艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(59/132)PDFで表示縦書き表示RDF


今回は刹那、剣に続く新キャラが登場します。
改定版から新たに登場するもう一人の翔輝の幼なじみと、翔輝が姉のように慕う女性。
翔輝のまた新しいページが開かれます。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第八章 第十五節 霞家三大輝石


 翌朝、元気いっぱいの瑠璃に対し睡眠不足の翔輝はかなり眠そうだった。
「翔輝様! 早く早く!」
「うん・・・」
 今二人は呉の商店街にいた。ここは呉市民の生活の中心で、色々な物を売っているお店が軒並みになっている。そんな商店街を二人は歩いていた。
「これは瑠璃様。こんにちは」
 八百屋の若い女性が瑠璃に声を掛けて来た。それに呼応して周りの者も瑠璃の周りに集まって来た。
 地域密着している霞家は呉市に資金を提供し、呉市の財政を潤している。おかげで商店街も発展しているので、霞家の令嬢である瑠璃は呉市民の人気者。呉の中ではお姫様のようなものだ。
「瑠璃さん!」
「瑠璃お姉さん!」
 あっという間に瑠璃は大勢の人達に囲まれ、商店街は大騒ぎになった。
 一方、翔輝はそんな輪から完全に離れてしまっていた。
「相変わらず人気があるんだな、あいつは」
 翔輝は皆に囲まれる瑠璃を見詰め苦笑いした。
「ちょ、ちょっと皆様! い、今は離れてください! しょ、翔輝様!?」
 人々の波の中、瑠璃は翔輝に助けを求めるが、翔輝は無視した。
「がんばれー」
 日の丸の旗を振ってやると、瑠璃は驚愕し、一気に人々の波の中に溺れた。そんな瑠璃を笑いながら見ていると、
「あ、翔輝お兄ちゃん!」
 足に小さな女の子が抱き付いて来た。三つ編みが特徴のかわいい女の子だ。
「お、何だ加奈子かなこか」
 そこにいたのはこの近くの時計屋の娘の加奈子だった。人懐っこくてとてもかわいい女の子で、よく遊んでくれていた翔輝にすっかり懐いているのだ。
「翔輝お兄ちゃんいつ戻ってたの!?」
「うん? 昨日だよ」
「そうなんだ。お帰り!」
「ただいま」
 笑顔で言うと、加奈子も嬉しそうにさらに強く抱き付く。すると、何かを思い付いたのか、バッと顔をもたげた。
「ねぇッ! 一緒に遊ぼッ!」
「え? でも・・・」
 人の波に溺れている瑠璃を見詰め、翔輝は困ったように頬を掻く。
「ねえってば! みんなも一緒だよ!」
「え?」
 その言葉に振り返ると、そこには数名の子供がいた。海軍に入る前まではよく一緒に遊んだこの近くの子供達だ。
「翔輝お兄ちゃん! 一緒に遊ぼ!」
「お兄ちゃん! 遊ぼ!」
「遊ぼうよ! 翔輝お兄ちゃん!」
 あっという間に翔輝も子供達に囲まれてしまった。体中にくっ付いて来る子供に翔輝は慌てる。
「ちょ、ちょっとみんなッ! 抱き付かないでよ!」
 ふらふらと転びそうになるが、すぐに立て直す。
「ねぇ翔輝お兄ちゃん! 早く一緒に遊ぼッ!」
 加奈子はぐいぐいと翔輝を引っ張る。
「ちょッ! ちょっと待って!」
「お待ちください!」
 そこへようやく人々の波から解放された瑠璃が戻って来た。瑠璃の服はちょっと乱れているが、彼女は気にしていないらしい。
「翔輝様は私と一緒にいたんですのよ! 勝手に連れて行かないでほしいですわ!」
 結構本気で怒っているようだ。自分の年より半分くらいしかなさそうな子供に本気で怒るのはどうかと思うが。
「さぁッ! 翔輝様を返してください!」
「なら瑠璃お姉ちゃんも遊ぼッ!」
「え?」
 加奈子の言葉に他の子供達も「そうだよ!」「一緒に遊ぼうよ!」と賛同。驚くのは瑠璃の方だ。
「え? 私は、その・・・」
「ほらッ! 早く行こうよ!」
