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文通相手

作者: さけみりん

 郵便受けを開けると、今日も手紙が入っていた。差出人には「吉田 了子」と書いてある。

 俺がこの吉田さんと手紙のやり取りをするようになって、早一年になろうとしていた。今はいない住人宛に届いた手紙に「このアパートの前の住人は引っ越したみたいですよ」と返事を出したのをきっかけに、今ではすっかり文通する仲になっていた。

 彼女との手紙のやりとりを通じて、前の住人の友達だということ、英文学を学んでいること、生まれ故郷は遠いこと、将来は暖かい家庭に憧れていることなど、沢山のことを知ることができた。

 今度の手紙にはどんな話が書いてあるのかな、と俺は期待しながら封を開けた。しかし中身を読んでいくと、どうも様子がおかしい。全体を通して文章にまとまりがなく、支離滅裂だ。それでもかろうじて意味を汲み取ろうとするならば、こういったことになるだろうか。

『――その部屋に以前住んでいた私の友達は、誰かに後をつけられたり、写真を撮られたり、勝手に郵便物を漁られていたりしたそうです。それが嫌で一年前、引越しをしました。その後はなかなか借り手がつかなく、つい二週間前まで空き部屋だったらしいです。つまり貴方は、その部屋の住人じゃなかった。……そもそも、貴方は一体どうして、自分の部屋宛でない郵便物を開けて、勝手に返事を書いていたのですか?』

 文面から察するに、彼女はどうも俺のことを怪しんでいるみたいだった。とんだ誤解だ。早速筆をとり、俺は吉田さんに宛てた返事を書いた。

『吉田了子さんへ

 要するに、君はこう思っているのだろう。俺が君の友達のストーカーではないのかと。確かに俺は二週間前からここに住み始めたばかりだ。だけど君の推測は、間違っていると言わざるを得ない。なぜなら俺は君の友達のことなんか、もうなんとも思っていないからだ。俺が気になっているのは、そう、吉田さん。君だけだよ』

 そして俺は、少しでも手紙が早く着くようにと、彼女の家に一番近いポストに投函し、今日も彼女の写真を物陰から撮る準備をてきぱきと始めたのだった。



【了】

お読みいただきありがとうございました。

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