艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(92/129)PDFで表示縦書き表示RDF


今回は微笑ましい話です。
サブタイトル通り翔鶴が主役の作品で、翔鶴ファンには必見の作品です。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第十一章 第三節 戦姫翔鶴の決意と隠してきた想い


 海を進む艦隊の中央部に位置する空母『翔鶴』。真珠湾から生き残る数少ない空母。その艦体は幾多の戦いで傷つき、歴戦の戦士を思わせる。
 そんな『翔鶴』の一室にある翔鶴の部屋に、翔鶴はいた。椅子に座り、机の上に詰まれた作戦書などを読んでいる。行動型である翔鶴が作戦書を読むのは、それだけ今回の作戦が重要だという事だ。
 翔鶴はコーヒーを一杯飲んで再び文面に目を戻す。と、ドアがノックされた。
「うん? 誰だ?」
 だが、返事は返って来ない。不思議に思って立ち上がってドアに近づき、開くと、その向こうには大鳳がぽつんと立っていた。
「大鳳? 私に何か用か?」
 大鳳は無言でうなずく。とりあえず立ち話もなんなので翔鶴は彼女を部屋に招き入れる。大鳳はその間一言も何も発しない。
 翔鶴は彼女に向き直ると前機動部隊旗艦として威厳ある声で尋ねる。
「一体艦隊旗艦ともあろう者が私に何の用だ?」
 翔鶴の問いに大鳳はうつむく。何か言いづらい事なのか、翔鶴が困ったように残っていたコーヒーを一気に飲み干す。
「・・・翔輝さんを、どう思いますか?」
「ぶほぉッ!」
 翔鶴は飲んでいたコーヒーを全部噴き出すと、苦しそうに咳き込む。いきなりの事ですっかり対処を忘れていた。天下無敵、国士無双と称される翔鶴であっても油断があればこうも弱いのだ。
「い、いきなり何だそれは」
 翔鶴がタオルで服に付いたコーヒーを拭いながら問うと、大鳳は再びうつむいてしまう。そんな彼女の様子に何かを悟ったのか、翔鶴はタオルを置く。
「何かあったのか?」
「・・・(コクリ)」
 大鳳は小さな声でこの前隼鷹に言われた事を言った。自分が彼をどう想っているのかわからない、と。
 翔鶴は大鳳の言葉を黙って聞いていたが、やがて口を開く。
「どちらにせよ、貴様は長谷川に他とは違う何かを感じている。違うか?」
 大鳳は首だけを動かしてコクリとうなずく。
「・・・あと、変な気持ちがあります」
「変な気持ち?」
「・・・翔輝さんが、他の艦魂と話していると、胸が痛くなるんです」
 翔鶴はその言葉に目を丸くする。そして、
「なるほどなぁ」
 笑いながらそう言葉を出す。大鳳は首を傾げる。
「それはやきもちというやつだろうな」
「・・・やきもち?」
「あぁ。お前は長谷川が好きなんだ。そしてそいつが他の女としゃべっているのが辛くて悲しい。時には理不尽な怒りにもなる。そういう感情が胸を痛ませる。それがやきもちだ」
 翔鶴の言葉に、大鳳は否定できなかった。
 胸が痛くなる時、同時にすごく辛く悲しくなった。それに変な怒りもあった時もある。彼女が言っている事は全てそのとおりだった。
 という事はつまり、自分は――翔輝の事が好きなのだ。
 初めての感情に困惑する大鳳。そんな大鳳に対し翔鶴は頭を抱えていた。
「これ以上長谷川のまわりをややこしくしては、あいつにも迷惑が掛かってしまう・・・」
 翔鶴の言葉に、大鳳はふと何か違和感を感じた。それはさっき彼女が教えてくれた嫉妬に似た感情。
「・・・翔鶴さんは、翔輝さんの事、好きですか?」
「はぁッ!?」
 翔鶴は顔を真っ赤にして驚愕する。そんな彼女を大鳳はじっと見詰める。
「ば、バカを言うなッ! なぜ私があんな平和ボケした奴なんかを好きにならなければならんのだッ!」
 翔鶴は真っ赤な顔で怒鳴る。が、大鳳はそれをじっと見詰める。その瞳には真剣な光が灯っている。
「・・・本当の事を、言ってください」
「本当だ! あんな弱い男などにそのような感情は一切ない!」
 そう断言する翔鶴だが、心の底からそう言い切る事はできなかった。
 なぜだが、一瞬奴の笑顔が頭を過ぎった。一体どうして・・・まさか・・・
 否! 断じて否! それは違う! 自分はあのような弱い男をどう思うなんて事はない!
