艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(8/141)PDFで表示縦書き表示RDF


赤城あかぎ
 赤城型航空母艦一番艦(天城型巡洋戦艦二番艦)――空母『赤城』
 出身 呉海軍工廠(広島県)
 身長 157cm
 髪型 ポニーテール
 実年齢(1941年12月現在)14歳
 外見年齢 17、8歳
 誕生日 3月25日
 家族構成 姉・天城(建造途中に廃棄)
 好きなもの 長門・航空機・努力・思い通りに戦局が動く事
 嫌いなもの 悪天候・予想外な敵の動き
日本海軍を一躍世界最強にした真珠湾攻撃の陣頭指揮をした第一航空艦隊旗艦・空母『赤城』の艦魂。元々は天城あまぎ型巡洋戦艦二番艦として起工されたが、ワシントン海軍軍縮条約の締結に伴って空母に変更されて竣工した。そんな『赤城』の艦魂はとてもまじめで機動部隊司令部の仕事を一手に行っている優秀な指揮官。副司令官を務めている加賀にいつも振り回されるかわいそうな一面もある。長門を敬愛し、極度の長門ファン。何事も策を十分に練ってから行動するので失敗する事はほとんどない。しかし逆に突発的なアクシデントには極端に弱いが、それ以外は頼れる指揮官。長門の起こした二度の内乱には反対派として賛成派と衝突した一人。今では日本海軍の最前線の指揮官として日々激務をこなしている。実は今現在彼女には春が訪れているとかいないとか。

加賀かが
 加賀型航空母艦一番艦(加賀型戦艦一番艦)――空母『加賀』
 出身 川崎重工業神戸造船所(兵庫県)
 身長 158cm
 髪型 ショートヘア
 実年齢(1941年12月現在)13歳
 外見年齢 17、8歳
 誕生日 3月31日
 家族構成 妹・土佐(建造途中で廃棄)
 好きなもの 赤城・赤城をおちょくる事・航空機・平和な日々
 嫌いなもの 出撃するたびに減ってしまう搭乗員・表面だけの勝利・戦争
赤城の副官として機動部隊副司令官を務めている。『赤城』と同じくワシントン海軍軍縮条約の影響で加賀型戦艦一番艦の『加賀』が空母に改造される事になった。本当は赤城型巡洋戦艦一番艦『天城』が改造される事になっていたが、『天城』は関東大震災で致命傷を受けた為『加賀』が代艦となった。そんな加賀はいつも笑顔でバカっぽく、赤城にちょっかいを出して彼女を怒らせるが、赤城が司令部の中で一番信頼している艦魂。時折気まずい雰囲気になる機動部隊艦魂司令部に和やかな雰囲気を出してくれるキャラ。長門の内乱に対しては赤城と共に反対派に回った。いつも笑顔で明るい彼女だが、航空機搭乗員の命を誰よりも大切に想っていて、夜中に戦死名簿を見て涙する優しき一面もある。

翔鶴しょうかく
 翔鶴型航空母艦一番艦――空母『翔鶴』
 出身 横須賀海軍工廠(神奈川県)
 身長 163cm
 髪型 長髪
 実年齢(1941年12月現在)0歳
 外見年齢 15、6歳
 誕生日 8月8日
 家族構成 妹・瑞鶴
 好きなもの 武士道・正々堂々・一騎打ち・強い奴
 嫌いなもの 卑怯な行い・人海戦術・弱い奴
日本海軍が世界に誇る日本の空母技術の粋を結集させて完成したばかりの新鋭攻撃型空母の艦魂。その性能は同時期の外国空母よりも高性能。そんな『翔鶴』の艦魂は剣道・柔道・空手の達人。その戦闘能力は日本艦魂の中で最強。物事を《技》で解決してしまうので争い事を治める最終兵器でもある。性格はいたってクールで上官に対しても敬語を使わないなどかなり肝が据わった人物。武士道を心に持つ武道家。後に日本機動部隊の主力となる。十一・二八事件の際は先輩空母艦魂や長門達を敵に回して賛成派に立った。理由はハルノートを受け入れる事は事実上不可能な上にもし条件を呑んでも日本には利益がなく、それどころかハルノートには条件を呑んだら石油輸出禁止を解くとは書かれておらず、石油不足で訓練もできずに弱った所を難癖つけてアメリカに攻め込まれたらそれこそ日本という国の滅亡になるとの意見だった。それは後の太平洋戦争開戦の議論でも扱われている戦争正解派の考えそのものであった。そんな翔鶴だが、妹の瑞鶴には多少甘いところもある。瑞鶴を大切にしており、幾多の戦いで自分が傷ついて瑞鶴が無傷という事に関しては、妹を守れて良かったという想いを抱いている。翔輝とは結構話が合うのか、彼に相談する事もしばしば。翔輝を巡る恋愛戦争に参戦するかはいまだ未定。ちなみに身長に対してかなり胸が小さい(貧乳)を少なからず気にしていて、それについて言われると大激怒する。

