艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(55/130)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第八章 第十一節 雛鳥飛翔 儚きの栄光の後継


 い号作戦からしばらくした頃、内地近海では修理の終わった『翔鶴』と訓練の為にトラックから戻って来た『瑞鶴』『瑞鳳』『飛鷹』『隼鷹』の五隻の空母が搭乗員の飛行訓練を行っていた。
 かつて蒼い天空を舞っていた荒鷲は今では雛鳥になってしまったが、雛鳥も時が来ればその力みなぎる翼を羽ばたかせて天空へと舞い上がり、また新たな荒鷲になる。そんな事を信じながら瑞鶴は飛び立っていく艦載機を見詰めていた。が、飛行甲板を走っていた零戦一機が発艦できずにそのまま海に着水してしまった。それを見詰め、瑞鶴はため息を付く。
 最近はこんな事ばかりだった。まだろくに空母から発艦できないような搭乗員ばかりで、着艦はできる者がし、できない者は海面に着水して駆逐艦に救助してもらう。そんな光景ばかり最近見る。
 真珠湾や珊瑚海の時は期待をその舞い上がる攻撃隊に込めて見送ったが、今ではそんな事はできない。むしろ無事に帰って来れるのかが心配だった。
 そしてまた、一機の九九艦爆が発艦に失敗して海に落ち、瑞鶴は大きなため息をついたのだった。

 その日の夜、瑞鶴は機動部隊旗艦である姉の会議室にいた。そこには機動部隊旗艦である翔鶴はもちろん瑞鳳や飛鷹、隼鷹他十数人の駆逐艦や巡洋艦達が集まっていた。
「それにしても、ひどいですね。我々駆逐艦が敵機を撃ち落とすのではなく、味方艦載機を拾いに行くはめになるとは」
 一人の駆逐艦が言った言葉は、ここにいる者全員の気持ちだった。
 ため息する瑞鶴。不機嫌そうに沈黙している翔鶴。搭乗員名簿を見て頭を抱える瑞鳳。今日の訓練を思い出してため息している飛鷹。そして、
「はぁ・・・」
 どことなく元気のない隼鷹。翔鶴に会った時はあんなに嬉しそうだったのに、最近はいつもため息を吐いている。それに夜になると彼女は星を見上げている事が多い。あの翔鶴でさえ彼女の異変に心配している。
「ねぇ隼鷹。どうしたのよ」
 どっちが姉かわからない彼女の妹である飛鷹が心配そうに声を掛けた。その問いに、隼鷹は「ううん。何でもないよ」と力なく答える。
「何でもないって、そんなふうには見えないわよ。搭乗員のせい?」
「ううん。違うよ」
「じゃあ何で?」
 飛鷹の問いに、隼鷹は力なく笑った。
「翔鶴お姉ちゃんに会えたのは嬉しいけど、でも・・・」
「でも?」
「翔輝お兄ちゃんに会いたくなって・・・・」
 その言葉に、飛鷹はため息する。
「あのね隼鷹。向こうにいれば翔鶴さん会いたくて、やっと会えたと思ったら今度は長谷川中尉。どっちか二者択一してくれないと」
「だって、会いたいんだもん」
「隼鷹」
 寂しそうな瞳で落ち込む隼鷹に、瑞鶴は優しく笑みを送った。
「その気持ちわかるよ。私も早く大和と会いたいもん」
 瑞鶴の優しい笑みに、隼鷹は小さくうなずいた。そんな優しい瑞鶴の姿を、瑞鳳と飛鷹は朗らかな笑みで見詰めた。
 一方、皆が小さな笑みを浮かべる中、翔鶴は依然沈黙したままだった。腕を組み、何か真剣に考えているようだが、その表情はどこか不機嫌に見える。
「姉さん、どうしたの? さっきから浮かない顔して」
 瑞鶴が心配して翔鶴に声を掛けるが、翔鶴は沈黙したままだった。
「ねぇ、姉さんってば」
 瑞鶴は翔鶴の袖をくいくいと掴んだ。が、翔鶴はそれを振り払った。
 翔鶴は何度も頭を掻き乱す。
「うるさいな。少しほっといてくいれ」
 翔鶴はそう冷たく言い放つと、会議の資料を乱暴に掴んで部屋を出て行ってしまった。
