第八章 第八節 新連合艦隊旗艦 戦艦『武蔵』
一年にも満たず、とうとうこの日が来た。
時に一九四三年二月十一日、連合艦隊旗艦が、戦艦『大和』から、妹艦『武蔵』に移された。
大和には多くの花束が贈られた。短い間だったが、大和も一生懸命に旗艦を務めてきていた。それはみんなわかっていた。
武蔵にも花束が贈られる。そして、大和と武蔵は強く握手した。その瞬間、『大和』から降ろされていた山本長官の大将旗が、『武蔵』のマストに掲げられた。
この瞬間、連合艦隊旗艦は、『大和』から『武蔵』に移動された。
山本や宇垣以下司令部要員も全て『武蔵』に移り、新たな司令部が発足された。
夜。
艦魂達は武蔵の旗艦就任を祝っていた。
「おめでとう武蔵!」
「・・・どうも」
長門の強烈な攻撃も、ひらりとかわす。さすがである。
みんなにちやほやされる武蔵。そんな彼女から遠く離れた部屋の隅で、一人の艦魂が暗い雰囲気を放出していた。
「あぁ、これで私は普通の戦艦に、大将も中将に格下げ。もう連合艦隊旗艦なんて大層な身分も言えないや」
大和は自分よりも優秀で、自分よりもずっと連合艦隊旗艦に向いているであろう妹を見詰め、再び大きなため息を吐いた。
「おい大和。せっかくお前の妹の武蔵が旗艦になったんだぞ? もう少し喜べよ」
ラムネを二本持った翔輝が大和の横に腰を降ろす。大和は翔輝を一瞥するが、再び視線を下に戻す。そんな大和を見て、翔輝もため息してしまう。
「大和。元気出せって。ほら、これやるから」
翔輝はラムネを一本渡す。大和はそれを力なく受け取った。
「中尉はいいですね。昇級したんですから。私は降格ですよ? 降格」
「まぁ、仕方ないよ。司令部の設備は向こうの方が上なんだから。わかってた事だろう?」
「そうですけど、やっぱり・・・」
「妹の昇級が喜べないのか?」
「喜ばしいし、嬉しいですよ? でも、これからは連合艦隊旗艦なんて名乗れないし、武蔵のの下で働くんですよ? 姉としては複雑です」
「まぁな。でも、これからは前の武蔵みたいに連合艦隊参謀長とか、次席指揮官とでも名乗れば?」
「・・・そうします」
大和はラムネを開けて飲み始めた。その時、
「・・・翔輝」
武蔵はいつの間にか翔輝の隣に座っていた。もうすっかり慣れてしまった翔輝や大和は全く動じない。
「どうしたの?」
翔輝は笑顔で訊く。すると、武蔵は大和を見詰め、とんでも発言をした。
「・・・姉さん。もう翔輝に近づかないで」
「「・・・はい?」」
翔輝と大和は同じ声を出した。「何言ってんだこの子は」と言いたげな目を向ける。が、武蔵は動じない。そして、おもむろに懐から一枚の書類を取り出し、大和に突き付けた。
「・・・翔輝に近づく艦魂は私だけ。それ以外の艦魂は近づく事を禁ず。例え姉さんだとしても。これはたった今連合艦隊旗艦発令の正式な命令になった」
「「何ですと!?」」
大和は武蔵から書類をふんだくり、すさまじい速度で読む。そして、
「ふざけるなあああぁぁぁッ!」
ビリビリと書類を真っ二つに裂き、武蔵に突っ返す。そのまま武蔵を睨み、「こんなの聞ける訳ないでしょッ!」と叫ぶ。
武蔵は予想していたのか、全く驚く様子もなく、無残に引き裂かれた書類を拾う。
「・・・命令違反は軍規違反。軍法会議もの」
「こんなの命令じゃないわよ!」
「・・・連合艦隊旗艦のこの私が決定した事は絶対。そして、あなたは今連合艦隊旗艦のこの私の命令に背いた。次席指揮官から通常艦魂に格下げ」
「何よそれ! あんた知ってる!? そういうのを職権濫用って言うの!」