瑞鶴ずいかく
 翔鶴型航空母艦二番艦――空母『瑞鶴』
 出身 川崎重工業神戸造船所(兵庫県)
 身長 155cm
 髪型 長髪
 実年齢(1941年12月現在)0歳
 外見年齢 13、4歳
 誕生日 9月25日
 家族構成 姉・翔鶴
 好きなもの 翔鶴・大和・剣道・優しい人・甘いもの
 嫌いなもの いじめる人・まじめに話を聞いてくれない人・辛いもの
空母『瑞鶴』の艦魂。日本海軍最強の姉に対し、瑞鶴はいたって普通の女の子。姉に習っているので剣道はそれなりの腕を持つ。大和の親友として彼女の相談にのったりする。内地や根拠地で停泊し続ける大和達主力部隊の代わりに太平洋の海を縦横無尽に翔け回る。今作は主力部隊と機動部隊で物語が分かれるので、機動部隊主人公として彼女がこの後に活躍していくので、もう一人の主人公とも言える。ミッドウェー海戦の後は姉である新司令官となった翔鶴の補佐に全力を注ぐ。あまり自分の意見をハッキリと言うタイプではないが、筋の通っていない話には全力で反撃する強い一面も持つ。自分が生まれた時はすでに開戦は避けられない緊迫した雰囲気だったので、自分が生まれたから日本は戦争を始めてしまったのだと後悔している部分もある。十一・二八事件では翔鶴の命令で中立勢力にいた。この戦争を何とか日本が滅びぬ形で終了させる事に全力を注いでいる。

比叡ひえい
 金剛型戦艦(巡洋戦艦)二番艦――戦艦『比叡』
 出身 横須賀海軍工廠(神奈川県)
 身長 162cm
 髪型 長髪
 実年齢(1941年12月現在)27歳
 外見年齢 24、5歳
 誕生日 8月4日
 好きなもの 姉妹・後輩達・蒼い海・平和
 嫌いなもの 特になし
 家族構成 姉・金剛 妹・榛名・霧島
日本海軍最古参の艦魂姉妹・金剛姉妹の次女である比叡。日本海軍唯一30ノット出る金剛型高速戦艦は高速性を求められる機動部隊の護衛にはもってこいであり、そんな彼女は空母を守る重要な役目を任され妹の霧島と共に真珠湾攻撃に参加。戦前は海軍軍縮条約などで練習艦に格下げされた事もある超旧式戦艦でもある。そんな『比叡』の艦魂はとても優しいお姉さん的な存在。扶桑や長門と並びその優しさからみんなに好かれている。そして何より比叡は日本海軍一の巨乳でもある。いつもにこにこしているその笑顔で皆をいつも元気付ける。妹の恋を応援している。二度の内乱に対しては中立立場にいた。

