艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(61/129)PDFで表示縦書き表示RDF


最上もがみ
 最上型重巡洋艦一番艦――重巡洋艦『最上』
 出身 呉海軍工廠(広島県)
 身長 160cm
 髪型 長髪に大きな白リボン
 実年齢(1943年5月現在)7歳
 外見年齢 16、7歳
 誕生日 7月28日
 好きなもの 姉妹・翔輝・仲間・妹達の髪を結んであげる事・きれいなリボン・平和な日々
 嫌いなもの 妹を殺してしまった自分・敵機・戦争
 家族構成 妹・三隈(戦死)・鈴谷・熊野
重巡洋艦『最上』の艦魂。最上型重巡洋艦は条約の制限を受けて艦体は重巡、装備は軽巡と条約失効後に改装できるような設計で軽巡洋艦として竣工し、条約失効後に主砲などを換装して重巡洋艦となった。重巡洋艦なのに軽巡洋艦の名前の付け方である川の名前が付いているのはこの為だ。新鋭重巡洋艦として艦隊決戦の準主力となるはずだったが、時代は航空機時代となってしまった。主に陸軍の上陸作戦を支援し、バタビア沖海戦では妹艦『三隈』と共に敵重巡洋艦、軽巡洋艦それぞれを酸素魚雷で撃沈するという大戦果を挙げるが、その際に放った魚雷で味方輸送船一隻を沈没させてしまうという失態を犯している。さらにミッドウェー海戦に参加するも、妹艦『三隈』と衝突して大破。損傷軽微だった『三隈』と駆逐艦二隻に護衛されて退避するも、敵機の攻撃を受けてさらに被弾。その際護衛をしていた『三隈』が沈没した。その後大破した『最上』は後部第四、第五主砲を撤去し、後部甲板を水上機運用甲板に改装し、十一機の水上偵察機を搭載した航空巡洋艦となった。そんな最上の艦魂は仕事熱心で誰にでも優しく人望も厚い指揮官。だが、妹の三隈を自分と衝突してしまった為に殺してしまったと悔やんでおり、三隈の死は自分のせいだと思い込んでいる。三隈の死を引きずっていて、どこか翔輝と似ている。自分の暗い想いを同じ苦境を経験していながら支えてくれた翔輝を心から尊敬している。艦魂年代史シリーズ数少ない巡洋艦キャラ。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第八章 第十七節 つかの間の休息の終わり


 翔輝の休み最終日。朝は瑠璃や珊瑚、瑪瑙達と一緒に会話に華を咲かしていたが、時間は経つのはとても早く、ついに翔輝の出発の時間になった。
「では、行きましょうか」
 瑠璃は少し寂しそうに言い、神鳴を呼ぶ。神鳴が現れて翔輝の荷物を車に載せる。
 翔輝がそっと振り返ると、珊瑚と瑪瑙が見送ってくれていた。彼女達はこれから実家に戻らなければならないのでここまでだ。
 瑪瑙はゆっくりと翔輝に近づくと、そっと彼の頭を撫でた。
「がんばって来い」
「うん。わかった」
 瑪瑙は静かに微笑んだ。その笑みに、翔輝も笑顔になる。
 これからまたみんなとはしばしの別れになる。もしかしたら永遠の別れにもなってしまうかもしれないと一瞬頭をそんな考えが過ぎったが、翔輝は否定した。
 必ず生きて帰って来る。そんな想いが彼の心にあった。
「珊瑚も、元気でな」
 翔輝は瑪瑙の横で先ほどからずっと黙っている珊瑚に声を掛けたが、珊瑚は「ふん」と鼻を鳴らして背中を向けてしまった。
「さ、珊瑚?」
「――言っとくけど、ちゃんと無事に戻って来なさいよね。これ命令」
 背中を向けたまま珊瑚は言った。その震える背中に、翔輝は一瞬どう言葉を掛けていいかわからなかったが、「約束だ」とそう返した。
「死んだりなんかしたら・・・許さないんだから・・・ッ!」
 震える声で言う珊瑚に、翔輝は「わかった。約束だ」と返す。
 本当は心配や不安でいっぱいなのに、まったくもって素直じゃない。
「じゃあ、行って来るね」
「がんばって来なさい」
「さっさと行きなさいよバカ」
