第八章 第十六節 それぞれの輝く月夜
翔輝のいない最後の日の夜、大和達は何もする事がなくてつまらなそうにしていた。
結局、長門の計らいで『長門』の会議室に主要な艦魂が集まる事になった。
「はぁ・・・」
本日二七回目のため息をつく大和。
「コラコラ。そんなにため息してると幸せが逃げちゃうわよ」
長門が心配そうに言うが、大和は溶けたソフトクリームのようにぐてーっとしていた。
「別にいいですよ。これ以上幸せがなくなる事ありませんから」
「そ、そんな事ないと思うけど・・・」
長門はすっかり元気をなくした大和を見て、小さくため息した。
今ここには大和と長門、陸奥、伊勢だけである。そのうち大和、陸奥の二人は同じような状態。長門がそれを看病(?)しているといった具合だ。ちなみに武蔵は集合を拒否し、日向は「今日は昨日のお詫びに空水ちゃんとハグして来る!」と言って断った。伊‐二五こと空水の安否が気がかりだ。
「明日ですよね? 中尉が帰って来るのって」
「そうだけど」
その言葉を聞いて、大和は再びぐてーっとなる。一応女の子なんだからもう少し女の子らしくしてほしい。
「あー、一日が長く感じるー」
陸奥も脱力している。頬杖をついて通信書に落書きを書いている。常の彼女とは思えないダメっぷりだ。
一方、伊勢は結構しっかりしている。先程からずっと陸軍の戦果報告書を読んでいる。
会話がほとんどなく、長門が解散しようとした時、
「失礼します」
ドアが開かれ、部屋の中に下士官の服を着た長髪に大きな白リボンをした少女が入って来た。
彼女の名は最上。重巡洋艦『最上』の艦魂だ。彼女はミッドウェー海戦の時に妹艦の『三隈』と衝突した艦だ。『三隈』はその後撤退中に敵機の空爆を受けて沈没した。『最上』も艦首を失い、その後ずっと佐世保の海軍工廠で修理と大改造が行われていた。その大改造とは、前代未聞の航空巡洋艦への転換だ。後部主砲を全部撤去し、艦体後部に水上機射出機を装備する事によって、水上機母艦の半分にも及ぶ十一機の水上機を搭載できるようになり、これにより『最上』は単艦ですさまじい策的範囲を得た。
そんな最上は今現在忙しくなってしまった利根の後継として総務部の副部長をやっている。
「あの・・・あれ? 武蔵長官はどこに?」
「武蔵ならここにはいないわよ」
長門の返答に最上は「そうですか」とつぶやくと、少し困ったような表情を浮かべる。が、そこに見知った顔を見つけて表情を明るくする。
「部長じゃないですか」
そう言って近寄ったのは伊勢。彼女は最上と同じ総務部の、しかも部長である。
「最上はんやないの。こないな所にどうしたんどすか?」
「武蔵司令に例の書類を渡そうと思って来たのですが」
「そっかぁ、あの書類をねぇ。うん、わかった。うちが直接武蔵に渡しとくで」
「え? しかし・・・」
「ええから。困った時はお互い様やろ?」
そう言って伊勢は優しく微笑んだ。
この優しくておっとりとした雰囲気が、彼女の人徳高い理由なのだろう。
「では、お言葉に甘えて、武蔵長官に渡しておいてください」
「うん、ええよ」
最上はほっとした様子で伊勢に資料を渡す。伊勢はそれを見て「はい。ほな確かに受け取ったよ」と優しく答える。
「では、私はこれで・・・」
最上は敬礼して部屋を出て行こうとした。が、
「あ・・・ッ!」
最上のポケットから何かが落ちた。最上は急いで拾うが、それはどうやら写真ケースのようだった。
「ねぇ、それは何ですか?」
大和が質問すると最上は大和の顔とケースを見比べ少し躊躇したが、踵を返して大和を向いてそれを見せてくれた。