霧島きりしま
 金剛型戦艦(巡洋戦艦)四番艦――戦艦『霧島』
 出身 三菱重工業長崎造船所(長崎県)
 身長 157cm
 髪型 ショートヘア
 実年齢(1941年12月現在)26歳
 外見年齢 17、8歳
 誕生日 4月19日
 家族構成 姉・金剛・比叡・霧島
 好きなもの 比叡・翔輝・金剛・榛名・仲間・静かな日々・平和
 嫌いなもの 怖い人・怖い話・怖い所・争い事・注目される事・知らない人・一人になる事・・・etc
金剛型戦艦四番艦・戦艦『霧島』の艦魂で三女榛名とは双子。ただし似ても似つかないような性格の違いだが。そんな霧島は日本海軍でも古参に入る重鎮。しかしものすごい内気な性格で初めての人とは基本的に話せないし、比叡がいないと知らない所には行けないし、怖いものがすさまじく苦手という小動物系のキャラ。自分に優しく接してくれた翔輝に好意を寄せ、強力なキャラばかりの恋愛戦争になんとかついて行こうとがんばっている。強烈なキャラばかりなので疲れたりする翔輝の心休まる所としても彼に頼られているのが数少ない大和達に勝る点。大和達の必死さに泣きながらも必死にがんばっている。一応古参なので皆に頼られるように日々努力している。二度の内乱には比叡と共に中立立場。

山城やましろ
 扶桑型戦艦二番艦――戦艦『山城』
 出身 横須賀海軍工廠(神奈川県)
 身長 163cm
 髪型 セミロング
 実年齢(1941年12月現在)24歳
 外見年齢 17、8歳
 誕生日 3月31日
 好きなもの 単独行動・酒
 嫌いなもの 特になし
 家族構成 姉・扶桑 義妹・伊勢・日向
扶桑型戦艦二番艦・戦艦『山城』の艦魂。『扶桑』と同じく《欠陥戦艦》という不名誉な称号を持っている。そんな艦魂である山城は表情豊かで友好的な姉とは違い、めったに表情を変えずに口数も極端に少なく、常に孤立して単独行動をしている個性的なキャラ。あまり他人と接触しようとはせず、実の姉である扶桑に対してもあまり接触しようとはしない。日本海軍でも有数の大酒飲みだが、いくら飲んでも全く乱れないという猛者でもある。古参組に入るが、大艦巨砲主義や艦隊決戦主義など前時代的な考えを持つ古参派には属さず、航空機やレーダーといった新兵器への主力転換を主張する長門達改革派に属し、二度の内乱にも長門共に反対派としてその力量を振るった。翔輝の良き相談相手でもある。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第一章 第七節 寂しき少女の想い


 あれから数日。翔輝もずいぶんと艦魂達と仲良くなった。
 今は甲板で風に当たって休んでいる。
「長谷川少尉。何を見ているんですか?」
 つい先日翔輝の直属の部下になった水上みなかみ祐二ゆうじ上等水兵(十六歳)が声をかけて来た。パッチリとした目が特徴のまだまだ幼さを残した年若い少年である。
「うん? 何でもないよ」
 翔輝は笑ってごまかす。
「少尉はよくぼーっと何かを見てますね」
「そ、そうか?」
「艦魂が見えているんですか?」
「うん。あそこで修行してる」
「そうなんですか。さすが艦魂ですね。僕も見てみたいですよ」
「ははは、まぁ、僕も見たくて見てる訳じゃないしね」
「僕は見てみたいです。『大和』の艦魂って、かっこいいんでしょうね」
「あ、まぁ、ね」
 ものすごいわがままなガキとは言えないしね。
「『長門』の艦魂はとてもリーダーらしい方なんでしょうね」
 めちゃめちゃ楽観主義のお姉さんキャラと知ったらどうなるか。
「金剛四姉妹は堅物なんでしょうね」
 金剛と榛名には会った事はないけど、比叡はともかく霧島は一番言えないかもしれない。
「あー、やっぱり少尉がうらやましいです」
 水上が純粋な笑顔で言う。こんな純真無垢な少年に艦魂達の現実と今目の前で広がっている光景を正直に言うのは夢を壊してしまう。
 今目の前では確かに修行をしている艦魂がいる。戦闘だ。
「左舷弾幕薄いぞ! 何やってんの!?」
「了解!」
「撃て撃てッ!」
「反撃の隙を与えるな!」
 大和と瑞鶴の新米チームと、陸奥と伊勢の先輩チームが輪ゴム銃を撃ち合って激戦を繰り広げている。
「・・・」
 いいのか? 連合艦隊の期待されている主力がこんな風に遊んでいて。女の子なんだから遊んでもいいのだが、せめて輪ゴム銃の白兵戦はどうかと・・・
「どうしました?」
 水上の心配そうな顔が目の前にあった。
「いや、何でもないよ」
 その時、大和がこちらに気づいたようだ。
「少尉! 楽しいですよ。一緒にやりませんか?」
 翔輝は笑顔で応える。
「行こうか?」
「え、あ、はい」
 翔輝の後を子犬のように幼いキャラの水上が後を追う。
「あ、しょ、少尉?」
 二人の去った甲板で、呆然としている大和に輪ゴムが命中した。

