第八章 第十九節 瑠璃色の季節
朝。人々は一日の始まりをそう呼ぶ。
全てはここから始まる。小鳥がさえずり、風が気持ち良くさわやかに流れる。そんな朝を過ぎると一日が始まり、その先にはそれぞれの道が存在する。平和的な道もあれば明日の命も知れぬ危険な道もある。そんなそれぞれの道を進む者はいつも昨日より楽しい一日でありますように、昨日より幸せな一日になりますよにと願う。そしてまた、昨日とは違う刺激がほしいと願う者も・・・
「だからってこれはいくらなんでも刺激的すぎるわよ」
長門がため息しながら言う。
そう、今この状況は極めてよろしくない。超非常警戒態勢である。いつ戦闘が開始されてもおかしくないこの一触即発な雰囲気。息をするのも苦しいこの圧迫された空間。
さて、今ここで何が起きているのかというと・・・
「さぁ翔輝様。インド産の最高級アッサム茶葉を使ったミルクティーですわ。どうぞお飲みください」
「あ、ありがとう」
翔輝は少女から受け取ったミルクティーを口に運ぶ。
おいしい。くせがなく、とても濃厚な味がする。確かにおいしい――おいしいのだが、今の翔輝の味覚は少し空回りしていた。
「どうですの?」
「う、うん。おいしい」
「そうですか? お口に合って良かったですわ。おかわりはどうですか?」
少し困っている翔輝に一方的にからんでいる少女。その表情はとても幸せそうだ。その時、
「おいコラ。いい加減目の前で堂々とイチャ付くのはやめろ。バカップルが」
榛名が不機嫌そうに翔輝と少女を睨む。だが少女はそれを待ってましたかのように、
「あらごめんなさい。こーんな仲のいい所を見せ付けられて恥ずかしいのですわね。ならいいですわ。翔輝様。翔輝様のお部屋に行きましょう」
「そういう問題じゃねぇッ!」
榛名のイライラも限界に達し、テーブルをバンッ! と叩いて立ち上がって少女を睨む。そして、叫びたい事の中から、一番、根本的問題の疑問を咆哮する。
「何でテメェがここにいるんだ! 瑠璃!」
瑠璃は「何でって・・・」と、まるで1+1=2の理由を聞かれたかのように困惑する。
「そんなの決まってるじゃないですか。翔輝様にお会いしたいからですわ」
「んな事聞いてんじゃねぇッ!」
「あら、では一体何を?」
「何で一般人であるお前がどうして軍艦である『大和』にいるのかって聞いてんだ!」
その意見はもっともだ。だがそれは同時に愚問と呼ばざるを得ない。瑠璃はそれに対して至極当然のように、
「我が霞家は広島の地方財政を自在に操作でき、この呉海軍工廠にも資金提供をさせていただいてますわ。つまり、この呉の海軍工廠は霞家には逆らえない。その家の者である私が『大和』乗りたいと言えば断れないのは道理。所長は快く了承してくれましたわ」
「いや、それは脅迫って言うんじゃ・・・」
翔輝のツッコミに、瑠璃は頬を膨らませる。
「失礼ですわ翔輝様。政治的・財力的な圧力をかけただけですわ」
「いや、それも威張って言えるような事じゃないんだけど・・・」
「世の中はミンチ機のようなもの。強力な力で踏みにじられ、砕かれ、潰される。強きものはそれを弾く事も可能でしょう。でも大抵はその力の前に潰され、グチャグチャのグチョグチョにすり潰され、後に残るのはそれは見事なミンチ肉だけですわ」
相変わらず意味不明かつえげつない言葉を放つ瑠璃。
一方、そんな理由で引き下がるほど翔輝連合軍は甘くない。今度は陸奥が反撃を開始する。
「そんな事までして、そんなに中尉と一緒にいたいんですか!?」
瑠璃はハッキリと、
「もちろんですわ」
瑠璃の満面の笑みに、陸奥も悔しそうに沈黙する。その気持ちはわからなくもない。自分達もそう思うだろうから。でも、だからと言って――
「そんなに中尉とくっ付かないでください!」
