艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(82/133)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第十章 第九節 瑞鶴の新たな絆


 その頃、機動部隊はシンガポール方面で朝早くから訓練を行っていた。い号作戦、ろ号作戦の大量の航空機と人員の損失で、機動部隊は過去のような華々しさはもはや完全になくなっていた。
 いつもと同じく防空指揮所で瑞鶴は甲板から飛び立つ艦載機を見詰めていた。すると、零戦の一機がふっと艦首から姿を消した。次の瞬間バシャンッ! という着水音が上がった。その音に瑞鶴はため息する。
「また発艦に失敗ですか? これで今日七機目ですよぉ・・・」
「ここまで来ると憤りよりも呆れの方が強いな」
 瑞鶴の横に立っている男はため息交じりにそう言った。
 彼の名は貝塚かいづか武男たけお大佐。今月『瑞鶴』艦長になったばかりの男だ。
「まったく、せっかく『瑞鶴』の艦長になれたってのに、肝心の搭乗員でがこれではなぁ」
「すみません・・・」
「お前が謝る事じゃないだろ?」
 ――そして、彼は艦魂が見える人間だった。
 貝塚はため息するともう大昔の事のように思えるあの頃を思い出す。
「真珠湾の時はあんなに輝いていたのにな」
「はい。もう懐かしいという記憶になってしまいましたが」
「小沢長官も頭が痛かろう。せっかく任された肝心の機動部隊がこれでは」
「長官に会わせる顔がないですよぉ」
「長官は艦魂は見えんぞ?」
「表現ですよ。本気にしないでください」
 瑞鶴は怒ったように唇を尖らせる。そんな瑞鶴に貝塚はおかしそうに笑う。
「ごめんごめん」
「謝っているように聞こえないのはなぜでしょうか?」
 たった一週間で二人はお互い信頼できるほど仲が良くなっていた。瑞鶴自身、彼になら自分の命を任せられると思っている。
 そんな二人が本日八機目の着水機を見てため息すると、
「何朝っぱらから暗い顔をしているのだ」
「姉さん」
「おぉ、翔鶴」
 二人が振り返ると、そこには腰に手を当てていつものように無愛想な顔をしている翔鶴が立っていた。
 翔鶴は朝っぱらからため息を連発していた二人を呆れたような目で見る。
「まったく、本当にお似合いの組み合わせだな」
「そ、そんな事ないよ!」
 瑞鶴は顔を真っ赤にして手をブンブン振って全力否定する。そんな彼女の横では少し寂しそうな貝塚が。
「そこまで全力否定されると寂しい」
「知りませんよそんな事」
 言い合う二人に今度は翔鶴がため息する。
「まったくお前らは、今がどれだけ重要なの時かわかっとらんだろう」
「わかってるよ! 機動部隊再建に全力を注ぐだけよ!」
「わかってるならため息を連発するなぁッ!」
 翔鶴の跳び膝蹴りが瑞鶴のみぞおちにクリーンヒット。瑞鶴は吹っ飛び床に叩き付けられた後、あまりの痛さに床に突っ伏して声も出せずに肩を震わせる。
 そんな瑞鶴を一瞥し、貝塚は呆れたように翔鶴を見る。
「本当に容赦ないんだな、お前」
「当然だ。お前もこうなりたくなかったらそのシャキっとしない顔をどうにかしろ」
 翔鶴は不機嫌そうにそう言い放つと、ツカツカと靴を鳴らしながら消えた。
「ね、姉さん。ひどいよぉ・・・」
「大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
 貝塚は涙を浮かべる瑞鶴の顔を覗き込むと、ひょいっと彼女の身体を抱き上げた。お姫様抱っこで、
「ちょっと艦長!?」
「その様子じゃ歩けんだろ? 俺が連れてってやる」
「けけけ結構ですぅッ! 艦長! 放してくださいッ!」
 恥ずかし過ぎて顔を真っ赤にしてジタバタと暴れる瑞鶴。貝塚は腕の中で大暴れする瑞鶴を怒鳴る。
「あぁッ! うるさい! 暴れるな!」
「放してッ! 放してよおおおぉぉぉッ!」
 少女の恥ずかしそうな声は、横で訓練していた空母『瑞鳳』の防空指揮所にいた瑞鳳の耳にも届くほど大きなものだった。

「こういう事は申請してもらわんと困るのだが・・・」
「まぁそう固い事言うなって。楽しめばいいんだからさ」
「まったく・・・」
 翔鶴は呆れたようにため息すると、クイッとラムネを飲む。そんな彼女の隣で豪快に笑うのは貝塚だ。
