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艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第八章 第六節 激動の新生活


 時代はついに一九四三年に突入した。
 戦艦『大和』も二代目艦長、松田千秋大佐を迎えてから一ヶ月近くが経っていた。
 松田は高柳に負けず劣らずの艦長で、すぐに参謀達と打ち解けていた。
 一方、ガダルカナル島撤退作戦の航路がようやく決まり、航海科の者は久しぶりに数日の非番をもらって各自それぞれ自由気ままに過ごした。
 そんな中、翔輝はと言うと・・・
「少尉。そろそろ起きてください。いくら非番だからって寝すぎですよ」
 いまだに布団の温もりから脱出できない翔輝を大和が起こそうとするが、翔輝の目覚めの悪さは天下一品だった。
「あと五分・・・」
 溶けた砂糖のようにベタベタな事を言う翔輝。自分でも情けないと思うけど、やっぱり眠いのは変えられようのない事実なのだ。そんな呆れる事を思っている翔輝に、大和はイライラする。
「そのお約束なセリフを毎回言うからこうやって五分前に起こしてるんじゃないですか!」
 大和の完璧な海軍精神である五分前行動の精神も、翔輝の寝起きの悪さには到底足元にも及ばなかった。
「いいだろ・・・ついこの前まで徹夜続きだったんだからさ」
 それは事実である。だからこそ仕事が終わったので非番をもらったのだ。だが・・・
「もう昨日と一昨日一日中布団の中で爆睡してたじゃないですか! まだ寝足りないんですか!?」
 そう。翔輝は昨日と一昨日の計三五時間眠っていた。もう十分寝たはずなのに翔輝は起きない。余談だが、その二日間せっかくの非番なんだから一緒に何かしようと思っていた大和だったが、翔輝が疲れているからと二日待ったのだ。だが、今日と言う今日は大和の我慢も限界だった。つまり、ものすごく構ってほしいのだ。欲求不満(変な意味ではなく)という奴だ。
「寝る子は育つんだよ・・・」
「もう十分成長してます! 身長がちょっと足りないけど問題ありません!」
「チビの気持ちはチビにしかわからないよ」
「お言葉ですが、貧乳の気持ちは貧乳にしかわかりません!」
 そう言って大和はあまりない胸を見詰める。悲しい事か、足下はしっかりと見えていた。そして、キレた。
「いい加減にしてください! こうなったら実力行使でいくまで!」
 大和は布団の端を掴んだ。夏用なので薄いが、『大和』は冷房完備。これがないと少し寒く感じるほどガンガンに効いている。だから・・・
「起きるですうううううぅぅぅぅぅッ!」
 大和は布団を剥いだ。
 そして、絶句した。
 ただただ呆然と、翔輝の――背中を見詰める。
「ひどいなぁ、布団を剥ぐなんて」
「朝の空気はさわやかだよ?」
「そうか、んじゃ起きるか――うん!?」
 翔輝は背中に違和感を感じた。
 何か、柔らかくて温かいものがへばり付いてる!? と言うか、僕今自分の背中と会話した!?
