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REDFOX

作者:吉野水月
 まず戦国ファン、真田幸村ファンの皆々様にお詫び申し上げます。本小話は歴史的事実を完全に無視したものであり、戦国BASARAや無闇矢鱈に武将を女体化する様々なゲーム以上に資料に基づかない無いどうかしている駄文の連なりであります。また恥も外聞もなく2016年度大河ドラマに便乗した代物であることを宣言いたします。(いつも以上にヒデェ始まりだな、おい)
「真田殿。献立の話だが……その件で秀頼様がお召しである」
「戦以外の話をされても困りますな。出城の造成に大童です」
 武将といっても様々なタイプがある。戦わずして勝つを目指す政戦略型、誰かの智慧袋となるをよしとする参謀幕僚型、猪突猛進の勇将型、見栄が全ての未だに戦国全盛期の蛮風を引きずる野武士型……真田幸村はどれも兼ねているようにも見えるがどれも兼ねていない。幸村は純粋に軍事を追求する技術者型だった。
 この大戦の前に飯の話など……と思ったが、兵糧の話をしようとしているのかもしれぬ、と思い直した。一応二年は持つ算段ではある。
 大野殿は話が下手だ。だから戦になるのかもしれぬ。大野は申し分の無い教養人でかつ根っからの事務屋であり大坂城を取り仕切ってきたが、対外折衝などは苦手だ。交渉ごとでは徳川の方が数枚上手のようだった。

「真田幸村、まかりこしました」
 南蛮風の数々の装飾がなされ部屋。桐の家紋が刺繍されたビロードの天幕、白檀のテーブル。傍らには純金の千成瓢箪の馬印。豊臣家の武勇と栄光の象徴だった。もはや失われる可能性が高いやもしれない。黒檀の椅子には固太りの大男といった風情の若者が座っている。
「よくきた。幸村。まずは夕餉でも食うがよい」
 山海の珍味が趣向を凝らした豪勢な膳が出された。信州上田出身の幸村にはどれもこれも馴染みの無い味だった。
「どうか」
「旨うございます。変わった味ですな」
 臆せず鮑の切り身をつつく。
「それは南蛮の酒で煮た鮑だ」
 秀頼は溜息をついた。
「私はここに座って美味いものを食っておる。兵たちが寒い中城の警備に立ち、まさに血を流さんとしている今もな。これからは冷え込む。せめて温かくて日持ちのする美味いものを食わせてやりたい」
「は……」
「余は公家をもてなすことくらいはできよう。しかし、戦場で兵どもが何を食わせたら喜ぶかまったく見当もつかぬ。幸村、そこで一つ余に教えてくれるか」
 秀頼は本当に困ったような顔を浮かべている。
 基本的に性格のよい方なのだ。宇喜多秀家が、ただ、「頼む」と言われただけで涙してしまい一言も言えなくなってしまったという理由が今こそ分かる。学識、教養共に申し分がないし、軍学、用兵術も学んでおろう。武芸もそこそこできるという。だが、惜しいかな、母である淀殿の影が大きすぎる。父母に相当する者がいないと子はきちんと育たぬ。一生母親の顔色を伺う弱い男になってしまうだろう。だれぞよい父役の武将がおれば大将の器であろう。
「仰せのままに。何を振舞うか一つ思案させていただきとうございます。材料を調達し、大坂城の調理場を借りますがよろしいでしょうか」
「無論、惜しまぬ」
 秀頼は笑い、嘆息した。
「母上の言うことばかりに従ってきたからよ。私も可能なら馬上にて戦いたかった」
その悔しさは九度山に蟄居させられた幸村にはよくわかった。
「大将というものは陣にしっかり構えておるものです。彼の信玄公は陣幕の中から一切姿をあらわさず大軍を指揮しました」
「いくらなんでも余は自分を信玄公並みとは思わぬわ」
 秀頼は苦笑した。
「余も同じものを食う。戦場に立てぬ後ろめたさを少しでも減らせるやもな」
「畏まりました。必ずや何か美味いものを兵どもに振舞います」

 また余計な用事が増えたが人心をまとめる上では悪くない手だ。同じものを食えば士気と団結心は高まろう。幸村はほくそえんだ。
 寄せ集めの牢人勢ではなく、豊臣家の軍にしなければならない。そのためには結束が必要なのだ。以前、どこそこの家に仕えていただとか、戦場で手柄を立てただとか、いや、どこそこの喧嘩で勝った傾奇者であるとか、オレには実戦経験がある、オマエにはないだとか下らない諍いはあらゆる所でおこっている。「このままでは喧嘩で壊滅しかねぬ」後藤又兵衛がぼやいていた。
 大事なのはこの戦で如何に働きができるかであろう。あるいは秀頼は自分が思っているより賢い主君かもしれなかった。