 ここは『瑞鶴』の第二会議室。普段はあまり使われないこの部屋で、今日は貝塚の独断で艦魂達の宴会が開かれていた。貝塚や翔鶴、瑞鶴はもちろん、瑞鳳と隼鷹、飛鷹、さらに護衛の駆逐艦や巡洋艦までも巻き込んだ大掛かりなものだ。しかも貝塚の許可を得て来た刹那と瑞鳳に連れて来られた剣もいる。二人はつい一週間ほど前にラバウルから戻って来たばかりだった。
「剣。そのお菓子取って」
「それくらい自分で取ってよ」
「何よ。別に取ってくれるくらいいじゃない」
 相変わらずな瑞鳳と剣。今でこそこうしていつも通りの会話があるが、彼がラバウルから帰って来た時の瑞鳳の喜びようといったら。涙を流して彼に抱き付いたほどだ。
 そんな微笑ましい再会を経た後は、こうしていつものような関係に戻っていた。
 剣は「わかったよ」と渋々彼女の求める和菓子を取って渡す。瑞鳳は「ん」と受け取ると、お礼も何もなく和菓子を頬張る。そんな彼女に剣も呆れる。
「お前なぁ、礼くらい言えよな」
「感謝されたいの?」
「いや、別にそういう訳じゃないけど」
「ならいいじゃない」
「いや良くないってば。マナーとしてだな――」
「うるさいわね。これあげるから静かにして」
 そう言って彼女が差し出したのは――メロンパン。
 剣はツッコミ所が多過ぎてどうツッコミを入れればいいか困る。そんな彼を無視し、瑞鳳はメロンパンをとてもおいしそうに食べる。
 ツッコミ所満載だったが、彼女の幸せそうな顔を見てとりあえず黙ってメロンパンをかじる。確かに甘くておいしい。
「おいしいでしょ?」
「うん。おいしい」
「でしょぉ? 感謝してよね」
 あまりない胸を逸らして自慢げに言う瑞鳳に苦笑いし、剣は黙ってメロンパンを食べる。
 瑞鳳は何の返事もない剣に不満そうだが、メロンパンを食べると幸せそうな笑みを浮かべる。
 そんな二人から少し離れた所に布陣しているのは翔鶴達だ。
「翔鶴お姉ちゃん」
 隼鷹は相変わらず翔鶴に懐いていて離れない。そんな彼女に懐かれている翔鶴は気にした様子もなくラムネを飲む。隣では瑞鶴も同じく飛鷹と一緒に和菓子を摘みながらラムネを飲んでいる。
「お前らは酒は飲まないのか?」
 貝塚はコップを傾けながら瑞鶴に問うと、瑞鶴は苦笑いする。
「いえ、私は結構です。あまりお酒は好きではないので」
「ははは、まだまだ子供だな」
「はいはい。どうせ私はまだ子供ですよぉ」
 瑞鶴はすねたように唇を尖らせると一気にラムネを飲む。そして炭酸の威力にのどが負けて咳き込む。
「アホだろお前」
 呆れる貝塚の前で、瑞鶴は恥ずかしさのあまり赤面してうつむく。
「貝塚大佐。あまり瑞鶴をからかわいないでくださいよ」
 そう言って瑞鶴をかばうように言ったのは刹那。
「別にからかってる訳じゃないぞ」
「からかってますよ」
「違うって。俺はただ本気で呆れてるだけだ」
「それはそれでダメです」
 刹那の後ろではさらなる止めを受けた瑞鶴ががっくりとうな垂れている。そんな彼女に刹那も苦笑いしかできない。と、
「まったく、貴様という奴は」
 呆れた声を上げるのは翔鶴。美しくつややかな黒い髪を掻きあげるその仕草は常の彼女にはない女らしさ。
「お前って、時々女っぽいよな」
 貝塚が何気なく言った言葉に、ピクリと翔鶴の眉が動く。
「貴様の目は節穴か。私は女だ。女の私が女の仕草をして何が悪い」
「いや、別に悪くはないけど・・・お前女っぽくないし」
 部屋の空気が、一瞬にして緊迫した。
 誰もが口を閉じてしまうような空間の中、皆の視線は急に沈黙した翔鶴を見詰める。その瞳にあるのは恐怖。全てが壊れてなくなってしまうんじゃないかという不安。それら全てが含まれた瞳を一身に受ける翔鶴は沈黙を続ける。
「私が、女らしくない・・・だと・・・?」
 恐ろしく低い声で放たれたその言葉に、皆の顔は恐怖する。隼鷹も今はもうその殺気に近い雰囲気に飛鷹の背後に隠れている。姉としての威厳とかそんなものは関係ない。
 震える瑞鶴達。瑞鳳も今は剣の後ろに隠れ、剣自身腰が浮いていつでも逃げられるように構えている。
「私が女らしくないというは・・・どういう事だ・・・?」
 そんな殺気の中、貝塚はほど良くお酒が回っているからか全く恐怖を感じていない。それどころか「えぇー」と言うと、少しためらった後、起爆剤をぶち込む。
「だってお前胸ないじゃん」
「・・・」
 不気味な沈黙。そして、

 ブチィッ!

