第八章 第十二節 懐かしき日本の風
一九四三年五月八日、戦艦部隊は護衛の駆逐艦に守られながら整備の為に内地へ向かってトラック島を抜錨した。
乗組員にとっては久しぶりの内地で、皆家族や大切な者の顔を思い浮かばせながら嬉しそうな笑顔をほころばしていた。
それはもちろん翔輝もだった。
白波を立てて進んでいる艦隊を翔輝は嬉しそうに見詰めていた。そんな翔輝を見詰めるのはどこか不機嫌そうな大和。
「長谷川。やけに嬉しそうだな」
航海長の言葉に、翔輝は素直にうなずいた。
「はい。なんせもう半年以上内地に戻ってないんですから」
「そうだな。普通の科なら時々内地に戻れたが、俺達航海科は艦から降りれないからな」
「はい。おかげで妹の命日にも戻れなかったですし・・・」
残念そうな顔をする翔輝に、航海長は「すまんな」と謝る。そんな航海長の態度に翔輝は慌てる。
「そ、そんな謝らないでくださいよ! 大丈夫ですって! 知り合いがうまくやってくれましたし。問題ありませんよ」
この知り合いとはもちろん翔香の親友である瑠璃だ。
い号作戦の少し前に翔香から手紙があり、翔香の命日はこっちの方でやるから心配はないとの事だった。そんな瑠璃に会うのも約一年ぶり。時が流れるのは早いものだ。
「でもまぁ、久しぶりにあいつにも会えるし、それは嬉しいけど」
「あいつ? あいつってこれか?」
航海長がニヤニヤと笑って小指を立てる。
「ち、違いますよ! そんなんじゃないですよ! ただの幼なじみって言ってるじゃないですか!」
顔を真っ赤にして怒る翔輝を見て、航海長は豪快に笑った。そんな二人を見詰めて松田も静かに笑っている。
一方、顔を赤く染めている翔輝を見て、どこか不機嫌そうな大和。
「どうしたの?」
翔輝が不思議そうに訊くと、「知らないです」と顔を逸らされてしまった。まったくわからない翔輝を睨み、大和は唇を尖らせたままだった。
艦隊は順調に進み、ついに明日には柱島に到着する海域まで来ていた。
その日の昼間、珍しく旗艦『武蔵』の会議室で艦魂会議が開かれていた。
「明日には柱島に到着。そこで一度寄港して呉の軍港に入り、各艦の整備を行います。これから戦争は今まで以上に激戦になります。この辺でちゃんと整備を行い、万全の体制で望まなければなりません」
極上幹部会副会長を務めている大和が説明をする。
連合艦隊旗艦――極上幹部会会長である武蔵は無口なので説明は全て大和がする事が暗黙の了解になっている。
大和の説明の後、武蔵は無表情で書類を眺めていた。
「確かに、もうこれが本格的な整備の最後かもしれないな」
金剛は麦茶を飲みながら言う。紅茶じゃなくて麦茶を飲んでいるのは会議が『武蔵』で行われている為、翔輝が来れないので紅茶を淹れてくれる人がいないからだ。
長門は陸奥と一緒に書類を読んでいたが、大和の元気のない顔を見て声を掛けた。
「ねぇ大和。どうしたのよ。最近、トラック島を出てからちょっと変よ?」
「そ、そうですか?」
「そうよ。本当にどうしたのよ?」
心配の目線が大和に集中する。みんな大和の異変には気づいていた。
大和は「何でもないです」と答えるが、長門はちゃんと説明するように要求する。そんな長門に押され、大和はしばらくして口を開いた。
「内地から離れて、ずっと中尉と一緒でした。でもそれももうすぐ終わり。中尉は呉に戻ったら上陸する気です。陸に上がれば、私との縁は切れます。そして、中尉には瑠璃さんという幼なじみがいます。これまで会えなかった分、二人は楽しそうに会話したりするでしょう。それが、なんか悔しくて・・・中尉は艦から降りたら私との関係は断たれます。しかし、人間である瑠璃さんは艦の上でも、艦を降りても関係はずっと・・・それが・・・悔しくて・・・寂しくて・・・」