それはやはり写真ケースだった。その写真ケースには四人の女の子が笑顔で写っている写真が大切そうに納められていた。そのうちの一人は最上だ。
「これは?」
「私の家族――私とその妹達です」
長門達もその写真を見詰める。
満面の笑みを浮かべた最上が三人の妹を抱きかかえるような形で写っている。姉妹の仲が良い事が見て取れる。
「これは戦前のものです。まだ戦争が起きていない、平和な時に撮った」
最上はすごく懐かしそうに言う。平和だった戦前を思い出しているのだろう。
見れば、長門達も同じような顔をしていた。戦前を、平和な時代を知らない大和は少しうらやましかった。
「戦前は、平和だったんですね」
「はい。とてものどかでした」
最上の幸せそうな表情を見る限り、本当に平和で幸せだったのだろう。
「そっかぁ、私も武蔵と一緒に姉妹記念の写真を撮ろっかな」
「いや、それは無理やって」
伊勢のツッコミに「それもそうですね」と小さく笑う。
「あの武蔵長官と一緒に写真を撮るのはかなり困難ですよ」
笑いながら言う最上。その笑みはとても優しいものだった。だが、
「ねぇ、あなた少し疲れてない?」
長門の言葉で気づいたが、最上は少しやつれていた。それに対し最上は苦笑いをする。
「私はずっとドックの中にいましたからね。ずっと休みだったので、復帰した今はがんばらないといけません――三隈の為にも」
その言葉と同時に、最上は悔しそうに唇を噛んだ。その辛そうな最上の表情を見て、大和は沈黙する。
彼女は三隈の死を自分のせいにしている。それは当然かもしれない。もし彼女と三隈が衝突しなければ、退避する事もなく、敵機の空襲を受けずに済み、彼女の妹の三隈も死ななかったかもしれないのだ。そんな風に思ってしまうのは仕方がない。でも、
「あの、最上さん。あまり自分を責めないでくださいね」
大和は最上を励まそうと思ってそう言った。が、
「そのお気持ちはありがたいですが、私の責任に変わりはありません。三隈は私が殺したも同然。それは変えられない事実ですから」
大和の励ましは、最上の前でぴしゃりと一蹴された。
「で、でも・・・」
「大和長官。失礼ですが、この件に関しては誰の意見も聞き入れません。三隈の死は私の責任。これはもう私の中で決定事項ですので」
最上はそう言い放つと会釈して踵を返す。
最上のその自虐的な言葉を無視できるほど、大和は薄情ではない。
「そんな事ないです! 三隈さんだって最上さんが自分の事で苦しむのは望んでいません! だから――」
「いい加減な事言わないでッ!」
最上の悲鳴が響き、大和はビクリと震える。
最上は涙を浮かべ、顔を真っ赤にして激昂していた。先程までの静かな雰囲気と違い、そのあまりの豹変ぶりに大和や他の者も言葉を失う。
最上は上官である大和をすさまじい目線で睨み付ける。その瞳には殺気に近いものまでもが含まれていた。
「三隈が死んだのは私のせいなの! それ以上でもそれ以下でもない! 何も知らないくせに、適当な事言わないで!」
ほとんど泣きながら激昂する最上に、大和は自分が出過ぎた事言ったと理解し、「ご、ごめんさない」と謝った。
最上は大和をキッと睨み付けると、そのままドアを勢い良く開けて走って出て行ってしまった。
残された大和は落ち込んでいた。
「ま、まぁ、そのうち何とかなるわよ。うん。きっと!」
長門がなんとか明るい声を出して励ますそうとするが、大和は呆然としていて、彼女の耳には何も聞こえていなかった。陸奥と伊勢も呆然としていて言葉を失っている。
翔輝のいない悲しみを何とかしようと長門が集めたが、結果は散々なものになってしまった・・・
結局、あのままお開きとなってしまい、大和は自室こと翔輝の部屋に戻った。
