艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(91/141)PDFで表示縦書き表示RDF


千歳ちとせ
 千歳型航空母艦一番艦――軽空母『千歳』
 出身 呉海軍工廠(広島県)
 身長 155cm
 髪型 長髪
 実年齢(1944年6月現在)5歳
 外見年齢 15、6歳
 誕生日 7月25日
 好きなもの 千代田・剣・平穏な日常・平和
 嫌いなもの 争い事・悪口・暴力・戦争
 家族構成 妹・千代田
軽空母『千歳』の艦魂。水上機母艦として起工・竣工し、長年水上機母艦として活躍し、ミッドウェー海戦、第二次ソロモン海戦に参加。その後一九四三年の終わりに空母へと改装された。外見は祥鳳型と酷似しており似たような性能を持っている。空母としての出撃はこれが初陣となる。妹艦『千代田』、『瑞鳳』と共に第三航空戦隊を組む。そんな『千歳』の艦魂である千歳は白いリボンを付けた外見通りのかわいく優しい性格の女の子。争い事が嫌いで平和を望む。搭乗員の命を大切にしていて無謀な作戦にはいつも小さい声ながらも反撃の声を上げる力強さを持つ。誰に対しても優しく、柔らかな笑顔を向ける無防備な子。その為いつも妹の千代田をハラハラさせる。同じ戦隊を組む事になった『瑞鳳』に乗る剣に好意を持っているが勇気がなく積極的な行動には出られない。剣と一緒にいるたびに千代田の妨害行為がある為いつもいいところで失敗してしまうかわいそうな子。

千代田ちよだ
 千歳型航空母艦二番艦――軽空母『千代田』
 出身 呉海軍工廠(広島県)
 身長 155cm
 髪型 長髪
 実年齢(1944年6月現在)5歳
 外見年齢 15、6歳
 誕生日 12月15日
 好きなもの 千歳・千歳の笑顔
 嫌いなもの 金剛・千歳を取られる事・千歳をいじめられる事・千歳の泣き顔
 家族構成 姉・千歳
千歳の妹で軽空母『千代田』の艦魂。生い立ちは『千歳』と同じようなもの。千歳よりやや釣り目で性格は優しい千歳とは反対に強気な性格で言葉遣いも結構乱暴。以前その態度から金剛を怒らせた事があり金剛は苦手。誰にでも優しく笑顔がかわいい姉の千歳が大好き。誰にも渡したくないというちょっとシスコン気味。千歳の剣への想いに気づいていて嫉妬し、剣によく暴力を振るう。そのたびに千歳に怒られて落ち込んでしまう。根は優しいので千歳も彼女の優しさには気づいてはいる。剣に対して乱暴に接していたが、だんだんと彼の優しさに惹かれ始めている事に気づいていない。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第十一章 第二節 あ号作戦発動 連合艦隊総出撃


 六月十五日の朝、大和達第二艦隊が出撃した。
 戦艦『大和』『武蔵』を主軸としたこの艦隊の指揮官は栗田健男中将。後の世で日本海軍一の批判を受ける事になる指揮官だ。それはまたの機会に。
 戦艦『大和』『武蔵』で構成された第一戦隊司令官にはかつて山本元帥の右腕として活躍した宇垣纏中将が手腕を振るっている。
「長谷川君。ようやく『大和』『武蔵』の出撃だ。私はこの時をずっと待っていた――だが、こんな最悪な状況下では嬉しくもない」
 艦橋にある司令官席に座りながら不機嫌そうに眉をひそめる宇垣。そんな宇垣に翔輝は小さく微笑む。
「そうですか? 僕は嬉しいです――やっと、この『大和』で出撃できるのですから」
 翔輝の言葉に宇垣はずっと黙っていたが、フッと小さく笑みを浮かべる。
「そうだな。俺もこの大和型戦艦建造を推進した一人だ。まるで息子の就職が決まったような気持ちだな――いや、娘と言うべきか」
 宇垣はそう言って後方を走る『武蔵』を見る。今武蔵は自艦で待機しているだろう。
「この戦いでは我々戦艦部隊は敵を引き付ける囮だが、いつか主力部隊として戦わせたいな」
「そうですね。艦長」
「何だ?」
 声を掛けると艦長席に座る森下が振り向く。そんな彼に翔輝は優しく笑みを浮かべる。
「『大和』の命、任せましたよ」
「わかってる」
 森下の笑みに翔輝もうなずく。そんな二人を優しげに見詰める宇垣。
「小沢さんにはがんばってほしいな」
 宇垣がそうつぶやくと、窓の外を見詰めた。そんな宇垣を一瞥し、翔輝はふと隣で少し不安そうな表情を浮かべている大和を見る。
 前回出撃したのは日本の全盛期だったミッドウェー海戦。だが今回は完全な劣勢状態である。不安があるのは当たり前だ。そんな大和を励まそうと翔輝は優しく微笑む。
「なあ大和」
「な、何ですか?」
 不安そうに見上げる大和。その瞳は揺れている。そんな大和に、翔輝は優しく微笑む。
「がんばろうな」
「はいッ!」
 満面の笑みを浮かべる大和の頭を翔輝は撫でる。それに対し大和は顔を赤らめながら喜ぶ。
 大和の不安はほとんどなくなり、嬉しそうに笑みを浮かべた。
 第二艦隊は旗艦『愛宕』を先頭にソロン沖を出撃した。一路、第二艦隊はマリアナ諸島を目指して進撃を開始した。

 その日の夕方、暁の海を九隻の空母を主軸とした第三艦隊こと機動部隊が出撃した。
 正式名称大日本帝国海軍第一機動艦隊所属第三艦隊。それはもはや開戦当初の荒鷲ではなく、まだまだ弱々しい雛鳥が主力になっていた。しかし、もはや一刻の猶予も許されない状況では、これが大事な主力兵力なのだ。
 機動部隊旗艦・空母『大鳳』の艦橋にはこの戦いの全指揮を任された日本機動部隊生みの親――小沢次三郎中将が天を見上げていた。その隣には機動部隊参謀長の古村こむら啓蔵けいぞう少将が立っていた。
「ついに来ましたな・・・決戦の時が」
「そうだな・・・本当は、もっと搭乗員を育成したかったんだが」
「仕方ありませんよ。い号作戦とろ号作戦で我が機動部隊の艦載機は極限まで失われてしまったのですから。それをここまで復興できたのは、長官のおかげです」
「私は何もしておらん。がんばったのは搭乗員達の方だ」
「相変わらず謙虚な人です」
 小沢の言葉に古村も笑みを浮かべて天を見上げる。
「この新鋭空母『大鳳』の力を引き出せば、この戦いは勝てます」
「そうだな。この戦いは負けられん。絶対に」
 小沢の言葉に古村も天を見上げる。
 そんな彼らがいる艦橋の上の防空指揮所では大鳳がぼーっと空を見詰めていた。空はこの前までの雲は一切なく、透き通った蒼い空が広がっていた。
 ぼーっと空を見詰める大鳳。その視線の先には何もない海。だが、その海の向こうには自分達と合流する為にこちらに向かっている第二艦隊がいる。
「大鳳」
 その声に振り向くと、そこには飛行服を着た刹那が立っていた。刹那は笑みを浮かべて大鳳の横に立つ。大鳳はそんな彼を気にした様子もなく再び海の向こうを見詰める。
「なぁ、お前はこの戦いをどう思うんだ?」
 刹那の問いに、大鳳は答えずぼーっと空を見詰め続ける。
 一方、無視された刹那は苦笑いを浮かべる。こうして話し掛けては無視されてしまう事が多い。翔鶴達もあまり話せないらしい。彼女がこの部隊に加わってから三ヶ月も経つが、彼女はあまと接しようとしない。瑞鶴の話では『大和』に乗っているある士官の少年には懐いているらしい。ちょっとうらやましい。
「まぁ、がんばろうよ」
 刹那はそう言って笑顔を向ける。反応がない大鳳にため息し、艦内に戻ろうと入り口に向かう。
「・・・がんばってください」
「え?」
 その小さな声に振り返ると、大鳳がじっと自分を見詰めていた。その表情はいつもの無表情だが、ほんのわずかだがその瞳が揺れている。そんな彼女を見て、刹那は小さく微笑む。
「あぁ、がんばるよ」
 刹那はそう笑顔で言うと防空指揮所を後にした。大鳳は再び海の向こうを見詰める。
 大鳳はずっと海を見続けていた。

 空母群の先頭を翔ける『大鳳』の後方に並んで翔ける『翔鶴』と『瑞鶴』。そんな『瑞鶴』の防空指揮所では瑞鶴と貝塚が並んで立っていた。
 甲乙合わせた両部隊を合わせた約三〇隻。それが第一機動部隊主力を務める機動部隊の面々だ。『大鳳』のような新鋭艦もあれば歴戦の艦も数多い。久しぶりの大艦隊である。
 海を翔ける艦隊を見詰め、貝塚は誇らしげな顔をする。
「いよいよ小沢機動部隊の出撃か」
「はい。南雲機動部隊での出撃も南太平洋海戦以来ですからね。懐かしいです」
「そうだな。待ちに待った出撃だ。気合を入れろよ」
「そうですね・・・」
 貝塚はどこか元気のない瑞鶴を見る。いつもは優しげに笑う瞳は少し悲しげに揺れている。
「何だ。嬉しくないのか?」
「そ、そりゃ嬉しくはない事はないですけど・・・」
「・・・怖いのか?」
 瑞鶴は力なくうなずく。
 それはそうだろう。瑞鶴は生まれて二年半ぐらいしか経っていない。瑞鶴自身も外見は十三、四歳ぐらいでしかない。そんな彼女はこれかた戦場に向かうのだ。怖いに決まっている。戦場は大人でも恐れる場所だ。それをこんな子供が行くというのだから、その恐怖は大きい。そんな恐怖を、彼女も抱いているのだ。
「・・・私は今まで無傷で生き残ってきました。でも今度は、今までとは違います。私が体験したのは敵空母は二隻とか三隻という規模でした。それでも十分な脅威だったのに、今度の敵空母は十隻以上。そしてこっちは大小合わせて九隻。今までにない、史上最大の航空戦になるでしょう。そんな中、私は無事に生き残れるのか。もしかしたら、私はここで命を落とすかもしれません。そう思うと、すごく怖いんです」
 瑞鶴は横を走る『翔鶴』を見詰める。姉は今までの戦いでいつも自分の代わりに被害を受け続けていた。もしかしたら、姉も命を落とすかもしれない。それが怖くてたまらない。
「艦長は、怖くないんですか?」
 瑞鶴は不安げに見詰める。その視線の先にいる貝塚はその視線を真っ直ぐ受け止め、小さく首を横に振る。
「そりゃ、俺だって怖いさ。何しろ空母の艦長で実戦なんて初めてだからな」
「そうは見えませんけど」
「俺は一七〇〇人の命を預かっている空母『瑞鶴』の艦長だ。そんな俺が平然とそういう感情を表に出していては士気に関わるからな」
「そ、そうですよね」
「でも、俺はお前を絶対に守り抜くからな」
「艦長・・・」
 瑞鶴は頬を赤らめながら小さくうなずく。そんな瑞鶴を見詰め、貝塚は小さく微笑むと再び前を見詰める。
 横に勇ましく立つ己が艦長を見詰め、瑞鶴は微笑む。
 この人となら大丈夫。きっと生き残れる。そんな気がした。
 この人になら、自分の命を預けられる。そう確信した。
 軍帽を深く被り直し、まだ見ぬ敵艦隊がいるであろうマリアナ諸島の方を向く。そこが今回の戦地であり、決戦場だ。
 真珠湾から生き残る歴戦の空母の艦魂として、瑞鶴はこの戦いに全力を注ごうと決意する。
 必ず勝つ。それだけを胸に刻み・・・

 第三艦隊に属する空母六隻を前に見詰め、第二艦隊が合流次第そちらに回る予定の第三航空戦隊旗艦、空母『瑞鳳』の甲板では瑞鳳と剣が立っていた。
 風に揺れる髪を押さえ、ずれたメガネのブリッジを上げる。メガネの奥にあるクリッとした瞳を輝かせ、瑞鳳は空母群を見詰める。
「はぁ、いよいよ出撃かぁ」
「そうだけど、瑞鳳は嫌なのか?」
「別に嫌って訳じゃないわよ。私は空母の艦魂よ? 戦う事が使命だもの。でも、怖いのは変わらないわよ。恐怖心ってのはいつまでも消えないものなの」
「まぁ、その気持ちはわかるけどね」
 剣はうんうんとうなずく。ここまで数々の修羅場を潜り抜けて来た彼だからこそ、瑞鳳の気持ちは痛いほどわかる。まわりから撃墜王とまで言われても、恐怖に慣れる事はない。恐怖に慣れてしまった時、それは死へと繋がる。恐怖を感じない者は早死にするのだ。