大和は心配していたのだ。翔輝が自分から離れて、他の女の子と仲良くして、心まで離れてしまうのを。
長門はそんな乙女らしい悩みで悩んでいる大和に微笑み掛けた。
「大丈夫よ。長谷川君はそんな人じゃないでしょ? あなたがそれを一番わかってるじゃない」
「わかってます。わかってますけど・・・」
「わかってるけど、何?」
「・・・少し、心配で・・・」
うつむく大和の肩を、長門はそっと叩く。
「何言ってんのよ。長谷川君はそんな人じゃないでしょ? 信じられないの?」
「そ、それは・・・」
うつむいたままの大和に、長門はため息した。その時、
「・・・信じられないのなら信じなくてもいい。それが姉さんの翔輝に対する評価なんだから。私は信じる。翔輝の事を」
武蔵は静かに言った。書類から視線を外し、大和を見詰める。その視線は何か挑発的なものが含まれていた。だから、
「な、何よ。私だって信じてるわよ!」
大和も反撃に移る。が、武蔵はわざとらしく大きなため息をつく。
「むかつく! そのため息!」
「・・・信じてるなら何を心配する? 何が不安? 信じてるなら、そんな負の気持ちは発生しない」
「そ、それは・・・その・・・」
言葉に詰まる大和を見詰め、武蔵は無表情の中にも少し寂しそうな顔で口を開く。
「・・・認めたくないけど、姉さんは今現在最も翔輝に近い艦魂。その姉さんが翔輝を疑うなんて、本末転倒」
「武蔵・・・」
「そうだよ。私は中尉を信じてるよ」
「うちも。長谷川はんを疑うなんてありえまへん」
「陸奥さん、伊勢さん・・・」
陸奥と伊勢、翔輝派の主力二人が自信満々にそう言った。二人は自信満々の笑みを浮かべている。二人の笑顔を見て、大和の顔にも笑顔が華やぐ。
「つーか、あの低姿勢全開の平和主義者にんな度胸ある訳ねぇだろ」
榛名がめんどくさそうに言った。正論だが、どことなく腑に落ちない意見である。
「まぁ、私もあいつの事はこの一年半見てきたが、積極的に女に攻撃をするような奴ではないな」
金剛は三杯目の麦茶を飲みながら言う。そんな金剛の意見に大和の気持ちも吹っ切れた。しかし、金剛は続けた。
「だが、自分からは積極的ではないが、逆に積極的な女に流される傾向はあるみたいだがな」
『・・・確かに』
まったく否定できない。その通りだった。
「積極的な女の子って誰? 実は山城だったりして」
扶桑はニヤニヤと実の妹の山城を見詰める。見詰められた山城は無表情のまま鉛筆を扶桑に投げ付ける。
「おっと、そんな簡単な攻撃――ほべっ!」
鉛筆は囮だった。後から飛んで来た軍帽が扶桑の顔面に命中した。軍帽は結構硬い。しかも扶桑の顔面にはその中でも最も硬い部分、鍔がクリーンヒットし、ちょっと痛そうだ。
「ちょっと山城! 囮使うなんて卑怯よ!」
「・・・」
「ああッ! また無視する!」
相変わらずこの二人は姉妹という基本的関係が成り立っていないらしい。
扶桑は山城に軍帽を投げ返すと、キラキラした瞳で伊勢を見詰める。見詰められた伊勢からは血の気が失せていた。
「伊勢ちゃーん! 私の氷のように凍て付いた心を温めてぇッ!」
すさまじい踏み込みで一瞬で伊勢の目の前に出現。回避などできる暇はなく、伊勢は扶桑に捕獲された。
「あはーん。伊勢ちゅわーん!」
「ね、姉はん・・・ッ!」
悶え苦しむ伊勢を眺め、唖然としている陸奥。
相変わらず変わらないみんなを見て、いつの間にか大和は笑っていた。
戦艦の艦魂である自分には、戦艦だけでもこんなに多くの仲間がいる。他の艦種も含めるとたくさんの仲間がいるのだ。ただ、戦艦だけでももう二人いなくなり、空母もたくさん死んでしまった。