 子供達に手を引かれて、瑠璃は「お、お待ちくださいませ! まだ心の準備が――」と言いながら連れて行かれた。そんな瑠璃を見て、翔輝は苦笑いしていた。
「ほら、翔輝お兄ちゃんも!」
「はいはい」
 加奈子に手を引かれ、翔輝は瑠璃の後を追った。

「つ、疲れましたわぁ・・・」
「ははは、お疲れ」
 お昼には皆も昼食を取る為に家に帰っていまい、ようやく二人は解放されて霞家に戻る事ができた。
 軍人なので体力には自信のある翔輝とは違い、インドア派の瑠璃の体力はすぐになくなってしまい、後半はほとんど傍観者になっていた。
 そして今もくたくたになった身体を畳の上に投げ出して横になっている。本当は貴族として床にそのまま横になるというのはあまりいい事ではないのだが、どうやら今回はそれすらもできないほど疲れているらしい。
「も、もう一歩も動けませんわ・・・」
「少しは運動したらどうだ?」
 翔輝が笑いながら言うと、瑠璃は首を横に振った。
「貴族である私は運動なんてしなくても良いのです。私が何もしなくてもまわりが全てやってくれますし。それに――」
 瑠璃は少しふてくされた顔で翔輝を見詰める。
「動いたら負けかなって思ってますし」
「うわぁ、ニートの発言だ」
「ち、違いますわッ! あんな社会のゴミクズ達と一緒にしないでほしいですわッ!」
「おいッ! 日本中から集中砲火をされそうな発言はやめろッ!」
「事実ですわ。あんな方々がいるから日本は先進国なのに欧米に負けるんですわ。天下りとか消えた年金とかドラックラグとか」
「それは完全に役人の問題だよねッ!? ニートとか関係ないし!」
「そんなの主観の相違ですわ。ニートのせいで日本はおかしくなるのですわ」
「だぁからッ! ツッコミづらい発言はやめろってッ!」
「『僕らが不幸なのは社会のせいだ』なんて妄言を言う人間なんて、生きている価値なんてありませんわ」
「だぁからッ! やめろってばッ! あの人達だって、仕事がしたくても仕事がないって人達だっているんだ!」
「確かに、そういった方々もいますわ。ですが、自ら働く事を諦めた人間のクズみたいな方々もいるのも事実。ほんと、日本も落ちる所まで落ちてしまったんですわね」
 わざとらしく大きなため息をする瑠璃。翔輝もため息して頭を抱える。
「つーか、完全にこの時代から脱線してるよね。頼むから、脱線はやめよう」
「そうですわね。この時代を必死に生きるのもバカバカしくなりますわね」
 瑠璃の激しい毒舌に、翔輝は身も心もボロボロになっていた。この子はあまりにも危険すぎる。
「さて、これから何をしましょうか?」
 毒舌を見事炸裂させて元気を取り戻したのか、瑠璃は笑顔でそう問うた。
「・・・別に何でも」
 一方、逆に翔輝はくたくたになっている。先程とは立場が完全に逆転してしまっている。
「そんなつれない態度をしないでほしいですわ」
「誰がこうしたと思ってるんだよぉ」
 翔輝はため息するとゆっくりと立ち上がる。
「どちらへ?」
「うん? 暇だからちょっと散歩でもしようかと」
「お散歩ですの? でしたら私もご一緒に」
「え? でもお前疲れたんだろ?」
「翔輝様の為ならこれくらい何でもありませんわ!」
 そう言って瑠璃はピョンピョンとその場で飛び跳ねる。一応着物は運動性能が恐ろしく低いのだが、彼女はそれを無視して行動する。
 そんな瑠璃を見詰め、翔輝は小さく笑みを浮かべる。
 昔から変わらない彼女の仕草に、微笑ましくなってしまう。
「じゃあ、行こうか」
「はいですわ!」

 霞家の敷地内は恐ろしく広い。東京ドーム三〇個分の敷地の中には山はあるは川はあるわ森はあるわ。散歩というよりハイキングに近い。これだけ広ければ毎年使用人の一人か二人くらい行方不明になるのもうなずける。
 翔輝と瑠璃は遭難したくないので屋敷の中庭で済ます事にした。