「おぉ、大和にしては明確な事を」
「『しては』は余計です」
「こりゃ失敬」
二人の会話に入る二人を見て、武蔵はめったに変えない表情を不機嫌そうにしかめる。
「・・・追加。あなたには一週間司令部の雑用係――奴隷になってもらう」
「何よそれ!」
「・・・さらに追加。金剛に海軍精神を叩き込んでもらう」
その言葉に大和は真っ青になった。金剛の海軍精神注入とは、いわゆる下士官流の体罰である。一瞬、下士官に鉄パイプで腰を殴られる水兵を見た時の事が頭にフラッシュバックした。真っ青から蒼白に変わる。
そんな完全に行動不能になった大和を一瞥し、武蔵は翔輝の手を取った。
「・・・翔輝。あなたもついでに『武蔵』に来て」
「それは絶対にダメッ!」
早々復活した大和は絶対防衛線とも言えるそれを全力で阻止する。対する武蔵は涼しい顔で、
「・・・追加。扶桑に一日中体を舐め回させる」
「そ、そんなの、何ともないわよ」
翔輝は大和の膝が震えてるのに気づいた。
「・・・追加。金剛、榛名、翔鶴に一日中吊るし上げさせる」
「・・・」
ついに沈黙する。悔しそうに武蔵を睨む大和。だが、どこか恐怖を感じているようだ。自分の妹が権力というものを手に入れ、本当の姿を現した事に。
「あ、あの武蔵?」
「・・・心配しないで。翔輝には指一本触れさせない」
「あ、あのね」
「・・・何?」
純粋な瞳が向けられる。邪心のない瞳は全てを見透かしたような透明さで、翔輝を見詰める。そんな瞳に見詰められ、何もできない翔輝。両者しばらく見詰め合っていたが、それは突然破られた。
「討ち入りです!」
突然の声に振り向くと、そこには多くの艦魂がいた。
大和の他に長門、陸奥、伊勢、隼鷹、雪風を中心とした翔輝防衛連合軍だ。長門や金剛は呆れた視線を送っている。その他、翔輝に日頃からお世話になっている駆逐艦の艦魂の十数名参加。潜水艦達もダークなオーラを放っている。
武蔵VS翔輝防衛連合軍(大勢)。完全に武蔵の方に分が悪い。が、
「・・・雑魚がいくら集まった所で、所詮は雑魚。バカ+バカ=天才にはならない。むしろ余計バカになる」
涼しい顔で反撃する武蔵。まだ何か策があるのだろうか。
武蔵を見て、大和も極力涼しい顔で返す。
「あのね武蔵。ことわざにあるでしょ?《枯れ木も山の賑わい》って言葉もあるのよ?」
「いや、大和ちゃん。それはおかしいから。《枯れ木も山の賑わい》はつまらない物でもないよりはマシっていう意味で、確実にバカを認めてるよ?」
「あ・・・」
陸奥のツッコミに、大和は威勢を失う。
「それを言うなら《塵も積もれば山となる》や」
「伊勢ナイス」
伊勢と陸奥はお互いにニヤリと笑う。
「むーっ! お兄ちゃんを返せ!」
隼鷹が武蔵に激怒するが、
「・・・」
「あぁッ! 無視した! 無視した!」
武蔵はお得意の『無視攻撃』でものともしない。そんな態度を続けていた為、武蔵のまわりは敵だらけになってしまった。
「な、なぁ武蔵。さすがにこれはヤバイって。あっちは数に物を言わせて来るつもりだよ」
「・・・人海戦術。無駄な事を。鎧袖一触で蹴散らしてくれる」
そう言って、武蔵は腰の拳銃を抜いた。しかも二丁。
「・・・拳銃の腕には自信がある」
「コラッ! 拳銃なんて物騒な! それにたった二丁じゃ無駄だよ!」
「・・・問題ない。私の軍服には拳銃が全部で七丁隠してあるし、短剣は十本以上ある。翔鶴が武術の天才なら、私は頭脳と武器の天才」