日本は戦争をしている。この辺で少し休憩してもバチは当たらないだろう。
「なぁに充実した顔してんだ。充実するのは野菜だけにしとけ」
「まぁ、こんなふうにしてられるのも、もうないかもしれないんだしね」
いつの間にか榛名と陸奥が隣にいた。
三人は扶桑と伊勢の攻防戦をしばらく見ていたが、突然榛名が大和の耳元でぶっちゃけ本音を吐いた。
「でもよ、姉貴の言うとおりあいつその場の流れに身を任すタイプだからな。俺達の監視の目が外れてその瑠璃とかいう奴に捕まったら、そのまま既成事実まで行っちまうかもしれねぇぞ? 場の空気だけで」
「そ、それはさすがにないと思いますけど・・・」
大和は否定するが、榛名は首を横に振る。
「でもよ、さすがにそこまで行かなくてもキスの一つや二つはやっちまうんじゃねぇ?」
「そ、それもさすがに・・・」
「そうか? それにそいつはあいつの幼なじみなんだろ? っていうか、もうそこまでの関係だったりして」
「ま、まさか。ははは・・・」
「おーい、大和。笑顔が引きつってるぞ?」
榛名はそうツッコミを入れた後、真剣な顔をした。
「俺は奴に借りがある。姉貴の心に触れられた大事な借りがな。だから、その借りを返す為にも、あいつに変な事は絶対にさせねぇッ!」
ゴオオオォォォと燃え上がる榛名のやる気の炎に、二人はちょっと引いていた。
なぜここまで真剣になるのか。大和や陸奥と違い、榛名は別に翔輝に特別な感情を抱いている訳でもないのに。やはり、義理深い大和民族に血を受け継いでいる彼女だからこそ、そこまで借りに執念を燃やすのか。
「ねぇ榛名。あなたひょっとして長谷川君が好きなんじゃないの?」
『なッ! 何ですとおおおおおぉぉぉぉぉッ!?』
突然現れた長門の爆弾発言に三人は驚愕の絶叫をする。特に一番驚いたのは榛名だった。顔を真っ赤にして激怒する。
「ば、バカヤローッ! な、何で俺があんなヘラヘラした奴を好きになるんだよ! 誰があんな平和主義者――」
「あら? 男勝りなキャラって優しい男の子に恋するのが王道なのよ?」
「勝手に俺の設定を決めるなあああぁぁぁッ!」
「ハーレムアニメの定番なのに。あなたは《男勝り系》ね」
「だから勝手に決めるな!」
「だって、ポニーテールだし、めちゃくちゃ強気なのに実はホラー話が苦手って、榛名そのものじゃない」
「うわーッ! 言うな! 恥ずかしい事言うなぁッ!」
顔をさらに真っ赤にして春名は慌てて長門の口を塞ぐが、時すでに遅し。
「あ、あの陸奥さん。榛名さんって怖い話だめなんですか?」
「う、うん。昔からね」
「へぇ、じゃあ今年の夏に肝試しやりましょうか?」
「あ、それいいね」
「コラそこの外野! コソコソうるさい!」
榛名は叫び疲れたのか肩を激しく上下させて呼吸している。そんな彼女に攻撃の手をまったく休めない長門。
「それにほら、『強がりを言っているが本当は主人公に対する好きな気持ちを素直に出せないでいる』。まさにこれじゃない」
「誰が主人公だ! 誰が誰を好きなんだ!」
「あら、主人公はもちろん長谷川君で、榛名が長谷川君の事を好きなのよ」
「長門! テメェ覚悟の上でやってんだろうなぁッ!」
「覚悟の上は覚六覚七覚八覚九・・・etc」
「うるせえッ! 上るんじゃねぇッ!」
一人激昂している榛名を無視し、長門は一枚の紙を取り出した。
「ちなみに陸奥と大和、他の艦魂ほとんどがこの《清純派》っていう分類に入るわね」
「そ、そんな、清純だなんて」
「ちなみにこれは各系統に分かれるから必ずしも純粋な女の子という意味じゃないからね大和」