 呆然としている艦魂達。そんな中、瑞鶴は心配そうに翔鶴の去ったドアを見詰めるしかできなかった。
「姉さん。どうしたんだろ・・・?」
「翔鶴さん。最近疲れてるみたいですね」
「確かに、飛鷹の言うとおり、最近翔鶴お姉ちゃん忙しそうだもんね」
 飛鷹と隼鷹の言葉はその通りだった。
 最近翔鶴は機動部隊旗艦として仕事が山積みになっているのだ。元々翔鶴は旗艦というリーダー役はあまり向いていない。彼女は《将軍》ではなく《英雄》なのだ。
 それが今では赤城の後を継いで機動部隊の旗艦となっている。南太平洋海戦までは熟練の搭乗員がまだ残っていて、戦局はまだ互角に戦えていた。そのおかげで旗艦としての仕事も少なく、翔鶴も難なく旗艦を務める事ができた。しかし、最近は搭乗員の質が落ち、今では戦闘訓練をする毎日。その結果、連合艦隊艦魂司令部からの書類やらなんやらが大量に送られて来るようになり、さらにまともな搭乗員の不足でさらに仕事が増え、最近はかなり忙しいのだ。
「大丈夫かな? 翔鶴さん最近かなり忙しそうだから」
 瑞鳳も心配そうに声を上げる。そんな三人に背中を向けて、瑞鶴は暗い瞳でいつまでも沈黙していた。

 夜中、多くの将兵や艦魂が寝静まったこの時間帯に、大忙しで働いている少女が一人いた。
 空母『翔鶴』の会議室には大量の書類が山積みになっていた。その一つ一つを処理しているのは、決して頭脳系じゃない少女――翔鶴だった。
 翔鶴は眠い目を擦って書類に目を走らせていた。
 今彼女が呼んでいるのはラバウル基地に再び艦載機を転用させるという意見打診書だった。それは前回のい号作戦の時と同じで、小沢中将は反対している。もちろん翔鶴自身も反対だ。
「連合艦隊司令部は何を考えているんだ」
 大きなため息を吐いて壁に掛けてある時計を見た。現在時間は午前二時三二分。草木も眠る丑三つ時とはこの事だ。最も恐ろしい時間帯である。
「もうこんな時間か。どうりで眠い訳だ」
 何度も目を擦って眠気を吹き飛ばすが、それ以上の眠気が彼女を襲う。このまま無限のループが繰り返されるかと思われた、その時、
「姉さん?」
 突然の声に振り向くと、そこには寝巻を着た妹――瑞鶴がいた。
「瑞鶴? どうしたんだ。こんな時間に」
「姉さんこそ・・・」
「私か? 見てわからないのか? 仕事中だ」
「仕事って、こんな遅くまで?」
「当たり前だろ? 最近は戦局の悪化から司令部からの書類が大量に回って来る上に、なんか勝手に極上幹部会という新組織の戦略部副部長になってしまったからな。徹夜しないと終わんないんだよ」
「・・・大変なんだね」
「人事だと思って・・・」
「そ、そんな事・・・ッ!」
「いいから、さっさと寝ろ。明日はまた早いぞ」
 翔鶴は瑞鶴との会話を一方的に終了させ、再び書類に目を走らせ始めた。そんな姉を見詰め、瑞鶴はそっと部屋を出て行った。
 しばらくして、翔鶴が次の書類に目を走らせ始めた時、突然コーヒーの匂いがした。その瞬間、書類の横にカップに入ったブラックコーヒーが現れた。驚いて振り向くと、そこには瑞鶴が優しく微笑んでいた。
「瑞鶴・・・寝たんじゃなかったのか?」
 怪訝そうに訊く翔鶴に瑞鶴は小さくうなずく。
「うん。もう寝る。でもその前に姉さんにコーヒーを淹れたくて」
「私に?」
「うん。これ飲んでもうひとがんばりしてよ」
 瑞鶴は純粋な笑みを送る。そんな邪心のない妹を見て、翔鶴は苦笑した。
「まったく、貴様らしいな。まぁ、もらっとくよ」
 翔鶴は瑞鶴の淹れたコーヒーを口元に持って来た。漂って来るコーヒーの匂いが脳の働きを活性化する。そして、静かにそれを口に含んだ。感想は、
「苦ッ! 苦過ぎる!」