 幸村は配下の忍たちにあたった。忍たちこそ携行食糧のエキスパートだった。握り飯がよいのではないか、という話があったがまとまらなかった。選りすぐりの真田十傑衆のうちの一人、明にいって修行したという三好青海入道があるものを提案した。
「向こうには旅行麺というものがありましてな。宋代からあるのです」
「それは如何なるものか」
「油で揚げた麺や具材が素焼きの椀に入っていて、湯で戻すのです。旅の道中でも食えるように」
「作れるのか?」
「やってみましょう」
 ほうとうに似た平打ち麺、薄く切った高級品である蒲鉾、また宣教師から教わった炒り卵などを乾燥させ、粉状にした鰹、昆布などでとった出汁を素焼きの椀にいれた。これで沸かした湯さえ注げば饂飩になる。
「今ひとつだな。もう一つくらい何かないか」
「はあ……」
「稲荷の好むという油揚げはいかが」
「それだ!」
 豊臣家に縁のある伏見に、また大坂城内にも稲荷大明神が祀られていた。
 ごま油で揚げた豆腐をを加えた。さて、と。これに湯を注ぐと……馥郁たる香を放つ熱い饂飩が出来上がった。黄金色の出汁に白く平たい麺が絡み、さらに巨大な油揚げをはじめとし、炒り卵、蒲鉾などが点在する。素焼きの質素の椀の中が正に贅を尽くした宴席と化した。保存をきかすために、素焼きの丼には重ねた障子紙を貼り付けて密封した。

 湯を注ぐこのほうとうは秀頼へと献上された。
「これは、またとない。なんと、ほうとうがここまで豪勢になるものかな」
 ハフハフと満足気に食う秀頼。
「そなたの名前をつけよう。どうじゃ、〈真田ほうとう〉」は」
「はあ……」
 幸村は少しだけ微妙な顔をした。

 早速量産され、大坂中のあらゆる将兵に配られた。大坂城の牢人たちは戦国の生き残り、古強者だけではない。そうした祖父、父の姿を見て 『生き過ぎたりや二十三』とか粋がっているヤンキー風味の若い傾き者たちも大勢いた。こうした連中は人心収攬術になれてないものだから、秀頼様御下賜の〈真田ほうとう〉に、いたく感激した。
「秀頼様の振る舞いほうとうじゃ!」
「こんな旨いものは食ったことも無いわ!」
「豊臣は下々の我らさえ、かような豪勢な代物を食える! 関東の田舎者とは違うわい」
「おうよ、10年は戦えるぞ!」
 秀頼は〈真田ほうとう〉の蓋……重ねた障子紙に朱漆を塗り、特に六門銭の金箔を貼り付けることを許した。

 大阪冬の陣がはじまった。
 一斉射撃が木霊する。土埃の向こうから馬蹄の音が轟き、葵の紋がはためく。豊臣方の散兵線を引きちぎって徳川の騎馬武者が殺到する。誰もが徳川の勝利を確信していた。真田勢はたちまち引いていく。
「真田勢など造作も無いわ。口ほどにもないのう」
「なんだあれは……」
 真田勢が退去した際に巻き上げた冬の土埃が晴れたとき、今までの日本の武士が見たことの無い異形の城砦が目の前に立ちはだかっていた。

 完成した真田丸は敵戦力を吸引しすり潰す吸血ポンプとして作動した。赤備えの小勢が馬出か出撃し発砲しては退却した。徳川勢が挑発に乗り押し寄せる。張り出した保塁により側射を可能として死角を無くし、さらに大砲の直撃にも耐えうる傾斜をつけた壁は大鉄砲ではびくともしなかった。
 周囲に掘られた二重の壕も巧妙を極めていた。登ろうと思えば登れる緩い斜面を登り、下るとその上から銃撃を浴びせられた。いわゆる反斜面戦術だった。それを突破すると今度は比較的高めの盛り土があり、やっと上にたどり着くと地雷火が埋設されていた。そしてその下には杭や竹槍を並べた奈落のような垂直の壕が掘られていた。
 また真田丸には世界で手に入る限りのあらゆる火器が大量に装備された。通常の火縄銃の他、防盾をも貫くスペイン特注の重マスケット銃が火を噴いた。それでもなお集団で突撃してくる敵には好事家が発明した回転式多銃身砲、名づけて〈峨闘輪具砲〉がうなりをあげて間段無く銃弾を降り注がせた。明から輸入した火箭いわゆる多連装ロケット砲、射程は短いもののムガル帝国がもたらした皇虎重臼砲が城壁を越えて徳川の先鋒に打ち込まれる。
 南蛮より伝わったイタリア式築城術で建設された真田丸は迫る徳川勢に銃撃を浴びせ撃退し続けた。また夜間になると少しずらした地点に提灯でもって「風雲真田丸!!」という灯火によるネオンサインが浮かび上がった。怒り狂った徳川方が射撃をしても痛くも痒くも無い。真田丸は攻撃する要塞だった。