 中庭もずいぶんと広く、池もある。もちろんその池の中には何百万もする鯉が優雅に泳いでいる。中には何千万もするのもいるらしいが、この家ならありえるところが恐ろしい。
 きれいに整えられた庭の敷石の上を翔輝と瑠璃は歩いていた。
「へぇ、相変わらずきれいだね」
「そうですわね。こんな風になってたんですね」
「え? もしかしてここに来る事ってあんまないの?」
「はい。いつもは屋敷の中で暮らしていますから」
 ここでヒッキーと突っ込んだらきっと負けなのだろうと思いながら、翔輝は苦笑いした。
「いやぁ、それにしてものどかだね」
「そうですわね」
 蒼い空を見上げ、二人は互いに微笑んだ。
「ほんと、戦争なんてしてるなんて信じられないよ」
「そうですわね」
 その時、蒼い空に数機の軍用機が飛んでいった。双発だったのでおそらく陸海軍のどちらかの爆撃機なのだろう。
 雲の向こうに消えた爆撃機に、翔輝はため息した。
「やっぱり、日本は戦争してるんだな」
「そうですわね。悲しいですけど」
 蒼く澄み切った空を見上げながら、翔輝と瑠璃は悲しげに笑った。
 戦争をしているのだ。日本は。
 どれだけ空の蒼がきれいでも、きっとどこかの空では命の奪い合いが起きているのだろう。そう思うと、悲しくなってくる。
 蒼い空を翔輝は悲しげに見詰める。
「もしかしたら、僕もこれと同じ蒼い海に・・・」
「え? 何ですの?」
 瑠璃が不思議そうにキラキラとした瞳を向けてくる。
「い、いや、何でもないよ」
 翔輝はそう笑いながら言ってごまかすと、再び空を見上げる。
(大和も、こうして空を見上げてるかな)
 そう思ったが、すぐに『大和』は船渠の中だという事を思い出し、一人で笑ってしまった。それを見て瑠璃は「な、何で笑うんですの?」と怪訝そうな顔をする。
 そんな彼女を見て、やっぱり平和だなと改めて思った。
 そして、どこまでも澄み切った空を再び見上げ――
「バカ翔輝いいいいいぃぃぃぃぃッ!」
 突如響いた罵声と空気に、翔輝はとっさに身体を半回転させてその場を離脱する。意識してやったのではない。十何年も受け続けてきた攻撃に身体が勝手に動いたのだ。
 刹那、一瞬前まで彼がいた所に何かが突っ込んで来た。
 芝生の上を滑走したそれはそのすぐ先で急停止した。
 そのすさまじい威力に辺りには土煙が舞い上がる。全くまわりが見えない。
 一体どうしたのか。何が起きたのか。二人はまったく――
「また、かよ・・・」
「また、ですわね・・・」
 二人はなぜか呆れたような顔をして、今の攻撃の犯人がいるであろう先程の落下方面を見詰める。と、
「ふん・・・よく今のを避けられたわ。相変わらず勘が鋭いのね。だけど・・・」
 徐々に晴れていく土煙の中から姿を現したのは、瑠璃と同じように着物を来たツインテールの少女。その瞳には自信の炎が燃え上がっている。
 少女は腰に手を当てておなじみの決めポーズを取る。
「バカでボケボケなところは相変わらずみたいね――翔輝!」
 少女は見事な登場をしたと思った。そしてすぐに返って来るであろう反応に胸を躍らせる。が、
「あ、あれ?」
 少女の思い描いた反応は返って来なかった。
 翔輝と瑠璃は混乱する少女を見詰め、ため息した。
「何しに来たんだよ――珊瑚さんご
 珊瑚と呼ばれた少女は自分の思い通りの反応をしない翔輝を睨みつける。
「何でそんなテンション低いリアクションなのよ」
 珊瑚は翔輝に詰め寄ると睨みつける。が、
「あんなど派手な登場するのはお前しかいないだろッ!?」
 翔輝の見事なツッコミに、珊瑚は「うぐ・・・」と言葉に詰まる。が、
「う、うるさいわね! あんたの為を思って毎回同じ登場をしてあげてるんじゃない!」
「はぁッ!? いつもいつも飛び蹴り登場しておいて僕の為って、一体どんな自己中なんだよッ!」
「う、うるさいうるさいうるさい! 黙れ黙れ黙れ!」
 睨み合う翔輝と珊瑚。そんなやけに親しい二人を見詰め、瑠璃はため息した。