 急いで飛び起きると、その正体が判明した。
 かわいいクマの絵が描かれた西洋風の寝巻パジャマを着た小さな女の子が、自分の隣にいた。それは・・・
「やん。お兄ちゃんのいじわる」
「「隼鷹!?」」
 二人の声がシンクロした。そこにいたのは日本機動部隊の一翼を担う空母の一人、空母『隼鷹』の艦魂だった。
 しばし時が止まる。そして、先陣を切ったのは、
「少尉・・・ッ!? これはどういう事ですか・・・ッ!?」
 今にも笑顔が崩れそうな顔をしている大和だった。唇の端が引きつり、こめかみの辺りには血管が浮き出ている。相当激怒している。一触即発の爆弾がそこにあった。
「や、大和?」
「少尉? まだ幼い隼鷹を夜の世界に入れるのは、人間的にも道徳的にもどうかと思いますが・・・ッ?」
 その瞬間、翔輝は全てを理解した。そして、それに対する見解を、心の底から湧き上がるその衝動を、己の雄叫びに込めた。
「誤解だあああああぁぁぁぁぁッ!」
「何が誤解なんですか! 何が!? どこをどういうふうに見たら否定できると言うんですか!?」
 仲のいい兄弟みたいな二人が仲良く寝ていた。という一般的解釈すら、今の大和にはできなかった。さらに、
「お兄ちゃん。昨日はすごかったね。私、興奮して全然眠れなかったよ」
「「!?」」
 大和から完全に冷静な部分が吹き飛んだ。
「な、な・・・ッ!」
「そんなに恥ずかしがらないでよ。誰でも最初は恥ずかしいものなんだから。おかげで私、昨日は全然寝かせてもらえなくてね――でも、すごくかわいかったよ。えへへ」
 頬に手を当てて、にこやかに笑う隼鷹。
「ま、まさか隼鷹・・・ッ! もうすでに既成事実を・・・ッ!?」
 部屋の空気が変わった。荒涼としたツンドラ気候の如く絶対零度の吹雪が吹き荒れる。
「ぬ、抜け駆けされた・・・ッ!」
 翔輝はそれだけで子供を泣かせそうなすごい視線を浴びせられる。四六cm砲が自分に向いてたとしても、この恐怖の方が断然恐ろしいと断言できる。
「しょ、少尉も少尉です! こんな事って・・・ッ!」
「え? えぇッ!?」
 責められる。責められまくる。そのうち漢字が《責める》から《攻める》に変わるのは時間の問題だった。
 いや、別に翔輝はまだ大和と、その、そういう関係じゃないんだからそこまで責められるいわれはないんだが、なぜかそう反論したら切り殺されそうな雰囲気がそこにある。
「少尉!」
「う、ううっ・・・」
(な、何で僕がこんな目に・・・)
 追い詰められた翔輝は災いの元凶である隼鷹に向かって叫んだ。
「じゅ、隼鷹!」
「なぁに?」
「それさ、本当なの!? 僕が隼鷹と、その、そういう激しい事を・・・」
 隼鷹はあんな事を言っているが、昨晩そんな事があったとは到底思えない。思えないったら、思えない。だって翔輝は隼鷹がベッドに入ってきた事がわからないくらい熟睡していたんだし。
 すると、隼鷹は天使の笑みでこう言ってのけたのだった。
「うん。本当だよ。お兄ちゃんの寝言と寝相、とっても激しかったんだから」
「・・・はい?」
 今、何と言いましたか?
「それが気になって、私、眠れなかったんだよ? お兄ちゃんの寝顔はとってもかわいかったんだったんだけど」
「・・・」
「・・・」
「うん? どうしたの二人とも、そんな疲れた顔をして、どうかしたの?」
 そんな中、一人何もわかっていない笑みを浮かべる隼鷹。こ、この子って・・・
「頼むから、わざわざ誤解を招くような言い方はしないでくれ」
「誤解?」
 さっぱり何にもわかっていない顔だった。それどころかこの娘、さらにこんなとんでもないセリフを口にした。
「でも、私はお兄ちゃん求めるならいつでも大丈夫だよ?」
「はい?」
「なんなら今からでも・・・」
 肌着一枚のしどけない姿のまま近づく隼鷹。
「ストーップ!」
 大和の腕が制止し、何とか事態は沈静化する。
 翔輝はようやくベッドから降りて上着を着込む。そんな翔輝を一瞥して、大和は自分よりも拳ふたつ分くらい小さい幼き隼鷹を睨む。
「それよりも、何であなたが少尉のベッドで寝てるの?」