 翔鶴は顔全体をしかめて苦さを強調する。予想外の姉の反応に、瑞鶴は慌てる。
「そ、そんなに苦かった?」
「苦い! これはもうブラックコーヒーじゃない。ダークコーヒーだ!」
「ご、ごめん。眠気を飛ばそうと思ってちょっと多めにコーヒー豆入れてみたんだけど・・・す、すぐに淹れ直して来るよ!」
「いや、もういいよ」
「ね、姉さん・・・」
 しょんぼりと落ち込む瑞鶴を一瞥して数秒、翔鶴はどこか不機嫌そうに言った。
「貴様のすさまじいコーヒーで眠気なんか吹っ飛んだ。だからもういらん」
 少し気恥ずかしそうな翔鶴を見て、素直じゃないなぁと思う瑞鶴。笑顔の瑞鶴に見詰められてほんのりと頬を赤く染め、翔鶴は不機嫌そうに書類に目を戻す。
「い、いいから、さっさと寝ろ。貴様だって航空部の部長だろうが」
「う、うん。でも難しい事は飛鷹がやってくれてるし」
 その答えに、翔鶴は呆れたような顔をする。
「まったく、飛鷹は部下な上に年下だぞ? 少しは上官として、先輩として立派なところを見せろ」
「うぅ・・・」
 反論できずに落ち込む瑞鶴に、翔鶴は呆れながらも、どこか楽しそうな笑みを浮かべた。
「ほら、さっさと寝ろ。邪魔だ」
「う、うん。おやすみ・・・お姉ちゃん」
「・・・あぁ、おやすみ」
 再び仕事を再開した姉を邪魔しちゃいけないと、瑞鶴はそっと部屋を出て行った。

 瑞鶴はそのまま自室に戻る事はなく、甲板に出た。
 空は雲ひとつない晴天で星がキラキラと輝いていた。
「きれい・・・」
 瑞鶴はそんな星空を見上げ、嬉しそうに微笑んだ。
 戦争がどんなに苦しくなっても、星の輝きだけは変わる事はない。
 瑞鶴はしばし波音を聞きながら星空を見上げ続ける。が、その時月明かりに薄っすらと照らされる甲板に人影を見つけた。
「え? 誰・・・?」
 不安げにそっと近づくと、その背中に見覚えがあった。
「え? 神風中尉?」
「うん? 瑞鶴? どうしたのこんな時間に」
 それは先日中尉に昇級したばかりの刹那だった。月明かりに薄っすらと照らされる彼の顔には優しげな笑顔が浮かんでいた。
 瑞鶴は驚いたような顔で彼に近づく。
「それはこっちのセリフですよ」
「僕? 僕はちょっと眠れなくてね」
「眠れないんですか?」
「ちょっとね。だから風に当たろうと思ってさ」
 そう言って再び空を見上げる刹那の横に瑞鶴はそっと腰を下ろした。
「でも、見回りに見付かったら大変ですよ?」
「うん? まあ、その時はその時さ」
 刹那の楽観的な考え方に、瑞鶴は少し呆れたように、だがとても楽しそうに笑みを浮かべた。
 彼は非常に優秀な戦闘機乗りなのに、こうしたところが結構楽観的だ。
 しばし二人は無言で星空を見詰め続けたが、そっと瑞鶴が口を開く。
「そういえば、ラバウルに戻った感想はどうでしたか?」
 刹那はい号作戦でラバウルに派遣された一人だった。
 その問いに刹那は小さく首を振る。
「悲惨だったよ。僕が前にいた時と全然違う、激しい戦闘だった。ラバウルに置かれている航空機はどれも埃だらけで風穴も開いてるのばかりだった。どれだけあそこが激戦を繰り広げているかがわかったよ」
「・・・そうですか」
 瑞鶴はその言葉に落ち込む。
 自分達機動部隊が情けないから、ラバウルの基地航空隊にそこまで重い負担を掛けてしまった。そのせいで、ラバウル航空隊は行ったら死ぬとまで言われるほどの激戦地になってしまっている。
 なのに、今の自分達は真珠湾の頃の優秀な搭乗員はほとんどおらず、今では発艦さえ失敗する事が目立つようになったひ弱な搭乗員で構成された頼りない艦載機だけ。これでは、ラバウルを助ける事も、日本を守る事もできない。
 ミッドウェーの大敗と、ソロモン戦の影響が日本という国に深い傷跡を残したのだ。
「・・・私達のせいですね」