瑪瑙めのう姉様。なんとかしてくださいな」
「無理ね。それに、いつもの事」
 そう言って現れたのはこれまた着物を着た長髪の女性。白い肌に黒い髪、整った顔に落ち着いた物腰。何もかもが美しく、まるでそれは大和撫子を具現化したような美しさの女性だった。唯一違う場所といえば――腰に挿された二本の刀であろうか。
「そうですわね」
 瑠璃は瑪瑙と呼んだ女性の言葉にため息する。その間も翔輝と珊瑚の言い合いは続く。
「だいたいあんたはいつもへらへらして!」
「べ、別にしてなんかいないだろ!」
「してるじゃない! 小学校の遠足の時、私が仕方なくあんたのお弁当を作ってあげたってのに、あんたはクラスの女子から分けてもらってたじゃない! 私があの時どれだけ悔しかったかあんたにはわかんないのッ!?」
「わかんないよ! しかもいつの時のだよッ! あれはお前が作るって言ってたくせにいつまでも渡さなかったのが悪いんだろッ!?」
「私悪くないもん! それにあんた中学の時も修学旅行で女子と一緒に回ってたじゃない!」
「あ、あれは班分けで仕方なくそうなっただけだろ! それに他にちゃんと男子もいたよ!」
「確かにそんなのいたけど、あんたはずっと女子と一緒だったじゃない!」
「し、仕方ないだろ!? その班じゃ気軽に話せるのが女子しかいなかったんだから!」
「それにあんた! 私におみあげを買わなかったじゃない!」
「何で一緒に行った奴におみあげを買わなきゃいけないんだよ!」
「それが礼儀ってもんでしょ!? バカじゃないのッ!?」
「バカって言うなッ!」
「バカをバカって言って何が悪いのよッ!」
 ギャーギャー言い合う二人を見詰め、瑠璃は再びため息を吐いた。そんな瑠璃の肩を、瑪瑙がそっと叩いた。
「ごめんね。騒々しくて」
「ううん。確かに少しやかましいですけど、これもまた平和のひとつの形ですわ」
「・・・そうね」
 瑠璃と瑪瑙はをまた過去をさかのぼってケンカする二人を見詰め、小さく微笑んだ。

 瑪瑙と珊瑚は姉妹で、瑠璃のいとこである。
 霞家は強大な貴族の家系だが、その長い歴史の中でいくつもの派に分かれてきた。
 純潔を守り続けているのが霞家本家。瑠璃の家系である。
 そして、本家に最も近い血筋の霞家分家。それが瑪瑙と珊瑚の家である。
 この本家と瑪瑙達の分家は将軍と親藩のようなもので、もし本家に何かがあればすぐに代行を行うほどの信頼関係が結ばれている。
 その為、この二家で本家に一人、分家に二人の娘が生まれた際、七宝の名前を付けようという話になった。
 その結果、瑠璃、瑪瑙、珊瑚という名前が三人には与えられたのだ。
 そして、この三人は仲良く一緒に育ったのだ。
 ちなみに長谷川家もめでたく霞家の分家のひとつになったのだが、その影響で翔輝と翔香もこの三人とは親しく育ってきた。
 同い年の瑠璃と翔香は親友に、翔輝と珊瑚は小中ずっと同じクラスで、翔輝が海軍学校に入るまではいつも一緒だった――幼なじみだ。
 翔輝が海軍学校に入ってからはなかなか会えなかった上に、開戦直前に瑪瑙と珊瑚の家は京都へと引っ越してしまったので余計会えなくなった。引越しの理由は海軍の重要基地のある広島よりも重要文化財や国宝が並ぶ京都の方が安全だからという理由だ。
 そんな二人はいつも優柔不断な翔輝と違い、自称しっかり者の珊瑚は同い年なのに翔輝を弟のように思い、自称姉として過ごしてきたのだ。
 これが、翔輝のもう一人の幼なじみだ。

 とりあえず立ち話もなんだったので、翔輝達は瑠璃の家に戻った。
 いつの間茶の間で四人はお茶を飲む。
「ふむ、相変わらず瑠璃の家の茶はおいしいな」
「そうですか? 姉様にお気に入りしていただき光栄ですわ」
 瑠璃と瑪瑙は楽しげに会話している。この二人、本当の姉妹のように仲がいい。
