艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(84/129)PDFで表示縦書き表示RDF


森下もりした信衛のぶえ
 役職 帝国海軍軍人・戦艦『大和』艦長
 出身 愛知県常滑とこなめ
 身長 176cm
 年齢(1944年1月現在)
 誕生日 2月2日
 家族構成 妻・息子・娘
 好きなもの 海・軍艦・砲撃・タバコ・艦魂
 嫌いなもの 禁煙・防弾チョッキ・防弾ヘルメット・軽々しく命を捨てる者
貝塚と並ぶ艦魂年代史シリーズの人間メインキャラで数少ないの実在キャラ。上記の設定は貝塚と同じく本当と妄想が混ざっている。開戦時は重雷装巡洋艦として改造されたばかりの軽巡洋艦『大井おおい』艦長として迎え、その後軽巡洋艦『川内』、戦艦『榛名』の艦長を勤め上げ、『大和』の第四代艦長に就任する。森下は日本海軍屈指の操艦の名手で、他の艦より操艦しづらい『大和』をまるで自分の身体のように操艦し、後のレイテ沖海戦では満身創痍の末に沈没した『武蔵』に対し的確かつ素早い転舵を繰り返し、『大和』を守りぬき、《操艦の神様》と呼ばれるようになる。後に第二艦隊参謀長となり、『大和』と共に沖縄へ出撃する。艦魂が見える数少ない人間で、榛名や金剛、長門とはすでに面識があった。初めて自分以外の艦魂が見える人である翔輝とは意気投合し、年や階級が離れているのに仲がいい。翔輝が慕う上官の一人。部下想いで優しいので、部下達からはかなり慕われている。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第十章 第十一節 瑠璃の笑顔と翔輝のため息


 2月、マーシャル諸島を占領したアメリカ軍は、ついに南太平洋の日本海軍の要――トラック島に攻撃を開始した。
 トラック島北東海域に蒼い海を埋め尽くす大空母部隊がいた。アメリカ海軍第58任務部隊。その攻撃力である所属空母は、空母『エンタープライズ』『エセックス』『ヨークタウン』他1隻、軽空母5。戦艦6隻を基幹とした大艦隊である。
 空母部隊旗艦・空母『エンタープライズ』の防空指揮所には猛将エンタープライズ以下空母艦魂がその勇姿を威風堂々と輝かせていた。
「これより《ヘイルストーン作戦》を開始する! いいかッ! 狂ったジャップの黄色いサルどもをこの南太平洋から一匹も残さずに殺し尽くすんだ! 攻撃は我が艦隊の全艦載機をもって行う! トラック島を火の海にしてやれ! ジャップは殺し尽くせッ! Kill Japs! Kill Japs! Kill Japs!」
 エンタープライズは興奮したように直立している空母達を怒鳴り散らす。相変わらず日本人皆殺し論を提唱する恐ろしい人物だ。
「トラックにいる日本人を皆殺しにするんですか? それはちょっと――」
「ヨークッ! 奴らに同情などいらん! 奴らはパールハーバーを卑怯な策略で宣戦布告もなしに攻撃して来た奴らだ。手加減無用!」
「は、はぁ。エンタープライズさんがそこまで言うなら」
 《エンタープライズ様ファンクラブ》会員ナンバー1兼会長を務めるヨークタウンはエンタープライズの命令には逆らえない。かなり乱暴な言い方だが、彼女の言う事は全て事実だ。
「ヨーク! エンタープライズさんの言うとおりだ。ジャップの黄色いサルどもは皆殺しにする。いいな?」
 エセックスはにっこりと笑みを浮かべる。言葉と笑みがまったく合っていない。そんな姉を見詰め、ヨークタウンはため息する。
「もぅ、姉さんまで・・・」
「ヨーク姉さん。ここまで来たらする事は一つ。攻撃するのみだよ」
 セミロングの銀髪を揺らす少女は、ヨークタウンの妹――エセックス級空母3番艦・空母『イントレピッド』の艦魂が諦めたような笑顔で言う。エセックスの妹達はこうしてエセックスの楽観主義に振り回されているのだ。
「もう知らないわよぉ・・・」
 ヨークタウンはため息する。自分の姉や妹はなぜか場の流れに身を任す人が多くて困る。