「そんな事ないさ。アメリカと戦うって決まった時、こんな事くらい予想できたよ」
「・・・返す言葉がありません」
「ま、そう落ち込むな。戦争なんだから仕方ないさ」
「そ、それはそうですけど・・・でも・・・」
「気にするな。僕達現場の者はただ動くだけ。そういう難しい事は上層部のお偉いさんに任せておけばいいのさ」
「それ、無責任じゃないですか?」
 瑞鶴の少しトゲのある言い方に、刹那は力なく首を振る。
「僕達がどう考えようと、この戦争が変わる事なんてないだろ?」
「それはそうですけど・・・」
 落ち込む瑞鶴の頭を、刹那はそっと撫でた。驚く瑞鶴に刹那は優しく微笑む。
「落ち込んだお前なんてらしくないぞ」
「中尉・・・」
「お前は笑ってればいいんだ。お前が笑っているだけで、みんな幸せになれるからさ」
 刹那の言葉に、瑞鶴はしばし彼をじっと見詰めていたが、ふいに嬉しそうな笑みを浮かべる。
「中尉、ありがとうございます」
「うん? 何がだ?」
「私を心配してくれていたんですね?」
「バカ、そんなんじゃないよ」
 少し照れたように言う刹那に、瑞鶴は優しく微笑むと、そっとその肩に寄り添う。
 淡い月の光が、そっとそんな二人を照らし、見守り続けた。

 翌日、瑞鳳は訓練を終えて着艦した一機の零戦に駆け寄った。その手には白いタオルが握られている。
「剣!」
 零戦から降りて来た剣に笑顔でタオルを渡すと、剣は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとう」
「調子はどう?」
「うーん、まずまずだね」
 瑞鳳から受け取ったタオルで汗を拭きながら剣は答える。
「一応編隊は組めるけど、やっぱり旋回なんかすると乱れちゃうね」
「そっか・・・昔はそんな事なかったんだけど・・・」
「仕方ないって。い号作戦でまた搭乗員が減っちゃったんだし」
「それはそうだけど、だからって・・・」
 落ち込む瑞鳳。
 彼女の想いはとても辛い。
 彼女は空母の艦魂だ。己が飛行甲板から艦載機を舞い上げ、敵艦隊を撃滅する。それが空母としての責務であり、彼女の誇りだった。
 だが、今の搭乗員ではそれは難しい。
 レーダーで事前に大量の迎撃戦闘機を発進させたり、最新鋭の防空兵器を使った命中率の高い対空砲火の前では、最悪攻撃隊全滅という可能性もある。
 それが、今の日本機動部隊の現状だった。
 かつては無敵を誇っていた日本機動部隊も、今ではその見る影もない。
 大型空母四隻、中型空母二隻、艦載機数約五〇〇機という空前絶後の戦力を持ち、無敵神話を作り続けたあの頃の機動部隊も、今では幻想でしかない。
 現在の戦力は大型空母二隻、軽空母一隻の第一機動部隊と、改装中型空母二隻の第二機動部隊だけで、艦載機数約三〇〇機。しかもそのほとんどが素人同然の実戦経験もほとんどない新入りばかりだ。とてもじゃないが、かつての栄光と比べるまでもなく、ひ弱な戦力だ。
 しかも相手は栄光時代の時は敵大型空母はエンタープライズ型とレキシントン型の計五隻。他には大西洋方面から『ワスプ』が投入されたりもしたが、それでも六隻程度だった。しかし今では敵機動部隊には新鋭空母のエセックス型が次々に投入され始めているらしい。性能はわからないが情報に寄れば翔鶴型並みの搭載機数を持っているらしい。現在までに三隻が完成して艦隊に編成されているらしい。
 さらに日本の軽空母や商船改装空母に当たる護衛空母はもう無数に投入されているらしい。
 自軍は以前より戦力が減っているのに、相手はむしろより強固になっている。それが今の戦況である。頭が痛くなっていも仕方がない。
 先の見えぬ戦いに頭を抱える瑞鳳を、剣は不安げに見詰める。