 破滅の恐音。
「総員退避ぃッ!」
 瑞鶴が慌てて叫ぶが、時すでに遅し。
 ゴゴゴゴゴ・・・・ッ! と、音にすればそんな爆音を轟かしながら、邪神が覚醒した。
 轟々と燃え上がる紅蓮の炎は、まるで怒り狂った龍のごとく荒れ狂う。その炎を纏い、翔鶴は立ち上がった。誰かの悲鳴と、コップの割れる音が響く。
「貝塚・・・ッ!」
「お、何だ?」
 貝塚はアルコールが回り過ぎて獅子も逃げ出すような殺気を振り撒く翔鶴にいつもの通りのん気な顔をする。そのまわりでは瑞鶴達が声にならない叫びを上げている。
 翔鶴は、腰の刀に手を添える。
「貴様とは、腹を割って一度話さんといかんようだな・・・ッ!」
「よしキタッ! だったら酒を飲んでパァッっと盛大に話そうじゃないか!」
 そう嬉しそうに叫ぶと、貝塚は酒を用意する。そんな彼のふざけた姿に翔鶴の怒りはついに臨界点を突破する。
「き、貴様という奴――ゴハァッ!?」
 突如奇襲のように口に突っ込まれたコップ。その中に入っていた飲み物が防御する事もできずに直接のどを襲う。その熱さに、翔鶴は慌ててそれを吐き出す。
「ゲホゴホッ! な、何を飲ませた!」
 顔を真っ赤にして咳き込む翔鶴に、貝塚はきょとんと、
「何って、日本酒だけど」
「に、日本酒だとぉッ!」
「おうよ。やっぱり酒は日本酒に限るぜ」
「き、貴様という奴はぁッ!」
 刀を抜き放って切り掛かる翔鶴。だが、その足取りはおぼつかない。貝塚はその一撃を簡単に避けると、一升瓶を持つ。
 翔鶴が体勢を立て直そうとした時、勝敗は決した。
「ゴボォッ!?」
「おら飲め! 酒があれば腹を割って話せる! 友好を深めようじゃないか!」
「ゲボォゴボォッ! は、放せぇッ! ゴブゥワァッ!?」
 押し倒した翔鶴に馬乗りになって大笑いしながら貝塚は彼女の口に一升瓶を突っ込む。その中身はもちろん日本酒。翔鶴は悲鳴を上げようにも口を塞がれてできず、暴れる事もできずに流れ込んで来る酒を必死になって吐き出すが、それでもどんどんのどの奥に流れていく。そして・・・
「あれ? おーい、翔鶴?」
 二本目に手を掛けた所で、貝塚は突如抵抗をやめた翔鶴を不思議そうに見詰める。
 ――翔鶴は、気絶していた。
 顔を熟れたトマトのように真っ赤に染め、口からは酒とよだれが溢れ、身体を小刻みに震わせ、目をグルグルと回し、その縁には涙も浮かんでいる。とてもじゃないが《翔鶴》というキャラが崩壊しかねないヤバイ状態だ。
「気絶したのか?」
 刹那、音速の一撃が彼の後頭部を強打した。
「いってぇッ! 何しやがる瑞鶴!」
 振り返ると、そこには顔を真っ赤にして激怒する瑞鶴が立っていた。その手にはしっかりとハリセンが握られている。
「何しやがるじゃないですよ! 姉さんになんて事しちゃったんですかッ!」
「何って、ただ酒を飲ませただけだが」
「姉さんはお酒が大の苦手なんですよ!」
「マジぃッ!?」
 それは本当である。翔鶴は舐めただけでも頬を赤らめるくらい酒に弱い。コップ一杯飲んだだけでもベロンベロンに酔っ払う彼女に、一升瓶を突っ込むなんて殺人的な行為だ。
「ど、どいてください! 翔鶴さんッ!」
 飛鷹が慌てて翔鶴に駆け寄り、気絶した翔鶴を抱き抱えると、巡洋艦や駆逐艦の子数人を引き抜いて緊急の救護班を編成する。
「酸素マスクを持って来てぇッ!」
「心拍数低下ッ!」
「点滴を持って来てください!」
「それじゃない! そっちのを持って来て!」