「もう! 返事ぐらいしてくれてもいいじゃないですか!」
 一人自室でくつろいでいた翔輝に対し、入って来た早々いきなり怒る大和。
「なんだよ」
 くつろいでいた所を邪魔されてちょっと不機嫌な翔輝。
「どうして無視したんですか!?」
「隣に水上がいたからね」
「それだけですか?」
「艦魂が見えるってだけでかなり変人って言われてるからな、あまり後輩に変な所見せたくないしね」
「わ、私が見えるのが嫌なんですか!?」
「そうは言ってないだろ」
「言ってます!」
 なぜか今回の大和はしつこい。たぶんさっきの戦い(?)で負けて気が立っているんだろう。こいつは負けず嫌いだから。
「あのさ、悪いけど僕にやつ当たりしないでよ」
「そ、そんな事してないですよ!」
「いやしてるって」
「・・・ッ!」
 顔を真っ赤にして、今にも怒りのマグマが噴火しそうな大和にさすがの翔輝も怖くなり、素直に謝った。
「さすがにさっきは悪かった。ごめん」
「あ、いや、そ、そんな、謝らないでください。考えてみると私の方が悪いんですし・・・ッ!」
 素直に謝ると、急におとなしくなる。彼女も自分が悪いとわかっていたようだが、きっかけがなかったらしい。
「んで、用は何なの? まさか怒りに来ただけじゃないだろ?」
「あ、はい」
 すると、大和は不機嫌そうに唇を尖らせる。
「陸奥さんと霧島さん、伊勢さんが呼んでいました」
「え? 陸奥達が?」
 翔輝は不思議そうに聞き返す。
「はい。もう甲板にいらしてます」
 というか、陸奥と伊勢はさっきかららいただろ。
「わかった」
 脱いでいた上着を着て用意する。
「い、行かれるんですか?」
「え? そりゃ行くけど」
「・・・そうですか」
 寂しそうな顔で言う大和。そんな大和を翔輝は不思議そうに見る。
「どうしたの?」
「・・・いえ」
 そう言い、大和は笑顔を向けた。
「少尉。行ってらっしゃい」
「あ、あぁ・・・」
 翔輝は大和のその悲しげな笑顔が気になったが、結局部屋を出て行った。