「あんまり悪い方向に考えるな。もう少し練習すればもっとまともな攻撃隊が編成できるさ」
「そうだといいんですけど・・・あッ!」
 瑞鳳が海を見詰めた時、一機の九九艦爆が水面に着水した。どうやら着艦できなかったらしい。それを見て、瑞鳳はため息した。
「ほんとに、昔はそんな事なかったのに・・・」
「それを言うなら僕の方が驚いてるさ。僕は真珠湾攻撃に参加したんだよ? 鹿児島での猛訓練や実戦をこの目で見てきたんだ。その時はこんな未来なんて予想できなかったよ」
 真珠湾攻撃からミッドウェー海戦までは無敵を誇っていた機動部隊艦載機。その後も南太平洋海戦まではなんとか踏ん張っていたが、今ではそんな面影すらも残っていない。
 日本はあの機動部隊があったからこそこの戦争に踏み切ったのだ。
 なのに、今ではその頼みの綱である機動部隊は存在せず、あるのは長い戦いの中で戦力をすり減らし続け、もはやまともな搭乗員も持たないひ弱な機動部隊のみ。
 戦争はこれからより一層激しさを増し、日本が不利になっていくというのに、敵は戦力を無限に拡大し続け、自分達はわずかな戦力でさえ次々に失っていく。
 もはや、この戦争に勝利なんてものはなくなっていた。あるのは、無意味な戦いの日々と、徐々に日本という国の首に迫る敵の牙のみ。
 勝てぬ戦をして、一体何の意味があるのか。
 一体自分達は何の為に戦っているのか?
 戦争に勝つ為?
 日本を守る為?
 それらは目標であって結果ではない。
 結果は、日本を守る為のこの戦いは、日本を苦しめ、破滅への道を歩み出しただけだった。
 この戦争は正しかったのか、この戦争で日本はどうなるのか、そんなの全然わからない。
 今はただひたすら鍛錬に励み、後の大反攻作戦に備えるだけ――いや、それしかできない。
 自分はなんて無力なんだろう。改めて自分の弱さを自覚する。
「ほんと、私はダメな空母ね・・・」
 落ち込む瑞鳳から、剣はそっとメガネを取る。驚く瑞鳳は顔を上げ、自分を優しく見詰める剣と目が合う。度が入っていないとはいえ、レンズ越しの彼の顔はまた違った感じがした。
「そんな事ないさ。瑞鳳はダメなんかじゃない。僕は知ってる。君が誰よりもがんばっている事を」
 剣の言葉に一瞬嬉しくなったが、すぐに首を振る。
「がんばったって、結果が出せなきゃ意味がないよ」
「確かにそうかもしれない。でも、やった事に意味がある。それもまた事実さ。落ち込んでも仕方ない。今は目の前の事をがんばろう」
「・・・剣」
 瑞鳳は剣の言葉に明るいものを見た。
 この戦争がどうなるかなんて、結局は誰にもわからない。わからないからこそ、みんなは必死に手探りで探しているのだ。
 だったら、自分は今目の前にいる彼と一緒に戦えばいい。それだけでも、きっと何かが変わる。そんな気がした。
 瑞鳳の優しげな笑みに剣も笑顔でうなずく。
 そして、次々に戻ってくる艦載機を――この雛鳥達が大空を勇ましく羽ばたく荒鷲になる事を夢見て、いつまでも見詰め続けた。

 一九四三年四月二一日、山本五十六大将の後任として、新連合艦隊司令長官は古賀こが峯一みねいち大将が着任した。古賀は内閣総理大臣の米内よない光政みつまさ、開戦初期第四艦隊司令長官として奮戦し、今は海軍兵学校長に就任している井上成美中将、そして山本とは親しい関係であり、全員対米英戦反対派だった。
 就任したすぐに旗艦『武蔵』で開かれた連合艦隊司令部首脳部会議では「もはや寸分の勝ち目もない」と断言した。
 こうして、もはや海軍実働部隊の頭がこの戦いの勝利を諦めている新連合艦隊が発足し、新たな日本海軍の歴史が始まった。







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