「ブドウ糖点滴はまだなのッ!?」
「心拍数さらに低下!」
「最悪電気マッサージ器を用意してください!」
「翔鶴司令が何か言っています! え・・・だ、ダメですぅッ! その川は渡っちゃダメですぅッ! え? 赤城さん達が呼んでる? なおさらダメですぅッ! 戻って来てくださぁいッ!」
 聞こえてくるのは冷や汗全開な内容ばかりだ。
 貝塚の顔からもサァッと血の気が失せる。
「どどどどうするんですかぁッ!?」
 パニックする瑞鶴にガクガクと身体を揺すられる貝塚。
「いや、俺もまさかこんなになるとは・・・」
「艦長ぉッ! どうするんですか!」
「お、落ち着けって!」
「神風中尉! どうすればいいんですかこの状況ッ!」
 瑞鶴はすがるように刹那に助けを求めるが、彼だってこの状況に困惑している。そんな彼の身体をガクガクと瑞鶴は揺らすと、彼女の服の裾がちょこんと掴まれた。
「お姉ちゃん・・・大丈夫だよね・・・?」
 そこはに目の縁に涙をいっぱい溜めた隼鷹が立っていた。不安そうに瞳を揺らす彼女に、刹那は「大丈夫だよ・・・たぶん」と自身なさげながらも励ます。
「ほ、ほんと?」
「ほ、本当よ! 姉さんがお酒くらいでやられる訳・・・ないわよ」
「今の間はなにぃ・・・?」
 泣きそうな顔で迫る隼鷹に対し、瑞鶴は苦笑いしかできない。そんな二人を見詰め、刹那も不安そうに翔鶴を見詰める。
 一方、瑞鳳は剣を引っ張って翔鶴の救護作業に携わっている。
「剣! それ取ってよぉッ!」
「それってどれだよッ!」
「それはそれよッ! 早くしてよぉッ!」
「だからどれだってば!」
「それだって言ってるじゃない! 役に立たないわねぇッ!」
「名前を言えってッ!《それ》じゃわかんないよッ!」
 緊急時だというのに二人は相変わらずギャーギャー言い合っている。まったく仲がいいのか悪いのかわからない。
 結局、瑞鶴はパニックになり、貝塚はヤケ酒を飲み、刹那はため息し、隼鷹は泣き、飛鷹は翔鶴の手当てを行い、瑞鳳と剣はずっと言い争いをするしと、別の意味で盛り上がった宴会であった。

「み、水をくれ・・・」
「う、うんッ!」
 ぐったりとベッドに倒れる翔鶴に、瑞鶴は十四杯目の水を差し出す。受け取った翔鶴はそれを一気に飲み干す。
 ここは『瑞鶴』の艦内にある瑞鶴の部屋。
 気絶してから三時間後、生と死の狭間をさまよっていた翔鶴は飛鷹達の懸命の治療によってなんとか一命を取り留めた。
 翔鶴は頭を押さえながら起き上がる。ひどい頭痛、そして吐き気だ。込み上げるものを瑞鶴から受け取った水で無理やり胃に戻す。
 十五杯目を要求すると、翔鶴はぐったりと横になる。もはや身体には起き上がっているだけの力も残されていない。
「まったく・・・ひどい目にあったぞ・・・」
「災難だってね。艦長は私から厳しく叱っておくね」
「お前が言っても・・・奴は聞かんだろ」
「うぅ・・・」
 反論できずに言葉に詰まる妹に、翔鶴は口元だけで小さな笑みを浮かべる。
「まったく、困った奴を艦長にしたものだな。お前も」
「し、したくてした訳じゃないもん」
「しかもあいつは戦前までは砲術畑を歩んできた生粋の砲術家だぞ。戦中はずっと陸の上にいて、半年前にやっと『鳳翔』の艦長になって、そしてお前の艦長になった・・・実力は未知数だ」
「そ、それはそうかもしれないけど・・・貝塚艦長なら大丈夫だよ」
「その自信は一体どこから来るんだ・・・」
 呆れながらも、翔鶴は彼を否定はしない。