 一人残された大和。
 ドアから視線を外し、ふと翔輝の机に目が止まる。
 机の上には純粋な笑顔をこちらに向けている少女がいた。彼の大事な妹の翔香。自分にそっくりな顔で、自分にはできない純粋過ぎる笑み。それが私と彼女の差なのでしょうか?
 少尉は私を置いて行ってしまった。陸奥さんや伊勢さん、霧島さんの所に行ってしまった。
 大和は、いつの間にか自分が一人になってしまっている。そう思えてしかたがなかった。いつか少尉が、自分から離れて、別の艦に乗ってしまうのではないか。そう思えてしかたなかった。
 少尉は優しい。
 大和は素直にそう思う。だが、それは自分に対してだけの優しさではない。困っている人がいたら、そっと手を差し伸べる。そんな優しさ。
 決して、大和という存在に手を差し伸べるのではなく、困った人という意味で差し伸べる。そんな手はいらなかった。
 そんな手だったら振り払い、自分で立ち上がる。
 しかし、彼に最初に会った時は、できなかった。
 彼の笑顔を見ていると、そんなのどうでも良くなってしまう。
 全てが純粋で、全てが優しい。それが、長谷川翔輝少尉なのだ。
 でも、誰かに手を差し伸べている間は、他の誰かが手を差し伸べてはもらえない。それが今の私・・・
 少尉が陸奥さんと仲がいいのは知っている。
 少尉が伊勢さんと楽しそうに話しているのも知っている。
 少尉が超内気の霧島さん会話ができるのも知っている。
 だから、辛いのだ。
 少尉が遠くに行ってしまう。
 少尉が自分から離れて行ってしまう。
 私は、そんな気がしてならない。
 窓から見える海はどこまでも蒼い。それなのに、だんだんとその景色が歪んでいく。
 海の青も、空の蒼も、何もかもが・・・
 もう、何も見えない。
 少女はその場に座り込み、瞳を隠す。その瞳は濡れていて、それは少女の苦しみとなって湧き出てくる。だんだんと瞳を濡らしていたそれは、ついに瞳から零れ落ち、少女の頬を伝った。
「少尉・・・、寂しいです・・・ッ!」
 大和は、大好きな少年の階級を、静かにつぶやいた。

「で? 何なの?」
 甲板に出て来た翔輝は、待っていた三人の少女を見詰める。
「少尉は明日、機動部隊が出撃する事はもう知っていますね?」
 陸奥が翔輝に確認を取るように聞く。
「あぁ、明日出撃するんだろ?」
 機動部隊は南方資源地帯攻略の為に、明日出撃する事が決定していた。
「はい、そこで今日の夜に出撃祝いをしようと決定したんですが、少尉も参加されますよね?」
「うーん、どうだろ。そろそろ別艦にちょくちょく移動できなくなってきたし、今回は無理かな?」
「そないなら、『大和』で開くのはどうやろか?」
 そう言ったのは伊勢。すばらしい提案である。翔輝もこの提案にはうなずいた。
「それなら大丈夫だよ」
「本当ですか!?」
「あぁ」
 翔輝の返事に陸奥達は大喜びした。
「ほな、さっそく大和はんと相談しましょうか」
 伊勢が嬉しそうに言う。すると翔輝は笑みを浮かべた。
「あ、いいよ。僕から大和には伝えとくから」
「え? 本当どすか? 助かりますわぁ」
 伊勢は頭を下げる。
「じゃ、じゃあ、打ち合わせしましょう」
 小さな声で霧島が言う。
 その後三人は色々と打ち合わせをし、数分後、翔輝は三人と別れて艦内に戻って行った。