「え? だって一人じゃ寂しかったんだもん」
 つまらなそうに言う隼鷹に、一瞬殺意を感じた。そんな髪の毛を逆立てている大和を慌てて制止し、三人は部屋を後にした。
 通路をなんて事のない会話をしながら歩いていると、突然通路に設置してあるスピーカーが起動し、松田の声が響いた。
『乗務員の呼び出しをする。長谷川翔輝航海士。至急艦橋に来れたし』
「ぼ、僕?」
 首を傾げる。今日は非番だから通常業務はないはずだ。なのに呼び出しとはどういう了見だろうか。
「緊急の事態が発生したんじゃないですか?」
 大和の心配そうな言葉にうなずき、翔輝は急いで艦橋に上がった。
 階段を駆け上がって、一気に艦橋まで上がる。
 艦橋の扉をぶち破って、翔輝は艦橋の中に転がり込んだ。
「艦長! どうされたんですか!?」
「長谷川君? 大丈夫か?」
「長官!?」
 いつもは長官室にいる山本+宇垣の姿を見て、翔輝は絶句する。その他基本的に今日は非番であるはずの航海長や他の航海士も大勢いた。
「みんな? どうしたの?」
「長谷川翔輝航海士」
「はいッ!」
 真剣な声に急いで姿勢を正す。その声の主は、松田だった。松田は手に持っている紙を開く。
「艦長?」
 松田は翔輝の声を無視し、手元の紙を読み始めた。
「『戦艦『大和』航海士。長谷川翔輝帝国海軍航海少尉。本日ヲ以ッテ帝国海軍航海中尉ニ昇級ヲ命ズ』」
 松田の言葉を理解するのに多少の時間を要した。数秒の沈黙の後、翔輝は顔を真っ赤にして喜んだ。
「あ、ありがとうございます!」
「これは『大和』前艦長の高柳大佐からの頼みでな。それを実行したまでだ」
 松田は翔輝に昇級書と中尉章を渡した。そして、それと同時に艦橋の中の者全員が敬礼した。山本や宇垣、松田もが敬礼していた。
 松田は翔輝を見詰め、静かに言った。
「これからもよろしく頼む。長谷川中尉」
「は、はいッ!」
 艦橋に拍手喝采が起きた。それに対し翔輝は見事な敬礼で返した。
 空には一点の曇りもなく、まさに快晴だった。
 飛び跳ねて喜んでいる隼鷹の横で、大和は静かに微笑んでいた。
 翔輝は戦争が始まってから一年、ようやく昇級できた。
 今ここに、長谷川翔輝帝国海軍航海中尉が誕生したのだった。

「では、長谷川君の中尉昇級を祝って、乾杯!」
『乾杯!』
 艦魂達は長門の呼び声に答え、一気にラムネ(一部酒やお茶)を飲み干す。
 今日の主役は翔輝だった。翔輝と仲のいい艦魂達はそれぞれ翔輝の昇級を祝う。
「長谷川少尉――じゃなくて、中尉! おめでとうございます!」
 陸奥がまるで自分の事のように喜ぶ。その横でも「めでたいなぁ」「おめでとーっ!」「おめでとうございます!」「おめでとうお兄ちゃん!」と、伊勢、日向、瑞鶴、隼鷹が叫びを上げる。
 一方、大和も「おめでとうございます!」と三七回目の祝福の言葉を放つ。そんな大和の妹の武蔵は、先程から翔輝の背中にへばり付いている。一度だけ「・・・おめでとう」と言ったっきりずっとこの調子だ。
「みんな、ありがとう」
 翔輝は嬉しそうに喜ぶ。軍人にとって昇級ほど嬉しい事はない。
「長谷川少尉。おかわりどうぞ」
 雪風が新しいラムネを翔輝に渡す。翔輝はそれを笑顔で受け取る。立ち去ろうとした雪風に、日向が訂正を入れる。
「雪風。もう少尉じゃなくて中尉なんだよ?」
「あ、そ、そうでした! すみません!」
 慌てて謝る雪風に翔輝は「いいよ別に」と微笑む。
「そうだよ。少しずつ慣れればいいんだから。ねぇ少尉」
「瑞鶴も間違えてる」
「あ――あはは・・・」
 瑞鶴は苦笑いしてごまかす。そんな仕草に陸奥は笑ってしまう。
「瑞鶴の言うとおり。少しずつ慣れればいいんだから。少尉はそんな細かい事で怒るような人じゃないからね」
「陸奥。あんたも間違えてる」
 長門の言葉に陸奥は恥ずかしそうに沈黙する。
「すみません・・・」
「まぁ、いいからさ」
 翔輝ももう苦笑いするしかなかった。
 相次ぐ部下達の不祥事に、連合艦隊旗艦である大和はため息する。
「陸奥さんもダメですね。もっと少尉の事を祝福する気持ちが必要なんですよ。私は間違えたりなんかしまないもの。ねぇ少尉?」