 それぞれの見送りを受けて、翔輝は二人と別れた。
 小さな笑顔で手を振る瑪瑙と、つーんとした態度を崩さない珊瑚。いつも見慣れた別れの光景である。
 翔輝は二人に手を振ると、車に向かう。
 車の前では瑠璃が待っていてくれたが、翔輝が来ると無言で車に乗り込んでしまった。翔輝もそれに続いて乗る。その後に用意を整えた神鳴も運転席に乗り込む。
 翔輝と瑠璃も乗り込み、荷物を積みいれた神鳴も運転席に乗り込む。
「では、呉の軍港に向かいますね」
「はい。お願いしますわ――本当は嫌なんですけど」
「瑠璃・・・」
 寂しそうに言う瑠璃だが、心配する翔輝を見ると必死に笑顔を作り、
「なーんてね! 私は大丈夫ですわ! だから心配しないでください!」
 無理して笑っている瑠璃に、翔輝は何も言えなくなっていた。
「では、行きます」
 車が動き出し、呉の軍港を目指して進む。
 移動中、瑠璃は一切話そうとせず、翔輝も気まずい雰囲気の中沈黙を続ける。そんな空気に見かねた神鳴が話題を振るが、長続きしなかった。
 気まずい雰囲気のまま車は数十分走り続け、ついに到着した。
 潮の香りが漂う呉軍港。またここに戻って来たという嬉しさと、やっぱり戻って来てしまったという瑠璃に対する罪悪感を感じながら進む。
 神鳴が出してくれたアタッシュケースを受け取り、瑠璃を見詰める。瑠璃はうつむいていて翔輝と目を合わせようとしない。
「じゃあ、行くね」
 翔輝が笑顔で声掛けても、瑠璃は顔をうつむかせたままだ。
「翔輝様。お気をつけて」
 滝川はお辞儀をする。
「はい」
 翔輝はうつむいたままの瑠璃を一瞥するが、瑠璃は依然視線を合わせようとしない。そんな瑠璃にため息し、翔輝は歩き出す。その時、瑠璃は顔を上げた。
 だんだんと遠くなる愛しの人の背中を見詰める。これでまたしばらく会えなくなる。
 そんなの・・・そんなの・・・
「嫌ですわ・・・ッ!」
「お嬢様!?」
 気がついたら走り出していた。神鳴の制止を振り切り、着物が乱れるのも気にせず、ひたすら走った。
 急激に近くなっていく大切な人の背中、次の瞬間、
「翔輝様!」
 瑠璃は翔輝の背中に抱き付いた。
「る、瑠璃!?」
 驚いて振り返ると、力いっぱい自分の事を抱き締めている瑠璃がいた。その小さな身体は、小刻みに震えていた。
「翔輝様・・・やっぱり・・・行かないでください・・・ッ!」
 瑠璃は必死に懇願する。
 大切な人を、死地に送りたくない。誰しもが思う事を、必死に訴える。そんな瑠璃の頭を、翔輝は静かに撫でる。
「ごめんね。やっぱりそれはできない」
 寂しそうな笑みをする翔輝を見て、瑠璃は沈黙する。
 わかっているのだ。翔輝は人一倍優しい人だと。困っている人を見つけると、手を差し伸べずにはいられない、そんな人だと。例え、その相手が人でなくても・・・翔輝は手を差し伸べる。だからこそ、瑠璃はそんな彼が好きなのだ。
 沈黙する瑠璃を、翔輝はそっと抱き締める。温かい腕に包まれ、瑠璃は静かに目を閉じる。
「あいつらと一緒にいたいんだ。だから・・・」
「・・・わかっていますわ。だから・・・もういいです」
 瑠璃は翔輝の腕から離れ、彼の前で姿勢を正す。その顔は笑顔だった。
「翔輝様はお優しいお方。だからこそ、困っている人を助けたいんですね。それが人でなくても・・・そんなお優しいところが、私は大好きですわ」
 笑顔でそう言う。面と向かって言われると照れるのか、翔輝は少し顔を赤くする。
「それに、今回『大和』は整備の為に戻って来たそうですね。だとしたら、しばらくはこの呉にいるはず、私の権限をフルに使って、毎日通いますわ」
 瑠璃が純粋な笑顔でそう言うのに対し、翔輝は苦笑いしている。
 そんな事になったら、大和達との対立も激戦に・・・
 先の事を考え、果てしない徒労にため息する。が、それもいいのかもしれないと思う。例え両者が対立しても、自分ががんばればいいのだ。それだけで瑠璃と一緒にいられるのなら、それもまた良い方法なのかもしれない。
