艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(47/130)PDFで表示縦書き表示RDF


滝川たきかわ健太けんた
 帝国海軍軍人・軍楽隊トランペット奏者
 出身 神奈川県横浜市
 身長 182cm
 年齢(1942年12月現在)23歳
 誕生日 5月27日
 好きなもの アニメ・二次元・かわいい女の子・メガネっ子・常識破りのコスプレ
 嫌いなもの アニメの価値がわからない奴・コンタクトレンズ・常識に囚われた価値観・メイド喫茶
 家族構成 父(病死) 母(離婚して行方不明)(姉や妹がいたら大変だ)
艦魂年代史シリーズ最強の変態キャラ。アニメ好きで女性のコスプレが大好き。その趣味はかなりの域に達しており、スクール水着なら旧スク限定などのこだわりを持っている。そして何よりメガネっ子が大好き。メガネっ子が世界を救うを信じて疑わない。金剛とは戦前からの付き合いで、あの日本海軍最凶と恐れられる金剛と正面からぶつかる事のできる数少ないキャラ。オリジナルでは一等兵曹だったが、改定版からは中尉にランクアップした。権力と変態力、さらには何度叩き潰されても蘇る非常識な回復力を持つある意味最強のキャラの一人。金剛との名コンビ(迷コンビ?)は艦魂年代史シリーズでも伝説となっている。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第八章 第三節 金滝の協奏曲


 深夜の『大和』第三会議室、数多くの艦魂達が今後の戦局を話し合う為に集まるこの部屋に、いつもより人間が一人多く来た。
 すでに幹部要員はほとんどそろっており、後は最高幹部と呼ばれる者達――連合艦隊旗艦である大和などが来るのを待つばかりであった。
 そして、開始時間五分前に部屋がノックされ――勢い良く開いた。
「うっす! 帝国海軍滝川健太軍楽中尉だ! みんなよろしく!」
 そう大声で言いながら入って来たのは滝川。いつものようにお気楽そうな笑みを浮かべている。が、そんな彼を出迎えたのは、
『・・・』
 とてつもなく、耳が痛くなりそうなほどの沈黙だった。その予想外の反応に、滝川は困惑する。
「あれ? 何だこの微妙な空気は」
「当たり前だろ? いくらなんでもいきなり過ぎるよ」
 そう呆れた声を上げたのは彼の後ろでため息する翔輝。その横には大和もいる。
「そうか?」
「・・・そうだって」
 呆れる翔輝の横で滝川はどうしたもんかと苦笑いする。その時、
「も、もしかして滝川少尉ですか?」
 その声に振り向くと、そこにはセミショートの髪をした水兵の女の子がいた。その顔には小さな笑みが輝いていた。
 そんな少女を見て、滝川は二ッと歯を見せて笑う。
「よぉ秋雲。久しぶり」
 滝川は少女――秋雲に懐かしそうに声を掛けた。その声に、秋雲は満面の笑みを浮かべる。
「やっぱり滝川少尉ですね! お久しぶりです!」
 秋雲は嬉しそう滝川を見詰める。どうやら二人は面識があるらしい。
「滝川少尉!」
「うおッ!」
 秋雲は勢い良く滝川の胸に飛び込んだ。その勢いに一瞬滝川の身体を崩れそうになったが、すぐに足に力を入れて事なきを得る。
「お久しぶりです! 半年ぶりですね!」
「おう。もうそんなに経つのか」
 秋雲の言葉に、滝川は笑顔を浮かべる。それは先程までの軽い笑顔ではなく、心の底からの優しげな笑顔だった。
 しばらくぶりの再会に二人は仲良さそうに話す。さらに、
「あ! 滝川少尉!」
「滝川! 久しぶり!」
「軍楽隊の坊主じゃねえか!」
「滝くーん!」
 色々な呼び方をしながら次々に多くの艦魂達が滝川に駆け寄って来た。そんな彼女達を見詰め、滝川は驚く。
ひびき! 若葉わかば! 妙高みょうこう! 那珂なか! 久しぶり!」
 あっという間に滝川は多くの艦魂達の中心になってしまった。その数約二十数名。
「あの方、あんなに艦魂と仲がいいなんて・・・」
「あぁ、僕も意外だったよ・・・」
 翔輝と大和は多くの艦魂達に囲まれて楽しそうに会話する滝川に呆気を取られていた。
「長谷川少尉。あの方は誰なんですか?」