「姉さんも大変だね」
 そう言ったのは銀色の長い髪を蒼いリボンで9つに分けた。ツインテールの変形版、ナインテールと言うべき髪型をした少女――ヨークタウンの妹のエセックス級空母7番艦、空母『バンカー・ヒル』の艦魂。姉妹の中で数少ないヨークタウンの心をわかってくれる妹だ。
「ほんと、今回の作戦にヒリーがいてくれて助かったよ」
「姉さんは気苦労が多いからね。私で良かったらいつでも力になるからね」
「ありがとう」
 ヨークタウンとバンカー・ヒルがそうして仲良く話していると、エンタープライズは迫る出撃時刻を確認して解散を命じた。
 風が流れる防空指揮所で一人になると、エンタープライズは甲板に並ぶネイビーブルーを輝かせる艦載機を見詰め自信満々な笑みを浮かべる。
「ジャップども。本気で怒ったアメリカの恐ろしさ、見せてやる!」
 エンタープライズの叫びが合図になったかのように、艦載機が次々発艦を始めた。エンタープライズはそれに帽子を振って見送る。
 攻撃隊はすさまじい大部隊でトラック島に向かった。

 トラック島空襲は始まった。その戦況は米軍の一方的な攻撃だった。
 空爆で停泊中の日本艦艇を次々に撃沈。島の周囲を包囲していた潜水艦が軽巡洋艦『阿賀野あがの』を撃沈。トラック島を出港していた輸送船一隻を守る軽巡一、駆逐艦二の艦隊は米軍の新鋭戦艦・アイオワ級戦艦一番艦『アイオワ』、二番艦『ニュージャージー』の艦砲射撃で駆逐艦一隻以外全て沈没という散々なものだった。
 一方、日本軍の戦果は迎撃部隊の攻撃で空母『イントレピッド』に魚雷一本命中させただけだった。
 結果は、十七、十八日のたった二日間で日本軍は軽巡洋艦二、練習巡洋艦一、駆逐艦四、特設巡洋艦四、特設潜水母艦二、商船(輸送船、給油艦、油槽船など)三一隻沈没。水上機母艦一、駆逐艦二、特務艦三、潜水艦四隻が損傷を受け、約二七〇機の航空機を失うという最悪なものだった。
 この攻撃により、トラック島の基地能力は失われ、南太平洋の根拠地であり連合艦隊の駐屯基地として数多くの戦いに艦艇を出撃させ、戦艦部隊を待機させていたトラック島はもう使い物にならなくなってしまった。
 日本海軍は新たな連合艦隊司令部をトラック島西方にあるパラオに移し、戦況の打開を模索するのであった。

「トッラク島が落ちただとッ!?」
 トラック島の空襲はすぐに内地にいる戦艦艦魂達にも届いた。その訃報ふほうに緊急の艦魂会議が『大和』の第三会議室で開かれた。
 トラック島空襲の話はすでに大和達にも伝わっており、その顔は皆暗い。誰しもがあの島に関わりを持っている。大和にとってはもうひとつの故郷のようなものだったトラック島。それがついに陥落したのだ。
「正確には陥落してはいないわ。ただ、敵地のど真ん中に位置するような形になったのよ」
「それではほとんど陥落と同じではないか!」
 金剛は顔を真っ赤にして長門に怒鳴る。相変わらず感情的な金剛はストレートな意見を放つ。それに対し長門は憤怒する金剛をなだめるように言う。
「でも一応戦艦部隊はこうして内地にいるし、機動部隊も数日前に出港してる。それに連合艦隊司令部もパラオに移転したからなんとか大丈夫よ」
「その自信は一体どこから来るんだッ!」
 金剛は牙をむき出す。そんな凶暴な金剛を長門が必死になだめる。その時、ふと長門は壁際で無表情で空を見詰めている大和を見た。
「大和。何か見えるの?」
「い、いえ。別に・・・」
 大和は空を見詰めたまま答える。その瞳は寂しそうだ。
 大和が落ち込んでいる理由は、翔輝が不在だからである。
 今翔輝は『大和』にはいない。陸地に上がっているのだ。彼自身はそんなに陸に上がりたいという気持ちはなかったが、瑠璃が強硬手段を行って翔輝をなかば拉致ってしまったのだ。
 艦から一歩も出られない艦魂は、陸地に上がられたらお手上げなのだ。
「大尉、今頃どうしているでしょうか?」
「そうね。たぶんその場の空気に流されてデートでもしてるかもね」