「あっれー?」
 翔輝は自室に戻ったが、そこには大和の姿はなかった。
「どこ行ったんだろ」
 翔輝は仕方なく艦内を捜す事にした。しかし、出会ってから数週間。彼女が行きそうな場所は熟知していた。
「仕方ない・・・」
 翔輝は自室を後にする。もう艦内の構造はだいたい理解しているが、いまだにたまに迷う事がある。しかし、その場所なら迷わず行けた。
 ドアを開けると、そこには蒼い空があった。そよそよと風が吹き、澄んだ蒼が天空を彩る。
 そこは防空指揮所だ。
 敵機の来襲を警戒する最前線の場所。
 いくつもの望遠鏡が設置され、そのひとつひとつが天空を睨む。
 今は休憩時間なので、軍港湾内という事もあって見張り兵はいなかった。いるのは翔輝と、もう一人・・・
「大和、またここにいたの?」
 入口から少し離れた場所に、捜し人はいた。
「・・・」
 大和は空を眺めていて、翔輝の事なんか無視していた。
「おーい、やーまと」
 翔輝も声を少し大きくするが、完全に無視。仕方なく、翔輝は大和の横について空を眺める。
 まだ十二月という真冬の風が地上三〇メートルの防空指揮所に吹く。それはもう寒いの何の。
「うぅ、寒い。大和、中入んない?」
「・・・」
「ねぇ、大和」
 大和は答えず、しばらく沈黙が続く。翔輝が再び声をかけようとした時、
「・・・少尉」
 そこで初めて大和の口が開いた。
「何?」
 しかしそれは、いつもの優しい彼女の声ではなかった。重く、そしてどこか寂しそうな声だった。
「少尉は、私の事嫌いなんですか?」
「はぁ?」
 翔輝は訳がわからなかった。なぜここでそんな話をするのだろうか?
「答えてください」
 大和は振り向き、翔輝の瞳を見詰める。その声は今まで翔輝が聞いた事ないほど凛としていた。
 ここで翔輝は大和がいつもと違うという事に気がついた。
「大和、お前一体どうし・・・」
「質問に答えてください」
 大和は翔輝を睨む。答えないとは許さないという気迫に、翔輝は驚く。だがどうやら答えないと話は進みそうになかった。
「そんなの、嫌いな訳ないだろ」
 翔輝は素直に答える。が、大和は依然翔輝を睨むように見ている。
「それは、本当ですか?」
「ほ、本当だよ。僕が大和の事を嫌いな訳ないだろ」
「・・・」
 大和はまだ翔輝を見ている。ふと、その瞳の色が変わった。
「では、質問を変えます」
 大和は顔だけでなく身体もこちらに向け、軍刀の先端をトンと床に付ける。
「陸奥さん、伊勢さん、霧島さん、そして私。今言った中で一番好感を持てるのは誰ですか?」
 再び意味のわからない質問をしてくる。
「そ、そんなの決められないよ」
 そう言ってうつむいてしまう。これは彼の正直な気持ちだ。確かに陸奥や伊勢、霧島、そして目の前の大和とは他の艦魂達よりも仲がいい。だが、それに順位を付けろと言うのは無理だ。四人とも同じくらい好きだからだ。
 翔輝は困り、うつむいていた顔を上げ、大和を見る。
 そこで事件は起きた。
「うぅ・・・ひっく・・・ッ」
 なんと大和が泣いていたのだ。恥じる事なく大粒の涙をぼろぼろと流し、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「や、大和・・・?」
 いきなり一八〇度変わった状況に、翔輝はただただ呆然とする。
「答えてください・・・ッ」
 泣きじゃくりながらも、大和は質問を続ける。
「そ、そんな事言われても・・・決められないよ」
 情けないが、それが翔輝の答えだった。
 大和は依然泣いたままだった。瞳から零れ落ちる雫が、ポタポタと黒鉄の床に無数のシミをつくる。
「少尉は・・・どうして私を一人にするんですか・・・ッ?」
 大和は突然翔輝の上着の裾を掴んだ。
「少尉はいつも陸奥さんや伊勢さん、霧島さんと楽しそうにお話しています。楽しそうに笑って。私の時とは大違いじゃないですか。私の時は、あんなに・・・、あんなに楽しそうじゃない。私が話そうとして逃げるし、捕まえても嫌そうな顔するし、笑ってくれる事なんてないじゃないですか・・・ッ」
「そ、それは違うよ・・・ッ」
「何が違うんですか・・・っ?」
「それは、その・・・陸奥達とは世間話ができておもしろいんだよ。でも、生まれたばかりのお前とはそうもいかないだろ? だから・・・ッ」
「そんなの言い訳です! 少尉は私の事が嫌いなんです!」
「ち、違うよ! そんな訳・・・ッ」
 翔輝が必死で大和に説明しようとした時、
 トン・・・
 突然大和が自分の胸に抱き付いてきた。
「や、大和・・・ッ!?」
 翔輝は顔を真っ赤にする。なぜ真っ赤になるかというと、まぁ、なんだ。大和の外見はちょっと幼いがかなりの美少女だからだ。
 一人焦る翔輝の胸の中で、大和は静かに言う。
「私はずっと一人ぼっちだったんです。気がついたときからずっとドッグの中でした。暗くて、閉ざされた世界だった。私はそこで何年もいました。人はいっぱいいるのに、私の声、私の姿が見える人は誰一人いませんでした。ずっと寂しかった。初めて海を見た時もそうでした。霧ばかりで、街も、人も、自然も何もなかった。あったのは深い霧だけ、後でそれが外の世界だと知りました。とっても寂しい世界でした。連合艦隊第一戦隊に編入されても、誰一人私と話せる人はいませんでした。そんな私の前に現れたのが・・・」
 大和は顔を上げ、嬉しそうに翔輝を見詰める。
「――少尉、あなたでした」
 翔輝は黙って聞いている。
「ずっと一人ぼっちだった私に、初めて話しかけてくれたのが少尉でした。少尉と出会えたから、私は一人ぼっちじゃなくなったんです」
 そう言った直後、大和は急に悲しい顔になった。
「なのに、少尉は艦魂が見えるって知ったら、陸奥さんと仲良くなっちゃうし、伊勢さんや霧島さんとも楽しそうに話すようになってしまいました。暇を見つけては陸奥さん達の所に行って、いつも私を一人ぼっちにします。何でですか? 私はこんなにも少尉の傍にいたいのに、どうして少尉は私から離れて行くんですか? 少尉は私と一緒にいるのが嫌なんですか?」
 大和は泣きながら必死に訴える。
「ち、違うよ。嫌な訳ないだろ」
 必死に訴えてくる彼女の姿に、翔輝はそれしか言えなかった。
 大和は再びうつむく。
「少尉は私の心の中の大半を占領してるんです。少尉は私の全てなんです」
「大和・・・」
「私、怖いんです。いつか少尉が私を捨てて、別の艦に乗ってしまうんじゃないかって。怖くて、怖くて仕方ないんです」
 大和はぎゅっと抱き付く力を強める。
 そんな彼女を、翔輝はそっと抱きし締めた。
 ビックリするのは大和だ。
「しょ、少尉・・・?」
 顔を上げると、そこには悲しげに微笑む翔輝の顔が。
「大和、ごめんな。僕のせいで、そんなに苦しんでたなんて」
 翔輝はやっと、大和の気持ちを理解した。
 彼女はずっと寂しかったんだ。それに気づかず、自分は彼女を放って他の艦魂とばかり楽しんでいた。大和がこんなに傷ついているなんて知らなくて。
「ごめん、本当にごめん」
 翔輝はそれしか言えなかった。
 ぽとり・・・
 大和の頬を涙が流れた。
「少尉・・ッ!」
 大和はようやく翔輝の心に触れられて安堵し、涙を塞き止めていたダムが決壊し、涙の大洪水を引き起こした。
 そんな大和を、翔輝は強く抱き締めた。
「大丈夫だよ。僕は絶対に君から離れない。他の艦には乗らないよ」
「本当、ですか・・・?」
「うん、本当だよ」
 その言葉を聞き、大和は嬉しそうに喜んだ。こんなに嬉しそうな大和は久しぶりだった。
 大和の笑顔は、とてもまぶしかった。
「大和」
「え?」
 翔輝はそっと手を差し出す。
 大和もその意味を覚り、手を伸ばす。
 二人の手が絡み、その手の指は一つ一つで絡み合い、強く結ばれる。やがて十本の指全部が重なり合い、二人は強く手を握った。
「ここは寒いから、中に入ろう」
「・・・はい」
 二人は手を繋いだまま、ゆっくりと防空指揮所を後にする。
 誰もいなくなった防空指揮所に一陣の風が吹き、太陽が燦々と輝く。
 まるで、二人の新しい物語を、祝うかのように・・・







ネット小説ランキング>歴史部門>「艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義」に投票
投票していただけると僕もがんばれます!(月一回です)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう