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作:北加チヤ



10:真夜中になんですか


 あっという間に一週間が過ぎたが、その間ヴァンがまたあれになることはなかった。
 あたしは二日目からヴァンにDVDを借りてアニメの勉強をはじめ……恥ずかしながら、そのまま夢中になってしまった。
 今あたしはベッドに横になりながら『デジモンアドベンチャー』のDVDを見ている。これが部屋に備え付けられた巨大スクリーンで見ると、臨場感があって面白いのだ。それにこの国の言葉が分からないあたしには、TV番組はどれもつまらなかったからこのDVDは良い暇つぶしにもなった。
 あたしは毎日午前中と午後の二回ヴァンと遊んでいる。ヴァンが勉強の時間にはアニメを見たり、日本に帰ってからの30億円の使い道についてのマネープランを立てる。昼食と夕食はヴァンとレインと三人で食べ、夜眠る前にはヴァンとの交換日記を書く。日記の話題はたわいもないことばかりで、時々ヴァンは漫画を描いて寄越すこともあった。
 レインはというと相変わらず何を考えているのか分からなくて、あたしとヴァンが遊んでいるといつも黙ってその様子を見ている。腕輪貰ったから見てなくたって大丈夫なのに、彼はなるべくあたしとヴァンを二人きりにしないようにしているみたいだった。まあでもレインはヴァンの護衛なのだからついていないとおかしいか。イカスミに関わるとろくなことがないので、あたしは彼にはかまわないことに決めた。

(もう、寝よ……)

 あたしはテレビを消すと、掛け布団をたぐり寄せた。環境の変化のせいかこのところ体調が優れない。ちょっと前まではパンの耳だけで7時間立ちっぱなしでも疲れなかったのに、今ではヴァンと1時間遊んだだけで疲れる。肉体疲労よりも精神疲労の方がこんなにきついとは正直思わなかった。
 あたしは灯を消すと静かに目を閉じた。明日も平和でありますようにと願いながら。









 夜中の2時に目が覚めた。どうにも苦しくて寝ていられなかったのだ。身体の中心あたりが重い。まるで大きな石でも乗っかっているかのようだ。
 身体が疲れていると金縛りにあうというがこんなのは初めてだった。あたしは幽霊なんてものは信じないし、もちろん見た事なんてない。
 だが、いるのだ。誰かが……
 あたしの上に乗っている。

(ぎゃ〜、嫌だ、本当に……どうしよう)

 自分の上に乗っている物を確かめる勇気もなくて、あたしはただじっとしていた。何もしないでいれば通り過ぎて行くだろうと思ったのだ。
 ところがあたしの上に乗っているものは突然動き出すと、あたしの肩をがっしりと掴んだ。強い力だ。あたしは怖くなって目をぎゅっと瞑った。早くいなくなってと心の中で何度も祈る。すると、

「カナン……」
 名前を呼ばれた。

(え? この声……)
 あたしはゆっくりと目を開けた。その声には聞き覚えがある。寝ぼけた頭を叩き起こし、暗闇の中目を凝らすと、 

「カナン、起きてよ」
 目の前にはヴァンの顔があった。

「ヴァン、何? こんな夜中に?」

 こんな夜中に人を起こすなんて一体何事だろう。あたしは何か異常事態でもあったのかと思った。
 ところが、ヴァンはあたしが起きたのを知ると楽しそうに笑ってベッドの上から身体を退かして一言、

「夜ばいだよ」
 と言った。

(え、えええ!?)

 あたしは頭が真っ白になった。そんなこと、全く思いつかなかったのだ。
 けれどよくよく考えてみればヴァンはもう十八歳で、普通にそういうことに興味だってあるだろうし、もしかしたらその……最近の子は進んでるから経験だってあるのかもしれない。
 でも、ヴァンはあたしにそんな……どうのこうのいう素振りは全くなかった。それにヴァンは本当に子供っぽくて、あたしは彼を弟みたいに思い始めていた。だからあたしはヴァンを『男』として全く警戒していなかったのだ。

(どうすれば……)
 あたしが動揺していると、ヴァンは「ああ間違えた」と言って笑った。

「夜遊びだよ」

 僕まだ日本語勉強中だからと笑うヴァン。
 あたしはそれを聞いてほっと胸をなで下ろした。

「出かけるから、着替えて」
 ヴァンはベッド脇のランプをつけると、あたしに洋服を渡した。

(着替え?)