 翔鶴自身も彼の未知数の力を感じていた。彼は何かが違う。そんな気がした。だからこそ妹の命を預けられる。
 笑顔を振り撒き、誰にでも優しいその姿は、今はトラックにいる戦艦に乗るある少年の顔を思い浮かばせる。そういえば奴はどうしているだろうか。どうせいつものように艦魂達に振り回されて大変な日々を送っているのだろう。
「姉さん? 何で笑ってるの?」
 突如顔を覗き込んできた瑞鶴の言葉に声にならない悲鳴を上げる。
「な、何でもない!」
「そ、そう?」
 背を向けた姉の顔は真っ赤だ。やっぱりまだアルコールが抜けてないのだろう。その赤みが別のものも含まれているとは彼女は思わない。
 その時ドアがノックされた。
「あ、艦長ですか?」
 瑞鶴は慌ててドアに駆け寄るが、現れた人物は貝塚ではなかった。
「お姉ちゃん!」
「翔鶴の具合はどうだ?」
「隼鷹? それに神風中尉まで」
 隼鷹はすぐにベッドに倒れている翔鶴に駆け寄ると抱き付いて涙を流す。そんな彼女に抱き付かれた翔鶴は「や、やめんか! 揺らすな! うぷぅッ!」と悲鳴を上げて口を押さえる。軽い二日酔いが混ざっているらしい。
 そんな二人を見詰め、刹那は小さく笑みを浮かべた。
「どうやら大丈夫みたいだね」
「はい。まだ立ち上がる事はできませんけど、とりあえず会話はできるようになりました」
 瑞鶴は刹那の横に立って安堵したように微笑む。そんな彼女の笑顔に刹那は疲れたようにため息する。
「まさか翔鶴があそこまで酒に弱いとはねぇ」
「そうなんですよ。いつもは武人で勇ましい姉さんですけど、お酒だけは大の苦手なんです。それなのに艦長ったら・・・」
「まあ、知らなかったから仕方ないでしょ。今も艦長は下士官艦魂に処罰されてるだろうし、今回は穏便にならないかな」
「さ、さぁ・・・姉さんが許してくれるかどうか・・・」
「だよなぁ」
 二人は泣きつく隼鷹とアルコールと戦う翔鶴を見詰め、今回ばっかりは彼女に同情するのであった。その時、突如としてドアがけたたましく開いた。
「救援要請です!」
 そう叫んで飛び込んで来たのは荒い息をする瑞鳳。急いでいたからかメガネもズレている。そんな彼女の横には剣もいる。
「おう刹那ッ! ここにいたのか! ちょっと来てくれぇッ!」
「ど、どうしたんだよそんなに慌てて」
 剣は混乱する刹那の手を引っ張るが、そんな刹那の服の裾を瑞鶴が慌てて掴む。
「ど、どこへ行くんですか!?」
「ぼ、僕だってわかんないよ! 剣! 一体どうしたんだよ!」
「お前んとこの艦長が巡洋艦や駆逐艦にボコボコにされてんだよ!」
「「えぇッ!?」」
 二人は顔を見合わせて驚く。そんな瑞鶴の手を瑞鳳が慌てて掴む。
「瑞鶴! とにかく来て! 暴走したみんなを止められるのは上官であるあなただけなの! 早くしないと貝塚大佐が殺されちゃうわよ!?」
「どれだけひどい仕打ちを受けてるのよッ!?」
「とにかく早く来て! ほら剣もぼさっとしてないで神風さんを連れて来てよッ!」
「わかってるよ! そういう事だ! お前も付き合え!」
「か、艦長ぉ・・・ッ!」
「ほんとに世話の焼ける艦長なんだから! もう私嫌ぁッ!」
 ドタバタと慌てて駆け出す四人は全速力で第二会議室を目指した。そんな彼らを見送った翔鶴は己が戦い、懐く隼鷹とアルコールとの戦いを貫くのであった。







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