 そして、そんな瑪瑙の本当の妹と瑠璃の幼なじみはというと・・・
「ちょっと! そんなにお菓子食べないでよ! 僕の分がなくなるじゃないか!」
「うるさい。これは私と姉さんが買って来たのよ。私がどれだけ食べようと構わないじゃない」
「だからってそんなパクパクと・・・」
「うるさい! 翔輝のくせに生意気よ!」
 まったくもってこの調子。典型的な幼なじみなのだ。
 ギャーギャー言い合う二人を無視して、瑠璃は瑪瑙との会話を進める。
「でもまさか、姉様達が来るなんて思ってもみなかったですわ」
「久しぶりに翔輝が戻って来るって聞いたんでね」
「へぇ、誰からお知りになられたんですか?」
「あなたが珊瑚に送った手紙よ。あれを見て珊瑚ったら大慌てでね。あなたの家に行くって大暴れしてね。父様が仕方なく車を出してくれたのよ」
「そうですか、珊瑚様が・・・」
「ち、違うわよッ! わ、私は姉さんがどうしても行きたいって言うから仕方なくついて来たんじゃない!」
 珊瑚は突如翔輝との痴話ゲンカを放棄してこっちの話題に食いついてきた。
 顔を真っ赤にして姉を睨む珊瑚に、瑪瑙は小さく首を振った。
「相変わらずね、あなたは――そうよ。私が翔輝に会いたかったから来ただけで。珊瑚は私が無理やり連れて来たのです」
「と、いう事よ翔輝! 変な誤解はしないでよね!」
「えっと・・・まだ何も言ってないけど・・・」
「う、うるさいわね! 翔輝のくせに生意気よ!」
 顔を真っ赤にして怒る珊瑚に、さすがの翔輝も返す言葉もない。
「珊瑚様。あまり私の翔輝様をいじめないでくださる?」
 ここでようやく瑠璃が反撃を開始した。今までただ見ていただけだったが、ついに珊瑚の横暴に我慢の限界を迎えたのだ。
「わ・た・く・し・のぉ?」
 珊瑚は翔輝を突き飛ばすと爆弾発言をした瑠璃と対峙する。
「そうですわ。翔輝様はこの私のですわ」
「違うわ。翔輝は私の下僕よ」
「いいえ違いますわ。翔輝様は私の未来の旦那」
「違うわよ。翔輝は未来永劫私の下僕よ」
 すさまじい怒気を噴出させての睨み合い。その迫力は何万の軍隊でもしっぽを巻いて逃げ出すかのようなすさまじさだ。
 さすがの翔輝もこれはまずいと止めに入る。
「あ、あのさ二人とも。とりあえずケンカは――」
 二人はキッと翔輝を睨み付け、
「翔輝様は黙っていてください!」
「翔輝は黙ってて!」
 見事に一蹴された。
 再び睨み合う瑠璃と珊瑚に、翔輝はもう何もできなかった。
 だが、まだ望みが全て絶たれた訳じゃない。
 まだ彼には、奥の手がある。それは・・・
「め、瑪瑙姉さん! な、何とかしてッ!」
 それは本当の姉のように慕っている瑪瑙への救援だった。
 瑪瑙はいつの間にか本を読んでいたが、泣きついてきた翔輝を見て小さくため息する。
「まったく、身体は大きくなっても相変わらず女の子には弱いな、翔輝は」
 まさか艦魂という存在の女の子達にも言いように振り回されているとは思わないだろうが、翔輝が昔からまわりに流されやすい少年だった事は事実のようだ。
「ね、姉さんッ!」
 必死に泣きつく翔輝を見て、瑪瑙は小さくため息すると本を閉じた。
「やれやれ、かわいい弟の頼みだ。断る訳にはいくまい」
 そう言って立ち上がると、いつの間にか取っ組み合いのケンカにまで発展している二人に近寄る。
「瑠璃、珊瑚。やめないか」
 実にかっこいい態度だ。
 瑪瑙は外見こそは絶世の美人だが、性格はさっぱりしていて実にボーイッシュだ。しかもため息を吐く事は多いが、基本的にあまり表情を変えない。そんな彼女を見て、なんとなく翔鶴に似てるなぁと思う翔輝。
 瑪瑙の登場に二人は一瞬抗争を止めるが、すぐにまた再開する。
「私の翔輝様ですのよッ!」
「違うわッ! 私の翔輝よッ!」
 いつの間にか珊瑚のセリフまで変わってしまっている。
 瑪瑙はやれやれと肩をすくめると、腰に挿した刀を一本抜いた。