 その声に振り返ると、陸奥と伊勢が滝川を不思議そうに見詰めていた。
「えっと、僕の友人」
「長谷川はんのご友人どすか、なかなか楽しそうな方どすな」
 伊勢もどこか楽しげにわいわいと騒ぐ滝川を笑顔で見詰める。
「そうね。とても愉快な人みたい」
「ほんまに」
「いや、愉快っていうか・・・ウザイ?」
「え? 何どすか?」
「ううん。何でもない」
 首を傾げる伊勢に、翔輝は小さく微笑むと、久しぶりの再会を楽しむ滝川をそっと見詰める。
 滝川は嬉しそうに集まってきた艦魂達と会話している。だが、時折キョロキョロとまわりを見回す――まるで誰かを探しているかのように。
 一通り艦魂達との会話を楽しんだ滝川は、一度艦魂達から離れて翔輝達の方に歩み寄って来た。
「なぁ長谷川。あいつはいねぇのか?」
 滝川は少し残念そうに部屋を見回しながら翔輝に問う。
「あいつ?」
 そう言われても、誰だかわからない翔輝は首を傾げるしかない。そんな翔輝に、滝川はどこか嬉しそうに微笑む。
「あぁ、あいつだよあいつ。もうやったらめったらに竹刀振り回す恐怖の鬼暴君」
 その時だった。定例会議の遅刻組数人が部屋の中に入って来た。意外にもその中にはいつもなら一番最初に来て皆を待っている側の人物がいた。
 黒髪黒眼の日本海軍艦魂社会の中で、唯一敵性国のみ持つ金色の長髪を風に流し、海や空のように澄み切った蒼の瞳をした、日本海軍最強の艦魂――金剛だ。
「すまん遅れた。山本長官達の作戦会議を傍聴するのに夢中になっててな。ついつい会議を忘れてしまっていた。この通りだ」
 金剛は礼儀正しく頭を下げる。いうもは指導する側にいても、自分が何か失態をすると潔く頭を下げる。こんな真剣な彼女だからこそ、皆は彼女に従っているのだろう。
 金剛の謝罪に、連合艦隊旗艦である大和は大慌て。
「いいんですよ金剛さん! 頭を上げてください! まだ何も始まっていないような状況ですし!」
「本当に何も始まってねぇな、こりゃ」
 そう言って部屋を見回し苦笑いする榛名。その粗暴な言動にはもう比叡や霧島を失った悲しみは含まれていない。わずかな時間の中で、彼女は日本海軍艦魂の古参としてそういった悲しみを必死に乗り越えたのだろう。
 彼女も、これまで日本海軍を支えてきた大切な古参の一人なのだ。
「榛名。いつもお疲れ」
 翔輝はそんな榛名に笑顔で声を掛ける。すると、榛名は不機嫌そうにそっぽを向く。
「何でテメェがいるんだよ。ここは艦魂達の場所だぞ」
「え? あ、うん。ごめん・・・迷惑だった?」
「べ、別にんな事はねぇけどよ・・・」
 そう言う榛名の頬は少し赤みがかっていた。
「榛名? 頬が赤いけど、熱でもあるの?」
「う、うるせぇ! テメェには関係ねぇだろ!」
 榛名はそう怒鳴ると、ますます不機嫌そうに翔輝に背を向ける。そんな榛名に、翔輝は不思議そうに首を傾げる。その時、
「よう! 久しぶりじゃねえか」
 満面の笑顔で滝川が、無謀にも日本海軍最凶の人物に気安く声を掛けた。
 部屋は一瞬にして沈黙した。
 金色の髪を揺らしながら金剛は不機嫌そうにその方向を向く。と、一瞬にして表情が変わった。その表情は驚愕の色一色に染まった。
「き、貴様・・・ッ! なぜここにいるのだ・・・ッ!」
 驚きのあまり声を震わせながら叫ぶ金剛。彼女らしからぬ慌てぶりだ。
「おうおう。相変わらず無粋な性格してるじゃねえか金髪ヤロー」
 滝川は他の者では恐ろしくて口が裂けても絶対に言えないような失礼極まりない言葉を放つ。
「何だテメェ。気安く姉貴に声掛けやがって」
 姉に対して失礼極まりない言動を発する滝川に榛名が不機嫌そうに睨み付ける。その百獣の王も逃げ出すような鋭い眼光にも、滝川はビクともしない。
「ほぉ、お前が榛名か。噂通り色気が皆無だなおい」
「なッ! テメェッ!」
 榛名が顔を真っ赤にして激昂する。ムカつく笑みを浮かべる滝川を一発殴り飛ばそうと前に出たが、それは金剛の手で止められた。驚く榛名をよそに、金剛は不機嫌そうに滝川を睨み付ける。
「貴様。今度は『大和』に来たのか。相変わらず自由人だな」
「それ罵ってるみたいだけど、俺達軍楽隊は派遣部隊だからね。自由なのは当たり前さ。お前も相変わらず無粋な顔をしてくれてさ。もっと愛想良くしたらどうなんだ。えぇ? 金髪ヤロー」
 滝川の挑発するような言動にも、浮かべる城の金剛は微動だもせずいつものように鼻を鳴らす。
「ふん。愛想などしてたまるか。私は日本海軍最古参の戦艦だ。それがどうして愛想などというものが必要になるか」
「おうおう。つまりはもうお婆ちゃんって事か?」
 滝川のからかうような言葉に、金剛は余裕の表情を崩した。
「ち、違う! 私はまだ婆さんでは・・・ッ!」
「うるせーよ! 俺より年食ってる軍艦のくせにお婆ちゃんじゃないだぁ? ふざけるな! メガネしろメガネ! メガネをすればお前もお婆ちゃんという不名誉な称号を破棄できるぞ?」
 滝川の意味不明発言に、金剛は拳をギュッと握る。
「貴様・・・ッ! 相変わらずメガネにしか興味ないのかッ!」
「はっはっは! 何をバカな事を。メガネは正義だ! メガネこそ人類が生み出した輝かしい文明の形! メガネを付けない者みんな愚か者だ!」
「貴様はメガネをしてないだろうが!」
「バカな事をぬかすな! 俺は心のメガネをかけてるんだ! 今の俺には世界の全てが清らかな一輪の花のように輝いて見えるぞ」
「バカにつける薬はないのか・・・」
 あまりのアホさに金剛は額に手を当ててため息する。だが、そんな彼女の仕草にも眼もくれず、滝川は続ける。
「前にも言っただろ? この世の女は全てメガネをかけるんだ! メガネっ子世界を救う! それなのにお前はそれを愚弄しおって!」
「やかましい! 貴様の変態趣味に付き合ってなんかいられるか!」
「バカヤローッ!《金髪碧眼》《クーデレ》。そしてここに《メガネ》が加われば萌え三種の神器がそろうだろうが! お前は自らその輝きを泥に沈める気か!?」
「知るか! しかも私がいつ! どこで! デレたッ!?」
「アニメにはこういうジャンルが必要なんだよ! 勉強しとけバカッ!」
「やかましいッ! 秋葉原行け! 秋葉原ッ!」
「うるせぇッ! 俺は二次元にしか興味ねぇんだ! 何がメイドカフェだ! あんな物の何がいいんだ! アニメキャラの方が萌えるだろうが!」
「なおさら秋葉原に行け! あそこは二次元に最も近い場所だろうが!」
 ギャーギャーもめる異色の二人を、他の者はただ呆然と見ているしかできなかった。
 最凶と言われる金剛にあれほど罵詈雑言できる滝川。
 完全に《金剛》というキャラを捨てながら髪を振り乱して反撃する金剛。
 翔輝達はそのあまりにも非常識な光景を呆然と見詰める事しかできなかった。
 一体あの二人はどのような関係なのか、それを教えられたのは二人の暴言の吐き合いがひと段落した、一時間後の事だった。

「何? 俺とこの金髪の関係?」
「うん」
 ようやく騒乱も終わった所で、翔輝は皆の疑問を代表して滝川に質問した。
 滝川は腕を組んで真剣な顔で考える。
「そうだな、強いて言えば人生の相棒?」
「勝手に何言ってんだ。このド変態」
「うるっせーよ! ドS!」
「誰がドSだ!」
「お前だよ竹刀フェチ!」
「き、貴様ッ!」
 取っ組み合いの大ゲンカになりそうな二人を慌てて止めて、翔輝は先に進める。
「二人はどうやって出会ったの?」
 翔輝の邪心のない清らかな質問に、滝川はわざとらしく大きなため息を吐く。ちょっぴりイラっときた。
「あのな長谷川。俺とこいつの出会いはな」
「うん」
「布団の中だ!」
「そんな訳あるかッ! 大概にしないと虐殺するぞッ!」
 竹刀を振り回しながら襲い掛かる理性のたがが外れかけている鬼神金剛に怯える事なく滝川は平然と反撃する。
「うるせぇッ! 抱いてもらったくせに生意気言うな! この前はあんなにかわいい声を出してたのに・・・あぁ、やっぱり布団の中じゃねえと素直になんねぇのか?」
 滝川のすさまじい爆弾発言に皆に戦慄が走った。中には何を想像したのか鼻血を大噴出させて気絶した艦魂が数名。
 金剛は顔を限界まで真っ赤に染めると、竹刀を振り回して激昂する。
「何勝手に私で妄想プレイしてるんだ! この妄想変態が!」
「うるせぇッ! 竹刀を振り回すな竹刀を!」
 暴れる二人を艦魂十数人でようやく黙らせるが、この二人、すさまじく仲が悪い・・・のか? 
「なぁ滝川。お前、今の話は」
 翔輝が不思議そうに問うと、滝川は呆れる。
「あん? ウソに決まってんだろ? 俺とあいつの出会いは一昨年の夏に『金剛』に派遣された時に出会ったんだ。それからもちょくちょく派遣されてたしな」
「へぇ。で、いきなりちょっかい出したのか?」
「ま、確かにあいつは美人だけどよ。いくら俺でもあんな乱暴者は相手にできねぇよ。お前じゃあるまいし」
「え? 今のはどういう・・・」
 滝川の言葉に大和は困惑する。そんな純粋無垢な大和に、滝川は大人の悪い事を堂々と吹き込む。
「あれ? 知らねぇのか? こいつ横須賀にいた時三日間で五人の女と夜を共にしたんだぜ?」
「はあッ!? 滝川何言って――」
「え? 夜を共にって」
「わかんねぇか? 男と女が布団の中でする事だよ」
 沈黙が降りた。
 ここに至って初めて、大和の瞳に理解の色が浮かんだ。みるみるうちに顔を色が真っ赤に染まってゆく。明るい照明の下でははっきり見える。
「少尉・・・ッ!」
 殺気を感じ、翔輝は本能的に身構える。
 そこには野獣がいた。牙をギラギラとギラつかせながら、鼻息は荒く、今にも飛び掛って来そうな超非常警戒態勢の必要がある猛獣だった。
「ち、違うッ! 誤解だよ!」
「今の話のどこをどう聞いたら誤解になるんですか!」
「その話自体が真っ赤なうそなんだよ!」
「見苦しいですよ!」
「本当なんだよ!」
「問答無用です!」
 今にも飛び掛りそうな大和を慌てて押さえる翔輝。大和は押さえる翔輝の腕の中でジタバタと大暴れする。そんな二人を見て大笑いする滝川。
「悪い悪い! 冗談だ冗談。いやー、まさかこうもあっさり信じるなんてさ。あはは――」
「死ぬです!」
 大和の身体全体を全力回転させた渾身の回し蹴りを食らい、滝川は轟沈した。
 赤い頬に肩を激しく上下させて荒い息をする大和。しかし、すぐにどこか寂しげな背中を自分に向けている翔輝の方を向き、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい! 罵詈雑言を言ってしまって」
「大和。今僕は海よりも深く落ち込んでる」
 そう言う翔輝はいつになく肩が下がっている。
「うっ、ご、ごめんなさい・・・」
「いや、いいんだよ。どうせ僕は君に信用されてないんだから」
「ううっ・・・」
 完全に落ち込んでいる翔輝を何とか励まそうとする大和。しかし、一度撃沈した翔輝はもはや浮上不能だった。が、
「・・・翔輝」
「武蔵?」
 突如現れた武蔵は口元に小さな笑みを浮かべ、優しい瞳を向け、今の翔輝にとって最も嬉しい言葉を言った。
「・・・大丈夫。私は、翔輝の事を信じてるから」
「武蔵・・・ッ!」
「ち、ちょっと! 何でそこで抱き合うんですか!?」
 翔輝を心を支え、見事彼との抱擁を成功させた武蔵はそっと姉を見詰め、小さく勝ち誇った笑みを浮かべた。その笑顔に慌てて大和は二人を離そうとする。そんな三人の横で、不死身の男は再び立ち上がった。
「いってぇ。見た目に反してかなり過激だな・・・あん? そこのお嬢ちゃんよりもさらにチビのガキは誰だ?」
 大和に無理やり翔輝から引き離されて、欲求不満全開の武蔵を見て滝川は首を傾げる。
「あの子は連合艦隊艦魂司令部次席指揮官兼参謀長を務める戦艦『武蔵』の艦魂です」
 秋雲の説明に「あいつがねぇ・・・」と頭を掻く滝川。
「おいそこのチビ」
 滝川は武蔵に声を掛けた。すると、武蔵は心底嫌そうな顔で滝川を睨む。
「おいおい、そんな嫌そうな顔すんなよ」
「・・・誰?」
 一同見事にズッコケた。あれだけ過激な登場して来たのに、名前はともかくその存在すら眼中にないとは、恐るべし翔輝以外の男子興味なし主義。
「・・・誰だか知らないけど、私に声掛けていい男は翔輝だけ。それ以外の外道男は声掛けないで。むしろ、近づかないで」
「これはまた手厳しいな」
「・・・あと、そのウザイ声を二度と出さないで」
 武蔵は滝川を道端の生ごみを見ているかのような目で睨み付けている。正直、翔輝はここまで武蔵が過激な反撃をするとは思っていなかった。自分に対する時とは大違い。裏表全開である。
 だが、さすがは百戦錬磨(女関係専門)の滝川。武蔵の猛攻撃を受けても苦笑いだけだ。
「まぁまぁ、そう攻撃的にならない。かわいい顔が台無しだよ?」
「・・・別に貴様に何を言われても痛くない。それに、私は十分かわいいから問題ない」
「それは自信過剰というんじゃねぇか?」
「・・・事実を言っただけ。統計学的に見ても私は世間一般の女子よりは顔立ちは断然いい。つまり、私は十分かわいいの。喜怒哀楽が少なくても、元がかわいいからそれで十分」
「へっ、ものは言いようだな」
 わざとらしく言う滝川を睨みつけ、武蔵は彼を鎧袖一触がいしゅういっしょくで吹き飛ばす。
「・・・貴様みたいな奴に言われたくない。地味男じみおがでしゃばらないで」
「地味男・・・ッ!?」
 ここに来て今までそれなりに余裕の態度を取っていた滝川の表情に変化が起きた。情けない顔で呆然としている。まるで心の底から衝撃を受けているような表情だった。
「じ、地味男はないだろ!? そりゃいくら何でもひど過ぎる!」
「・・・うるさい。《バカ》《ウザイ》《地味》。地味男三種の神器がそろっている貴様は、究極の地味男だ」
「そんな三種の神器はいらん! それにさっきから貴様貴様って、俺の方が断然年上なんだぞ!」
「・・・貴様だって私をチビなんてふざけた呼び方をしていたでしょ? 自分の事を棚に上げるのは、大人としてどうかと思うけど?」
「ほんっとにムカつく奴だな、このチビッ! 名乗ればいいんだろ!? 俺は海軍軍楽科滝川健太軍楽中尉だ! 覚えとけ!」
「・・・あ、そう。尉官の分際で将官クラスの私に声を掛けるなんて命知らず。むしろバカ。軍楽兵のくせに生意気言わないで。音楽しか能のないくせに」
「うるせぇ! 軍楽隊も立派な軍人だ! バカにするな!」
「・・・」
「無視すんじゃねぇッ! そもそも長谷川は俺より階級は下だろうがッ!」
「・・・貴様は本当にバカだな。貴様みたいな生きていても何の価値もない――いや、存在自体が害である貴様と何事にも一生懸命で、皆に信頼され、誰にも優しい、最高の人材である翔輝とを比べるなんて滑稽だと思わない?」
「このクソガキッ!」
「まぁまぁ! 二人とも落ち着いて、ね?」
 今にも殴り合い(滝川が一方的)になりそうな二人に慌てて翔輝は仲裁に入った。そのおかげで「まぁ、仕方ねぇ」「・・・翔輝が言うなら」と二人は一応休戦条約を結んだ。
 いつもと同じ無表情をする武蔵を見詰め、翔輝はため息する。
「まったく、お前は、少しは友好的な雰囲気になれないのか?」
「・・・翔輝以外の事は、どうでもいい」
「おいおい」
 呆れる翔輝の腕にそっと抱き付く武蔵。翔輝はため息をしながらも苦笑いした。そんな微妙に春の甘い匂いを感じさせる二人にふつふつと怒りを感じている大和だった。
「どうでもいいけどよ。お前って奴は、お嬢ちゃんを忘れてチビを相手にしなくてもよ」
「・・・チビ言うな」
「チビはチビだろ? お前、そんなにかわいげがないと長谷川に嫌われるぞ?」
「・・・え?」
 ここに来て余裕たっぷりであった武蔵の顔は凍りついた。それを見て、滝川はニヤリと勝ち誇った笑顔を浮かべる。
「おや? お前、長谷川の好きな女の子のタイプの三種の神器を知らないのいか?」
『好きな女の子・・・ッ!』
「ちょっと滝川――」
 顔を真っ赤にして怒る翔輝を制し、大和、武蔵、陸奥、伊勢の瞳が輝いた。他にも大勢の艦魂達が聞き耳を立てる。
「それって何なんですか!?」
「うん? お嬢ちゃん。気になるのかい?」
「もちろんです!」
「大和! 何言って――」
 滝川はニヤニヤと笑いながら四人を見回す。そして、静かな声で言った。
「長谷川はな、《年下》《天真爛漫》《貧乳》という妹系萌え三種の神器を持ってる女の子が好きなんだ。まぁ、ぶっちゃけロリコンって事だ」
『・・・』
 沈黙する四人の横で、翔輝は滝川を《翔輝》というキャラを無視してバイオレンスな攻撃を開始していた。
 一方、突如判明した翔輝の好きな女の子のタイプに皆は硬直していた。
「わ、私と伊勢は年上だから・・・」
「せやけど、ウチはともかく陸奥は見た目同い年くらいやから・・・ダメやね」
 陸奥と伊勢は《年下》という第一条件でアウト。
「と、いう事は」
「お嬢ちゃんとそこのチビが一応ストライクゾーンに入る訳だ。まあ、チビの方は《天真爛漫》かは怪しいがな」
 いつの間にか復活した滝川がニヤニヤしながら言う。
「・・・」
「うん? どうしたんだ?」
「・・・翔輝の好きな女の子のタイプになれたのは嬉しいけど、女としては敗北」
「そ、そうよね・・・」
 大和と武蔵は複雑な顔をして自分達の胸を見詰めた。悲しい事に足下はしっかりと見える。そんな二人を見て大笑いしている滝川に、翔輝の渾身のバックドロップが決まったのは言うまでもない。

「貴様。いつまでこっちにいるのだ?」
 会議が終わって解散した後、滝川は金剛に呼び止められてそう訊かれた。
「明日の夕方にはまた内地に戻るよ」
 滝川は足を止め、金剛に小さく笑みを向ける。
「明日だと? ずいぶん急な話だな」
「まぁ、軍楽隊もそれなりに忙しいんだ。少ない兵で各地に散っている艦隊に行かなきゃいけないんだからさ」
「そうか。なら明日の午前は空いてるのか?」
 金剛の突然の問いに、滝川は不思議そうに首を傾げる。
「特に何もないけど、どうしてだ?」
 すると、金剛は先程までのようなクールな一面が崩れた。頬は少し赤く、どこか不機嫌そうに滝川とは違う方向を見詰める。
「べ、別に深い意味はない。ただ、久しぶりの再会なんだ。ちょっとくらい茶でもと――」
「あぁ、デートのお誘いか?」
 ゴンッ!
「いってえええぇぇぇッ! だから竹刀を振り回すなと言うに!」
「やかましい! せっかく人が茶に誘ってやろうと思ったのに! いい加減貴様は下品な方向に考えるのをやめんか! もういい!」
 完全に怒って踵を返す金剛を慌てて滝川が止める。
「ごめんごめん! 冗談だよ。わかったからさ」
 金剛の前で素直に頭を下げる滝川に、金剛は不機嫌そうに見詰める。
「・・・まぁ、いいだろう」
 歩き出した金剛の横に滝川もついて歩く。しばし歩いた時、ふと何かに気づいた。
「でもさ、茶を淹れてた比叡はもういないんだろ? 誰が茶を淹れるんだ」
「・・・」
 沈黙する金剛を見て、滝川は慌てて話題を変えようとする。
「あ、あのさ! どう見ても榛名は無理だろ!? だったら長谷川にでも任せたらどうだ!?」
「あの航海士に?」
 怪訝な顔をする金剛に、滝川は何度もうなずく。
「あぁ、あいつなぜかお茶の淹れ方がうまいんだ」
「そうなのか?」
「あぁ、あれはプロ級だぞ」
「ふむ。なら貴様から頼んでおいてくれ」
「わかった」
 こうして、勝手にお茶会の翔輝参加がなかば決まった(丸め込むのがうまい滝川と最凶の艦魂金剛の前では翔輝に勝ち目はないから)。
 金剛と滝川は互いの顔を見合うと、小さく笑みを浮かべ、そっと二人して『大和』の甲板を歩いて行った。







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