「そ、そうなんですか」
少し残念そうな大和だった。
「この《男勝り系》はもう榛名しかいないわね。たぶんこのまま進行するとさらにこの《ツンデレ系》の要素も加わるわね」
「いいなぁ、一人でこんなに要素があるなんて」
「あと他にはこの《委員長系》は祥鳳が該当するわね」
「じゃあ、この《お嬢様系》は瑠璃さんですね。憶測ですが」
「そうね。あとは雰囲気的には伊勢も該当するわね」
「ほんま? うちがお嬢様やなんて嬉しいわぁ」
「そしてこの《お姉様系》は私や扶桑が該当するわね」
「比叡さんも該当しましたよね」
「まぁね。この《天然ボケ系》は・・・日向かな?」
「でも、日向はこっちの《ロリ系》と組み合わせですよね」
「そうね。この《耳年増系》は・・・いないわね。これといった者は特に」
「お姉様は色恋ざたの《耳年増系》だと思うけど」
「そう? この《ロリ系》はさっきの日向もそうだけど、純粋に言ったら隼鷹よね?」
「確かに、あれは《ロリ系》の中の分野の一つ、《妹系》ですよね」
「最後にこの《ミステリアス系》。この分野の中でも《内気系》だったら霧島。《無口系》は山城や武蔵が該当するわね」
「どちらかって言うと、武蔵は《ミステリアス系》全ての要素を持ってるんじゃないですか?」
「そうだよね。あの子は不思議かつ電波キャラだよ。きっと」
考え込む三人に、すっかり忘れられてしまった人物が怒りの炎を燃やして咆哮する。
「ゴラアアアァァァッ! 無視すんじゃねえええぇぇぇッ!」
「あら、忘れてたわ」
長門は罪のない笑みを向けると、ガルルルと唸る榛名の肩をポンポンと叩き、長門はそんな不器用な恋する乙女に激励をする。
「がんばってね榛名。恋敵は多いけど、私はあなたも応援するわよ」
キレた。確実にキレた。
榛名のポニーテールが怒りの炎のようにゆらゆらとダークに華やぐ。
「あ、あらあら」
さすがの長門も張るなの激怒ぶりに笑顔も引きつっていた。そんな彼女に向かって榛名は怒号を発した。
「ブッ殺すッ!」
艦魂の標準装備である軍刀を抜刀し、長門に切りかかるが、彼女は紙一重でこれを何とか回避する。回避した長門を榛名は体勢を整えて追撃すると、長門も慌てて駆け出す。
「待でやゴラアアアァァァッ!」
「もう、素直じゃないんだから榛名は♪」
「マジでブッ殺すッ!」
二人は喧騒と共に部屋を出て行った。
ちょっと危険な鬼ごっこがここに始まった。
翌日、艦隊は無事に懐かしの地――柱島に到着した。そこで機関科や航海科といった艦には絶対に必要な兵員以外の約半分が上陸した。戦艦部隊は本格的な整備を受ける為に各海軍工廠に入渠するので、必要最低限以外の兵はみんな艦から降ろされるのだ。
艦橋から上陸していく将兵を見詰めている翔輝に、大和は不安げに声を掛けた。
「明日、中尉も上陸されるんですよね?」
「うん。ダメ・・・かな?」
翔輝はうかがうように大和を見詰める。前回はそれで絶交寸前まで関係が破綻したのだ。翔輝もそれを心配しているが、上陸したい気持ちもある。
そんな板挟みの彼の気持ちを、大和はちゃんとわかっていた。
「別にいいですよ。もう中尉を束縛したいなんて思ってませんし。ゆっくり休暇を楽しんできてください」
大和が笑顔で言うと、翔輝は驚いたような顔をする。
「お前、大人になったな・・・」
「私だって成長はしてます。外見はあまり変化はありませんが」
「そっかなぁ? 少し身長が伸びたような気がするけど」
「そうですか? 今度測ってみます」
そう笑顔で言っているが、大和の本音は翔輝を降ろしたくはない。でも、そんな事を言って自分のわがままで翔輝を苦しめる事もしたくない。二つの正反対な気持ちに挟まれ、大和は苦笑いするしかなかった。