「明日から通いますわね。今日はあの方々に差し上げますわ。少しはハンデがないと、楽々私が勝ってしまいますものね」
 瑠璃の言葉に、翔輝は微笑んだ。なんやかんや言っても相手の事も考えている瑠璃は優しいのだ。
「そこで折り入ってお願いがあるのですが」
 瑠璃は急にかしこまって翔輝を見詰める。翔輝も何事かと瑠璃を見詰めていると、瑠璃は懐から一通の手紙を取り出し、それを渡した。その手紙を裏に返すと、宛先は大和、武蔵、陸奥、伊勢、榛名の五名だった。
「それを代表として大和様にお渡しください。大事なお手紙なので」
「わかったけど、これは何?」
「秘密ですわ」
 笑顔で言う瑠璃に、少し恐怖を感じた。
「さぁ、早く行ってください」
「あぁ、じゃあね」
 翔輝は手を振りながら歩く。瑠璃も手を精一杯振って見送る。お互いずっと手を振り続ける。そして、お互いが見えなくなると、そこで腕を下ろした。
 翔輝は前を向き、曲がっていた軍帽を被り直して、呉の軍港の中を駆け出した。

「中尉!」
 自室で荷物の整理をしていると、早速大和達がやって来た。
「ただいま」
「中尉!」
「うわッ!?」
 大和はすさまじい勢いで翔輝に跳び付いた。が、ほとんどタックルに近いような勢いだったので、翔輝はバランスを崩してその場に倒れてしまった。
「いってぇ・・・」
「あッ! ご、ごめんなさい!」
 大和は慌てて翔輝の上から退く。
 思いっ切り腰を床に叩き付けてしまったせいで骨盤にあってはならない痛みを感じつつ、翔輝はゆっくりと起き上がった。
「痛いなぁ。いきなり過ぎるよ・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
 申し訳なさそうに謝る大和の頭を翔輝は小さな笑顔を浮かべながら撫でる。その翔輝の行動に大和は驚く事なく受け入れる。
「なんか・・・こうやって頭を撫でてもらうの、久しぶりです」
「そうだったっけ?」
「はい」
「そっか。じゃあちゃんとやらないとな」
 その言葉に、大和は嬉しそうにうなずく。二人は幸せな空気に包まれた。
「どうでもいいけど、私達の事忘れてない?」
 入口で微笑んでいる長門がうかがうような声で聞いてきた。そのまわりには出遅れたせいで今にも噴火しそうな火山の如き陸奥と、少し不機嫌そうに沈黙している伊勢、相変わらず無表情の武蔵、純粋な笑顔をしている日向がいた。
 大和が気恥ずかしそうにしているのを一瞥し、陸奥はつまらなそうに翔輝を見詰める。
「中尉。たまには私にもしてください」
「そうどすよ。いつも大和はんばっかり、ずるいどすわ」
 陸奥と伊勢が不満げに翔輝を見詰めると、翔輝は少し困ったような顔をする。
「いや、でもさ、大和なら年齢(外見)的にもギリギリセーフだけど、お前達はちょっと・・・」
 陸奥と伊勢、互いに四歳ほどの違いがあるが、艦魂は成長が遅いので二人とも外見は翔輝と同じぐらいの年齢に見える。実際はどちらも二〇歳前半だが。
「むぅ」
 翔輝の至極的を射た理由に陸奥は言葉に詰まる。が、
「いいじゃん別に。気にしない気にしない」
 日向は無邪気な笑顔を向けてくる。彼女は伊勢の妹だから陸奥よりは年上なのに、どう見ても陸奥より年下に見える。これが艦魂の不思議なところの一つだ。
「世の中あんたのみたいな人ばっかりやないの」
「そっかな?」
「そうなの」
「でも、《きせーじじつ》を作っちゃえば問題ないんじゃない?」
「なッ!?」
 日向のとんでも爆弾発言に伊勢は顔を真っ赤にして驚愕する。
 ものすごいボケキャラだが、その方向には全くの無縁だった日向がいきなりすさまじい発言をしたのだ。これは誰でも驚く。
「日向あんた! そないな卑猥な言葉どこで覚えたんや!?」
 姉のすさまじい激昂ぶりに笑顔を振り撒いていた日向は驚く。
「え? 私何かおかしな事言った?」
「はぁッ!? あんた何言ってんの!? 今さっき《既成事実》って言ったやろ!?」
「え? 変・・・なのかな?」
「当たり前やろッ!」
 伊勢の激しい攻撃に、日向はだんだんと涙目になる。
「だ、だって長門がその言葉はカップルになる過程に使う言葉だって――」
「えッ!?」
 日向の言葉に伊勢は急いで振り返って長門を見ると、長門はいつものように意味ありげな笑顔を向けている。その笑みを見て伊勢はため息する。
「長門はん・・・お願いやから日向に余計な知識を入れんといてくだはい」
「えー、楽しいのにー」
「のにー」
「「ねー」」
 長門と日向が楽しそうに笑顔を送り合う。いつの間にか日向は長門に染まっていた。そんな実の妹を見て、伊勢はため息するしかできなかった。
「これ以上日向がやっかいになったら、もううちは止められんよ」
「まあまあ、乱暴者になるよりはマシでしょ」
「まぁ、それはそうやけど・・・誰の例えどすかそれ?」
「わからない? いつもうるさくて口の悪い奴」
「あぁ、榛名はんどすか」
 翔輝の言葉に「確かに、あないな妹ならもううちは姉をボイコットしてはりますね」と伊勢も納得。翔輝も笑顔で続ける。
「だろ? 僕だってあんなのが妹だったら人生やめてるよ」
「あのなぁ・・・ッ! さっきから聞いてれば好き勝手言いやがって・・・ッ! 死ぬ覚悟はできてんだろうな・・・ッ!」
「げッ! 榛名・・・ッ!」
 そこにはすさまじく激昂していて今にも飛び掛って来そうな勢いの鬼神、榛名がいた。
 突然の榛名の登場に翔輝はかなり焦りまくる。
「あ・・・、や、やぁ、今さっき戻って来ました」
 必死に平和的な雰囲気を作るが、榛名の今にも抜刀しそうな勢いは消えていない。むしろ全速力で悪化している。
「その平和的に解決しようと考えていそうな笑顔がムカつく」
「そ、そんな・・・」
「は、榛名はん。ここは穏便に」
「殺すぞ伊勢」
「こ、こわ・・・」
 もはや伊勢にも怒りの炎が吹き荒れそうな雰囲気を何とかしようと翔輝は慌てる。
「え、えっと、その――って、あれ?」
 翔輝は懐の中から一通の便箋を取り出した。それはさっき瑠璃が大和達に渡してほしいと頼まれた手紙だった。今は、この手紙に全てを賭けるしかない。お願いします瑠璃エンジェル!
「あ、あのこれ、大和達にって、瑠璃が・・・」
「え? 手紙・・・ですか?」
 翔輝に手紙を渡された大和は不思議そうに首を傾げるとその裏を見る。
「えっと、私の他に武蔵、陸奥さん、伊勢さん、榛名さんに宛てたものですね」
「・・・私?」
「私と伊勢も?」
「何やろ?」
「おいコラ。何で俺にもあんだよ」
「ともかく開けてみたら?」
「あ、はい」
 長門の意見にうなずき、大和は便箋を開き、三つ折にしてある手紙を取り出し、がさがさと手紙を開く。
「どれどれ?」
 大和達はその手紙を覗き込む。そして、
 しばしの沈黙が流れた。
 いきなりの展開に誰もが我が目を疑う。その真っ白な純白の用紙に美しく整った達筆の文字が輝いていたのだが、その意味がよくわからない。
「あらあらー」
 長門のマヌケな声が響いた。
 そして、その場にいる者全てがが注目しているその手紙には、

 ――宣戦布告――

 とだけ、筆で書かれていた(達筆)。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 その美しく整った文字から、彼女の本気が見て取れた。そういえば、瑠璃は書道三段の腕前を持っていたなぁ、と今さらながら思い出す翔輝。
 深い沈黙の中、最初に先陣を切ったのは、
「・・・相手にとって不足はない」
 武蔵だった。
 武蔵はいつもと変わらない無表情だったが、その瞳にはなぜか燃え盛る炎があった。
「そ、そうだよ。例え瑠璃さんが相手でも、負けませんから!」
「私だって負けません!」
「うちも負けんよ!」
「て、ていうか、何で俺まで・・・」
 それぞれ色々な反応をする大和達。その傍らでは、
「うーん、これはさらに複雑になってきたわね」
「ねー。個人的にはお姉ちゃんを応援してるんだけど、瑠璃ちゃんの参戦でまったく先が読めなくなったから」
 長門と日向がこの戦いの行く末を考えて苦笑いし合っていた。
「何だかなぁ・・・」
 翔輝は当事者のはずなのにすっかり皆に置いて行かれていた。
 何事か意気込む大和達を見詰め、翔輝は小さく笑みを浮かべた。
 なんか、本当に戻って来たんだなぁ、と思った。
 いつも暮らしてきたこの光景、何もかもが全て懐かしい。たった三日ほど離れていただけなのに、こんなにも懐かしくなるなんて、翔輝は自分の中の感情に困惑しながらも笑顔になった。
「ははは、相変わらずだな」
「・・・まったく進歩がない」
「うおッ!? お前も相変わらず神出鬼没だな」
 いつの間にか横にいた武蔵はそっと翔輝の服の裾を掴んだ。
「・・・翔輝、戻って来たんだ」
「何を今さら。戻って来たからここにいるんだろ?」
 何を当然の事を言うのだろうかと翔輝は首を傾げるが、武蔵は小さく首を横に振った。
「・・・もしかしたら、翔輝がもう戻って来ないんじゃないかって、心配した」
 それは瑠璃の強硬手段に翔輝が負けるのではないかと不安になっていた事だ。
「あはは、そっか。ごめんね心配させちゃって」
 翔輝はそんな武蔵に笑みを送るが、武蔵は相変わらず無表情を貫いている。だが、
「・・・でも、本当に良かった。翔輝が戻って来てくれて、私は嬉しい」
 武蔵は純粋な瞳を翔輝に向けた。何も邪念がないその瞳はどこまでも澄んでいてきれいに輝いている。そんな瞳に見詰められ、翔輝は小さく笑顔になる。
「そっか、かわいい事言ってくれるじゃん」
「・・・私はかわいい」
「ははは、うん。かわいいかわいい」
「・・・バカにした?」
「ううん。そんな事ないよ」
 翔輝の屈託のない笑みに、武蔵は「・・・そう」とだけ返すと、そっと翔輝にもたれ掛かった。
「武蔵?」
「・・・翔輝、好き」
 武蔵はそう言って翔輝に抱き付いた。が、
「あぁッ! 武蔵何やってるのよ!」
 早速大和に発見された。彼女の索敵網には穴がまったくない。
「ずるいわよ武蔵ちゃん! 自分だけいい思いしてッ!」
「そうやでッ! それにさっき「かわいいかわいい」って翔輝はんが言ってたでッ!」
「ほ、本当ですかッ!? 中尉ッ! どういう事ですか!?」
「テメェッ! 死ぬ覚悟はできてんだろうなッ!?」
 一瞬にして大和、陸奥、伊勢、榛名に取り囲まれた二人。翔輝は苦笑いするだけだが、武蔵はしっかりと拳銃にグリップを握っている。
「撃ったらダメだからね」
 一応翔輝は釘を刺す。と、
「・・・他に手がない」
「それでもダメ」
「・・・わかった。翔輝がそこまで言うなら、最後の切り札を使う」
「え?」
「コラァッ! 何二人で仲良さげに話しているんですかッ!?」
 大和が憤慨すると、武蔵は突然翔輝の手をしっかりと掴んだ。
「え? 何?」
「・・・離脱」
「え? ちょ、ちょっとッ!」
 翔輝はいきなり走り出した武蔵にほとんど引きずられる形で部屋を出て行ってしまった。
「こ、コラ武蔵ッ! 逃げるなッ!」
「中尉を返しなさい!」
「長谷川はんを返してぇなッ!」
「待てやゴラアアアァァァッ!」
 四人は逃走した二人を追いかけてこれまた勢い良く部屋を出て行ってしまった。
 残されたのは長門と日向。
 お互い顔を見合すと、どちらからともなく笑みが零れた。
「まったく、あの子達はおもしろいわね」
「ほんとにねぇ」
 長門と日向はいつまでも笑みを浮かべ続けた。







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