二人の距離はゼロ距離。すでに接触ではなく密着になっている。もちろんこれは瑠璃が一方的にやっているので翔輝は悪くない。だがそんな困ったような顔をしているならハッキリ断れ。と言いたげな眼差しで睨む榛名。そんな榛名の視線に翔輝は苦笑いする。
「――くうッ! 悔しい! ちょっと大和ちゃん! あなたも何か言い返してよ!」
ここで陸奥は大和に援軍を要請する。が、
「大和ちゃん?」
「・・・」
大和は沈黙していた。寂しそうにうつむき、翔輝達の会話にまったく参加しようという意思が感じられない。
今日の朝に気がついた時にはもうこのような状態になっていた。すぐに翔輝に訊いたが、彼から返ってきたのは「昨日ちょっとすれ違いがあって」とのものだった。すぐにそれが原因だと感づいたが、肝心の《すれ違い》の原因がわからず、現在に至っている。
「おい陸奥! 今の大和は戦力にならねぇッ! いいからお前も攻撃しろッ!」
攻撃って何だよとツッコミを入れる翔輝を無視し、榛名は陸奥と伊勢と作戦会議を開く。そんな三人を勝ち誇った笑みで一瞥すると、瑠璃はまた翔輝に甘え始める。その時、
「ねぇ瑠璃ちゃん」
先程から瑠璃のカステラをモソモソと食べていた日向が突然会話に参加して来た。
「何ですか?」
敵対反応がない者には純粋な笑みを送る。そんな瑠璃にボロボロとカステラをこぼしながら日向は質問する。
「瑠璃ちゃんって学校とか行ってないの?」
「いきなり何訊いとるん?」
呆れる伊勢の声を気にした様子もなく、日向は不思議そうにしている。
「だって、瑠璃ちゃんの年齢じゃ今頃は学校でお勉強してるんだよ? なのにどうして瑠璃ちゃんは学校に行かないでここにいるの?」
日向の疑問に誰もがうなずいた。確かにそうだ。瑠璃くらいの年齢なら今は学校にいるはずだ。それがどうしてここにいるのか。会いたいなら放課後でいいのに。
「なるほどね」
榛名は不気味な笑みを浮かべる。その表情を見て誰もが悟った。
――今榛名は、とんでもなく恐ろしい事を考えていると。
「何だよ瑠璃。お前学校に行ってないのか? 行きたくないのか? 不登校なのか? えぇ? おい」
榛名は絶好の攻撃地点を確保したらしく、再び総攻撃を開始する。が、それに対して瑠璃は涼しい顔をしていたが、榛名の言葉に呆れたような顔を露にした。
「な、何だよその顔! 何か言いたいならハッキリ言えよ!」
榛名は思うような反応のない瑠璃にイラついていた。そんな榛名を見て、翔輝はため息ひとつを零して説明しようとする。
「あのな、瑠璃は――」
「・・・今現在彼女は学校には通っていない。その理由は、彼女はすでに難関文系大学卒業レベルの学力を保持しているから」
翔輝が説明しようとした事を、瑠璃とは反対側に座って翔輝の服の裾を掴んでいた武蔵が代わりに説明する。武蔵の説明を聞いて、瑠璃は納得したような顔をする。
「そういえばあなた、情報収集能力が他の艦魂をはるかに凌駕するのですわね? 翔輝様から聞きましたわ」
瑠璃の言葉に、武蔵は無表情で彼女を見詰める。その瞳にはいつになく強い意志が秘められていた。まるで、瑠璃を挑発しているかのようだ。
「・・・そういうあなたも個人所有の諜報機関がすごい」
「いえ、あなたのそれには負けますわ」
瑠璃の言葉に、常に無表情の武蔵が微笑した。そんな武蔵を見て瑠璃も笑顔を向ける。だがその笑みはどこか憎たらしげなものだった。お互いに楽しい笑顔とはほど遠い笑みを向け合う光景を見て、他の者は恐怖を感じる。
「お、おい大和。お前の妹おかしいぞ」
榛名が大和を小突くと、大和も苦笑いする。だが、その表情は相変わらず寂しそうで、榛名もため息する。
「大和!」
「ふえッ!?」
いきなり日向が大和に抱き付いた。完璧に密着すると、日向は大和の頬にすりすりと頬ずりを始める。
「ひゅ、日向!?」
驚く大和の頬を日向はペロリと舐める。その行動に大和はビクリと震え、日向はにぱっと笑顔を向ける。
「ほらほら元気出して。何があったか知らないけど、大和は笑ってた方がかわいいんだから。ほら笑って笑って!」
「え? あ、うぅ・・・」
困り果てている大和にさらに強く日向は抱き付く。そんな二人を見て他の者は優しい笑みで見詰める。だが、それに触発された人物もまたいた。それは・・・
「伊勢ちゃーん! 私達も頬ずりしましょ!」
「ふ、扶桑姉はん!? か、堪忍や――うひゃッ!」
伊勢は暴走した扶桑に押し倒され、床の上で抵抗を開始した。よだれを垂らしながら血走った目で伊勢の服の中に手を入れ始めた扶桑を見て、これ以上は見てはいけないと思って翔輝は視線を逸らした。後ろの方から伊勢の喘ぎ声交じりの抵抗する声が聞こえたが、翔輝は心の中で「ごめん」と謝るしかできなかった。
所々でそれなりに仲の良さそうな雰囲気になっているのを見ていると、突然目の前に輝く水滴を身に纏ったコップが現れた。その中には冷えた麦茶が入っている。
「飲むか?」
コップから伸びている白い腕の先には、武蔵以上に表情の変化がない少女がいた――山城だ。
「あ、うん。ありがとう」
山城から受け取った麦茶を口の中に含むと、ちょうど乾いていた喉が冷たく潤う。
「・・・うまいか?」
「うん。とっても」
「そうか」
そうつぶやき、山城はひょいとポケットから――何のためらいもなく一升瓶を取り出した。一体どうやって入れていたのか。
「あ、あのさ。それどこに入れてたの? 艦魂は自艦でなくちゃ空間能力は使えないんでしょ?」
「そうだが」
山城は何を今さらといった感じの顔で翔輝を見詰める。そんな山城に、翔輝は苦笑いする。
「ならどうやって一升瓶をポケットに入れてたの?」
「普通に」
「いやいや、ポケットに入れておく酒は普通ウイスキーでしょ? まずそれが一升瓶ってのがおかしいのに、それをどうやって入れてたんだよ」
翔輝の問いに、山城は一度目を閉じると、再び開いて天を見上げた。
「航海士。女には多くの秘密があるものだ」
「そ、そういうものなのか?」
考える翔輝を見て、山城は唇だけで笑った。が、そんなすごい事がすぐ横で起きているのも翔輝は気が付かない。が、約一名だけは見逃さなかった。
「ちょっと!」
突然瑠璃が翔輝と山城の中に割り込み、山城を睨み付けながら手を広げて翔輝を守るようにして立ち塞がる。
「な、何だよ」
翔輝は突然の瑠璃の行動に驚くが、瑠璃は翔輝の質問には答えない。ただ、山城を睨み続ける。それに対し山城は涼しい顔で瑠璃を見ている。
数秒睨むと、瑠璃は重そうに口を開く。
「まさか、まだ翔輝様を付け狙う輩がいたとは、伏兵ですわ」
「な、何言ってんの?」
戸惑う翔輝に対し、瑠璃は真剣だった。
一方、瑠璃の爆弾発言に他の艦魂達も驚愕する。
「う、うそ。まさか山城さんも中尉を狙ってたなんて」
「しょ、衝撃的過ぎ」
大和と陸奥が信じられないという顔をしている。榛名もあんぐりと口を開いたまま硬直している。伊勢も同じような状態だ。武蔵に関しては無表情が崩れかけている。
一方、長門と扶桑はお互いに顔を見合わせ、何か意味ありげな笑みをし合っている。
さて、そんな嵐の中心にいる山城はというと――相変わらず無表情を貫いていた。さすがというかなんというか。
「あなたは一体誰ですの?」
瑠璃と山城一度会っているが、その時は大和達の援護をしていたので直接二人が会話するのはこれが初めてだった。
山城は軍刀の先端を床に付け、会釈する。
「申し遅れた。大日本帝国海軍所属・戦艦『山城』の艦魂。以後よろしく」
「こ、これはどうもご丁寧に」
瑠璃も山城の礼儀正しい行動に礼儀正しく頭を下げる。が、すぐに顔を上げて山城を睨みつける。
「それで、翔輝様とは一体どのようなご関係で?」
「私と航海士は別に特別な関係などはない。強いて言うなら友人だ。あなたが思っているような関係ではない事だけは安心せよ」
それは翔輝と山城は別にどうという関係ではないという事だった。その言葉に瑠璃は安堵する。同時に他の者も安堵する。が、まだ翔輝を取り巻く状況には一点の変化もなかった。
「どうでもいいけどよ。そろそろ長谷川から離れろよ」
イライラしながら言う榛名の言葉に瑠璃はニヤリと不敵な笑みをし、さらにぎゅっと翔輝に抱き付く。
「だぁがら抱き付くなっての!」
「そうです!」
「離れてください!」
大和達の声を無視し、瑠璃は飼い猫のようにニャゴニャゴ鳴きながら翔輝に抱き付く。そんな瑠璃に抱き付かれている翔輝は気恥ずかしさと困ったような顔が混ざったような複雑な表情を浮かべていた。
『がるるる・・・ッ!』
大和達の怒りが頂点に達するのを感じると、瑠璃は翔輝の手を取って翔輝を引っ張る。
「翔輝様。お散歩に行きましょう。私達の未来結婚生活に向かって」
「え? 何言って――うわッ!」
「あッ! 中尉がさらわれた!」
「大和ちゃん! 追いかけるよ!」
「あんのクソガキがッ!」
大和達も急いで二人の後を追う。一方、
「ま、待ってぇなぁ・・・うちも一緒に・・・」
「あーん。伊勢ちゃんかわいーい! もう最高!」
「あ、あかん・・・そこはあかんよぉ・・・」
扶桑は伊勢にさらなる攻撃を開始していた。暴走する扶桑の攻撃を受けている伊勢は、もうすさまじい事になっていた。口からはよだれが溢れ、ひくひくと痙攣している。これはさすがにヤバイのでは?
「てへ。幸せそうだね。お姉ちゃん」
日向は伊勢の気持ちも知らずに仲良く(?)している二人を見て楽しそうな顔をしている。
残っているのは長門と武蔵。
「いいの? 追い掛けなくて。長谷川君取られちゃうわよ?」
長門の少しいじわるっぽい声に対し、武蔵はいつものように無表情だ。
「・・・別に。翔輝はそんな簡単な人じゃない。私はただ信じて待つだけ」
「ふーん。あなた、長谷川君を信用してるのね」
「・・・当然の事。翔輝を信じないなんてありえない」
武蔵はお茶をすすった。そんな武蔵を見て、長門の顔に笑みが浮かぶ。
二人は静かになった部屋の中で、静かにお茶をすすった。
それから数十分後、武蔵を司令官にした翔輝解放軍は瑠璃を捕縛して翔輝の救出に成功した。翔輝が瑠璃の解放を頼むと、大和達はものすごく不満そうだったが解放してくれた。
瑠璃は翔輝に説得されて渋々帰って行った。
防空指揮所の上でぼんやりとしていると、不意に後ろに気配を感じた。振り返ると、
「こんな所で何してるんですか?」
笑顔で近づいてきたのは大和。
「いや、ちょっとね」
「ドッグの中ですから空は見えませんよ?」
「わかってるよ。何となくさ」
そう答えると「そうですか・・・」と小さくささやき、大和は翔輝の隣に立った。彼と同じようにぼんやりとドッグの中を、自分の生まれた場所を見詰める。
「変わってませんね」
「え? 何が?」
突然の言葉に翔輝が首を傾げると、大和はにっこりと微笑んだ。
「いえ、ここで生まれた時とほとんど何も変わってません。このドッグ」
「そっか・・・」
大和はどこか遠くを見るような目でドッグを見回す。その瞳には懐かしい友人に会ったような、優しげなものが含まれていた。
「私はここで生まれたんですよ? 皆の期待を一身に背負って、世界最大最強の戦艦としての誇りを持って、生まれたんです」
そう言う大和はどこか楽しげだ。その姿は久しぶりの実家に戻った子供を思わせる。