「ううっ」
 大和は二人っきりでいるであろう翔輝と瑠璃のデートを想像し、声にならない悲鳴を上げる。そんな彼女の横にいる武蔵もどこか落ち着かない様子だった。伊勢もどこかそわそわしている。
 長門はそんなかわいらしい大和達を見詰め、小さく笑顔になる。が、すぐに今頃何をしているかわからぬ翔輝を心配した。

 長門の推理は見事に当たっていた。
 翔輝と瑠璃は彼女行き付けの高級料理店で食事をしていた。
「また高そうな店を選んで・・・」
 広い豪華な部屋を貸し切って食事をする二人。そんな中翔輝はもう呆れるしかない。一方の瑠璃は気にした様子もなく笑みを零している。
「そうですの? ここはお安くておいしいので翔輝様ならお気に入りになられると思ったのですが」
 ちなみに、金銭感覚がかなりズレている瑠璃は金銭の基準線が常人のはるかに上に引かれているので、この店が翔輝の考えている《普通》の十倍以上も上だという事にはまったく気づいていない。
「まぁ、予想の範疇だよ」
 伊達に長年彼女の幼なじみをやってはないない。この程度では驚かない。呆れるのだけは今も続いてはいるが。
「本当に相変わらず瑠璃は瑠璃だなぁ」
「それはほめてるんですの? けなしてるんですの?」
「どっちも」
「複雑な心境ですわ」
 瑠璃は少し怒ったような目で翔輝を見詰めるが、翔輝は気にしないでメニューを見る。高そうな名前や知らない名前がずらりと並んでいる。
「何が何だかわからないや。瑠璃に任せる」
「え? わ、私が決めていいんですの?」
 驚く瑠璃に翔輝は首を傾げる。
「どんなのかよくわからないからさ。瑠璃のおすすめでお願い」
「そ、それは私を信頼しているからですの?」
「ま、まぁそうなるかな?」
 何でそんな言い方になるのか不思議だったが、とりあえずうなずく。すると、瑠璃はぱぁっと明るい笑みを浮かべた。
「わかりましたわ! では決めさせていただきますわ!」
 なぜかすごく嬉しそうに瑠璃は高速でメニューを決めた。知らない店に入ったらその店の常連に訊くのが一番の解決策である。場の流れに身を任してしまう翔輝にとっては最善の策だ。
 注文を終えた瑠璃は嬉しそうに翔輝に話し掛ける。
「こうして落ち着いてお話するのは久しぶりですわ」
「確かに、なかなか内地に戻れなかったからね」
「ずっと、寂しかったですわ」
 唇を尖らせる瑠璃に、翔輝は困ったように頬を掻く。
「そんな事言ったって、僕じゃ艦隊をどうこうする事なんてできないよ」
「だから鎮守府に来ればよろしいと言ったのですわ」
「それはできないってば」
「もう、翔輝様は強情なんですから」
 怒ったように言うが、その表情はとても朗らかなものだった。
「ごめんごめん」
 翔輝も笑って返す。二人が幸せそうに話していると、料理が運ばれて来た。それは翔輝の知識をはるかに超えるものばかりだった。
「このお店のフルコースを頼みましたの。とてもおいしいのですよ」
「だからってこれはやり過ぎだろ・・・」
 並べられたか数々の料理はどれもとてもおいしそうだった。だが、翔輝の目から見ればとんでもない金額の数々が並んでいるように見える。
「僕の月給の何倍の金額になるんだろ・・・」
「さぁ、値段はわからないですから」
「はぁッ!? 値段不明ってどういう事!?」
 翔輝が驚くと、瑠璃はさも当然に、
「日替わりですから、値段も日替わりですの」
「ははは・・・はぁ」
 翔輝はため息する。いくら驚かなくても呆れるのは彼女といる限り消える事はない。十数年の付き合いだが、いまだにこれは対応できない。
「でも、これくらいのお金で経済破綻してしまうのでは、私とのデートの際はどうやって私を楽しませてくれるのですの?」
「安心していい。そんな事は未来永劫絶対にないから」
 瑠璃とのデートなんて考えた事もない。彼女は分類では幼なじみだが妹のように接して来た。『T○ Heart2』の河○貴明と柚○このみの貴明視点の関係みたいなものに近い。