 まさかと思って見れば、やはりその服はコスプレ衣装のようだった。それにランプの明かりに照らされてよく見えるようになったヴァンの格好はどう見ても……

「どう、似合う? やっぱりもっと筋肉付けないと駄目だよね〜?」

 ヴァンは山吹色の胴衣を着ていた。左胸には『亀』のロゴマーク。ドラゴンボールの主人公、孫悟空のコスプレだ。本物の髪型を再現するのは流石に無理だったみたいだけれど、長いサラサラヘアーをピンと立てて“スーパーサイヤ人”にはなっている。

「に、似合うよ」
 あたしがそういうと、ヴァンはうれしそうに笑った。

「じゃあ早くカナンも着替えて。3時からだから急がないと」

「え? 何があるの? それより、行くってどこへ?」
 あたしが尋ねると、

ブラックコミケだよ」
 とヴァンは言った。





 



 あたしの着替えた姿を見ると、ヴァンは満足げに頷いた。あたしからしてみれば全然こんな衣装似合わないのに、ヴァンは「とっても似合うよ」と言って嬉しそうに微笑んだ。

「カナンはやっぱりチチのイメージだよね。ブルマじゃなくて」

 一体それはどういう意味なのだろうか? 教育ママになるタイプということだろうか? どちらにせよ、露出が少ない服で安心した。

「よし、じゃあ行こう」
 ヴァンはそういうとベッドを横にずらした。

 すると、その下から人が一人通れるくらいの小さな扉が現れた。城には隠し通路があるのは常識で知っていたけれど、城の外へと繋がる道があたしの部屋のベッド下に隠されているとは知らなかった。
 その通路は、思ったより綺麗だった。どうやらヴァンは、たびたびこの通路を使って城の外へ抜け出していたらしい。城の中だけでは息が詰まるだろうから仕方がないけれど、王子がそんな事をして大丈夫なのだろうかとあたしは心配になった。

「レインには言ってきたの?」
 あたしが通路の入り口に入ろうとしているヴァンに尋ねると、彼はゆっくりとあたしの方を向いた。

「レインには、秘密だよ。駄目って言うもの」
 むすっとした顔で言うヴァン。

 レインでなくても、こんな夜中に外出するのを誰も許さないだろう。あたしはため息をついた。

「やっぱり、こんな夜中に出歩くのはよくないよ」
 あたしがそういうと、ヴァンは真剣な顔で言った。

「カナン、ブラックコミケは月に1回なんだ。この機会を逃したらまた1ヶ月待たなきゃならないんだよ? それに今回出るらしいんだ」

「出るって何が?」
 おばけがでるんじゃないよねと思いながらあたしが尋ねると、

「スーパーサイヤ人3のカードだよ。ブラックコミケでは毎回トレカのレアカードオークションがあるんだけどね、今月は遊戯王とドラゴンボールのオークションがあるんだよ!」
 とヴァンは興奮して言った。

「でも、ヴァン」

「アグモンのぬいぐるみ買ってあげるよ」

 ヴァンのその発言に、あたしは「駄目だよ」という言葉を飲み込んだ。
 アグモンのぬいぐるみ……欲しい。
 デジモンアドベンチャーの面白さはストーリーだけでなく、そのキャラクターのかわいらしさにもある。子供達とたくさんのデジモン。たくさんいるデジモンのキャラクターの中でも、あたしは一番アグモンが好きだった。シリーズを通して登場するデジモンの主要キャラクターだし、アグモンは歩き方がとてもかわいらしいのだ。

(だめよ、カナン。目先の餌に釣られるなんて! ここは大人として、ちゃんとヴァンを叱らなくちゃ。だってあたしはヴァンのお友達なんだしそれに)

「パタモンのも買ってあげるよ」

「行きます」
 ……即答していた。

 結局二つの餌に釣られて、あたしはヴァンとブラックコミケなるものに行くことになってしまった。
 真夜中に行われるオタク達の祭典。それがどんなものなのかよく知りもせずに……







前回に引き続きドラゴンボールとデジモン。オタク王子を更正させる話かと思いきや、ヒロインがそっちの道に行ってしまう話でした(爆)
次回、闇コミケとは…?だんだんマニアックになってきました(ーー;











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