「私はあなた達がいくらケンカしてようと関係ない。だが――」
 瑪瑙はさらにもう一本の刀を抜いた。
 二本の刀をそれぞれ右手と左手に構え、瑪瑙は細めた目で二人を射抜く。
「私の弟を泣かせる事だけは、許さない」
 二本の刀を交差させた瞬間、
「「ごめんなさい!」」
 二人は土下座して謝った。それを見て、翔輝はほっとすると同時に嬉しくなった。
 瑠璃と珊瑚がケンカして、自分が泣いて、瑪瑙姉さんが止める。
 昔から変わらない、関係。
 翔輝は安心して、その場に腰を下ろした。
 そう、変わらない。何もかも・・・
 ――いや、変わったか・・・
 本当はこの輪の中にもう一人、瑠璃と珊瑚のケンカの中に、もう一人入っていた。
 今は亡き、大切な妹――翔香。
 本当の関係は、彼女がいてこそ成り立つのだ。
 でも、もう彼女はいない。それは帰られない、悲しき現実。
「変えたくなくても・・・変わっていくんだな・・・時間って」
 翔輝はうつむいた。
 悲しくないなんてうそだ。本当は今でも悲しくて、苦しくて、辛い。
 笑ってしまった。
 まだこうしてちょっとしたショックで、耐えられなくなるなんて・・・笑ってしまう。
「はは・・・は・・・」
 ――笑える訳ないじゃないか。
 頬を伝う涙は、偽りの笑顔を否定する。
 どうして、自分はこんなにも弱いのだろう。
 こんな弱い自分なんて、いなくなってしまえばいいのに・・・
「翔輝」
 閉ざされつつある世界に、光が降り注いだ。
 ゆっくりと顔を上げると、目の前に瑪瑙が座っていた。
 いつものように、何を考えているかわからないクールな表情。それはいつも見慣れた彼女の顔。だが、
「姉さん・・・」
 瑪瑙は――優しく微笑んだ。
「辛い時は、誰かを頼るものよ。一人で塞ぎ込む事はない。翔輝には、助けてくれる手がたくさんある。だから、その手を取っても、誰も怒らない。むしろ、それがみんなの幸せにもなる」
 瑪瑙の言葉に、翔輝の心で何かが弾けた。
 ずっと堪えていた何かが、解き放たれる。
「ね、姉さんッ!」
 翔輝は、瑪瑙の胸に飛び込んだ。
 柔らかく、とてもいい香りのする、懐かしくて、落ち着く。何もかもが皆翔輝を包み込んでくれた。
 そうだ。
 昔から、何か辛い事が起きた時は、いつも瑪瑙が優しく包んでくれた。
 この感触、この想い、全てが自分を支えてくれる。
 瑪瑙の腕の中で、翔輝は泣いた。そりゃあ声を上げて泣いた。
 瑠璃と珊瑚も、悲しげに泣く翔輝を見て、そっと涙を流した。
 瑪瑙は、そんな本当は誰よりも繊細で、誰よりも折れやすく、誰よりも壊れやすい弟を、そっと抱き締めた。
 変わってほしくないのに、変わってしまった。
 もう戻れない、思い出の中だけの笑顔が、寂しかった・・・


どうでしたでしょうか。
瑠璃のいとこの珊瑚と瑪瑙。
珊瑚は典型的な幼なじみキャラで、瑪瑙はまじめだがとても優しい女性。
孤独というのがテーマだった翔輝という存在が、少しずつ変わってきてはいますが、よりおもしろくなっていると僕は思っています。
えっと、ここで皆様に二つほど報告させていただきます。
まず一つ、先日《艦魂年代史 恋する乙女は大艦巨砲主義》をパソコン限定ですが《ネット小説ランキング》という所に登録しましたので、もしこの作品が気に入っていただけたら、そちらへの投票もよろしくお願いします。
もう一つは、僕は一応学生――しかも受験生です。実はもうすぐ中間テストが迫っていますので、一応ストックはあるんですが、更新は少し遅れると思います。ですが、まだまだ続きがあるので、これからもよろしくお願いします。
それと、評価や感想もお待ちしています。皆様の忌憚のない意見を、どうかこの未熟な僕に教えてください。






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