「なんと卑怯な!姑息」
「その穴倉が出てまいれ!」
「まことの武士なら刀槍でこい!」
「真田は穴倉の狐だ」
「いや、ただの狐ではない。赤い狐だ!」
 当の幸村は火力戦を理解していない残念な関東方よ、ガッカリ武者よ、としか受け取らなかった。
もし、徳川が天下を奪ったらさぞや夜郎自大の異国勢に対抗できない日ノ本になるであろう、と鼻白んだ。 まあ、そんなこともなかろう。勝利するのは豊臣だ。豊臣勝利の暁には貿易を盛んにし、国を大いに富み栄えさせ、水軍を拡張して南方を経略し、太閤殿下が果たせなかった明征服、印度まで席巻、南蛮と対峙するであろう。

 真田丸により損害は続出、また徳川方は寒風吹きすさぶ中で攻囲せねばならず、徳川方の士気はガタ落ち、逆に〈真田ほうとう〉を食べて大坂方の士気は沖天を突くが如き勢いとなる。

 徳川方が討ち取った大坂方の足軽の腰に〈真田ほうとう〉がぶら下がっていた。「豊臣方は足軽にいたるまで、こんなに美味いものを食っているのか!!」徳川方の武士達は切歯扼腕した。そして腹いせに鹵獲した〈真田ほうとう〉に「赤狐」と名づけて食べたという。

 家康は、大坂城の天守閣をイギリスから輸入したカルバリン砲でもって砲撃し、淀殿の心胆を寒からしめた。あと一押しで徳川は壊滅する……そう踏んでいた真田幸村をはじめとする大坂方は愕然とした。大坂城の威勢と損害の多さ、そして伊達や島津などに返り忠をすすめる密書をばら撒いていた。実際、裏切りに応ぜずとも徳川勢を分断する効果があった。さらに牢人を煽り京で火付けを繰り返させていた。
 とどめはスペインより借り上げたガレオン船5隻でもって江戸を砲撃させる手筈となっていた。大坂方は勝利まであと一歩とのところで奈落の底へと転げ落ちてしまったのであった。

 一度は講和した徳川と豊臣だったが、講和にかこつけて大坂城の掘を埋め立ててしまい、再度開戦となった。
 大坂夏の陣である。

「余が甘かった。油断しておったわ。その方の勝利を無駄にしてすまなかった。母上の言うことを聞かなければよかった」
 秀頼はがっくりと肩を落とした。
「篭城ができないのなら野戦で勝つより他ありませぬ。晴天に轟く雷の如く家康公と秀忠公を討ち取りたく」
 秀頼は小姓数人に命じて木箱をとってこさせた。中には見たことの無い南蛮の短銃が十一丁も入っていた。
「短筒ですな」
「〈りぼるばあ〉という六連発の銃よ。遠く北の諾威ノルウェイという国より取り寄せた」
「六連発とは豪勢な。こんな装備で豊臣方を再編成してみたいものですな」
「うむ、しかし、これは十一丁のみしかない」
「充分にございます。私と我が直卒、十傑衆にいきわたりまする。その上、六連発とはまた六門銭を思わせて縁起が良い。家康殿の御首を頂戴してまいります」
 豪華な膳が幸村に振舞われた。
「これも旨いがあの〈真田ほうとう〉は旨かったな。徳川方はそなたと引っ掛けて〈赤狐〉」と呼んでいるそうだな」
 秀頼は笑った。
「しかし、狐は家康殿の方。狐狩りをいたして参ります」
「幸村、勝利の暁には、また、みなでこの赤狐を食おうぞ」
「ははっ!」

 御存知の通り、豊臣方は大坂夏の陣で滅びた。赤狐の名称は広く知れ渡っていたようでまた夏の陣でも少し出回ったようである。面白いことに由来を知らずに豊臣方でも〈赤狐〉と呼ばれるようになったという。幸村を逃がそうとした真田配下の侍は、「徳川が怖くて赤狐が喰えるか!」と叫び突撃を敢行した。侍の名は武田鉄矢右衛門と伝わっている。

 この〈赤狐〉は豊臣家滅亡後も大坂の町で作られ食された。三代家光の時代までは禁止されていたが、大坂の町民によってこっそりと受け継がれていった。後、西国を中心に広まったと言う。
 元禄時代には対抗して徳川家康が大阪冬の陣で振舞ったという話が創作され、緑狸という種物蕎麦の旅行麺が大いに流行したという。この旅行麺は伊勢参りなどで全国に普及した。囚人が年越しに所望することほどの人気だった。
 そして時代は明治、大正、昭和、戦後になり即席麺が大洋水産から発売されると大ヒットとなった。〈赤い狐〉と〈緑の狸〉はどこでも買える。
 ふざけた話ですみませんでした。リアリティのない話なので信繁でなく幸村としました。まあ民明書房みたいなものです。そういや信長のシェフという漫画がありました。寒いと赤いキツネって時々無性に食べたくなりますね。ちなみに宋代からあるという旅行麺(だったと思う)古本でちらっと読んだ程度で詳しくないのですが、どなたか御存知の方がいらっしゃればお教え下さい。
台湾の伊府麺がカップ麺のルーツらしいという話もあります。

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