「瑠璃さん、元気にしているのでしょうか?」
「うん。結構元気にしてるみたい」
翔輝が嬉しそうに言うと、大和は寂しそうな笑みを浮かべる。その笑顔に、翔輝もようやく気づいた。
「大和・・・やっぱり、降りない方がいいよね?」
「え? あ、いえ。そんな事ありませんよ。久しぶりの再会です。ゆっくりお楽しみください」
大和は無理して笑顔になるが、そんな彼女の表面だけの笑顔など、もう一年以上の付き合いなので、本心はわかってしまう。
「大和、無理してるでしょ?」
「無理なんかしてませんよ。どうしてそう疑われるんですか?」
「だって、すごく悲しそうだから」
「・・・そうですか」
大和はそこでもう笑顔を作るのをやめた。どうせ無理しても笑っても、彼にはすぐ見破られてしまうのだから。やるだけ無駄だ。
「確かに辛いですし、本心では中尉には離れてほしくありません」
「だったら――」
「――でも、中尉を縛り付けたくないというのも、本当の気持ちなんです。どっちも私の気持ちで、相反する想い。だから、私もどうすればいいのか・・・わからないんです」
「大和・・・」
大和は寂しそうな表情のままうつむいてしまう。
この一年、二人はいつも一緒にいた。それは変わらない事実で、良き思い出だ。だが、これからは違う。翔輝は大和の手の届かない所へ行ってしまう。そして、そこでまだ自分が見た事のない幼なじみの女性と会う。それが苦しくて仕方ない。
「・・・でも」
大和はしっかりと顔を上げた。その瞳は真剣な想いが込められていた。
「私は、自分のわがままで中尉を縛り付けたくない。だから、上陸してください」
「大和・・・」
大和の瞳に、翔輝はそれ以上何も言わなかった。
彼女が決心して決めた事。それをとやかく言う権利は自分にはないと思ったからだ。
だが、できる事があるとすれば・・・
「ちゅ、中尉!?」
翔輝はしっかりと大和を抱き締めた。
腕の中で、大和が顔を真っ赤にして混乱する。
「中尉!? な、何ですか突然!? は、離してください!」
「嫌だ」
「ちゅ、中尉・・・?」
「これから少しの間だけど会えなくなるんだ。これくらい、いいだろ?」
翔輝の言葉に、大和はもう抵抗はせず、静かにうなずいて彼に身を任せた。
翔輝の腕の中で、大和は幸せそうに笑みを浮かべた。
「中尉・・・私やっぱり、中尉の事が・・・」
「・・・大好き」
「「えぇッ!?」」
突然の声に振り返ると、そこにはいつの間にか翔輝の手を握っている武蔵が立っていた。
「む、武蔵?」
「・・・翔輝、私もギュッてして」
「え? あ、ちょっと・・・!」
武蔵はそう言うと手早く大和をどかして翔輝の胸の中に飛び込んだ。その早業に翔輝も大和も一瞬反応が遅れてその進入を許してしまったが、すぐに反撃する。
「な、何するのよ武蔵!」
「・・・邪魔しないで」
「あぶッ!?」
武蔵は自分の肩に手を掛けて邪魔しようとした大和に冷静にローキックを炸裂させた。そのあまりの痛みに大和は悲鳴も上げられずにその場に倒れて悶絶する。
「や、大和ッ!?」
「・・・翔輝はこのままでいい」
「ちょっと武蔵! 離してよ! 大和が、大和がぁッ!」
「・・・平気。姉さんなら勝手に復活する」
「そういう問題じゃないでしょッ!?」
「・・・翔輝、好き」
「武蔵ぃッ!」
いつの間にか痛みのせいで気絶してしまった大和の横で、幸せそうな笑みを浮かべて翔輝に抱きつく武蔵と、そんな彼女に抱きつかれて身動きできない翔輝。
いつもと同じ、何気ない日常がそこにあった。
夕方、戦艦部隊は護衛部隊と別れて一路呉に向けて発進した。 |