 翔鶴は心の中で改めて否定する。強い女の子は自分より強い男か優しい男に好意を抱くという世間一般的な常識を彼女は知らない。知りたくば秋葉原に行くしかないだろう。
 そんな彼女を、大鳳はじっと見詰める。その視線に翔鶴はまるで心の中を見透かされたような恐怖を感じた。
「な、何だ」
「・・・本当に、何とも思ってないんですか?」
「しつこい! 私は奴などどうとも思っていない!」
 大鳳は怒鳴り散らす翔鶴をじっと見詰める。その瞳には何かの確信を得たような光が灯っていた。
「・・・私は、たぶん翔輝さんが好きです」
 真正面からそんな事を言われ、翔鶴は驚く。
「そ、それが私に何の関係がある」
「・・・いいえ。ただ忠告があります」
「忠告?」
「・・・自分に素直に、ただ、それだけです」
 そう言い残し、大鳳は去った。
 残された翔鶴は「一体何だと言うのだ」と不機嫌そうに椅子に座り直す。空間からコーヒーを召喚し、口にする。
「・・・自分に素直に、か・・・バカバカしい」
 翔鶴はそう吐き捨てるとコーヒーを飲む。だが、今はその苦味も鬱陶うっとうしい。
「まったく、訳のわからん事を・・・」
 翔鶴は大鳳の話を忘れようとベッドに横になって一眠りする。だが、全く眠気はない。いつもなら寝れる時に寝れるという軍人体質なのに、今はそれが全くない。それもこれも全て大鳳のせいだ。
「・・・何が素直だ。私はあんな奴の事など・・・」
 その先を言おうとして、言葉に詰まる。
「私は別に・・・あんな奴の事など・・・」
 本当にどうとも思っていないのか、そう問われるとはっきりないとは言い切れない自分がいる事に驚き、そしてその自分がいる事を実は知っていたと気づく。
 翔輝の笑顔を、思い出し、知らず知らずに顔を真っ赤にする。
 自分の中にある理解不能な感情に戸惑う。
「・・・まさか、な」
 翔鶴はさっき自分が大鳳に言った言葉を思い出し、まさかそれはないと首を横に振る。
「・・・私が長谷川を好きだなんて・・・そんな事・・・」
 いざそうやって口に出すと、顔から火が出るように真っ赤になってしまう。
 戦艦部隊に配置されている『大和』に乗る翔輝と、機動部隊に配置されている自分では接点が少ない。会える機会などほとんどない。
 だが、たまにしか会えなくても、彼の優しさは変わらず、しかし確実に大人の男性に成長している。
 数少ない変わらない彼の優しげな笑みを思い出し、翔鶴は顔を真っ赤にする。
 胸の中に渦巻く理解不能な感情に、翔鶴はある可能性を導き出す。だが、それは認められない。認めたくない。だが・・・
 彼の笑顔が、いつの間にか自分の支えになっていた。
「・・・私は・・・一体・・・」
 胸に痛みが走る。この痛みは・・・
「なぜ私が・・・」
 翔鶴は毛布をガバッと被ると、そのまま無理やり目を閉じた。
 だが、結局その後翔鶴は一睡もできなかった。

 翌日、海を翔ける第二艦隊は電探で味方艦隊を捕捉した。その艦隊は、空母九隻を基軸とした機動部隊――第三艦隊だった。