「大和。思いっきり間違えてる」
「あ・・・」
「しかも二回。今までで最多記録だよ。や・ま・と・ちゃん?」
 陸奥の呆れた言い方も、今の大和に多大なダメージを与えた。あまりのショックにがっくりとうな垂れる。そんな大和の背中を「気にしてないから」と言いながら、ちょっと寂しそうな翔輝がそっと叩く。
 そんな大和達の中でも、一部の者はあまり変わらなく翔輝に接している。翔輝の事を《長谷川はん》と呼んでいる伊勢。《航海士》と呼んでいる山城。《お兄ちゃん》と呼んでいる隼鷹。あともう一人、
「・・・翔輝。のどかわいた」
「あ、うん」
 背中にへばり付いた武蔵だ。
 そんな武蔵を大和は少しうらやましそうに見詰める。
「いいなぁ、武蔵は。名前で呼んでるから階級の変化で呼び方変えなくてもいいから」
「・・・なら、お姉ちゃんも名前で呼べばいいのに」
「それができれば苦労はしないよ」
 大和の返事に、まわりは爆笑した。一人、主役であるはずの翔輝だけは意味がわからず笑い損ねていた。
「おっしッ! 今日はとことん飲むわよ! もうお酒解禁よ!」
「お、お姉様!? そ、それはいくらなんでも・・・ッ!」
「いいのよ! ここで飲まずしていつ飲む! 今日は無礼講よ!」
『おおおおおぉぉぉぉぉッ!』
「あぁ、もう知らない。私は忠告したからね?」
「陸奥。もう諦めや。今の長門はんはもう止まらないで」
「伊勢・・・」
「ウチらは静かに少尉――やのうて中尉の事をパアッと祝うで」
「うんッ!」
「そうは問屋が卸さないわよ!」
 その謎の声の刹那、突然伊勢は何かに押し倒された。そして、伊勢自身はもう理解していた。こんな唐突に自分を襲う者は一人しかいないと。
「伊勢ちゃん! 今日は寝かさないわよ! たーっぷりお酒を飲まして、べろんべろんに酔わせて、それから、うふふ・・・」
「何やッ!? その恐ろしい何かを考えとるダークな笑みは!? 一体ウチに何をしようっていうんやッ!?」
「大丈夫。最初は痛いけど、慣れれば気持良くなるから。でもね、本当はそんなのどうでもいいの私が楽しければ全て良し!」
「ええ訳ないやろがッ! 一体何をするつもりなんやッ!?」
「何言ってんの伊勢。そんなの決まってるじゃない。《棒》とか《穴》の話しかないでしょ?」
 長門のエロティカルな発言に、伊勢は顔を真っ赤にして、そして力いっぱい抵抗を始めた。
「嫌やッ! ウチは絶対に嫌やぁッ!」
「ちょっと伊勢ちゃん! 暴れないで! この日の為に通販で買っといたのよ!」
「何を買ったんやあああああぁぁぁぁぁッ!」
「あら? 知りたい? うふふ、すぐに教えてあげるわよ。あなたのカ・ラ・ダ・に・ね♪」
「嫌やあああああぁぁぁぁぁッ! ウチの初めては少尉(←間違い)に捧げるって決めとるんやあああああぁぁぁぁぁッ!」
「何の話をしてるんだあああああぁぁぁぁぁッ!」
 全く関係ないと思って油断していた翔輝に突然の攻撃。翔輝は顔を真っ赤にして叫んだ。
 伊勢はもう今にも泣きそうな顔だった。貞操に危機に必死で暴れる。
「い、嫌ぁッ! 堪忍してぇなッ! ちょッ!? そないな所触らんといて――あぁッ!」
 早速得意のマッサージ+くすぐり攻撃に伊勢は大笑いしながら力を抜かれていく。
 このまま伊勢の貞操も失われるのかと思われた、その時、
「あ、あのさ扶桑さん。もうそこら辺にしといてくれないかな?」
 そう言ってよだれを垂らしながら痙攣する伊勢をかばったのは翔輝。その翔輝の言葉に扶桑はすごく不満そうに唇をゆがめる。
「ダメよ。これからが楽しくなるのに」
「だけど、伊勢は嫌がってますよ?」
「嫌よ嫌よも好きのうち。伊勢はこれでも楽しんでるのよ」
「楽しんでなんかあらへんッ!」
 伊勢が渾身の力を振りぼって叫ぶ。その声を味方にして翔輝は続ける。
「ほら、嫌がってますよ?」
「む、むぐぅ・・・」
 言い返せなくなった扶桑に、翔輝はそっと諭すように言う。
「あんまり伊勢が嫌がるような事をしていると、そのうち本気で嫌われますよ?」
 がががががあああああぁぁぁぁぁんッ!