 翔輝がそういうふうに考えていると、瑠璃は不満そうに口を尖らせる。
「なぜ《絶対》のところだけそんなに強く強調するのですの?」
「まぁ、一応ね」
「どんな一応ですの?」
 呆れる瑠璃ははぁとため息する。
「しかし、デートなんて考えてみればよくしていましたし、現在進行形で行なっていますし」
「え? 何か言った?」
 瑠璃のつぶやきが聞こえなかった翔輝が聞き返す。それに対し瑠璃は満面の笑みで答える。
「何でもありませんわ。気にせず食べてしまいましょう。早く食べないとせっかくのお料理が冷めてしまいますわ」
 瑠璃の意見に賛成し、二人は食事に入る。
 翔輝の予想通り、料理は超絶においしかった。だからこそ、翔輝は自分と瑠璃の金銭感覚の溝を改めて認識した。いつかはこの溝をなんとか塞ぎたい。まぁ、無理だろうが。
 その後、二人は会話しながら食事を終わして霞家に戻った。

 霞家には翔輝が帰って来ると瑠璃に呼び出されて京都からわざわざ瑪瑙と珊瑚が来ていた。
「久しぶり。また背が伸びたんじゃないか?」
「そ、そっかな?」
「うん。また男らしくなったよ」
「えへへ、そっかな」
「うん。でも、翔輝にはいつまでもかわいい翔輝でいてほしいけどね」
「僕はそれは嫌だなぁ。男だし」
「こんなかわいい顔をした男がいるか?」
「か、からかわないでよ!」
 怒る翔輝を口に袖を当ててくすくすと笑う瑪瑙。そんな彼女もちょっと見ないうちにまた女らしくなっていた。色気や柔らかな物腰に磨きが掛かっている。
「姉さんもまたきれいになったよね」
「そ、そうかな?」
「うん。すっごくきれい」
「あ・・・う・・・むぅ・・・」
 突然翔輝にそんな事を言われ、瑪瑙は珍しく頬を赤くして困ったように言葉に詰まる。そんな彼女の思いも気づかない翔輝は笑顔を向ける。その屈託のない笑みは男にしてはかわいすぎる。彼は女に生まれるべきだったのかもしれない。
「何姉さんを口説いてるのよ」
 そう言って不機嫌そうに睨みつけるのは珊瑚。相変わらず強気な態度な上に素直じゃない。そんな彼女も少し見ないうちに大人の女らしくなっていた。顔からも少し幼さが抜けてきているが、その頬を赤らめながらの不機嫌そうな顔はまだまだ幼い。
「べ、別に口説いてる訳じゃないよ」
「どうだか。姉さんは美人だから」
「だ、だから! 僕は姉さんなんて口説かないってば!」
「そ、それは・・・私が翔輝に口説かれるだけの素質を持っていないダメ女という事か?」
「うわわわ! ち、違うよ! そんなんじゃないって! だからそんなに落ち込まないで! っていうか何で落ち込むの!?」
 ショックのあまり倒れた瑪瑙を翔輝が必死になって弁解する。そんな彼に珊瑚は暴言を言い続け、ついにキレた瑠璃と取っ組み合いのケンカとなった。
 結局は誰もほとんど変わってはいなかったのだ。
 翔輝はようやく復活した瑪瑙と共に激戦を繰り広げる瑠璃と珊瑚を見詰め、諦めたようにため息をはいた。

 その夜、翔輝と瑠璃の間である言い争い勃発した。
「絶対にダメだッ!」
「絶対にゆずれませんわ!」
 お互い《絶対》というところにかなりの力を入れ、両者は睨み合う。
 この仲がいい二人がここまで言い合いなった原因は――
「もう一緒に寝るのは卒業だ!」
 翔輝は顔を真っ赤にして叫んだ。
 そう。原因はこれ。瑠璃はいつものとおり翔輝と一緒に寝るというとんでも発言をかましたのだ。。だが、自分はもう十九歳。彼女ももう十五歳。お互いにもう添い寝の限界を超えてしまっていると翔輝は思った。しかも少し見ないうちに少しとはいえと大人らしい体つきになった瑠璃と一緒に寝る勇気など、彼は持ち合わせていなかった。
 そんな翔輝の考えなど露知らず、数少ない翔輝との接触、及び楽しみを失いたくない瑠璃は何が何でもこれだけは死守しなければならなかった。
「翔輝様! 私達は今まで一緒に寝てきましたわ! これはこの先未来永劫続くのですわ!」
「未来永劫も続かないよ! ともかく、一緒に寝るのはもうおしまいだ!」