 第二、第三艦隊は再編成を行った。これで前衛及び護衛を第二艦隊が、作戦の主力を第三艦隊が担当する決戦艦隊――第一機動艦隊が編成された。
 編成は以下栗田中将率いる前衛部隊は戦艦『大和』『武蔵』『金剛』『榛名』、軽空母『瑞鳳』『千歳』『千代田』、重巡洋艦『愛宕』『高雄』『摩耶』『鳥海』他四隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦七隻の水上打撃部隊。
 今作戦主力の小沢中将率いる第一機動艦隊主力甲部隊は空母『大鳳』『翔鶴』『瑞鶴』、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦八隻の空母部隊。乙部隊は戦艦『長門』、改装空母『飛鷹』『隼鷹』、軽空母『龍鳳』、重巡洋艦『最上』、駆逐艦七隻という軽空母部隊となった。
 参加艦艇四九隻、うち空母九隻、搭載機数四二八機という当時の日本海軍が動員できる艦艇を集約した大艦隊だった。
 そんな中、大鳳や瑞鶴達は翔輝と大和と一緒に『大和』の甲板にいた。甲板を動き回る兵達の横に集まる艦魂達が、今作戦に参加する連合艦隊の残存全戦力といっても過言ではない。
「がんばってね。あなた達に日本の運命が掛かってるんだから」
 そう言って優しく微笑むのは長門。そんな彼女の激励を受けるのは残存全空母を結集した第一機動艦隊の主力となる九人の少女達。艦齢は皆二桁も生きていないうら若き乙女達。彼女達が日本の命運を分ける最後の希望なのだ。
「あぁ、必ず敵空母を殲滅してみせる」
 機動部隊次席指揮官兼参謀長を務める翔鶴はそう宣言すると、腰の刀を引き抜いて天に向ける。銀色に輝く刀身が彼女の決意を輝かせる。
「そうね。姉さんの言うとおり、必ず勝ちましょう!」
「私は瑞鶴を守る。瑞鶴が守りたいものを守るなら、私もそれを守る」
「勝てる勝算は少ないけど、全力を注ぎます」
「お兄ちゃんの為にも、絶対に勝つよぉッ!」
「理由は問題だけど、私も姉さんと一緒に戦い抜きます」
「愛する祖国を守る為、全力を注ぐ事を誓います!」
「姉さんと一緒に、敵空母を一掃してみせるわよッ!」
 七人の空母達も皆自らの剣を引き抜き、翔鶴を中心にその剣を天に向けて重ねる。八本の刀がうら若き戦姫達の絆を結ぶ。
 最後の一人、第三艦隊、第一機動艦隊、そして日本機動部隊の旗艦を務める今回の作戦の総大将である大鳳は・・・
 クイ・・・
「あ、あのさかのん。みんなすごくやる気になって絆を結んでるんだから、君も行ってよ」
 先程から翔輝の袖を掴んでいた大鳳は翔鶴達の剣の絆をすっかり傍観していた。
『・・・』
 最後の一人が足りずに固まっている翔鶴達。その頬はだんだんと赤く染まっていく。この状態を保つのはあまりにも恥ずかしいのだろう。事実、まわりからだんだん笑いが起き始めている。
「ほ、ほら。かのんも」
 翔輝は慌てて大鳳を翔鶴達に向ける。が、
「・・・翔輝さんも」
 そんなとんでもない事を言うのだった。
「いや、僕は彼女達の絆に入る理由はないし」
「・・・一緒に行きましょう」
「ちょっと」
 翔輝が止める間もなく大鳳は彼の手を引いて連れてってしまう。翔輝は慌てて大鳳に機関銃を向けている武蔵を止めるように大和達に叫び、仕方なくついて行く。
 大鳳は翔鶴達の囲む中心に立つと、腰の軍刀を引き抜いて天に向ける。その刀身は翔鶴達の刀の中心を抜ける。
 大鳳を中心とした、新生機動部隊だ。
「・・・必勝」
 たったそれだけの短い言葉なのに、その重みに皆は感動して拍手する。剣を腰に戻しても止まない拍手に包まれる中、翔鶴は小さくため息した。
「すまんな。大鳳の面倒を貴様に預けてしまって」
「いいって。翔鶴はただでさえ辛い役目を背負ってるんだからさ。これくらいは協力してやらないと」
 そう言って大鳳に袖を掴まれながら翔輝は微笑む。その笑顔に、翔鶴は「うっ・・・」と小さく引く。
「どうしたの?」
「な、何でもない」
 翔鶴はなぜか顔を赤らめてそっぽを無向く。そんな彼女に翔輝は首を傾げる。
 翔輝の笑顔を見ただけで変に意識してしまう翔鶴。そんな彼女の異変に逸早く気づいたのは妹の瑞鶴だった。
「姉さん? どうしたの?」
「なんでもない・・・ッ!」
「わかったッ! わかったから首元に剣を当てないでぇッ!」
 瑞鶴は自分を一撃で殺すような位置を確保した剣が収められると、安堵の息を漏らす。こうして幾多の苦境を生き抜いてきたのだろう(きっと)。
 翔鶴は妹を追い払うと、背を向けて大和や武蔵と仲良さげに話している翔輝を盗み見る。その左腕には隼鷹が抱き付き、右腕の袖を大鳳が掴んでいる。
「大尉はいつも大変ですね」
「そんな事ないって、それよりお前の方こそ大丈夫か?」
 そう言って翔輝が心配したのは松葉杖を付いた雪風。先日『雪風』は対潜掃討中に座礁してスクリューが損傷したのだ。その影響で全力走行ができず、今回『雪風』は補給部隊護衛に回る事になっていた。そして『雪風』の艦魂である雪風も右足を痛め、松葉杖を付く事になってしまっていた。
「平気ですよ。これでも幾多の戦いを生き抜いてきた歴戦の戦士です。これくらいのケガなら問題ありません」
「そっか。でもあんまり無理はするなよ」
「はい」
 雪風は翔輝に心配されていた事が嬉しかったのか、松葉杖を付いているというのに嬉しくてジャンプし、着地した瞬間に襲った激痛に悶絶する。姉妹達がすぐに駆け寄ったので、翔輝は駆け寄るタイミングを見失って頬を掻いた。その時、自分を見詰める翔鶴の視線に気づく。
「何、翔鶴?」
「ッ!? な、何でもない!」
「そ、そう? ならいいけど・・・」
 翔輝は翔鶴に何か怒らせるような事をしたか思い出すが、どうも見当も付かない。そんな腕を組んで考えにふける翔輝を再び盗み見る翔鶴。
(・・・長谷川、少し見ないうちに大人らしくなったなぁ――って、何を考えているんだ私はッ!?)
「あ、あの、大丈夫か?」
「なぁッ!? 何でもないと言っているだろうがッ!」
「うわぁッ! 剣を振り回すなッ! 危ないだろッ!」
 翔鶴のすさまじい剣撃を避け、翔輝は不思議に思いながらも命の危険性を考えてそれ以上の追求はしなかった。振り返ると大和達も同じように首を傾げていた。すると、袖を引かれる感触に視線を下げると、大鳳が袖を引っ張っていた。
「かのん?」
「・・・翔鶴さんから伝言です」
「伝言?」
「・・・今日の夜、『大和』の第二砲塔の上で待つ、と」
「第二砲塔に? うん。わかったけど、何で?」
「・・・来ればわかります」
 大鳳はそれだけ言うと、自分から離れて翔鶴の所に向かった。そこで何事か話した後、大鳳はそのまま光に包まれて消えた。一瞬翔鶴と目が合ったが、睨まれてすぐに視線を外された。熱でもあるのだろうか。頬が少し赤い。
 翔鶴はふんと背を向けてしまう。一体あんな状態で自分に何の用なのだろうか。
 翔輝は戸惑いながらもとりあえず夜になったら第二砲塔に行こうと思い、わいわいと騒いでいる大和達を見て小さく微笑んだ。

 その夜、第一機動艦隊は明日の朝に艦隊の再編成をする為に全部隊を大まかに前衛、本隊と別れて闇夜を進んでいた。
 同じ決戦でも、ミッドウェーの時とは明らかに戦力が減っている。唯一勝る点は空母と艦載機の数だが、もちろん米軍もそれ以上の空母と艦載機を有し、さらには日本機の搭乗員の質はあまりにも低く、真珠湾からの生き残りなんてほとんどいなかった。
 それでも日本海軍に残された最後の決戦兵力に変わりはない。この艦隊に、日本の命運が掛かっているのだ。
 そんな第一機動艦隊前衛部隊の旗艦、重巡洋艦『愛宕』から少し離れた場所を並んで走る戦艦『大和』『武蔵』の第一戦隊。そんな『大和』の第二砲塔の上に翔輝はいた。
 月が黄金に輝き、闇夜を薄っすらと照らし上げている。その輝きは美しいと同時に、敵潜水艦に艦隊が発見されないかという不安もある。
 今『大和』は初めて敵の主力部隊が展開する海域を攻め込んでいるのだ。どれだけの危険があっても不思議ではない。
 そんな『大和』の第二砲塔の上で翔輝は星空を見上げていた。本来なら作戦航海中にこんな場所にいてはいけないのだが、森下と宇垣が事情を知って特別に許可してくれたのだ。何しろいつ敵が現れるかわからない。もし遭遇して砲撃するとなれば、こんな所に生身の人間がいれば、砲撃の衝撃でおそらく即死するだろう。それほど戦艦の主砲の威力はすさまじいのだ。
「遅いな、翔鶴の奴」
 翔輝は腕時計を確認する。それは武蔵が以前誕生日プレゼントでくれたものだ。少し傷などがあるが、まだまだきれいで正確だ。
 翔輝は遅い翔鶴にため息する。どうやら彼女は来ないらしい。
「仕方ない。もう帰るか」
 翔輝は一発あくびをして踵を返す。と、
「待たせたな」
 その相変わらず偉そうな声に振り返ると、そこには仁王立ちした翔鶴が立っていた。月をバックにしているせいか、顔色はわからない。だがどうせいつものような少し不機嫌そうな顔なのだろう。
「もう、遅いよ」
「すまん。行くか行かないか迷ったのでな」
 自分で呼んでおいて行くか行かないかで迷わないでほしい。すさまじく迷惑だから。相変わらず自分勝手な部分が多い。
 翔輝は苦笑いするしかない。
 だが、彼女の次の言葉には、言葉を失うしかなかった。
「――で、一体私に何の用だ?」
「は?」
 翔輝は思わずまぬけな顔をしてしまった。そのあまりにも予想外な言葉に、一瞬脳がフリーズしてしまった。
「え? は? な、何言ってるの? 呼んだのは翔鶴の方でしょ?」
「はぁ? なぜ私が貴様を呼ぶ必要がある。呼んだのは貴様の方であろう?」
 翔鶴も驚いたような顔をする。そんな彼女の反応に彼女も何も知らないと翔輝は悟った。