 扶桑に雷が落ちたような見えたのは、気のせいだろうか。
 ふらふらと扶桑はたじろぐ。
「そ、そんな・・・わ、私は・・・ッ!」
「扶桑さん。もう少しまわりを見ましょうよ」
 翔輝の追撃の言葉に、扶桑はついにガックリとその場に崩れた。
 少しかわいそうに思えてきたが、ぐったりと横たわっている伊勢を見詰め、これで良かったのだ自分に言い聞かす。
「大丈夫?」
 翔輝が声を掛けると、伊勢は「大丈夫やで・・・」と力なく答えた。どうやら相当疲れているらしい。
 翔輝がそっと手を伸ばすと、伊勢はそれを掴んで立ち上がる。
「むぐぅっ」
 口元についたよだれをそっとハンカチで拭き取ると、「おおきに」と少し恥ずかしそうに礼を言った。
「ウチ、また醜態をさらしてもうたな・・・」
「そんな事ないよ。あれは不可抗力だったんだからさ」
「せやけど、ウチ、あんな姿長谷川はんに見られとうない」
「僕は別に気にしないけど」
「ウチは気になるんや! ほんま、何であんたはそないに鈍感なんや?」
「・・・?」
 まったくわかっていないのか、翔輝は不思議そうに首を傾げる。そんな翔輝に伊勢はため息するしかなかった。
「お兄ちゃん!」
「うわッ!?」
 勢い良く抱きついてきた隼鷹に一瞬転びそうになるが、なんとか堪える。
「隼鷹。いきなり抱きつかないでよ」
「えへへ、お兄ちゃん大好きぃ」
「まったくもう・・・」
 幸せそうな笑みを浮かべる隼鷹を見ていると、怒る気力もなくなってしまう。
 翔輝がため息すると、伊勢もそっと翔輝の右腕に抱き付いた。
「い、伊勢ッ!?」
「隼鷹はんだけなんてズルいわぁ。ウチもギュッとするんや」
 そう言ってスリスリと身体を摺り寄せる伊勢。隼鷹ならともかく同年齢(外見は)の伊勢にそんな事をされればさすがの翔輝も顔を真っ赤にして慌てる。
「ちょっと伊勢! 離れてってばッ!」
「嫌やわ。ウチはこうしてたいんや」
「伊勢ぇッ!」
「あぁッ! 何してるんですか!」
 大和が血相を変えて飛び込んでくると、慌てて隼鷹と伊勢を翔輝から離す。
 助かったと思う翔輝とすさまじく不満そうな隼鷹と伊勢。そして、ものすごく怒っている大和。
「抜け駆けは禁止です!」
「そないな事関係あらへん。ウチはウチの好きなようにさせてもらうどす」
「私だってお兄ちゃんともっとギュッとするの!」
「ダメなものはダメですッ!」
 睨み合う三人に、翔輝は力なくため息する。
「不毛な争いですね」
「まったくだよ・・・って、陸奥?」
「はい?」
「何で僕の手を繋ぐ必要があるの?」
 翔輝の視線はいつの間にか握られていた右手に注がれる。その手を握るのは白く細い手。視線を上げると、そこには頬を赤らめる陸奥の顔が。
「こ、これはこれです」
「意味わかんないよ」
 翔輝が再びため息すると、
「あぁッ! 陸奥ズルいぃッ!」
「陸奥さん! 何してるんですかッ!」
「陸奥! 抜け駆けは許さへんよッ!」
 大和、伊勢、隼鷹が総攻撃を掛けてきた。すさまじい集中砲火にさすがの陸奥も・・・
「いつもいつも三人ともズルいのよッ! 私はあんまりできないのッ!」
 見事に逆ギレした。
「少尉(←間違い)にはいつも大和ちゃんがいて、伊勢もよくいるし、さらに最近は隼鷹まで! これじゃ私の入る余地なんてこれっぽっちもないじゃない!」
「そんなの知らへんよ。ウチには関係あらへん」
「伊勢! あんた私の親友じゃなかったの!?」
「今は恋のライバルや」
「う、裏切り者ぉッ!」
 ブチギレた陸奥は伊勢に飛び掛った。いつもはおとなしい方の二人の取っ組み合いのケンカに、さすがの大和も手が出せずに呆然とする。隼鷹にいたっては右往左往している。
 長門や扶桑が慌てて止めに入るが、二人のすさまじいケンカに入る余地なんてなく機会をうかがい続ける。
「お、おいッ! やめろよ二人とも!」
「・・・放っとけばいい」
 そう言って突然横に現れたのは武蔵。相変わらず神出鬼没な奴だ。しかも当然のように手を繋いでるし。
「そんな事できないよッ!」
「・・・止められるの? あの二人を」
 そう言って見詰める先では、いつの間にか軍刀を抜き放ってすさまじい剣劇を繰り広げる陸奥と伊勢。忘れていたが、あの二人も海軍軍人。刀の扱い方は熟知しているらしい。
 風を切る音や刀と刀が弾ける音が響く。というか速すぎて剣先が見えません。
「む、無理・・・だね」
「・・・なら、わざわざ翔輝が危険を冒す必要はない。勝手に共倒れすればいい」
「そんな事言わないで! 何とかしてよ!」
「・・・無理」
「頼むからさ!」
 翔輝が必死に頼むと、一瞬武蔵はうなずきかけたが、慌てて首を固定する。
「・・・敵は少ない方がいい。共倒れしてくれれば万々歳」
「陸奥と伊勢は敵じゃないでしょ!」
「・・・恋においては敵なの」
「はあ?」
「・・・翔輝。女は、己の志の為に剣を持って戦わなければならない時がある。あの二人は今がそうなの」
「かっこいい事言ってるけど結局は放置するって事だよねッ!?」
「・・・(コクリ)」
「うなずくなぁッ!」
 頑なに仲裁する気のない武蔵。
 翔輝は他に止められそうな人を捜すが、金剛は榛名と共にいつの間にか消えてるし、連合艦隊最強の翔鶴はここにはいない。他にあの二人を止められそうな者は・・・武蔵しかいなさそうだ。
「なあ、頼むよ」
「いくら翔輝の頼みでも、これだけは聞けない。私にも曲げられぬ想いがある」
「・・・どうしても、ダメ?」
「・・・ごめんなさい。でも、これだけは」
「止めて。これが最後通牒だからね」
「・・・翔輝?」
 いつになく冷たい翔輝に、武蔵は怪訝そうな顔で彼を見詰める。
 翔輝は、無表情だった。
「いい? ここまで言ってもまだ仲裁しないって言うなら――」
「・・・だから、私は嫌だって何度も」
「――僕は明日から武蔵の事を《二号艦》って呼ぶ事にする」
「・・・」

「・・・エクスカ○バーッ!」
 ドゴオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッ!!!!!
 まばゆい金色の閃光が二人もろとも部屋中を吹き飛ばした。
 立ち込める煙が晴れた後には、見るも無惨に破壊された部屋と転がる艦魂達。その中には陸奥と伊勢、さらには大和達も気絶していた。
 一瞬で部屋を崩壊させた無表情少女は最強の剣士が持つ宝具である黄金の剣を振り下ろすと、剣は消えた。
「・・・風王結界(イン○ジブル・エア)発動」
 そう小さくささやくと、隣で呆然としている翔輝を見上げる。
「・・・問題解決」
「してないよねッ!? 余計悲惨な状況になってるよッ!」
「・・・崇高なる目的の為なら、多少の犠牲はやむを得ない」
「犠牲は出しちゃダメだよッ! つーか何で君が伝説の剣を持ってるんだよッ!」
「・・・《約束された勝利の剣》――エクスカ○バーくらい、連合艦隊次席指揮官なら当然準備できる」
「無理だよ! 普通は絶対に無理だからね!」
「・・・《何なら全て遠き理想郷》――ア○ァロンでも出す?」
「もう突っ込まないからねッ! それよりこの状況どうするんだよッ!」
「・・・」
「無視すんなあああああぁぁぁぁぁッ!」

 結局、その後意識を取り戻した大和達と一緒に壊れた部屋の修理た掃除などの後片付けをする事になり、全てが終わったのは太陽が昇り始めた頃だった。







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