「そっか、ここが大和が生まれた場所か」
「はい」
ここが大和の生まれ故郷。そう思うとただのドッグが特別なものに見える。
下を見ると、多くの整備員達が整備を行っている。こんな光景を彼女は竣工するまでの間毎日見ていたのだろう。
ふと横を見ると、大和は整備員達を嬉しそうに見詰めている。
「懐かしい光景です」
きっと生まれたばかりの頃の話だろう。
翔輝は人間なので生まれたばかりの頃の記憶はない。それに対し艦魂である大和はこんな姿で現世に生まれたので記憶は鮮明なのだろう。少しうらやましい。
しかし、こうして整備される『大和』を見てふと思う。
戦艦や空母はもちろん、軍艦というのは戦う為に生まれる兵器だ。だが金剛型、扶桑型、伊勢型、長門型のどの戦艦も平和な時代に生まれた。金剛型は第一次世界大戦に巻き込まれているが、日本は主だった戦闘はしていないので平和そのものだった。
しかし、大和型は違う。
『大和』はこの戦争の引き金となって竣工し、『武蔵』も戦時中に竣工した。どちらも他の戦艦と違って戦う運命が避けられない戦艦だった。
きっと、日増しに開戦論が高まる中、大和は毎日を過ごしていたのだろう。
平和な時代を知らない。それはあまりにも悲しすぎる運命だ。
下を見下ろす大和を横目に、翔輝はため息した。
戦う事が宿命の軍艦の艦魂。それは決して避けられない運命。
なんて悲しい存在なのだろう。
今まで、こうして笑い合ったりしてばっかりだったから忘れ掛けていた。
彼女達は艦魂。軍艦の魂なのだ。戦う事こそが本来の姿。平和な時代には決して不要な存在。
大きな宿命を背負っているのに笑える彼女達は、本当に心が強いのだろう。
「なあ、大和。聞きたい事があるんだけど」
翔輝の言葉に、大和は「何でしょうか?」と不思議そうに首を傾げる。
翔輝はふと思った疑問を問う。
「お前さ、生まれるのが怖くなかったの? 高まる開戦論、そして開戦。生まれれば戦わなくちゃいけないってわかってただろ? それは、怖くなかったの?」
翔輝の問いに、大和は少し驚いたような顔をすると、力なく首を横に振った。
「そりゃ、怖かったですよ。元々私は軍艦の艦魂には向いてませんでしたし、戦いは嫌いです。できる事なら、客船として生まれて、みんなに笑顔を与えたかったです」
それはそうだろう。余程の者でもない限り、戦う事を好む者はいない。
「でも・・・」
大和は言葉を繋ぐ。
「戦艦として生まれたからこそ、中尉と出会えた。長門さん達や武蔵とも出会えたんです。戦う事は嫌ですけど、この出会いは幸せ以外何ものでもありません。だから、私は後悔はしてません。戦艦として生まれた私は、戦う事が定め。でもそれは責務だけど、私自身の願いです。私は金剛さんみたいに日本という国をあまり知りません。愛国心なんて、ないかもしれません。でも・・・私は、中尉が愛する故郷の日本を、皆が愛した日本を守りたいです。これは自分の為だけではなくみんなの為。世界最大最強の戦艦として、私は日本を守る為に戦います。それが、一億の民が願う事ですから」
そう真剣に言う大和。
やっぱり彼女は強いなぁと、改めて感動してしまう。
「そっか・・・」
翔輝だそれだけ言うと、再びドッグを見る。世話しなく動く整備員達に、翔輝はそっと「がんだれ」とつぶやくと、防空指揮所を後にする。その後ろを慌てて大和が追って来る。
「中尉。待ってください」
追い掛けて来た大和に振り返ると、大和は笑顔で翔輝の横に並んだ。そんな愛らしい彼女に、翔輝は笑顔になる。
「僕の部屋でお茶でもしない?」
「あ、いいですね。ぜひ」
「わかった。じゃあ僕の部屋に行こう」
「はい」
翔輝の伸ばした手を、大和は嬉しそうに掴んだ。
手を繋ぎながら、翔輝と大和は通路の奥へと進んで行った。 |