「そんな、翔輝様!」
 瑠璃は持っていた枕をギュッと抱き締め、翔輝を見詰める。その瞳からは今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっている。
 だが、さすがの翔輝もこれだけはゆずれない。少しとはいえ大人らしく成長した彼女と一緒に寝て『へっへっへ、これは役得だね。思う存分楽しませてもらおう』などと思うような人種では翔輝はない。むしろ全力で抵抗する情けない人間である。
「瑠璃。わかってくれよぉ。もう僕らはそういう年じゃないんだぞ?」
「ですが――」
「なぁ? お願い。隣に布団を敷いてそこに寝てよ」
 そう言うと、翔輝は一人布団の中に潜った。その間、瑠璃は何も言わなかった。ただ聞こえるのは、彼女の嗚咽だけ。
「ごめん」
 そう翔輝はつぶやくと、瞳を閉じた。これでもう瑠璃は一緒に寝ようなどとは言わないはずだ。
「ひぐっ、ううっ」
 これで・・・何もかも――
「うえええええぇぇぇぇぇんッ!」
「うそッ!?」
 翔輝は驚いて飛び起きた。すると、そこには高価な寝巻きを乱しながら畳の上で子供のように手足をジタバタさせて鳴き叫ぶ瑠璃の姿があった。
「瑠璃? お前・・・」
「寝るんだもん! 翔輝様と一緒に寝るんだもん! 絶対絶対ぜぇぇぇったい寝るんだもん!」
 勃発、瑠璃駄々こねモードッ!
 こうなってしまっては瑠璃は言う事を聞かないと泣き叫び続ける。だが、今回は翔輝もマジである。いくら泣き叫ぼうが知ったこっちゃ――
「うえええええぇぇぇぇぇんッ! ひぐッ! 翔輝しゃまぁ、一緒に、寝るんだもん・・・うえええぇぇぇんッ! ゲホッゴホッ! ケホッ!」
「・・・」
「翔輝しゃまぁッ!」
 翔輝は布団の隙間から見ると、瑠璃は泣きながら枕を抱き締めてこちらを見詰めている。その様子を見ているとなぜか自分が悪いように思えてしまう。悪いのは明らかに瑠璃の方なのに・・・
「翔輝様は、私の事が嫌いなのですの? 嫌いになってしまったんですの? お願いですから嫌いにならないでください!」
「あぁぁぁもうッ!」
 翔輝は耐えられなくなって飛び起きた。翔輝の行動に瑠璃はビクリと震える。そんな瑠璃を翔輝は恨みがましい目で睨む。
「お前なぁ、僕が泣いている女の子が大の苦手だと知ってるからって、これはいくらなんでもずるいよぉ」
「・・・翔輝様?」
 翔輝はため息をし、苦笑いする。
「もういいよ。寝たいなら好きにしろ」
「ほ、本当ですの!?」
 根が優しい翔輝ならではの最後の判断である。それに対し瑠璃は花がぱあっと開くように華やいだ。
「もう好きにしてよぉッ!」
 翔輝はなかばヤケクソ気味で叫んだ。だが、その声がどんなのでも瑠璃にとっては最高の言葉だった。
「では早く寝ましょう!」
 瑠璃は翔輝の布団に潜り込み、ぴょこっと顔を出す。その表情はとても幸せそうだ。だが、
「翔輝様? どうしてこちらを向いてくれませんの?」
 瑠璃の言うとおり、翔輝は瑠璃とは反対方向を向いていた。
「いいでしょ、別に」
「嫌ですわ。こちらを向いてほしいですわ」
「い、嫌だよぉ」
 翔輝は頬を赤く染めながら言う。そんな翔輝の表情も知らない瑠璃は、悲しそうに顔をゆがめ、
「やっぱり、私の事をお嫌いに――」
「だから違うってばッ!」
 激しく訂正する翔輝は思わず振り返ってしまった。目の前には瑠璃の顔が――翔輝はさらに顔を真っ赤にして反対方向を向く。そんな翔輝の行動を見て、瑠璃はハッとし、次にはニヤリと怪しげに笑う。
「どうしたんですの? 翔輝様。何やらお顔が赤くなっていますわ」
「そんな事ないッ!」
「わかりますわ。隣に絶世の美少女がいればいくら翔輝様とはいえ男の本能が揺さぶられて当然ですわ。お辛いでしょう? もうここは理性をかなぐり捨てて襲うしか――」
「どうして君はそういう方向に考えたくなるのかな!?」
「どうしてって・・・そういう年頃なんですもの」
 いわゆる発情期というものだろうか?