「え? でも僕はかのんから君が呼んでるって――」
「うん? 私も大鳳から貴様が呼んでいると――」
 そこで何かが繋がった。
「「え?」」
 二人は思わずまぬけな顔をしてしまう。だが、ようやく二人の間にあった疑問が一つに繋がった。
「なるほど・・・大鳳め、謀ったな」
「かのん、僕を騙したんだ・・・」
 翔鶴は自分を騙した大鳳に静かな怒りを燃やし、翔輝は悲しそうにため息した。二人とも程度は違うが大鳳を信頼していたのに、それを裏切られて少なからずショックを受けていた。
「まったく、あいつは一体何を考えているんだ」
 翔鶴はそう呆れたような声を上げ、ふと今の現状を思い出す。
 今ここには自分と翔輝の二人だけだ。大和や武蔵といった邪魔者はいない、二人だけの世界。
 急に顔が真っ赤になり慌てて彼に背を向ける。
「うん? どうした翔鶴」
「な、何でもない!」
 翔鶴の怒ったような言い方に、翔輝は困ったように頬を掻く。
「なんか、僕怒らせるような事言ったかなぁ?」
「別に何もない」
「いや、何もないならこっち向いてくれないかな? この状況は結構辛い」
「それは貴様の主観だ。私はどうとも思わない」
「うぅ、わかったよぉ。じゃあ、お互いかのんに騙されたって事で、お開きとしますか」
「え?」
 翔鶴はその言葉に驚いて振り返る。月明かりに照らされるその白い頬はまだほんのりと赤みを帯びている。
「いや、このままいても意味ないでしょ? お互い別に用はないんだからさ」
「そ、そうだな。だが――」
「それじゃ、大和とか武蔵がきっと待ってるだろうから行くね。翔鶴も早く帰った方がいいよ」
 翔輝はそう言うと砲塔の横にあるラッタルに向かう。そんな翔輝を見詰め、翔鶴は大鳳の言葉を思い出す。
 ――自分に素直に・・・
 その言葉に、自分の奥底にあるある感情を見つけた。
 ずっと隠そうとしていた。認めたくはない、だけどそこにある大切な感情。
 次の戦いは決戦になる。生きて帰れる保証はない。もう二度と、会えなくなるかもしれない。そしたら、この想いは永遠にこのまま。
 伝えるなら、今しかない。
 そう思うと、今まで隠してきた感情は一切の妨害も受けずに心を満たした。
「長谷川。すまんが、もう少しここにいてくれないか?」
「え?」
 ラッタルに手を掛けた翔輝は翔鶴のその言葉に驚いて振り返る。と、月明かりをバックにした翔鶴は、いつもの勇ましい姿ではなく、普通の女の子のように感じた。
「え? う、うん。いいけど」
「すまない」
 翔輝は翔鶴の所に戻る。
 翔鶴はなぜかじっとこちらを見詰めていた。しかもその瞳にはどこか大和や武蔵、伊勢が自分を見る時に輝かせる光があった。一体どうしたというのか。
「翔鶴?」
「――私は武人だ。大日本帝国海軍の軍人だ」
「え? あ、うん。そうだよね」
「だが、私だって一人の女子おなごだ。人並みの女子のような感情を持つ事もあった。だがそれを、軍人である私が無理やり隠し通してきた。だが、もう良い。今の私は、自分に素直になる」
「翔鶴?」
 翔鶴は一度顔を伏せた後、再び翔輝を見据える。その黒く凛々しい瞳はしっかりと自分を見詰め、雪のように白い頬は今は真っ赤に染まっている。
 薄桃色の唇が、ゆっくりと開く。

「――長谷川、私は貴様が好きだ」

 突然の翔鶴の言葉に、翔輝は呆然とした。
 脳が彼女の言葉の意味を理解するのにかなりの時間を有し、反応が遅れたからだ。
 翔鶴の頬がさらに真っ赤に染まった頃、ようやく、
「え?」
 というひらがな一文字が出て来た。
 続いて今度は翔輝の頬が真っ赤に染まった。
「な、何だよ突然! 冗談は――」
「冗談じゃない。本気だ」
 翔鶴は真剣な瞳で見詰める。その頬は桜色に染まり、常の彼女とは違ったオーラを身に纏っていた。その普通の女の子のような翔鶴の姿に、ドキリとする。
「貴様は、私のような女子は嫌いか?」
 少し自信なさげに見詰める翔鶴。そのしおらしい仕草にまたドキリとする。
「え? あ、いや、嫌いとかそんな事はないけど・・・」
「私は貴様が好きだ。もう自分に背を向けない。この気持ちは変わらない」
 翔鶴はじっと自分を見詰めてくる。そんな彼女に、翔輝は先程からずっとドキドキしている。今までこんな事なかったのに。
「わかっている。貴様は今まで私を友として接してきたのだろう? いきなりこんな事になって戸惑っているかもしれない。だが、私はずっとこの想いを持っていた」
「翔鶴・・・」
「それに、私は普通の女子のようなしとやかさなどない。このように筋肉の付いた身体は、見苦しいだろう?」
「そんな事ないよ。健康的だと思う」
「そ、そうか・・・」
「う、うん・・・」
 お互い気恥ずかしさから黙ってしまう。そのどちらの頬も月明かりの下でもはっきりわかるくらい赤く染まっていた。
 海風に揺れる翔鶴の腰まで伸びる髪にすら、視線が行ってしまう。
 色々な艦魂と接してきたが、こんなにドキドキする瞬間はなかった。
 大和や武蔵が言う好きはあまりにも回数が多くてあまり意識はしてなかったし、陸奥の告白は沈没間際だったのでそれどころではなかった。だから、こうして面と向かって本気の気持ちを向けられたのは初めてで、どう対応していいかわからない。
 それは翔鶴だって同じ事。今まで武人として、軍人として生きてきた彼女はこんな普通の女の子のような事は初めてだった。どうすればいいか、まったくわからない。
(落ち着け。落ち着くのだ翔鶴。今まで幾多の困難も乗り越えてきたではないか。今回もきっと乗り越えられる)
 そう自分に言い聞かせるが、残念ながら今まで彼女が乗り越えてきた困難は全部戦いばかり。恋愛経験はない。つまり、初恋である。
(そうだ。こういう時は見習えばいいのだ。普通の女の子を見習う。そうだ、大和や伊勢なんかと同じ行為をすれば・・・)
 翔鶴はある考えに至り、顔を真っ赤にしながらもうなずく。
「あ、あのさ翔鶴。その、えっと・・・」
「長谷川ッ! 好きだぁッ!」
「へ? うわぁッ!?」
 翔鶴は突如翔輝に抱きつき、そのまま押し倒した。背中を強力な砲塔の金属にぶつけて痛んだが、それはすぐに忘れる。自分の胸に抱き付いて離れない翔鶴を見て・・・
「しょ、翔鶴? 何で抱き付くの?」
「う、うむ。何をしたらいいかわからなくて、その・・・大和達のように、抱きつけばなんとかなるかと思って・・・」
 余計話がややこしい方向に全力疾走してるんだけど、とツッコミを入れたいところだったが、彼女の為にもそれは言わない方が得策だろう。
 だが、そんな彼女のかわいさに、翔輝は悪いとは思いながらも笑ってしまった。予想通り、翔鶴はただでさえ真っ赤な頬をさらに赤く染めて不機嫌そうに意志の強そうな瞳を鋭くさせる。
「な、なぜ笑う。何か、いわれのない怒りを感じるのだが」
「あはは、ごめんごめん。なんか翔鶴がかわいくてさ」
「かわ・・・ッ!?」
 翔鶴は顔をもう爆発寸前くらいまで真っ赤にする。それに比例して彼女の抱き付く力も強くなる。翔輝の服の裾を握る手が、小刻みに震える。
「・・・私は、かわ・・・いいのか・・・?」
「うん。大和や伊勢にも負けないくらい」
 そう言って翔輝は優しく微笑む。月明かりに照らされたその笑顔は、とても柔らかく、やさしげ。
 翔鶴はそんな彼の笑みを見て、この笑顔が好きなのだと改めて自覚する。
 いつも大和達に向けられていたこの優しげな笑みが好きだった。そして今、その笑みは自分にしっかりと向けられている。
「長谷川・・・」
 翔鶴は翔輝の胸の中に顔を埋める。そんないつになく彼女らしくないが、かわいい仕草に、翔輝は頬を赤く染める。
「あ、あのさ。好きって言ってくれてありがとう。僕も、翔鶴の事は好きだよ」
 翔鶴は顔を上げる。瞳が、繋がる。
「でも、僕はみんな好きなんだ。大和も武蔵も、伊勢も榛名も、長門さんや扶桑さんに山城、金剛さんだって。もちろん翔鶴や瑞鶴、隼鷹や飛鷹もみんな好きだ――そういう、好きなんだ。誰か一人に向ける、恋や愛って好きじゃない。そもそも、そういう好きってのは、僕はわからないんだ。情けないけど、僕、今まで恋愛経験がないんだ。だから、そういうのが全然わからなくて、だから・・・翔鶴の気持ちには、今はまだ答えられない」
 翔鶴は、何か返すでも、うなずくでもせず、ただじっと翔輝を見詰める。
 翔輝はそんな彼女を見詰め、今の自分の気持ちをうそ偽りなく言う。
「いつか、僕がそういう好きってのがわかる時が来るはず。その時に、もう一度、君の気持ちを伝えて欲しい――今はまだ、はいとも、いいえとも返せないんだ」
 翔輝はそう言って顔を伏せる。
 自分は何て情けないんだ、と思った。翔鶴は勇気を出して言ってくれたのに、自分はそれにはっきりとした事を返せない。逃げてるって言われれば、たぶんそうだろう。でも、本当にどうすればいいかわからないのだ。
 何もわからないのに、適当な事は言いたくない。それが、翔輝の気持ちだった。
 翔鶴は翔輝の言葉に何も答えずに聞いていた。そして・・・
「そうか・・・」
 小さな、本当に小さな声でそう言ってうつむいた。その声には小さな落胆があった。
「翔鶴・・・ごめん・・・」
「謝るな。貴様が悪い訳ではない」
 そう言って翔鶴は顔を上げる。そこにはいつものような、彼女らしい勇ましい顔つきがあった。
「貴様の気持ちが聞けて、安心した」
 そう言うと、翔鶴は小さく微笑んだ。
「翔鶴・・・」
「だが、女子にもう一度愛の告白をしろというのは、いささか失礼ではないか?」
「うっ・・やっぱりそうだよね」
「普通の女子に言うべき言葉ではない。だが、私は構わん。私は普通の女子ではない。大志を抱いた、武人なのだからな。貴様の気持ちが固まるまで、私は貴様にこの気持ちを伝え続ける。覚悟しておけ」
「あははは、そりゃまた困るな」
「くくく、まったくだ。私もなぜ貴様のような優柔不断な男を好きになったか不思議だし、苦労も多い」
「ご、ごめん・・・」
「構わん。そんな貴様の全てが私は好きなのだ」
「・・・あ、改めて面と言われると照れるな」
「ば、バカ! 貴様が照れるな! 私まで恥ずかしくなる」
「ご、ごめん・・・」
「だから謝るなと言っているだろう」
「う、うん・・・」
 翔輝はうなずくと、照れ隠しに笑みを浮かべる。そんな彼を見詰め、翔鶴も小さく微笑んだ。その笑顔には一片の悔いもない、すごく輝いていた。
 その後、翔鶴は去った。
 残された翔輝はしばし月を見上げていたが、時刻はもう深夜。眠気に根負けして自室に戻った。そんな彼を、月明かりが優しく照らし上げていた。


書いてるこっちが照れてしまうような話でした。
本当はここまで翔鶴の想いは明確にはしない予定でしたが、以前翔鶴を翔輝を取り巻く中に入れてほしいという意見があったので、今回は残り少ない翔鶴の出番として追加しました。書いてみるといつの間にかかなりラブな話になっていました。
翔輝と翔鶴の関係が急速に縮まります。
次回はついにマリアナ沖海戦直前になります。そこから展開していくマリアナ沖の死闘。どうかお楽しみに。

追伸、前話に千歳と千代田のプロフィールを入れておくのを忘れていたので追加しました。ご確認ください。






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