ドアを開けても電気は点いておらず、いつもは笑顔で迎えてくれる彼もいない。
大和は小さくため息をすると、そっと電気を点けた。
「・・・まぶしい」
「ひゃぁッ!?」
突然そんな声が響いたのに驚いてその声のした方を見てみると、そこには、
「・・・人がせっかく寝てるのに、邪魔しないで」
「む、武蔵?」
そこにいたのは紛れもなく自分の、かわいげのない妹の武蔵だった。
大和は突然の事にしばし混乱していたが、すぐに気を取り直す。
「な、何であなたがここにいるのよ」
大和は少し不機嫌気味に言った。なぜなら、武蔵は翔輝のベッドで横になっていたからだ。
そんな不機嫌な姉の問いに対し、万年無表情の武蔵は、
「・・・翔輝がいなくて寂しいから」
そう簡単に返した。だが、その言葉に、大和の心の中に何か熱いものが流れた。
驚愕と歓喜の表情を浮かべて大和は武蔵を見る。
「も、もしかして、寂しくてお姉ちゃんに会いに来たんじゃ――」
「・・・違う」
大和の想いは見事に一蹴され、儚く散った。
がっくりとその場にうな垂れる姉を無視して、ベッドの毛布の中に潜り込む。
「・・・翔輝の匂いがする」
「え?」
武蔵の突然の言葉に、大和は顔を上げた。
「・・・翔輝の匂いがする」
二回目でようやく彼女が言っている意味がわかった。大和はふらふらと立ち上がると、そんな感じで翔輝のベッドに近づき、そっと匂いを嗅ぐ。
「・・・ほんとだぁ、中尉の匂いだぁ」
いつもあるのその匂いに、大和はいつに間にか満面の笑みを浮かべていた。
彼がいない事は変わらないけど、彼の匂いはここにある。そう思うだけで、自然と心が軽くなった。
「・・・翔輝の心は、いつも一緒」
「そうね、そうよね」
その瞬間、大和と武蔵の瞳が重なった。
この瞬間ほど、自分達が姉妹だと思った事はなかった。
しばし見詰め合う二人だったが、どちらからともなく笑みがこぼれた。
「中尉は明日帰って来るのよね」
「・・・そう。だから、明日は今日までの分を取り返すくらいに甘える」
「そ、それは私だって」
むぅと睨み合うが、すぐさま笑みがこぼれてしまう。
なぜか、今は武蔵とこうしているだけで幸せな気分になってしまう。それは武蔵も同じ事だった。
「ねぇ、今日は中尉のベッドで二人で寝ようか」
大和の突然の提案に武蔵は瞳を見開いて驚いたが、姉の純粋な笑みを見詰め、静かに首を縦に振った。
「・・・わかった。一緒に、寝る」
「そうこなくっちゃ!」
大和はそう嬉しそうに言うと、いきなり武蔵に抱き付いてそのままベッドに倒れた。
「・・・ね、姉さん?」
困惑する武蔵に、大和はすごく嬉しそうな笑みを浮かべる。
「そういえば、こうして姉妹二人だけで寝るのって初めてよね」
「・・・そうだけど」
「えへへ、何か楽しくなっちゃうね」
「・・・別に」
「あぁッ! そんな事言って! 見てなさい! すっごく楽しくしてあげるんだから! えいッ!」
そう叫ぶと、大和は再び武蔵に抱き付いた。
突然の姉の全力抱擁に武蔵はあたふたとする。いつも冷静な彼女らしからぬうろたえぶりだ。
「・・・ね、姉さん。離してッ」
「嫌よ。今日は姉妹水入らずなんだから」
「・・・だからって、これはやり過ぎ」
「いいの。これくらいしないと今までの分が取り返せないじゃない・・・あぁ、なんていい香り。これが武蔵の匂いなのねぇ」
「・・・だ、ダメ・・・そんな所触らないで・・・」
「えへへ、恥ずかしがる武蔵もかわいいなぁ。もっとその顔を見せてよ」
「・・・ま、待って! ダメだったら・・・ッ! だから抱き付かないでぇ・・・ッ!」