「困った年頃だよぉ」
 翔輝は布団の中でうな垂れえる。そんな翔輝の背中に瑠璃はぴっとリとくっ付く。これには翔輝はかなり動揺する。ついこの前まではあまり感じられなかった二つのふくらみが翔輝の背中に柔らかくくっ付いてその存在を主張する。
「る、瑠璃! 離れてよ!」
「嫌ですわ。いつもと同じ事をしているだけですのに」
「自分の年齢を考えてよぉッ!」
 翔輝の悲鳴は瑠璃には無視され、瑠璃はそのまま寝息を立てて寝てしまった。残された翔輝は背中に瑠璃をくっ付けたまま力なくため息をするのだった。

 そんな二人を障子の陰から覗く者が二人いた。
「変態じゃないのあいつ? まだ瑠璃と寝てるなんてキモ」
 吐き捨てるように言う珊瑚だが、その表情はおもしろくなさそうだ。そして瞳にはどこかうらやましさが含まれている。これは・・・
「瑠璃はいいなぁ。翔輝と一緒に寝れて・・・」
 寂しそうな顔をして人差し指を力なく加えながら悲しく言うのは瑪瑙。その瞳はものすごくうらやましげで、そして何より悲しげだ。
「えぇ? 姉さんもそんな事考えてるの? やめなってあんな奴」
「あんな奴とはなんだ。私は翔輝が大好きなのだ。あの愛らしい笑顔がなんとも・・・」
「はいはい。ブラコン姉さんには何を言っても無駄なのよね」
「も、もう我慢できない・・・ッ! 翔輝! 私とも寝てぇッ!」
「ちょっと姉さん! やめなさいって!」
「放して珊瑚! 私は翔輝を抱き枕にして寝たいの!」
「私のまわりには何でこんな人ばっかりなのよぉッ!」
 ドタバタと騒ぐ二人。その物音と声はしっかりと翔輝にも聞こえていた。翔輝はがっくりと肩を落としてため息する。
「珊瑚。そのセリフは僕のだよ」
 離れていく喧騒。どうやら珊瑚が無理やり瑪瑙を引きずって部屋に戻っているらしい。遠くから聞こえる瑪瑙の泣き声に翔輝はため息する。
 ほんとに、自分のまわりには厄介な女が多い。どうも自分には女難の相が出ているらしい。
 自分の理不尽な宿命(滝川曰く世界中の男子の嫉妬の炎で焼き殺される楽園生活)にため息し、背中の少女の存在にもため息し、結局そのまま徹夜をしてしまうのだった。

 三日後、翔輝は何とか無事に『大和』に戻った。
 結局瑠璃に振り回されたり瑪瑙に襲われたり(主に抱き付き)珊瑚に襲われたり(こっちは言葉通り)加奈子達に捕まったりとあまり休む暇はなかったが、楽しかった事は事実である。
 帰って来た翔輝に大和はほとんど泣きながら抱き付いた。どれほど心配していたのか計り知れない。
 翔輝は「ごめんごめん」と言って大和の頭を撫でてやった。すると、大和は幸せそうな表情を浮かべていた。
 その後ろで武蔵が拳銃を大和に向けていたのを長門が身体を張って止めていたのは二人は知らない。







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