自分で自分を天才と言っている事にツッコミを入れるべきか、そんな歩く武器庫のような事にツッコミを入れるべきかで迷う翔輝。その間もじりじりと包囲網は狭まって来る。ヤバイ。ヤバイよ。
「・・・安心して。翔輝は私が守る」
「あ、あのさ。僕はみんなと仲良くしたいから、面会謝絶ってのは嫌なんだけど」
「・・・そうなの?」
「そうなの」
武蔵はしばらく沈黙したが、やがて拳銃をしまった。
「・・・翔輝に無理強いをさせるつもりはない。翔輝のしたい事を私は推進する」
「武蔵・・・」
こうして、第一次武蔵VS翔輝防衛連合軍との戦いは終わった。まだ始まっていないと言えばそうだが、でも無血終戦って事でひとつ。
翔輝の仲介を経て何とか事態を沈静化したが、依然ピリピリとした雰囲気は変わらず、武蔵は完全に孤立していた。だが、そんな武蔵に加勢している人物が問題だった。
「まぁ、みんな落ち着いてさ」
「どうして中尉は武蔵をかばうんですか?」
大和が不機嫌そうに見詰める。それは全員の気持ちだった。全員の冷たい瞳に翔輝は苦笑いする。
「あのさ武蔵。旗艦の権限をそんな事に使わないんでほしいんだけど」
長門の注意を、武蔵は無視した。
そんな雰囲気の中、ため息ついて大和は翔輝の横に腰を降ろした。
「まったく、武蔵は何をやらかすか読めなくて困ります」
「まぁ、でもそこがあいつらしいと言っちゃあね」
「だからどうしてそんなに武蔵の肩を持つんですか?」
「べ、別にそういうつもりじゃ――」
「私より武蔵の方がいいんですか?」
「それは比べるもんじゃないでしょ?」
「ふんです」
不機嫌そうにそっぽを向く大和に苦笑い。が、そこに、
「・・・翔輝」
突然武蔵が翔輝の背中に抱きついた。その行動を見て、大和、陸奥、伊勢の表情が凍り付いた。
「む、武蔵?」
「・・・ぽかぽか」
「あ、そうなの・・・?」
「・・・うん。私、ここ好き。ぽかぽかで優しい」
「そうなんだ・・・」
武蔵を背中にくっ付けたまま翔輝は大和達の方を向くと、大和達が絶対零度の視線を送っていた。
「な、何?」
「中尉って、本当に武蔵に甘いですよね」
うなずく一同。そんな大和達を見て首を傾げる。
「そ、そうかな? そんな事ないと思うけど」
「甘すぎです。ガムと同時にチョコを食べるくらい甘いです」
「いや、それガムが溶けるから」
翔輝のツッコミに一瞬大和は「むぐ・・・」と詰まるが、すぐに反撃する。
「ともかく。中尉はもっとビシッとするべきです」
「うーん、大和がそこまで言うなら――あの、武蔵?」
翔輝は降ろそうと武蔵に声を掛けると、
「・・・翔輝。大好き」
微かに表情をほころばせる武蔵を見て、翔輝は嬉しそうに笑った。そんな翔輝の後頭部に大和のチョップが炸裂した。
「な、何だよ・・・」
「本当に甘いです」
呆れる大和はもう何も言わなかった。その横では陸奥と伊勢が同じような顔をしていた。翔輝はそんな三人を一瞥するが、すぐに武蔵を話し始めた。
大和はふと気づいた。
最近、翔輝が自分とより武蔵と接している事が多かった。
翔輝の背中を独占している自分をはるかに凌ぐ優秀な妹を見て、大和は再び大きなため息をした。
わいわいと騒いだ祝賀会は無事に終わり、翔輝と大和は翔輝の自室に戻った。そこまでは良かったのだが。
「もう一回言ってくれる?」
大和はこめかみに青筋を浮かべて目の前の少女に問う。
「・・・だから、今日から私もここで寝るって言ったの」
武蔵が先回りして翔輝の自室にいたのだ。それはまだ良い。だが、今の爆弾発言で大和との間にすさまじい睨み合いが始まったのだ。
大和は必死に怒気を堪えて平静を装う。しかし、傍から見れば噴火寸前の危険な火山を思い浮かばせる。一方、武蔵の方はどこまでも深く冷たい海のようだった。そんな天地ほどの差がある二人の間に立って、翔輝は何とか事態を収拾しようとするが、大和がそれを遮る。
「どうしてあなたがここで寝るの? ここは『大和』。『武蔵』じゃない。それにあなたにはあなたの寝室が向こうにあるでしょ?」
「・・・関係ない。私は翔輝と寝たいの」
「絶対にダメ」
「・・・お姉ちゃんにそんな権限はない。あるのは翔輝か、連合艦隊旗艦のこの私」
「ここで旗艦は関係ないでしょ?」
「・・・関係大あり。私はこれからも艦魂の会議はここ『大和』の第三会議室で行うつもり」
「へぇ、何で?」
「・・・人間である翔輝は『武蔵』には来れない。だから」
なるほど。そういう理由なら反対する必要はない。大和はそう思った。だが、
「それはわかった。でもそれがどうやったらここで、中尉と寝る事に繋がるのか、しっかりと説明して」
「や、大和・・・」
あくまでも徹底排除の姿勢を崩さない大和を見て、武蔵はわざとらしく大きなため息を吐いた。
「・・・旗艦自体は『武蔵』に移行したが、司令部の機能は『大和』に残る。司令部に近い方が有事の際便利だから」
「なるほど。指揮官として当然の判断ね。なら私も協力を惜しまないよ。あなたの為に特別に寝室をあてがってあげる」
「・・・結構」
「やっぱり中尉と寝たいだけじゃない!」
大和の叫びも無視し、武蔵は翔輝を見詰める。その視線は「ダメ?」と聞いているようだった。翔輝は静かに微笑んだ。
「別に僕は構わないよ。武蔵の好きにして」
「中尉!?」
「・・・協力に感謝する」
大和はかなりの不満があり、その後すぐに翔輝に詰め寄ったが、「そこまで妹を邪険にしなくてもいいだろ?」と言われ、口をつぐんだ。
三人が寝る支度を始めると、さらにもう一人の来訪者が現れた。
「お兄ちゃーん! 一緒に寝よ!」
翔輝派の中で最も純粋な心を持った少女――隼鷹だった。
「隼鷹か。今日は武蔵もいるぞ」
その言葉に、隼鷹は心底嫌そうな顔をした。武蔵と視線が合うと、武蔵は会釈したが、隼鷹は顔で《ノー》というの送った。が、武蔵は無視した。隼鷹は仕方なく諦めた。
今日も隼鷹はかわいいクマが描かれた西洋風のかわいい寝巻を着ている。大和も白い寝巻きに着替えた。だが、一人だけ外れている奴がいる。
「武蔵? それでいいの?」
「・・・何か、変?」
「いや、別に、変じゃないけど」
武蔵は別に着替える事はせず、ただ上着を脱いだだけだった。上着の下に着るワイシャツとズボンという格好。翔輝の経験上この格好は仮眠する時の基本的な服装だ。普通に寝るなら寝巻に着替えるのが普通なのだが。
「いつもそんな感じで寝てたの?」
「・・・そう。すぐに動けるし、あまりベッドで寝てなかったから便利」
「ベッドで寝てなかったって、ソファで寝てたの? 何で?」
「・・・有事の際すぐに飛び起きて司令部に駆け込む為。戦場では何が起こるかわからないから」
「立派。立派だよ君は。ついこの前まで同じ旗艦をやっていたある人物は毎日布団の中で爆睡してたのに」
翔輝が冷たい視線を向けると、その誰かさんはもう布団の中に潜っていた。相変わらず感のいい奴。
「ねぇねぇお兄ちゃん。私もう眠いよ。早く寝よ」
「え? ちょっと待って――武蔵」
翔輝の声に上着を椅子に掛け終えた武蔵が振り向いた。
「なぁ、どこに布団敷く? 大和の横でいいか?」
基本的な事を訊いたはずなのに、武蔵は「何をバカな事を」と言いたげな瞳を向けて来た。
「・・・私は翔輝と一緒に寝る」
「だから、それをどこに敷くのかって――」
武蔵は少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、言った。
「・・・翔輝と同じ布団で寝る」
「え・・・」
翔輝の顔から笑顔が消えた。予想外の回答に思考が完全に停止しているようだった。だが武蔵は困惑していた。
「・・・さっきから言ってる」
沈黙が降りた。翔輝はしばらく考え込むと、「あっ!」と声を上げてようやく気づいた。そして、なぜ大和があそこまで反対したのも、
「い、いや、それはちょっと・・・」
「・・・何で?」
「だ、だって・・・ねぇ?」
「・・・私の好きにしてって言った」
「そ、それは・・・」
「だから私は反対したのに」
大和がいい気味だと言いたげな冷たい視線を向ける。そんな視線に苦笑いしかできない翔輝。
結局、武蔵は断固として譲らず、翔輝は諦めた。だが、一人だけ大和以上に猛反対している人物がいた。
「お兄ちゃんと一緒に寝るのは私だけだよ!」
隼鷹は今にも腰のホルスターから拳銃を抜きそうな勢いだ。まだまだ子供なので歯止めが利かないのだろうが、あまりにも危険だ。
「じゅ、隼鷹!? やめろって!」
「お兄ちゃんは渡さないから!」
顔を真っ赤にして怒る隼鷹に、「はぁ」と殺意を持たせるような呆れたため息をする武蔵。その行動に隼鷹はキレた。
「私だって、怒るんだもん!」
「隼鷹! 落ち着けって!」
隼鷹は顔を真っ赤にして叫ぶ。そんな隼鷹の声を聞いて飛び起きる大和。あまりの怒気に驚く翔輝。そして武蔵は、
「・・・消すよ?」
全く持って全然余裕だった。
涼しい顔を崩さない武蔵を見て、隼鷹はついに実力行使に出た。
「バカにするな!」
隼鷹の手が拳銃のグリップを握った。刹那、武蔵の姿が一瞬で消え、次の瞬間には隼鷹のすぐ目の前に立っていた。しかも、その手には二丁の拳銃が。
「・・・武器を抜いたという事は、殺られるのも覚悟の上と判断する」
武蔵は冷たい瞳を向けたまま言い放つ。いつもと同じ口調なのに、なぜか凍て付くような恐怖を感じる。無表情と感情のない声、そして微動だしない拳銃を見るとかなり怖い。そんな武蔵に睨まれた隼鷹は目の縁にいっぱいの涙を溜めて、これまたすさまじい速度で翔輝の後ろに隠れた。そんな隼鷹を追尾した拳銃の射線は自然と、
「む、武蔵! 拳銃を下ろせ! 危ないって!」
拳銃の矛先は翔輝に向いていた。それに気づき、慌てて拳銃を下ろす。
「・・・翔輝に銃を向けるなんて、一生の不覚」
怖がる隼鷹を慰め、翔輝は結局武蔵と隼鷹との三人で寝る事になった。が、翔輝が折れるともう一人も反撃に出た。
「二人ともなんてずるいです。それなら私も――」
「悪いけど、これ以上は入らないよ」
「そ、そんな・・・」
しょんぼりと落ち込む大和に翔輝は「ごめんね」とつぶやく。
「この三人の中では一番年上なんだ。我慢してね」
「・・・はい」
大和は寂しそうに自分の布団の中に潜った。そんな大和の背中を見詰め、翔輝は二人を連れて自分の布団に潜った。だがここでも翔輝の気が休まる事はなかった。
「こ、怖いよ・・・お兄ちゃん」
武蔵に完全に怯えて、翔輝に抱き付きながら震える隼鷹を寝付かせるのはかなりの精神的重労働だった。一方、武蔵は翔輝の背中にくっ付いてすやすやと眠っていた。翔輝には後ろなので見えないが、武蔵はわずかに微笑んでいた。
窓から照らされる明るい月を見詰め、翔輝はこれから先激化し、長く続くであろう姉妹ゲンカ+一人の事を考え、ため息をついた。 |