いつになくしつこい大和に武蔵は必死になってベッドから脱出を試みる。だが、毛布から上半身をやっと出した所で、再び毛布を上から被らされてやり直し。
身体中をぺたぺたと触って来る姉から何とか逃げ出そうとするが、今日の大和は一味違う。武蔵の的確な反撃をこれまた的確に防御と回避して再び攻撃してくる。
「・・・姉さん!」
「あぁん、私のかわいい武蔵ぃ♪」
ついに音符記号まで出てしまった。武蔵はその瞬間顔を真っ青にした。
「・・・姉さん! 離してぇ!」
その時、ふと大和の顔が近づいた瞬間、何か異様な匂いに気がついた。これは・・・
「・・・お酒?」
それは紛れもなくアルコールの匂いだった。
「・・・姉さん。お酒、飲んだ?」
「え? 別に飲んでないけど」
「・・・じゃあ、何か飲んだ?」
「うーんとね・・・そんな事どうでもいいじゃない」
「・・・ダメ」
「むぅ、わかったわよ。えーっとね、確か長門さんにきれいな色をしたジュースをもらったから、それを何杯か飲んだよ」
この瞬間、武蔵は心の中で「・・・あの万年小春日和がぁッ!」と怒りに叫んだ。
大和のこの異常なまでの武蔵に対する想いは、全部アルコールの回り過ぎによる酔っ払い行為だったのだ。それを知って、武蔵はほっと胸を撫で下ろした。心の中ではもしや姉が壊れて同性愛者になってしまったのかと疑っていた。だってそれだけ危険な目で襲い掛かるのだから。
でもどうやらそれも全部お酒のせいらしい。安心した。
「えへへ、素直に答えたからお姉ちゃんといい事しようか」
その瞬間、再び武蔵の顔に戦慄が走った。
そうだ。まだ原因が解明されただけで現状は変わっていない。
大和は再び武蔵に抱きつく。
「あぁん、武蔵大好き――ごぶッ!」
「・・・悪く思わないで。私の初めては、翔輝のもの」
武蔵はそう言うと、見事に姉の首に炸裂した手刀を引き抜いた。
大和はまるで糸の切れた人形のようにピクリとも動かずベッドに横になった。
「・・・ふぅ」
武蔵は小さくため息すると、時計を見る。もう寝る時間だった。
そっと隣で気絶している姉を見詰め、小さくため息。
「・・・仕方がない」
そうつぶやくと、電気を消してそっと姉の横に横になると、姉と一緒に毛布を被った。
武蔵は隣で眠る姉に小さく「・・・おやすみ」とつぶやくように言うと、姉の隣で横になった。
初めて姉と寝る感触は、どこか翔輝と寝る時と似ていた。
武蔵はそっと大和の腕を取ると、その腕に抱き付いた。
そして、静かに瞳を閉じた・・・
その頃、翔輝も布団の中にいた。
隣には瑠璃が気持ち良さそうに眠っている。
珊瑚と瑪瑙は隣の部屋で眠っている。
寝る間際まで瑠璃と珊瑚は瑠璃が翔輝の隣で眠る事で大ゲンカしていたが、結局瑪瑙の仲裁で事なきを得た。
すやすやと眠る瑠璃を見詰め、翔輝は小さく笑みを浮かべると、そっと立ち上がった。
何の為に立ち上がったかと言うと、夕食に瑠璃がお酌(未成年なので当然ジュース)をしまくるので断りきれずに結構飲んでしまった・・・ここまで言えば目的はただひとつ。
「トイレはっと・・・」
翔輝は無駄に広い屋敷の中ですぐに目的地を見つけた。何やかんやで長い付き合いなのだ。
翔輝はさっさと用事を済ませると長い縁側を歩いて部屋に戻る。と、その途中中庭に人影を見つけた。
「あ、あれは・・・」
翔輝は近くにあった下駄を履いてその人影に駆け寄る。
「瑪瑙姉さん?」
「うん? 何だ、翔輝か。どうしたのよこんな時間に」
そこにいたのは瑪瑙だった。昼間のような着物ではなく白い寝巻き姿だが、その腰にはしっかりと刀が挿されている。
「トイレだよ。姉さんは?」
翔輝の問いに、瑪瑙は静かに満月を見上げる。
「いや、月がきれいだったから、こうして見上げていたんだ」