 小さく笑みを浮かべる剣を見て、瑞鳳は唇を尖らせる。
「何ヘラヘラしてんのよ」
「いや、別にヘラヘラしてる訳じゃないけど・・・」
「してるわよ。まったく、ほんと緊張感ってものがないんだから」
「ははは・・・」
「笑い事じゃないでしょ」
 瑞鳳はふんと不機嫌そうに背を向ける。そんな彼女に剣は苦笑いするしかない。と、
「瑞鳳さん」
 その声に振り返ると、そこには同じ戦隊を組む千歳と千代田がいた。
「二人ともどうしたの?」
「いやぁ、これから第二艦隊の方に属すると思うと頭が痛くて」
 千代田は顔を片手で覆ってため息する。彼女は以前この無礼な態度からあの鬼の金剛の逆鱗に触れて粛清しゅくせいを受けた経験があるのだ。だからこそそんな彼女が配置されている第二艦隊に合流するのが嫌なのだ。
「まぁ、金剛さんも悪い人じゃないんだから」
「甘いわね姉さん。あの人は鬼よ。悪魔よ。生ける災厄なのよ」
 千代田は身を震わせて顔を真っ青にする。一体どんな調教をされたというのだろうか。それは誰にも想像付かないし、想像したくもない。
「ははは、そりゃ大変そうだな」
「人事みたいに言ってんじゃねぇよバぁカ」
「バカとはひどいな。これでも頭脳派の戦闘機乗りだよ」
「はん。あんたなんかがエースパイロットとは、日本海軍航空隊も落ちたもんだねぇ」
「ちょっと千代田! 大空さんに失礼よ!」
「いいっていいって。こう言ってても僕の事はこいつも認めてくれてるから」
「ば・・・ッ! バカッ! 私はあんたなんか全然認めてないんだから! 認めてほしかったら三回回ってワンと鳴きなさい犬」
「だれが犬だぁッ!」
 ギャーギャー言い合う剣と千代田。そんな二人をあわあわと見詰めるしかない千歳。これが『瑞鳳』が第三航空戦隊になってからの日常的な風景。
 瑞鳳は千歳と千代田と楽しそう(?)に話している剣を見詰め、イライラとイラ立つ。
「だいたいお前はもう少し女らしくしろよ!」
「バっカじゃないのあんた? 軍人の私が今さら着物を着ておしとやかになっても意味ないでしょ」
「いや、お前なら着物似合うと思うけど」
「・・・ッ!」
 剣の何気ない言葉に、千代田は顔を真っ赤にする。そりゃあもうまるで熟れたトマトのごとく。それを隠すようにうつむく。
「うん? どうした? 顔が赤いけど、熱でもあるの?」
 剣が顔を覗き込もうとすると、千代田はいきなり腰の軍刀を引き抜いた。それは艦魂が常備している軍刀。もちろん真剣である。
「う、うるさいうるさいうるさいッ! 黙れ黙れ黙れッ!」
「バカッ! 真剣を振るうなよッ!」
「ち、千代田ぁッ!」
 一騎当千のごとく突貫する千代田を剣が必死になって避け、千歳が慌てて千代田の暴走を止める。そんないつもの光景。
 なのに、どうしてこんなにイライラするのか。
「まったく、お前って奴は」
「ほ、本当にすみません」
「いや、千歳が謝る必要はないよ」
「あの、千代田は悪い子じゃないんです。ちょっとわがままなだけで」
「わかってるよ」
 剣の言葉に、千歳は満面の笑みを浮かべる。その笑顔はまるで天使のように優しく、かわいらしい。白い雪のような肌がほんのりと赤く染まっている。
「ありがとうございます。大空さんにはいつもお世話になってしまい」
「いいって別に。千歳は少し引っ込み思案だから、もっと僕を頼ってくれよ」
「はい! 大空さん!」
 嬉しそうに微笑み合う二人。なんとも幸せそうな雰囲気だ。そんな二人の仲に怒り心頭の者が約一名。
「死ねぇッ!」
 空中から落下速度を利用した踵落としを寸前で避ける。降り立った千代田はちっと舌打ちをして避けた剣を睨む。
「避けんなバカッ!」
「避けるに決まってるだろ! 危ないよ!」
「うるさいッ! 姉さんは誰にも渡さない! 死ね犬空ぁッ!」
「点一個多いってばぁッ! ちょっと瑞鳳もぼーっとしてないで何とかしてよぉッ!」
 剣は千代田の剣撃をかわしながら瑞鳳に叫ぶ。が、
「うるさいわね! 勝手にやってればいいじゃない!」
 瑞鳳はふんと背を向けて去ってしまった。これには暴走していた千代田も手を止めて首を傾げる。
「瑞鳳の奴、どうしたんだ?」
「あなたが暴れまわるから呆れて疲れたのよ!」
「わ、私のせいなのか?」
「当たり前でしょ! もうほんとバカ妹なんだから!」
 千歳の怒りに、千代田はまるでハンマーで頭を殴られたような感覚が走った。
 千歳の目が、口が、表情が、全て怒っている。いつもはあんなに優しくてかわいい姉が、自分に怒っている。千代田は愕然とする。
 千歳は立ち尽くす千代田にため息して瑞鳳に謝ろうと彼女の後を追う。が、
「ね、姉さん! それはないよ! 私はこんなに姉さんを愛しているのに!」
 千代田がそんな千歳の背後から抱きつき押し倒す。いきなりの事で千歳は避ける事もできずに顔面から甲板に激突する。
「な、何するのよ!」
 ヒリヒリとする鼻を押さえながら怒ると、そこには・・・
「あぁ、姉さん。こんなに可憐でかわいいのに・・・」
「え・・・? ちょっと・・・千代田・・・?」
「大好きだよ姉さん!」
「ちょっと落ち着いて! あぁッ! 上着を返して! ベルトを取らないで! 大空さん助けてください!」
「いやぁ、僕はこういう女の園でありそうな事はちょっと・・・」
「ち、違いますよ! 私はノーマルですからね! 私が好きなの大――」
「姉さんは私のものよぉッ!」
「助けてぇッ!」
 甲板の上で襲われる千歳と襲う千代田のちょっと間違った姉妹愛から目を離す。その先には彼女の姿はない。
 甲板に吹く風が妙に冷たく、剣はその風に何か違和感を感じた。
 まるで、この先にとてつもない恐怖があるかのように・・・

 千歳と千代田と別れた剣は自室に戻った。すると、そこには思ったとおり瑞鳳が自分のベッドで横になっていた。こちらに向けられた背中はどこか不機嫌そうだ。
「瑞鳳。何してるの?」
「剣には関係ないでしょ。ほっといてよ。出てってよ」
「いや、ここ僕の部屋なんだけど・・・」
 剣は困ったように頭を掻くと、仕方なくと言った感じで部屋の隅の椅子に腰掛ける。そっと瑞鳳を見るが、彼女は依然背を向けたままだ。一体何が彼女をこんなにも不機嫌にさせてしまったのか考えるが、もちろん浮かんでこない。
「なぁ、僕何か怒らせるような事した?」
 情けないが、ここは聞いてみるのが一番効率が良い。だが、瑞鳳は「知らない」とだけ短く答えてやっぱり背を向け続ける。
 どうやら彼女はかなり不機嫌らしい。ここはそっとしておくのが一番のようだ。
 剣はため息を吐いて部屋を出て行こうとする。と、
「ちょっと、どこ行くのよ」
 その声に振り返ると、瑞鳳は身体を転がしてこっちに身体を向けていた。そして横になっていたからかメガネは外されていて、どこか不機嫌そうな瞳がじーっと見詰めてくる。
「いや、どこって出て行こうかと」
「何でよ」
「何でって・・・お前が出てけって・・・」
「う、うるさいわね。じゃあここにいなさい。これ命令」
「無茶苦茶だなぁ・・・」
 剣は仕方なくといった感じで再び椅子に腰掛けようとする。と、
「何でそこなのよ」
「え? だってここ以外座れるような場所ないし」
「ここ」
 そう言って瑞鳳はベッドをポンポンと叩く。どうやらそこに座れというらしい。
「え? いやだって・・・」
 剣は困ったように頬を掻く。すると、そんな彼を瑞鳳はじっと見詰める。
「ここ座る。これ命令」
「わかったわかった」
 剣は仕方なくベッドに腰掛けた。すると、瑞鳳は身体を起こしてメガネを掛け、剣の横に腰掛ける。顔を横に向けると、じーっと見上げてくる。
「な、何?」
「あんた、最近調子にのってない?」
「は?」
 剣は突然の言葉に驚く。そんな彼を瑞鳳はじーっと見詰めてくる。その目はどこか不機嫌そうだ。
「いや、調子にのってるって言われても・・・」
「あんた最近千歳や千代田と仲良さそうじゃない」
「え? 千歳と千代田?」
 確かに最近は同じ第三航空戦隊で組んでいる千歳と千代田と話す機会が多い。特に千歳は何か用がなくても話をしにやって来て、千代田はそんな姉を心配してついて来るので、必然的に会話する機会は多い。
「ま、まあ、仲はいいと思うよ。千代田とはどうだかわからないけど」
「ふーん、あっそう」
 瑞鳳は明らかに不機嫌そうにそう言うと、ふてくされたようにぷいっと反対方向を向く。一体どうしたのいうのか。
「あのさ瑞鳳。僕、やっぱり何か怒らせた?」
「別に。あんたに言ってもどうせわかんないし」
「え?」
「ふん」
 瑞鳳は不機嫌そうに頬を膨らませる。
 心の中では「何で千歳や千代田とばっかり・・・」と理不尽な怒りを燃やしている。その怒りは最近自分よりも二人に構う事が多い剣へのやきもちであった。
「どうして千歳と千代田ばっかり・・・」
「え? 何か言った?」
「い、言ってないわよバカッ!」
 瑞鳳は顔を真っ赤にして怒鳴ると、ふんと反対方向を向いてしまう。そんな瑞鳳に剣は困ったように頬を掻く。
「やっぱり、怒ってるよね」
 瑞鳳は答えなかったが、再びじっと見詰めてくる。その視線に耐え切れず、剣は苦笑いしながら「何かな?」と声を掛ける。と、
「あんたは私の搭乗員なんだからね。千歳航空隊でも千代田航空隊でもない、瑞鳳航空隊なんだから。私の傍にずっといなさい。これ命令」
 そう顔を真っ赤にしながら言うと、瑞鳳は再びぷいっと別方向を向いてしまう。
 そんな彼女に、ようやく剣も理解した。
 彼女は、ずっと寂しかったのだと。
 確かに最近は忙しい訓練ばかりだったし千歳と千代田にばっかりで瑞鳳と構う時間はなかった。それが彼女を知らず知らずのうちに傷つけていたのだ。
「ごめん」
 そう謝ると、「わかればいいのよ。わかれば」と瑞鳳も小さく返してきた。そんな彼女に、剣は優しく微笑む。
「あ、あのさ瑞鳳。今からちょっと散歩でもしない? 二人っきりで」
「え? あ、あんたがしたいって言うなら。仕方ない。ついてってあげる」
「ははは、ありがとう。じゃあ行こっか」
 剣は立ち上がると、そっと手を彼女に伸ばす。瑞鳳はその手をそっと掴み、久しぶりに嬉しそうな笑みを浮かべた。
 二人はそのまま部屋を出て、散歩に向かった。

 その後、千歳が泣きそうな顔でやって来て剣の手を掴み、千代田がそれを見て怒り狂って剣を襲い、剣は千歳を連れながらそれを避け、瑞鳳はすっかり気分を害してふてくされてしまいと、結局また同じ事を繰り返すのだった。


今日終業式があり、明日から夏休みです。と言っても、受験生なのでかなり苦しいものになると思いますが。まぁ、それでもこの作品だけは何とか終わらせたいと思います。
いよいよ発動したあ号作戦。しかし彼我の戦力差は一目瞭然。この戦いが、日本機動部隊の崩壊に繋がる決定的なものになります。
一応マリアナ沖海戦の流れに沿って書いてありますが、一部省略している部分もあるので、事前にマリアナ沖海戦の流れを見ておいた方がいいかもしれません。
ではまた次回。






ネット小説ランキング>歴史部門>「艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義」に投票
投票していただけると僕もがんばれます!(月一回です)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう