…たまらないな。
『じゃ、休憩時間終わるまでゆっくりしてけ。ほい、マイク返す。』
『今!? …え、えー…と… 連絡事項をいたします…』
呆然とした勇者以外の一行が席について、休憩時間も終わり。
テクノポップ、恋愛ソング、アイドル系、ロック・ヘビメタ系。エトセトラ。。。
出来る限り好き勝手にやらせてもらった結果、俺のわがままは受け入れられた。
本当にありがたい。
だから…
勇者に殺されてほしくない。
この魔界に住む連中だけは。
人間界にいる連中は俺に従わなかったやつら。
追い出したわけじゃない、彼らは自らの意思で出て行った。
…さあ、ラスト。
出番が来た。
『キンカンズのおふたりでした、ありがとうございましたー。』
『さあ皆様、お楽しみいただけましたでしょうか?とうとうラストでございます…我らが魔王様!』
『『"エクレア"ケンゴー様で、「毒霧の故郷」です!!』』
きゃああああーーーー!!
魔王様ぁあああーーーー!!!!
――――
北へむかう魔境列車降りたときから
結界駅は毒霧の中
故郷へ帰る者の列は誰も笑顔で
悲しみ一つ、見えはしない
愛したあの女、今どうしていますか
もう二度と、会えはしない
帰るすべは無くも
俺には再び得たかけがえの無い故郷もある
わが二つ目の故郷
毒霧の魔界よ
――――
わあああああああーーーー!!!
大歓声の中で手を振り、ある箇所を見れば…
なれない音に崩れ落ちる人間3人と、聞きなれている2人。
勇者にいたっては涙を流しながら拍手をくれている。
俺の歌は演歌。
魔族たちも涙を流すものは多い。
心を震わせる楽曲と歌詞こそが俺の武器。
音楽を知ってはいても自ら発信することは無かった魔族にとって、さらに歌を歌わせるのは至難の業だった。
それでもやりきった。やってやった。
マネージャー役の魔族たちにプロデューサーと呼ばせるのも楽しい。
魔族たちの動作指導をするのはマリオネットの魔法でカバーできた。
さあ、勇者。
どうやって決着を付ける?
「控え室へ勇者達を呼んでくれ、話がしたい。」
「御意…魔王様」
コンコン!
「魔王様、勇者一行をお連れしました。」
「おう。」
「はじめまして、勇者タイチです。あなたが魔王でしたか。 …日本人ですよね?」
「ああ、はじめまして。"魔王エクレア"ケンゴーだ。 日本生まれの日本育ち。魔力は今代魔王から分けてもらったものだ。」
「え?」
「召還魔王だもんな…あんたが悪さしてたわけじゃないんだね?」
緑色の髪の少年が、カバンから薬品を取り出すと、髪にじゃばじゃばとかけだした。
「おい!?」
「…ふーう…ども!俺も日本人っす。パーム、こと、ヤカシでーす。」
「おぉ、そうだったのか!」
「俺は間違って連れ出されたらしいんだ。おっちゃんは?」
「ああ…俺は今代魔王から呼ばれた正規の召還魔王だ。…先代の悪さはお前らが知ってるとおりだろうな。」
しょーも無いいたずらでも、数が数なだけに今の魔王は尻拭いでいっぱいいっぱい。
そこで、自分は事務作業に専念し、民衆のケアを俺にまかせることにしたわけだ。
「魔王が二人いるから、呼びわけるために、"魔王エクレア"のケンゴーと、デガルダスに分かれたってわけさ。エクレアってのは苗字みたいなものかな。 …あと、まだおっちゃんじゃねーから。32だから、俺。」
「じゅーぶんおっちゃんだよ。俺13だもん。勇者は17だっけ?」
「うん。」
「…まじか…」
軽く打ちひしがれていると、ばたーん!と聞きなれた音。
「デガルタスさん!」
「ケンゴー君…すまん、遅くなった…」
「「うわあああああ!!!!!」」
数秒後、やつれてへろへろの今代魔王、デガルダスがあらわれた。
だから。
「ちゃんとメシ食えっていったろ!?」
「すまん、時間が惜しいんだ…して、こちらが正規勇者さんと、間違って呼ばれた勇者さんかな?」
「ええっ 何でわかるんですか!」
「いやぁ、一応魔王だから…ああ、立っているのも辛い…」
「ほら、座って!」
「すまない… 申し訳ないが、勇者さん。私達はどちらも戦うすべがありません。どうしてもとおっしゃるなら…先代を呼びますけれど…」
「…えーと…僕らは、魔王を懲らしめにきただけで、悪さをしていない魔王さんをどうこうする気はありません。」
「右に同じくぅ。」
「んー…ただ帰すだけじゃ、もったいないな。」
「ケンゴー君?」
「せっかくだから、勝負しないか?カラオケマシーン、作ったんだぜ。魔力で動くから好きなだけ使えるぞ。」
「「からおけ!?」」
あ、ほっとかれてた勇者の仲間がつっこんできた。
「俺の武器は歌だ。 普通に歌うだけで、精神を蝕むも揺るがすも、そして感動に泣かせるのも自由自在さ。だからこそ、こうして魔界を平穏に導けた。その俺に歌で勝てたら勝利ってことでどうだ?」
「……どうする、博士?封印するわけにいかないんだから、従ったほうがいいかなぁ?」
「いーんじゃない? あ、そのかわり、勝っても負けても仲直りできたってことで良いよね?おっちゃん。」
「おっちゃんじゃねっつーの。 まああいい、俺は寛大な魔王だからな。」
「じぶんでゆーなよう(笑)」
結果か?
俺の勝利に決まってんだろう。
勇者達には負けたから封印しないってことになってってことと、今の二人の魔王たちは悪さしてないってことを、神様に伝えてもらう約束をした。
あと…
先代魔王はきっちり神様にしかってもらいました。
やれやれ…
「え、俺達の活躍、丸々割愛!?」
「ふはははは。ここは魔界だ、魔王の権限で何でもありだぜ!!」
「…おっちゃんの武器って、ずるばっか…」
「勇者までおっちゃんいうなー!」
カムバック、ありがとうございます!
もう、書きたいことジャンジャン描きました!
http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/126804/blogkey/682829/
企画期間終了のお知らせ。
ですが、投稿はまだ出来るようです。
興味のある方はぜひ!!
http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/index.html
れたす様のまとめサイト。
みなさんの作品が一覧になっています!
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キャラクター紹介
勇者…要太一
17歳、高校生。
剣道部の部活の帰りに、足元に魔方陣が展開、強制召還。
神様から魔王を封印できたら帰すと約束されていたので、カラオケ大会の後、無事家に到着。
ただ、封印は出来なかったのでそのペナルティーとして、一時間ほど行方不明になってて捜索願いだされる寸前に帰還させられた。
正直理不尽だと思う。
博士…矢樫勇太
13誌、中学生。
学校サボってゲームセンターへ行っていて、その帰り道で太一君の召還魔方陣に巻き込まれた。
ちょっぴり不良少年、茶髪。
ヤカシが発音できないので、ヤシからとってパームと名乗っていた。
偶然であった錬金術師の弟子となる。
緑髪、緑瞳は魔法薬で解除可能。
神様が帰してくれる予定だったが、この世界が気に入った様子。
間違って召還されたお詫びとして、日本と魔界を結ぶ魔方陣を作ってもらった。
ちょくちょく行き来している。
魔王エクレア"ケンゴー"
石神健剛
32歳、会社員。デスクリーダー。
今代魔王のデガルダスが、ひとりでは魔王をやってられなくなって、苦肉の策に素質のある人間を探した結果、とうとう見つけた魔王っぽい人間。
日本と魔界を行き来できる魔方陣を条件に、魔王を引き受けた。
ちなみに、演歌の歌詞に日本に彼女がいるっぽい節があるが、彼女いない暦5年(笑)
もちろん、両方を行き来できるのでいつでも帰れる。
魔界で手に入れた小さい輝石を、日本の質屋で売ってこっそり稼いでいたりするので、そこそこ小金もち。