「――確かに、きれいだね」
翔輝もそっと顔を上げて月を見上げる。
キラキラと輝く星空や月の光に照らされながら、二人は星空を見上げる。
しばし無言で見上げていたが、
「なぁ、翔輝」
瑪瑙は翔輝を向かずにそうそっと声を掛けた。
「何?」
「どうだ? 海軍は」
瑪瑙はそこで翔輝を見詰めた。その瞳には少し不安の色が煌いていた。
彼女は、翔輝が海軍に入る事を反対した一人だ。だからこそ、翔輝が今どんな生活をしているのか気になるのだ。
翔輝は瑪瑙に不安を掛けたくなかった。
「大丈夫だよ。戦艦の乗組員のおかげであんまり戦地には行ってないから」
「実戦は?」
「まだないよ」
「・・・そうか」
それを聞いて、瑪瑙は肩を撫で下ろした。翔輝の言葉に安心したのだろう。
「なら、まだ怖い思いはしていないのだな」
「うーん、一度二度ほど敵潜水艦に襲われて、そのうちの一回は被弾したけど・・・」
「だ、大丈夫だったのか?」
「うん。僕の乗っている戦艦は不沈艦だから」
翔輝は『大和』の名を明かさなかった。一応軍機なので家族にだって明かせないのだ。まあ、瑠璃の時は彼女の恐るべき諜報力に軍機もクソもなかったが。
翔輝の嬉しそうな言い方に、瑪瑙は静かに微笑んだ。
「『長門』に乗っているのか?」
当時は戦艦と言えば長門型戦艦の『長門』と『陸奥』だ。『大和』や『武蔵』は軍機なので国民には知られていない。
「え? あ、うん、まぁ・・・」
翔輝はうそが苦手だ。だが、翔輝は軍人。軍機を話す訳にはいかないので無理してうそをついた。が、
「今、翔輝はうそをついたな」
「うぐっ・・・」
こちらも長年の付き合いなので、すぐにうそはバレてしまった。
「あ、いや、そのぉ・・・」
うろたえる翔輝を見詰め、瑪瑙は静かに微笑んだ。
「軍の機密なんでしょ? なら、何も言わなくていい」
瑪瑙はちゃんとわかっていた。翔輝が言えない理由を。
翔輝は瑪瑙の優しさにそっと感謝した。
彼女はいつも無表情だが、その心は誰よりも優しい。
自分の事を誰よりも思ってくれているのに、そんな彼女に応えてあげる事ができない。
何か、申し訳なくてたまらなかった。
「姉さん、ごめんね」
「何で翔輝が謝るの? 翔輝は何も悪くない。だから、謝らなくていい」
「ありがとう、姉さん」
「お礼を言われるような事じゃないわ」
瑪瑙はそう言うと再び月を見上げた。そんな彼女の横顔を見詰め、翔輝はそっと笑みを浮かべた。
昔から頼れる姉は、いつも自分を救ってくれた。
翔香の死の時も、彼女が優しく自分を支えてくれた。
昔から見てきた姉の顔は、やっぱり年を重ねてより美しくなっていた。
翔輝はそんな姉を見た後、再び空を見上げた。と、その時、
「・・・翔輝・・・様ぁ・・・?」
その小さな声に振り返ると、縁側に寝巻き姿で目を擦って立っている瑠璃がいた。
「瑠璃? どうしたの?」
「・・・翔輝様が・・・いなかったから・・・捜しに・・・」
どうやらふと起きたら翔輝がいなかったので捜しに来たようだ。
翔輝が「ごめんごめん」と苦笑いすると、瑠璃は少し怒ったような顔をする。
「笑い事じゃないですわ・・・さあ、早く寝ましょう」
「う、うん」
翔輝が「姉さんは?」と問うと、瑪瑙は「もう少しここにいる。あなたは早く瑠璃の所に行ってあげなさい」と返した。
「うん。じゃあ、姉さんおやすみ」
「あぁ、おやすみ」
翔輝は瑪瑙とのあいさつを済ませると、瑠璃の下へ駆け寄った。
二人の背中が屋敷の奥へ消えるまで見守っていた瑪瑙は、再び静かに月を見上げると、小さく笑みを浮かべた。
その笑顔はどこまでも澄み切っていて、とても美しく優しいものだった・・・ |